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奇械技師1
しおりを挟むなるべく人気の少ない道を選んでたどりついたのは、奇械街の中にある、一軒の奇械屋だった。
メインストリートからは完全に外れた裏路地の奥、ドアの上に申し訳程度に掲げられている看板がなければ、ここが店だとは誰も思わない。
が、この店の店主はムジカが知る限り最も奇械に造詣が深く、信頼できる人間だった。
ムジカはドアの前に立って呼び鈴を押して、壁についているラッパ状の集音器へと話しかけた。
「スリアン、あたしだ」
すぐさまきりきりと歯車の音がして、独りでに扉が開く。
ムジカが一歩中へ入れば、珍しく焦りを帯びた足音と共に、この店の店主が現れた。
「ムジカ! あんた帝国の探掘隊に襲われて遺跡で遭難してたんじゃないのかい!?」
長身の、美しいと言うべき女性だった。
年の功は20代後半。奇械技師らしく、ジャケットとズボンに包んでいるが、それでも豊満な体を隠しきれず、なおさら容姿の良さを強調している。
栗色の髪を無造作に結び、化粧っ気など一切ないにもかかわらず、華やかな美貌を誇る彼女の左目は黒い眼帯で隠されていた。
それがまた色気があると言い寄ってくる探掘屋たちを、彼女が殴り飛ばしていることをムジカは知っている。
そんな奇械技師特有の気むずかしさと喧嘩っ早さを兼ね備えるスリアンが、激しく取り乱しているようなのに戸惑いつつ、ムジカは言葉を返した。
「夜更けに脱出したよ。て、なんで知ってるの?」
「ついさっきファリンが知らせに来てくれたんだよ。『ムジカが探掘隊とやり合ったらしい!』てな。気にしてたから後で顔を出してやりなよ」
「あー……めんどい」
探掘街を根城にしている孤児の少年は何かとうるさく、ムジカは苦手としていた。
思いっきり顔に出してしまったのがまずかったのか、スリアンの右目がつり上がる。口よりも先に手が出る彼女の気質を重々承知していたムジカは、衝撃に備えたのだが。
その前に硬い腕が腹に回った。
「目前の不明個体を敵性存在と判断、迎撃の許可を求めます」
「なんだあん、!?」
スリアンのげんこつからムジカを守ったのは、銀髪の青年人形だった。
素早く動いたせいか、帽子とスカーフが外れその美貌があらわになった。
右腕から刃を出し完全に臨戦態勢をとるラスに、スリアンが隻眼をまん丸にしている。
ラスの存在をムジカは慌てて指示をくだした。
「こいつはあたしの知り合いだ! その物騒なもんしまえ!」
「ですが、ムジカに危害を加えようとしました」
「あたしの言うことが聞けないのか、ラス!」
断固として命じれば、ラスはゆっくりと腕からブレードをしまったが、ムジカをかばう体勢をやめようとはしなかった。
再び怒鳴ろうとしたムジカに、平静な声が響いた。
「ムジカ、そういうときは命令の前に“強制指令”とつけるんだ」
ムジカが見れば、冷静に観察するスリアンの姿があった。
しかしながら茶色の隻眼には驚愕か、大きな激情をたたえている。
ムジカが面倒ごとに巻き込まれていることを察してくれたらしい。
若い男(に見える)ものと二人でいるのであれば、からかい倒されるかもしれないと思っていただけに助かった。
考えつつムジカは言われたとおり、秀麗な顔を見上げて言葉を紡いだ。
「強制指令この腕を外せ」
「はい、歌姫」
今までの抵抗が嘘のように、ラスはムジカを解放した。
硬質な動きで直立するラスにいらだちは収まらないものの、ムジカはスリアンに向き直った。
「ありがと、スリアン。それからごめん。その話したいのはこいつのことで」
「どうやらこいつは、違うよう、だな……」
「やっぱりわかるか、こいつが普通の奇械じゃないって」
「ああいや、まあな。あんたがこいつの所有者になっていることも」
ムジカが問い返せば、スリアンは未だに驚きが残っているのか煮え切らない返事をする。
だが、すぐにいつもの人を食ったような態度に戻ると、炯々と隻眼を光らせてムジカを射貫いた。
「吐きな。一から十まで、耳をそろえて全部だ」
真顔のスリアンの言葉に、有無を言わせる雰囲気はなく。
ムジカとラスは、店の中へと吸い込まれていったのだった。
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