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解除不能1
しおりを挟むこのバーシェで、人の特に中流下流層の命は奇械より軽いというのは厳然たる事実である。
なぜなら人はいくらでも補充できるが、奇械は現在の技術で再現できないからだ。
スリアンのように専門の修復師はいるが、修理に使うパーツもすべて遺物から発掘されるものである。
上層に住まう貴族階級の理不尽な行動を見聞きしているムジカには、見つかった場合の末路が容易に想像できた。
「こいつはお前が思っているより上等な自律兵器だ。ここまで精巧に作られた人型はそうはないし人型の奇械は普通、獅子型の自律兵器を倒せる戦闘力もない。こいつはアルバが探していた『黄金期の遺産』の可能性が高い」
ムジカは明確に言葉にされて表情をこわばらせるが、スリエンはさらに追い打ちをかけた。
「何をしてでも欲しがるやつはいる。あんたなんてこいつを従わせるための格好の人質だ」
「ムジカの危険は、俺が排除します」
「てめえには聞いてない。そもそもムジカに降りかかるかもしれない危難は、すべててめえが彼女を歌姫として登録したことが原因だ」
厳然と切って捨てるスリアンの言葉に、ラスは口を閉ざす。
それは間違いなく正しい。
だがムジカはラスをにらむスリアンへ言葉を発した。
「スリアン、これはあたしの選択だ。だから全部あたしが背負う」
ラスをかばうつもりはない。
確かにこれからのことを考えると面倒くさいし、なんてことになったのだと、十数時間前の自分を殴りたくもある。だが、ムジカがこうして生きて地上へ戻ってこられたのは、ラスが目覚めてくれたからだ。
ならば、これは自分で選び取った問題だとムジカは思うのだ。
ムジカが青の瞳でまっすぐ見つめれば、スリアンは隻眼の瞳を見開いた。
「ムジカ……」
「迷惑かけてごめん、スリアン。こいつは口止め料に置いていく」
自律兵器のエーテル機関だ、この一件を黙ってもらうには十分な金額だろう。これからどうするかじっくり考えなくてはならない。
ムジカが席を立とうとすれば、スリアンの顔がもどかし気にゆがむ。
なにかまずいことを言っただろうかとムジカが首を傾げれば、スリアンは深く深くため息をついた。
「まだ借金が残ってるんだから、そんな気前のいいことしてる場合じゃないだろう」
「でも、黙ってもらうんだから何かしらの対価が必要だろ?」
何か情報を得たり便宜を図ってもらったりするには袖の下が必要なものだ。自分の命がかかわるものならなおさら、それなりの金額を渡さないといけない。
だがスリアンは苛立たし気に首を振りムジカへと身を乗り出した。
「それでももらいすぎだ。これだと私を雇えちまう」
意地を張るように明確に言わないスリアンの婉曲な言い回しに慣れっこだったムジカは、意図がわかり目を見張った。
「協力してくれるの」
「これも乗りかかった船だからな」
むっすりと不本意そうなスリアンに申し訳なく思いながらも、ムジカは表情を緩めてはにかんだ。
「不安だったんだ。助かるよ」
「まあ、やることは簡単だ」
スリアンは頬杖をついたまま、ラスとムジカを交互に見やった。
ちょうど、楽しいいたずらを思いついたような表情だった。
「てめえら、一緒に暮らせ」
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