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4章 言霊のカタチ
飾り紐と素顔
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「これ! コゲツのお土産で作ってみたの。あのね、要らなかったら捨ててもいいし、他にも作ってあるから、そっちでも良いんだけど……」
わたしは自分の気持ちを誤魔化すように、飾り紐を取り出してコゲツに差し出す。
ああ、でも気持ちが籠り過ぎてて重たいってコゲツの目には見えているのだろうか? でも、タイミングを逃すと、きっと渡せなくなってしまう。
「これは……嫁殿が倒れたのは、これのせいでもあるようですね」
「え?」
コゲツは飾り紐を受け取ると、手で紐を撫でるように指の腹でなぞっていく。
わたしが撫でられているわけでは無いのに、なんだかくすぐったい。
「嫁殿は自分の霊力を放出するのが苦手ですからね。この紐には嫁殿の霊力がかなり込められています。無意識でやってしまったのでしょうけど、これほど込めてしまえば、少しの邪気や他人の霊力に中てられて気持ち悪くもなるでしょうから、倒れてしまったのは仕方がないことです」
「そうなんだ……なるほど。だから、無玄さんが怖くて仕方がなかったんだ」
「身に危険を感じてしまったのでしょう」
胸をなでおろして、キョウさんとダイさんの言う念を込めすぎという言葉にもこのことが関係していたのかもしれない。わたしの気持ちが駄々洩れしているという訳じゃないみたいだ。
無玄さんのことも怖い人じゃなくて良かった。
「私ももう少し、お土産を配慮しておけば良かったです」
「あー、手にお蚕様が巻き付いて大騒ぎしちゃったよ」
手を振って笑うと、コゲツはその手を取って軽く唇を押し当てる。
「ぴぇっ!」
変な声を出して硬直してしまったわたしに、コゲツは口元を緩ませて笑うから余計に羞恥心でちゃぶ台に突っ伏しそうになってしまった。
さっきからコゲツに萌え殺されそうになっているのはなぜなの!?
わたしの旦那様がイケメンなことをする!
こういうことはアニメやドラマの中だけのことで、平凡な女子高生相手にすることじゃない。
ああ、でもこういうことをして良いのは妻であるわたしだけにしておいて欲しいけど。
うう~っ、頭がグルグルしてきたー!
「嫁殿。髪を結んでもらえますか?」
「う、うん」
自分の飾り紐を外して、わたしの作った飾り紐を手渡してくる。
顔を隠している布も邪魔なので外すと、コゲツは瞼を閉じてしまう。
折角の素顔を見損なってしまった。残念。
柘植の櫛で長く伸びたサラサラの髪を梳いていく。
「コゲツの髪って、出会った頃は短かったよね?」
「嫁殿と出会った時は、私も子供でしたからね。まだ自分の能力も落ち着いていなかったので修行中は髪は短いままなんですよ。術者が髪を伸ばすのは術にも使う場合があるからです」
「何かに使えるの?」
「束縛術等ですね。呪符も拘束道具も無い場合は、髪の毛に霊力を込めて拘束すれば簡単な人ならざる者を捕らえられますから」
「なるほど……と、よし。出来たよ」
「ありがとうございます」
目を開けたコゲツに、わたしは驚きで瞬きをするのを忘れた。
顔が良いのは元々なんだけど、紫陽花の色彩を持つコゲツの目がそこには無かったからだ。
黒曜石のような目がそこにはあって、自分の中で何かが噛み合わないで動けない。
わたしの様子にコゲツが眉を少し下げる。
白い布に手を伸ばしたコゲツに、わたしは慌てて手を伸ばして手を掴む。
「嫁殿……気を使わなくても大丈夫ですよ」
悲し気に笑うコゲツにわたしは首を横に振る。
目の色のことを気にしているコゲツに、誤解をさせるようなことをしてしまった。
「違うの。コゲツの目の色が黒いの! いつもの色じゃないの!」
「目の色……ですか?」
自分の目元にコゲツが手を伸ばし、わたしは鏡を見せる。
鏡を見るコゲツも少し驚いたようでまじまじと見ていた。
「なんで?」
「ふむ。多分ですが、この飾り紐のおかげではないでしょうか?」
「解こう!」
コゲツに近付くと手を伸ばされてコゲツの膝の上にそのまま座らされた。
これで立ち上がったらお姫様抱っこなのでは? という姿勢で仰向く。
「折角嫁殿が結んでくれたのですから、駄目です」
「だって、いつもの目の色の方が綺麗だよ?」
一瞬驚いた顔をした後で、コゲツが破顔してわたしの肩に顔を埋めてきた。
これは普通に恥ずかしい状況なのだけど?
「嫁殿は、まったく……どれだけ私を喜ばす気ですか」
「うん? 分からないけど、喜んでるの?」
「ええ。嫁殿は色々と規格外ですが、昔から変わらなくて私の支えです」
褒められているのか貶されているのか分からない。
コゲツが嬉しそうだから良いのかな……多分。
でも、わたしはいつものコゲツの目の色の方が綺麗で好きなんだけどなぁ。
わたしは自分の気持ちを誤魔化すように、飾り紐を取り出してコゲツに差し出す。
ああ、でも気持ちが籠り過ぎてて重たいってコゲツの目には見えているのだろうか? でも、タイミングを逃すと、きっと渡せなくなってしまう。
「これは……嫁殿が倒れたのは、これのせいでもあるようですね」
「え?」
コゲツは飾り紐を受け取ると、手で紐を撫でるように指の腹でなぞっていく。
わたしが撫でられているわけでは無いのに、なんだかくすぐったい。
「嫁殿は自分の霊力を放出するのが苦手ですからね。この紐には嫁殿の霊力がかなり込められています。無意識でやってしまったのでしょうけど、これほど込めてしまえば、少しの邪気や他人の霊力に中てられて気持ち悪くもなるでしょうから、倒れてしまったのは仕方がないことです」
「そうなんだ……なるほど。だから、無玄さんが怖くて仕方がなかったんだ」
「身に危険を感じてしまったのでしょう」
胸をなでおろして、キョウさんとダイさんの言う念を込めすぎという言葉にもこのことが関係していたのかもしれない。わたしの気持ちが駄々洩れしているという訳じゃないみたいだ。
無玄さんのことも怖い人じゃなくて良かった。
「私ももう少し、お土産を配慮しておけば良かったです」
「あー、手にお蚕様が巻き付いて大騒ぎしちゃったよ」
手を振って笑うと、コゲツはその手を取って軽く唇を押し当てる。
「ぴぇっ!」
変な声を出して硬直してしまったわたしに、コゲツは口元を緩ませて笑うから余計に羞恥心でちゃぶ台に突っ伏しそうになってしまった。
さっきからコゲツに萌え殺されそうになっているのはなぜなの!?
わたしの旦那様がイケメンなことをする!
こういうことはアニメやドラマの中だけのことで、平凡な女子高生相手にすることじゃない。
ああ、でもこういうことをして良いのは妻であるわたしだけにしておいて欲しいけど。
うう~っ、頭がグルグルしてきたー!
「嫁殿。髪を結んでもらえますか?」
「う、うん」
自分の飾り紐を外して、わたしの作った飾り紐を手渡してくる。
顔を隠している布も邪魔なので外すと、コゲツは瞼を閉じてしまう。
折角の素顔を見損なってしまった。残念。
柘植の櫛で長く伸びたサラサラの髪を梳いていく。
「コゲツの髪って、出会った頃は短かったよね?」
「嫁殿と出会った時は、私も子供でしたからね。まだ自分の能力も落ち着いていなかったので修行中は髪は短いままなんですよ。術者が髪を伸ばすのは術にも使う場合があるからです」
「何かに使えるの?」
「束縛術等ですね。呪符も拘束道具も無い場合は、髪の毛に霊力を込めて拘束すれば簡単な人ならざる者を捕らえられますから」
「なるほど……と、よし。出来たよ」
「ありがとうございます」
目を開けたコゲツに、わたしは驚きで瞬きをするのを忘れた。
顔が良いのは元々なんだけど、紫陽花の色彩を持つコゲツの目がそこには無かったからだ。
黒曜石のような目がそこにはあって、自分の中で何かが噛み合わないで動けない。
わたしの様子にコゲツが眉を少し下げる。
白い布に手を伸ばしたコゲツに、わたしは慌てて手を伸ばして手を掴む。
「嫁殿……気を使わなくても大丈夫ですよ」
悲し気に笑うコゲツにわたしは首を横に振る。
目の色のことを気にしているコゲツに、誤解をさせるようなことをしてしまった。
「違うの。コゲツの目の色が黒いの! いつもの色じゃないの!」
「目の色……ですか?」
自分の目元にコゲツが手を伸ばし、わたしは鏡を見せる。
鏡を見るコゲツも少し驚いたようでまじまじと見ていた。
「なんで?」
「ふむ。多分ですが、この飾り紐のおかげではないでしょうか?」
「解こう!」
コゲツに近付くと手を伸ばされてコゲツの膝の上にそのまま座らされた。
これで立ち上がったらお姫様抱っこなのでは? という姿勢で仰向く。
「折角嫁殿が結んでくれたのですから、駄目です」
「だって、いつもの目の色の方が綺麗だよ?」
一瞬驚いた顔をした後で、コゲツが破顔してわたしの肩に顔を埋めてきた。
これは普通に恥ずかしい状況なのだけど?
「嫁殿は、まったく……どれだけ私を喜ばす気ですか」
「うん? 分からないけど、喜んでるの?」
「ええ。嫁殿は色々と規格外ですが、昔から変わらなくて私の支えです」
褒められているのか貶されているのか分からない。
コゲツが嬉しそうだから良いのかな……多分。
でも、わたしはいつものコゲツの目の色の方が綺麗で好きなんだけどなぁ。
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