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19話 昇格

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「こ……の……大馬鹿ノロワ!!!!」

 ……おっと?
 突然の罵声をいただきました。

 感動の再会を期待していた僕としてはちょっと虚をつかれてしまった。

「なんでアンタはそう無茶ばっかりするのよ! バカ! アホ!! ノロワ!!!!」

 その並びで罵倒されると、僕の名前ノロワがまるで悪口みたいに聞こえるなぁ。

「はぁ……はぁ……。……お願いだからもっと自分を大切にしてよ」

 一通り僕を責め終えたエマは肩で息をし、目を潤ませながら僕の服の裾をつまむ。

「……ごめんね」

 確かに今回、僕はかなりの無茶をした自覚はある。
 それに、エマに心配かけさせたのは事実だから素直に謝罪する。

 ……まあ、また同じようなシチュエーションになったら仲間エマを守るために同じようなことはすると思うけどね。

「……納得はしてないけど、許してあげるわ。ところで体調は大丈夫なの?」
「うん、ばっちりだよ。『呪い』の代償による痛みのせいで気絶したけど、別に怪我や病気になったわけじゃないしね」

「そう……それなら良かったわ。それと……ありがとう」

 最後の感謝の言葉の声量はとても小さかったけど、はっきりと聞こえた。
 この感謝は、エマの要望を聞いた上、エマを守ったことに対するものだろう。

「どういたしまして」
「っ……! なんで聞こえてるのよ!!」

 ええー……。
 理不尽に怒られてしまった。

「そういうのは聞こえても聞こえないふりするものなのよ! 分かった!?」
「……ワカリマシター。スイマセンデシター」

 ここで何か言い返そうものなら更に怒られそうなので素直に謝っておくことにした。

「……謝りかたが不服だけど我慢してあげるわ。それで、どこまで状況は把握しているの? ロゼから聞いたけど、さっき目が覚めたばっかりなのよね?」
「大体の事はロゼさんから聞いたよ」

 エマが無事だったこと。
 ケイネス達を救出できたこと。
 あの狼型モンスターが新種だったこと。
『始まりの洞穴』の新エリアが禁止区域に指定されたこと。
 そして、先行していた『紅蓮の不死鳥Aランクパーティー』が今回のクエストの失敗により罰則を受けること。

 ロゼさんから聞いた事をそのままエマに伝えた。

「それだけ知っているならアタシからノロワに教える事は無さそうね。それじゃあそろそろ行きましょうか」
「行くってどこに?」

 まさかクエストにでも行くつもりか?
 いくら体調がバッチリと言っても目を覚まして、即クエストに行くのは勘弁してもらいたいんだけど……。

「ロゼのところに決まってるじゃない。ノロワもロゼに目を覚ましたら来いって言われたでしょ?」
「……あっ、そうだったね。でも、なんでロゼさんのところに呼ばれたんだろう?」

 事の顛末も聞いたし、ロゼさんからこれ以上受ける説明は無いと思うけど。

「それこそ決まってるわ。アタシ達の昇格試験の結果を教えてもらうのよ!」
「……あっ」

 そういえば試験の結果を聞くのを完全に忘れちゃってたね。


 ◇◆◇◆◇◆

「おめでとうございます、ノロワ君にエマ。お二人はDランクパーティーに昇格決定です」

 エマと一緒にロゼさんの所についてすぐに昇格を言い渡された。

「やった、やった! これでアタシ達もやっと一人前のパーティーね!!」

 エマが嬉しそうに飛び跳ねながら、僕の服を掴む。
 Dランクに上がったのがよっぽど嬉しいんだろう。

 実際、新エリアの調査はもちろん、新人パーティーの救助に狼型モンスターの討伐……僕たちの実績を考えたら昇格は当たり前だけどね。

 それでもエマの気持ちを考えたら、これほど喜ぶのも分からなくもない。
 僕たちは互いに所属していたパーティーから追放……つまり不要と言われた冒険者だ。

 冒険者達から落ちこぼれの烙印を押された僕たちが力を合わせ、結果こうしてDランクまで昇格できたわけだしね。

「今回の実績を考えればDランクどころかCランクやBランクまで昇格させてもいいと私は提案したんですけどね……。ギルドの上の方が認めてくれなかったんですよ。全く……頭が固い人は嫌になりますよね」

「ははっ、ロゼさんにそう言ってもらえるだけで十分ですよ」

 今回これだけ上手くいったのは正直な話、運の要素もでかかった。
 一歩間違えたらもっと甚大な被害が出ていた可能性もある。

 それに、今の僕とエマにはパーティーとして決定的な欠点がある。
 それを解消しないと、更にランクが上のダンジョン攻略なんて夢のまた夢だ。

「とにかく、これで二人ともDランク以下のダンジョンに挑戦できるようになりました」

 冒険者ランクがDになってからやっと一人前の冒険者と言われる理由の一つに、ダンジョンへの挑戦権はDランクに上がらないと認められないことにある。

 ダンジョン攻略こそ冒険者の醍醐味といっても過言じゃない。
 それに、僕達のパーティーがDランクに上がった事で、更に受注できるクエストの幅が大きく上がったわけだ。

 これからもっと忙しくなるぞー!

 この先、今回以上の大変なこともあるかもしれない。
 だけど、仲間エマとの冒険にワクワクせずにはいられないよね!!

「それともう一つ……いえ、二つですかね。二人には二つの命名権がありますよ」

「二つ……?」

「はい。一つは、今回討伐した狼型モンスターの名前をつけてください」

 ああ、すっかり忘れていた。
 新種のモンスターを発見したら、そのモンスターの命名権は最初に討伐したパーティーに与えられるんだ。

 新種のモンスターに出会う事は珍しく、その分モンスターに命名することは冒険者にとって名誉なことでもある。
 これはしっかりと考えて名付けないとな……。

「そしてもう一つは、お二人はDランクパーティーに昇格したので自分のパーティー名を登録ができます」

 Eランク冒険者とDランク冒険者には二つの大きな差がある。
 まず一つは、さっきも言ったけどダンジョンへの挑戦権。

 そしてもう一つは、パーティー名を名乗れる権利だ!

 意外にも、パーティー名ってのは重要なものだ。
 パーティー名が有名になれば、依頼主の方から個別に依頼を頼んでくることもある。

 何より、パーティー名ってのは『憧れ』でもある。

 子ども時代、冒険者に憧れている子は、必ず一度は自分のパーティー名を妄想するといっても過言じゃない。

 自分の所属しているパーティー名が大陸全土に響き渡るのは冒険者にとっての一つの目標でもあるしね。

「パーティー名はもう決めてるんです!」

 実は、医務室から出てロゼさんのところへ向かう前に、パーティー名はどうするかエマと話し合っていた。
 元々、試験の前からいくつかの候補は上がっていたから、話し合い自体はすんなりと決まった。

「僕達のパーティー名は……!」
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