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第1章《ミイラ取りを愛したミイラ》
第1章3『違和』
しおりを挟むボクの積み上げてきた壁は、ある少女によってあっけなくも崩された。死ぬように生きる生活も、これで幕引きだ。幕は下ろされ、上げられた。そう、めちゃくちゃ強引に。
◆◆◆
「え~、今日からA組に編入することになった、氷雨レイくんです。さて、それではレイ君、席についてー」
「ああ、はあ」
ボクはそうして、聞こえるか聞こえないか分からないくらいの返事をした。
制服を貰って、バッジに名前を入れてもらって、つくしに手を引かれて、ボクはこの蛇鹿学園に入学した。組分けはA~F、全部で五学年。《生徒第一》がモットーの学園で、行事はもちろんのこと、学校内のトラブルまで全て生徒たちの手で解決させるらしい。
おかしな世の中になったものだ。ボクでも入れる学校があるなんて。
蛇鹿学園三年A組氷雨レイ、十六歳。本日、入学。
ボクのクラスの担任は、冴えない中年男だった。冴えないというか、だらしない、というか。伸び放題のヒゲや髪、くたびれたスーツ、誰もこの人が教育者だとは思わないだろう。一見したらホームレスにもみえるのだ。しかも、名前がおかしい。
「倒生先生、ボクはどこに座ればいいですか?」
話していたかも知れないが、聞き逃した。惑ったボクは、その中年教師に聞いたのだ。彼は、にこっと笑った(目が前髪で隠れていて怖い)。
「ああ、ツクシちゃんの隣ね。それと、レイ君。我のことは“タオ先生”と呼んでいいよ。タオセイ先生だと呼びにくいだろ?」
「どーも、倒生先生」
彼は少し驚いたような顔をしたが、すぐに教卓の前に戻った。ボクも、席に向かう。窓側の後ろから二番目の席か。
ああ。やっぱり、ボクを見てざわつく人は数えられる程度。耳も灰髪も、彼らは屁とも思わないらしい。ツクシの言うとおり、猫耳の者や、ボクより長い牙を持つ者まで居る。なのに人間と同じように、違和感無く着席しているのだ。十数年前では、おそらく有り得なかった光景だろう。有り得ていたら、ボクはこうならなかったワケだし。さらには、ここだよとか席まで案内してくれる子まで現れた。
何々だ。
さすがにおかしい。
おかしいじゃないか。
これが普通なのか。
足を出して来るものも居ない。手を出して来るものも居ない。転校生は、いじめの良いターゲットだというテンプレはもう古いものなのか。手招くつくし、席に着くボク。当たり前のように、当たり前のように。当たり前に。号令と共に、朝礼が終わった。
◆◆◆
「なあつくし、あのさ。ボクが言うのもなんだけど、この学園、なんかおかしくないか?」
ボクが口を開けたのは、貴重なランチタイムの最中だった。当然、ボクは美少女でも何でもないので、執拗以上にクラスメイトに話しかけられるということは無かった。
それよりも、やっと遠巻きにされてきたくらいだ。目つきと、隈が怖いらしい。それに、どこか安堵さえしている自分が居た。嫌われ慣れていると、いじめられないだけでも違和感を感じるものだ。だが、ボクが感じた違和感はそれじゃなかった。
何か、明確に言葉で表すことは出来ないが、何かが“違う”、“間違っている”と思ったのだ。だから聞いた、白野つくしに。彼女は幾度か首を回し、ボクを見た。
「あなたは、何も知らないんですね」
無知なボクに、呆れたように。そんな風に、瞳を細めて。
「ですからね。この町は不思議なんです。不思議で不思議で仕方が無いんです。怪事件・都市伝説、そんなものが日常の一部になっているくらいですからね。違和感を感じない方がおかしい」
「まるで、出来の悪い……というか、設定の安いファンタジーものみたいじゃないか」
いくつもいくつも、回を追うごとに矛盾が生まれ、何一つそれを回収できていない。それは三品の、ちゃちな物語みたいじゃないか。
「さて、ここで、私があなたをここに通わせた真の目的をお伝えしましょう」
「真の、……目的?」
「そうです、真の目的。それは──」
「──君に、その“不思議”を解明してもらいたいから、なんだよ。ねっ、つくしちゃん」
ボクの頭上から聞こえたのは、女子なら一瞬で落ちるような、甘い甘い声だった。くるくるの黒髪、すらりとした高身長、優しい笑みの似合う、少年がそこに居た。カレーうどんの入ったどんぶりをトレーに乗せて。
「……なんだ、天使か」
「いやいやいやいや僕は人だよ、天使じゃないよ!?」
もう少し身長が低ければ、少女と見紛ったかもしれない。わたわたと長い手足を振って慌てる姿さえもかわいらしい。すっかり、羽を忘れた天使かと思ったぜ。
「こんにちは、僕は木先はるか。つくしちゃんの友達だよ」
彼はボクに断ってから、隣に腰を下ろした。ちなみに、つくしはボクの対面に居る。よってかなり唾が飛んでくる。
「はるか、君。……よろしく。あと、今君が言ってたのって」
「そう、僕らはこの違和感をどうしても解明したくってね。君に、手伝ってもらえないかなって」
「そうですよ、都市伝説さんご本人に協力していただけたら力強いなって思ってたんです。入る部活も決まっていなければ、私たちと同じ部に入りませんか。いいですよね、はい決定!」
「待て待て待て待て急にどうしたんだつくし! もっとはるかくんの声を聞かせろよ、部活って何だ部活って」
つくしと会話するにはログが要る気がする。一つの台詞に情報量詰まり過ぎだろ。いまだにボクを都市伝説と呼んでることにいささか腹が立っているものの。とりあえず突然飛び出した“部活”というワードについて追求したい。要するに部活動って認識でいいのかな。
「ええ、その認識で良きです」
「そうか、よきか」
「で、レイ君は今入りたい部活ありますか」
「いや」
「それならぜひ」
「まだ、見てないからなんとも言えない」
「でしたら私と一緒に」
「はるか君はなんの部活に入っているんだ?」
「ちょ」
「ははは、レイ君、はるかで良いよ」
「あ、ああ。こほん、はるかは何の部活に入ってるんだ?」
「んーと、僕はねぇ」
「ちょっと、私を無視しつつ話を広げないでくださいよぅ!」
「おい、ハルカキャンセラー! ちょっと静かに。はるかが喋ってるだろうが」
「その前に私が話してたでしょうがっ」
ハルカキャンセラー、もとい白野つくしは高い声で怒鳴った。キーキーキーキーうるさい奴だ。せっかくのはるかの美声が先ほどからすべてかき消されているのだ。食事のときくらい、いや、一生静かにしていて欲しいくらいだ。昼休み。彼女に話しかけてしまったのが凶と出たか。食堂の中でひとり優雅に初の学食を味わう……そんな筈だったのに!
「あらら、レイ君。まさか部活に入らない、つもりですかぁ? ……うっわあ」
「おい、勝手に答え合わせして、勝手にドン引きするんじゃない」
部活動差別の名目で、いつか四方から訴えられればいいのに。何も、運動部と吹奏楽部に入ってる奴が勝ち組ってワケじゃないんだ。ボクも、もし部活に入るなら、帰宅部一択である。とにかく体力が無いのだ。気分的には、サッカー部に入りたいところだが、
「入ったところでベンチウォーマーになる未来しか見えませんね」
「ボクの夢を壊すなよ」
「いいじゃない、席は暖めたもん勝ちだよ」
「はるか、何言ってんだ!?」
危ない危ない。平和ボケした会話に加わってしまうところだった。眼前の少女は笑い、やはり隣に居る少年も楽しそうに笑った。違和感だの不思議だの言ってるこいつらの存在が一番謎である。
「……こうやってボクと食ってて、嫌じゃないのか。もしアレだったら、他の友達と食べてこいよ。話なんていつでも出来るし」
長年の生活もあってか、箸の使い方もままならないボクを、見ているだけでイライラするだろうに。何の文句も言わない二人に、逆に腹が立った。避けないし、逃げないし。これから、ボクと関わっていけば、どんどん人が離れていくだろう。ボクと話してるだけで、つくしやはるかが陰口を言われたりするかもしれない。学校に入れてくれたことは感謝しているが、
「友達ってのは、しっかり選んだほうが良い。やたらめったらに人と関わってると、良いことは起きないぜ、きっと」
『──』
「ああ、だから……」
「アホですか?」
「アホなの?」
「へ?」
思わず、突拍子もない声が漏れてしまった。あまりにも当たり前のように、ボクを“アホ”というものだから。
「レイ君以外のお友達に、こんなこと話しませんし」
「ふざけてると言えど、こんな話を真剣に聞いてくれたの、レイ君が初めてだもん」
「言ったじゃないですか、レイ君だから良いって」
「言ったかそんなこと」
「何回でも言うよ、我らが“部長”に相応しいのはレイ君しか居ないって」
「部長って……」
「そう、部長」
「不思議を解明し、この世界の違和感に立ち向かう学園一モテない部活動!」
「その名も──」
「「“不思議部”!」」
「も」
「「も……?」」
「もっと良い名前は無かったのかあぁぁぁあぁああああああああぁぁぁ」
ドーム状の食堂に、ボクの叫びがいつまでも、木霊する。そんなわけで、前人未到の前代未聞の“不思議部”は結成されたのであった。何もかも、濁った違和感を取り除くために。
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