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奇怪技師2
しおりを挟む奇械技師であるスリアンの営む店内は、様々な奇械の部品であふれていた。
奇械を専門に修理しているスリアンの工房は、遺跡から発掘された部品が雑多に積まれ、隅には委託されたらしい奇械が整備を待っている。部屋の一角には、なにかしらの検査をするためだろう機器類がそろい、作業台の上にはムジカにもわからない工具のたぐいが妙にきちんと並んでいた。
ムジカにとっては見慣れた光景で、ふだんは何の感慨も湧かないのだが、今日は緊張を強いられていた。
「なるほど、な」
一角にもうけられている応接用の長いすに机を挟んで向かい合い、ムジカは昨日の顛末を一から十まで話し終える。
とたんスリアンの深いため息が響いて、妙に後ろめたい心地でちぢこまった。
スリアンは、隻眼で机に置かれた自律兵器のエーテル機関と、ムジカの隣に座る銀髪の青年人形を見やる。
「そこで見つけたのがこいつってことだな」
「記憶領域の一部が破損してるらしくて、あたしじゃどうにもならないから。スリアンならこいつがどんな自律兵器かわかるかなって思ったんだけど。ついでにそのエーテル機関も売り払いたくて」
「危なっかしいあんたにしてはいい判断だ。とりあえず、無事で良かったよ」
若干表情が和らいだスリアンに、ムジカは肩の力を抜いて身を乗り出した。
「なあ、こいつあたしのこと歌姫って呼ぶんだけど、どうやったら解除できるかな。ついでに引き取り手を見つけてくれるといいんだけど」
「それは無理だな」
「え」
あまりにもあっけなく告げられて、ムジカは虚を突かれた。
スリアンは艶麗な顔に渋面を浮かべて頬杖をつく。
「あまり知られてないが、歌姫ってやつは、自律兵器が自ら選ぶ、特別に相性がいい人間のことだ。その分歌姫になったやつの歌はいっとう効くから、大戦にはべらぼうに重宝されたらしいがな。私も登録解除仕方なんて聞いたことがない」
「そん、な」
「やっかいごとはほかにもある」
スリアンは厳しい表情を崩さないまま続けた。
「数日前に反吐が出るほど偉そうな研究所の野郎どもが、遺跡内で発掘された自律兵器の情報提供を求めて来やがったよ。奴らの目的は、主に遺跡から発掘される自律兵器らしい」
「そういえば探掘屋界隈でも、公認探掘隊は部品やらほかの遺物やらには目もくれないとか言う話を聞いたような」
「あんた、同業者と交流できてるのかい……?」
ムジカがうろ覚えな記憶を探っていれば、スリアンにかわいそうな子を見るようなまなざしを向けられ、慌てて否定する。
「ちゃ、ちゃんとうまくやってるから」
まさか、必要最低限しか交流していないとは言いづらい。
父親が亡くなって以降、スリアンはムジカのことを何かと気にかけてくれる人であったから、心配をかけたくないのもあった。
スリアンには疑わしげな顔をされたが、今ここでは深く踏み込むつもりはないようだ。
「話を戻すぞ。そんでもって、このバーシェもイルジオ帝国も軍備増強のために、喉から手が出るほど自律兵器を欲しがってる。こいつの存在がばれたら、まず間違いなく接収に来るだろうさ。ついでにこの顔だ、街の上流階級もこいつが人形だとわかれば欲しがるだろうな」
「あたしは、別に手放しても……」
「所有者登録が外せない機体を、だぞ」
スリアンに強調されて、ムジカはようやく事態を飲み込んだ。
渋い顔になるのを自覚しながら傍らに座るラスを見る。
とても美しい。銀の髪と紫の瞳は幻想的でさえある。髪の一筋からあごのライン、服を着て関節を隠しさえすれば、全く人間と区別がつかない人形。
人々が発掘された遺物を欲しがるのは、何も実用のためだけではない。美しくて珍しければ、金の有り余った自称紳士淑女たちがこぞって買いあさるのだ。
「それってさ、あたしごと取り込む。あるいはあたしをどうにかしてでもってことだよね」
無言でうなずくスリアンに、ムジカは当たって欲しくなかったと心底思った。
ようやく自分を取り巻く状況に実感が湧いてきたからだ。
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