夜明けのムジカ

道草家守

文字の大きさ
上 下
16 / 78

奇械技師1

しおりを挟む


 なるべく人気の少ない道を選んでたどりついたのは、奇械街アンティークストリートの中にある、一軒の奇械屋アンティークショップだった。
 メインストリートからは完全に外れた裏路地の奥、ドアの上に申し訳程度に掲げられている看板がなければ、ここが店だとは誰も思わない。
 が、この店の店主はムジカが知る限り最も奇械アンティークに造詣が深く、信頼できる人間だった。
 ムジカはドアの前に立って呼び鈴を押して、壁についているラッパ状の集音器へと話しかけた。

「スリアン、あたしだ」

 すぐさまきりきりと歯車の音がして、独りでに扉が開く。
 ムジカが一歩中へ入れば、珍しく焦りを帯びた足音と共に、この店の店主が現れた。

「ムジカ! あんた帝国の探掘隊に襲われて遺跡で遭難してたんじゃないのかい!?」

 長身の、美しいと言うべき女性だった。
 年の功は20代後半。奇械アンティーク技師スミスらしく、ジャケットとズボンに包んでいるが、それでも豊満な体を隠しきれず、なおさら容姿の良さを強調している。
栗色の髪を無造作に結び、化粧っ気など一切ないにもかかわらず、華やかな美貌を誇る彼女の左目は黒い眼帯で隠されていた。
 それがまた色気があると言い寄ってくる探掘屋シーカーたちを、彼女が殴り飛ばしていることをムジカは知っている。
 そんな奇械アンティーク技師特有の気むずかしさと喧嘩っ早さを兼ね備えるスリアンが、激しく取り乱しているようなのに戸惑いつつ、ムジカは言葉を返した。

「夜更けに脱出したよ。て、なんで知ってるの?」
「ついさっきファリンが知らせに来てくれたんだよ。『ムジカが探掘隊とやり合ったらしい!』てな。気にしてたから後で顔を出してやりなよ」
「あー……めんどい」

 探掘街シーカーストリートを根城にしている孤児の少年は何かとうるさく、ムジカは苦手としていた。
 思いっきり顔に出してしまったのがまずかったのか、スリアンの右目がつり上がる。口よりも先に手が出る彼女の気質を重々承知していたムジカは、衝撃に備えたのだが。
その前に硬い腕が腹に回った。

「目前の不明個体アンノウンを敵性存在と判断、迎撃の許可を求めます」
「なんだあん、!?」

 スリアンのげんこつからムジカを守ったのは、銀髪の青年人形だった。
素早く動いたせいか、帽子とスカーフが外れその美貌があらわになった。
 右腕から刃を出し完全に臨戦態勢をとるラスに、スリアンが隻眼をまん丸にしている。
 ラスの存在をムジカは慌てて指示をくだした。

「こいつはあたしの知り合いだ! その物騒なもんしまえ!」
「ですが、ムジカに危害を加えようとしました」
「あたしの言うことが聞けないのか、ラス!」

 断固として命じれば、ラスはゆっくりと腕からブレードをしまったが、ムジカをかばう体勢をやめようとはしなかった。
 再び怒鳴ろうとしたムジカに、平静な声が響いた。

「ムジカ、そういうときは命令の前に“強制指令オーダーセット”とつけるんだ」

 ムジカが見れば、冷静に観察するスリアンの姿があった。
 しかしながら茶色の隻眼には驚愕か、大きな激情をたたえている。
 ムジカが面倒ごとに巻き込まれていることを察してくれたらしい。
 若い男(に見える)ものと二人でいるのであれば、からかい倒されるかもしれないと思っていただけに助かった。
 考えつつムジカは言われたとおり、秀麗な顔を見上げて言葉を紡いだ。

強制指令オーダーセットこの腕を外せ」
はいイエス歌姫ディーヴァ

 今までの抵抗が嘘のように、ラスはムジカを解放した。
 硬質な動きで直立するラスにいらだちは収まらないものの、ムジカはスリアンに向き直った。

「ありがと、スリアン。それからごめん。その話したいのはこいつのことで」
「どうやらこいつは、違うよう、だな……」
「やっぱりわかるか、こいつが普通の奇械アンティークじゃないって」
「ああいや、まあな。あんたがこいつの所有者になっていることも」

 ムジカが問い返せば、スリアンは未だに驚きが残っているのか煮え切らない返事をする。
 だが、すぐにいつもの人を食ったような態度に戻ると、炯々と隻眼を光らせてムジカを射貫いた。

「吐きな。一から十まで、耳をそろえて全部だ」

 真顔のスリアンの言葉に、有無を言わせる雰囲気はなく。
 ムジカとラスは、店の中へと吸い込まれていったのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 『特殊な部隊』の初陣

橋本 直
SF
その文明は出会うべきではなかった その人との出会いは歓迎すべきものではなかった これは悲しい『出会い』の物語 『特殊な部隊』と出会うことで青年にはある『宿命』がせおわされることになる  地球人が初めて出会った地球外生命体『リャオ』の住む惑星遼州。 理系脳の多趣味で気弱な『リャオ』の若者、神前(しんぜん)誠(まこと)がどう考えても罠としか思えない経緯を経て機動兵器『シュツルム・パンツァー』のパイロットに任命された。 彼は『もんじゃ焼き製造マシン』のあだ名で呼ばれるほどの乗り物酔いをしやすい体質でそもそもパイロット向きではなかった。 そんな彼がようやく配属されたのは遼州同盟司法局実働部隊と呼ばれる武装警察風味の『特殊な部隊』だった。 そこに案内するのはどう見ても八歳女児にしか見えない敗戦国のエースパイロット、クバルカ・ラン中佐だった。 さらに部隊長は誠を嵌(は)めた『駄目人間』の見た目は二十代、中身は四十代の女好きの中年男、嵯峨惟基の駄目っぷりに絶望する誠。しかも、そこにこれまで配属になった五人の先輩はすべて一週間で尻尾を撒いて逃げ帰ったという。 司法局実動部隊にはパイロットとして銃を愛するサイボーグ西園寺かなめ、無表情な戦闘用人造人間カウラ・ベルガーの二人が居た。運用艦のブリッジクルーは全員女性の戦闘用人造人間『ラスト・バタリオン』で構成され、彼女達を率いるのは長身で糸目の多趣味なアメリア・クラウゼだった。そして技術担当の気のいいヤンキー島田正人に医務室にはぽわぽわな詩を愛する看護師神前ひよこ等の個性的な面々で構成されていた。 その個性的な面々に戸惑う誠だが妙になじんでくる先輩達に次第に心を開いていく。 そんな個性的な『特殊な部隊』の前には『力あるものの支配する世界』を実現しようとする『廃帝ハド』、自国民の平和のみを志向し文明の進化を押しとどめている謎の存在『ビックブラザー』、そして貴族主義者を扇動し宇宙秩序の再編成をもくろむネオナチが立ちはだかった。 そんな戦いの中、誠に眠っていた『力』が世界を変える存在となる。 その宿命に誠は耐えられるか? SFお仕事ギャグロマン小説。

Another Dystopia

PIERO
SF
2034年、次世代型AI「ニューマン」の誕生によって人類のあらゆる職業が略奪され、人類はニューマンとそれを開発した人間に戦争を仕掛けた。そして10年後、人類はニューマンに敗北し、ニューマンの開発者の一人、弁田聡はこの結果に嘆いた。 この未来を変えるべく、彼はタイムリープマシンを開発しこの絶望的な未来を変えるため過去へ向かう。 その道のりの先は希望か絶望か。 毎月15日と月末に話を上げる予定です。 ストックが切れたら多分投稿が遅くなります。 小説家になろうでも投稿しています。よろしければURLを参考にどうぞ。 https://ncode.syosetu.com/n0396gs/

Select Life Online~最後にゲームをはじめた出遅れ組

瑞多美音
SF
 福引の景品が発売分最後のパッケージであると運営が認め話題になっているVRMMOゲームをたまたま手に入れた少女は……  「はあ、農業って結構重労働なんだ……筋力が足りないからなかなか進まないよー」※ STRにポイントを振れば解決することを思いつきません、根性で頑張ります。  「なんか、はじまりの街なのに外のモンスター強すぎだよね?めっちゃ、死に戻るんだけど……わたし弱すぎ?」※ここははじまりの街ではありません。  「裁縫かぁ。布……あ、畑で綿を育てて布を作ろう!」※布を売っていることを知りません。布から用意するものと思い込んでいます。  リアルラックが高いのに自分はついてないと思っている高山由莉奈(たかやまゆりな)。ついていないなーと言いつつ、ゲームのことを知らないままのんびり楽しくマイペースに過ごしていきます。  そのうち、STRにポイントを振れば解決することや布のこと、自身がどの街にいるか知り大変驚きますが、それでもマイペースは変わらず……どこかで話題になるかも?しれないそんな少女の物語です。  出遅れ組と言っていますが主人公はまったく気にしていません。      ○*○*○*○*○*○*○*○*○*○*○  ※VRMMO物ですが、作者はゲーム物執筆初心者です。つたない文章ではありますが広いお心で読んで頂けたら幸いです。  ※1話約2000〜3000字程度です。時々長かったり短い話もあるかもしれません。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

SFゲームの世界に転移したけど物資も燃料もありません!艦隊司令の異世界宇宙開拓紀

黴男
SF
数百万のプレイヤー人口を誇るオンラインゲーム『SSC(Star System Conquest)』。 数千数万の艦が存在するこのゲームでは、プレイヤーが所有する構造物「ホールドスター」が活動の主軸となっていた。 『Shin』という名前で活動をしていた黒川新輝(くろかわ しんき)は自らが保有する巨大ホールドスター、『Noa-Tun』の防衛戦の最中に寝落ちしてしまう。 次に目を覚ましたシンの目の前には、知らない天井があった。 夢のような転移を経験したシンだったが、深刻な問題に直面する。 ノーアトゥーンは戦いによってほぼ全壊! 物資も燃料も殆どない! 生き残るためにシンの手にある選択肢とは....? 異世界に転移したシンキと、何故か一緒に付いてきた『Noa-Tun』、そして個性派AIであるオーロラと共に、異世界宇宙の開拓が始まる! ※小説家になろう/カクヨムでも連載しています

読切)VRのゲームでウサギの振りをしている変態プレイヤーがいるらしい

オリハルコン陸
SF
一人のゲーマーがいた。 ジョブを極めては転生し、またジョブを極めーー ストイックな程にゲームにのめり込んでいた、その男の真の目的とはーー

関西訛りな人工生命体の少女がお母さんを探して旅するお話。

虎柄トラ
SF
あるところに誰もがうらやむ才能を持った科学者がいた。 科学者は天賦の才を得た代償なのか、天涯孤独の身で愛する家族も頼れる友人もいなかった。 愛情に飢えた科学者は存在しないのであれば、創造すればいいじゃないかという発想に至る。 そして試行錯誤の末、科学者はありとあらゆる癖を詰め込んだ最高傑作を完成させた。 科学者は人工生命体にリアムと名付け、それはもうドン引きするぐらい溺愛した。 そして月日は経ち、可憐な少女に成長したリアムは二度目の誕生日を迎えようとしていた。 誕生日プレゼントを手に入れるため科学者は、リアムに留守番をお願いすると家を出て行った。 それからいくつも季節が通り過ぎたが、科学者が家に帰ってくることはなかった。 科学者が帰宅しないのは迷子になっているからだと、推察をしたリアムはある行動を起こした。 「お母さん待っててな、リアムがいま迎えに行くから!」 一度も外に出たことがない関西訛りな箱入り娘による壮大な母親探しの旅がいまはじまる。

アンドロイドちゃんねる

kurobusi
SF
 文明が滅ぶよりはるか前。  ある一人の人物によって生み出された 金属とプラスチックそして人の願望から構築された存在。  アンドロイドさんの使命はただ一つ。  【マスターに寄り添い最大の利益をもたらすこと】  そんなアンドロイドさん達が互いの通信機能を用いてマスター由来の惚気話を取り留めなく話したり  未だにマスターが見つからない機体同士で愚痴を言い合ったり  機体の不調を相談し合ったりする そんなお話です  

処理中です...