あやかし祓い屋の旦那様に嫁入りします

ろいず

文字の大きさ
上 下
37 / 62
4章 言霊のカタチ

飾り紐と素顔

しおりを挟む
「これ! コゲツのお土産で作ってみたの。あのね、要らなかったら捨ててもいいし、他にも作ってあるから、そっちでも良いんだけど……」

 わたしは自分の気持ちを誤魔化すように、飾り紐を取り出してコゲツに差し出す。 
 ああ、でも気持ちが籠り過ぎてて重たいってコゲツの目には見えているのだろうか? でも、タイミングを逃すと、きっと渡せなくなってしまう。

「これは……嫁殿が倒れたのは、これのせいでもあるようですね」
「え?」

 コゲツは飾り紐を受け取ると、手で紐を撫でるように指の腹でなぞっていく。
 わたしが撫でられているわけでは無いのに、なんだかくすぐったい。
 
「嫁殿は自分の霊力を放出するのが苦手ですからね。この紐には嫁殿の霊力がかなり込められています。無意識でやってしまったのでしょうけど、これほど込めてしまえば、少しの邪気や他人の霊力に中てられて気持ち悪くもなるでしょうから、倒れてしまったのは仕方がないことです」
「そうなんだ……なるほど。だから、無玄さんが怖くて仕方がなかったんだ」
「身に危険を感じてしまったのでしょう」

 胸をなでおろして、キョウさんとダイさんの言う念を込めすぎという言葉にもこのことが関係していたのかもしれない。わたしの気持ちが駄々洩れしているという訳じゃないみたいだ。
 無玄さんのことも怖い人じゃなくて良かった。

「私ももう少し、お土産を配慮しておけば良かったです」
「あー、手にお蚕様が巻き付いて大騒ぎしちゃったよ」

 手を振って笑うと、コゲツはその手を取って軽く唇を押し当てる。
 
「ぴぇっ!」

 変な声を出して硬直してしまったわたしに、コゲツは口元を緩ませて笑うから余計に羞恥心でちゃぶ台に突っ伏しそうになってしまった。
 さっきからコゲツに萌え殺されそうになっているのはなぜなの!?
 わたしの旦那様がイケメンなことをする!
 こういうことはアニメやドラマの中だけのことで、平凡な女子高生相手にすることじゃない。
 ああ、でもこういうことをして良いのは妻であるわたしだけにしておいて欲しいけど。
 うう~っ、頭がグルグルしてきたー!

「嫁殿。髪を結んでもらえますか?」
「う、うん」

 自分の飾り紐を外して、わたしの作った飾り紐を手渡してくる。
 顔を隠している布も邪魔なので外すと、コゲツはまぶたを閉じてしまう。
 折角の素顔を見損なってしまった。残念。
 柘植つげの櫛で長く伸びたサラサラの髪を梳いていく。

「コゲツの髪って、出会った頃は短かったよね?」
「嫁殿と出会った時は、私も子供でしたからね。まだ自分の能力も落ち着いていなかったので修行中は髪は短いままなんですよ。術者が髪を伸ばすのは術にも使う場合があるからです」
「何かに使えるの?」
「束縛術等ですね。呪符も拘束道具も無い場合は、髪の毛に霊力を込めて拘束すれば簡単な人ならざる者を捕らえられますから」
「なるほど……と、よし。出来たよ」
「ありがとうございます」

 目を開けたコゲツに、わたしは驚きで瞬きをするのを忘れた。
 顔が良いのは元々なんだけど、紫陽花の色彩を持つコゲツの目がそこには無かったからだ。
 黒曜石のような目がそこにはあって、自分の中で何かが噛み合わないで動けない。
 わたしの様子にコゲツが眉を少し下げる。
 白い布に手を伸ばしたコゲツに、わたしは慌てて手を伸ばして手を掴む。

「嫁殿……気を使わなくても大丈夫ですよ」

 悲し気に笑うコゲツにわたしは首を横に振る。
 目の色のことを気にしているコゲツに、誤解をさせるようなことをしてしまった。

「違うの。コゲツの目の色が黒いの! いつもの色じゃないの!」
「目の色……ですか?」

 自分の目元にコゲツが手を伸ばし、わたしは鏡を見せる。
 鏡を見るコゲツも少し驚いたようでまじまじと見ていた。

「なんで?」
「ふむ。多分ですが、この飾り紐のおかげではないでしょうか?」
「解こう!」

 コゲツに近付くと手を伸ばされてコゲツの膝の上にそのまま座らされた。
 これで立ち上がったらお姫様抱っこなのでは? という姿勢で仰向く。

「折角嫁殿が結んでくれたのですから、駄目です」
「だって、いつもの目の色の方が綺麗だよ?」

 一瞬驚いた顔をした後で、コゲツが破顔してわたしの肩に顔を埋めてきた。
 これは普通に恥ずかしい状況なのだけど?

「嫁殿は、まったく……どれだけ私を喜ばす気ですか」
「うん? 分からないけど、喜んでるの?」
「ええ。嫁殿は色々と規格外ですが、昔から変わらなくて私の支えです」

 褒められているのか貶されているのか分からない。
 コゲツが嬉しそうだから良いのかな……多分。
 でも、わたしはいつものコゲツの目の色の方が綺麗で好きなんだけどなぁ。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

側妃は捨てられましたので

なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」 現王、ランドルフが呟いた言葉。 周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。 ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。 別の女性を正妃として迎え入れた。 裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。 あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。 だが、彼を止める事は誰にも出来ず。 廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。 王妃として教育を受けて、側妃にされ 廃妃となった彼女。 その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。 実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。 それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。 屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。 ただコソコソと身を隠すつまりはない。 私を軽んじて。 捨てた彼らに自身の価値を示すため。 捨てられたのは、どちらか……。 後悔するのはどちらかを示すために。

【完結】お飾りの妻からの挑戦状

おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。 「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」 しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ…… ◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています ◇全18話で完結予定

あなたが選んだのは私ではありませんでした 裏切られた私、ひっそり姿を消します

矢野りと
恋愛
旧題:贖罪〜あなたが選んだのは私ではありませんでした〜 言葉にして結婚を約束していたわけではないけれど、そうなると思っていた。 お互いに気持ちは同じだと信じていたから。 それなのに恋人は別れの言葉を私に告げてくる。 『すまない、別れて欲しい。これからは俺がサーシャを守っていこうと思っているんだ…』 サーシャとは、彼の亡くなった同僚騎士の婚約者だった人。 愛している人から捨てられる形となった私は、誰にも告げずに彼らの前から姿を消すことを選んだ。

貴方にはもう何も期待しません〜夫は唯の同居人〜

きんのたまご
恋愛
夫に何かを期待するから裏切られた気持ちになるの。 もう期待しなければ裏切られる事も無い。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。