重なる月

志生帆 海

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第4章

邂逅 2

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「これがヨウ将軍からの手紙だ。とてつもなく長い年月をかけて我が一族に代々伝えられてきたものだ」

 kaiは重箱の中から古びた書簡を取り出して、机の上に置いた。
 
 ゴクリと喉が鳴る。いよいよだ。

「これか。手に取って見ていいか」
「あぁ少し洋には話したが、丈さんにとっては初めてのものだろう。俺が内容をもう一度翻訳してやるよ」

 震える手でそっと手紙を開くと、途端にヨウからの想いが溢れ出て来た。

 ヨウだ! これを書いたのはヨウ……俺の前世の人物だ。
 そう確信できる確かなものを、しっかり感じることが出来た。

「じゃあ手紙の内容をもう一度話すよ」


※「重なる月 君を待つ家6」より抜粋(再掲載)

 ****

 カイ、 これはお前に託す俺の想いだ。
 俺がこの世から去った後、我が屋敷・財産のすべてをお前に委ねる。

 お前ならきっと守ってくれる。
 お前の子孫ならきっと伝えてくれる。
 そう信じているから…
 俺にとって唯一無二の友であり、俺の生涯の部下であったカイだから。

 遠い遠い先にきっと現れるヨウと名乗るであろう、私に似た人物。
 そしてその傍にきっといてくれるであろうジョウという医官。

 俺達の願い・生まれ変わりのヨウとジョウ。
 二人は一緒に暮らしているはずだ。
 片時も離れず寄り添っているはずだ。

 その者達に、お前の子孫が出逢う時が必ず来ると信じている。
 その者達に出逢ったら伝えて欲しい。

 俺のこの想いを。
 俺の強い願いを。
 君の傍にきっといるヨウとジョウに伝えて欲しい。

 まもなく君たちが生きている時代へ、私の時代にいる『にほん』という国から来た赤い髪の女と我が国の29代目の王がやってくるだろう。眩いばかりの雷光に包まれて到着するはずだ。

 その二人のことを頼みたい。

 王様は骨肉腫という病気を患っている。
 私の時代では治せない、死を待つしかない病気なのだ。
 それをどうか君たちの時代の医術で治して差し上げて欲しい。
 そして願わくば、健康になられた王様を私のもとに、赤い髪の女は本来の場所へ帰して欲しい。

 過去へ帰す方法を、遙か彼方の俺の生まれ変わりの君が知っているかどうかは分からない。
 私がそちらへ二人を送り出した方法は、雷光という秘儀だ。
 強い想いと願いが溢れたとき、その力は最高潮になり、とてつもない…時空をかき混ぜるほどの
 力となったようだ。 事実、稲妻の光に包まれて二人は私の前から姿を消した。

 君たちの役に立つか分からないが、私がジョウと分かち合った月輪の輪を手紙とともに託す。

 きっときっと信じている。
 君たちが救ってくれると。
 どうか信じてくれ… お願いだ。

 ****


「以上だ。手紙に書かれていた月輪も一緒に保管されている」
「あっ月輪……ってまさか」

 手紙を読み終えて驚いた。ヨウの添えたという月輪というのは……もしかして。

「洋、月輪のような乳白色のネックレスが入っていたんだ。この重箱には。今見せるよ」

 kaiは手紙が入っていた重箱の中を確かめるが、途端に怪訝な顔つきになった。

「あれ? ええっ! この前確かにあったのに、一体どこ行った?」
「kai……それはもしかして、これのことか」

 俺は胸元の月輪のネックレスを外してkaiに見せた。

「あっ! えっ? 何で洋がこれを? この輝きで間違いない。あっでも欠けている?」
「ふっ……そうか。不思議だな。少し前にこれは俺達の手元に戻って来ていたんだよ。いろいろあって欠けてしまったが、確かにこれはヨウの月輪だ」

 俺が丈のことを見つめ無言で頷くと、丈もすぐに続いて胸元から月輪のネックレスを取り出した。

 机の上に置かれた二つの月輪。これは数か月前、丈が王宮近くの市場で見つけて来たものだ。何故kaiの家から消えて、あの市場にあったのか。

 二つの月輪がまるで呼び合ったかのような不思議な話だ。

「なるほど!丈さんも持っていたのか。そうかこれはペアなのか。あぁなるほど手紙にも分かち合ったと書いてある!」
「この月のように白く輝く月輪は不思議なことに、温度が変わったり、遠い昔と呼応しているのではと思う出来事が何度かあったよ。やっぱりヨウの持ち物だったのだな」
「そのようだな」

 丈も短くそう応える。それから手紙をもう一度読み直し、疑問に思うことを口にした。

「洋、それから、この手紙には不思議なことが書いてあるな。骨肉腫を患っている王様と日本の赤い髪の女がやってくると」
「うん……丈、それって一体どういうことだ? 」
「君たちは……まさか時空を本当に超えて本当に人がやって来ると思っているのか。おいおい、いくらなんでも映画じゃあるまいし……そんなことってあるのか」

 kaiが信じられないといった表情を浮かべているが、俺は断言できる。

「いや、あると思う」

 そういうことか、やはり。先ほどからひしひしと感じる半端ない既視感(デジャブ感)。過去から人がタイムスリップしてやってくるなんてこと、常識では起こるはずがないことだって思うのに……素直に信じられる。

「丈……いつだろう。その日は近いのだろうか。どこに行けばその人たちに会えるのだろうか」

 時空を超えて出会う方法が知りたい。
 いつ、どこで、どうやって?
 分からないことだらけだ。

「あっkai……そういえばヨウ将軍の墓の写真。あの石碑には何が書かれていた?」

 スマホから写真を探しだして、kaiにもう一度見せる。俺には解読不可能な記号のような文字の羅列でさっぱり分からない。ただ何か大切なことが書かれているような気がしてしょうがない。

「んっ……これは古代文字で、それから数字だな」

 kaiはしばらくそれをじっと見た後、何か閃いたように嬉々とした表情を浮かべた。

「そうだ! それか! 洋……その疑問が解けるかもしれない!」





****

こんにちは。この物語を書いている志生帆 海です。
ややっこしいのですが「悲しい月」と「月夜の湖」の二つのお話が、最終的にこの「重なる月」に話がまとまり
またそれぞれの場所へと静かに戻っていく……そんなイメージで書いています。
二つのお話しが重なる時まであと少しです。少々話が混ざってくるので、3つのお話しを合わせて読んで頂けたら、とても嬉しいです。本当にいつも皆さんの貴重なお時間を費やして下さり、ありがとうございます。感謝しています!
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