180 / 1,657
第4章
邂逅 1
しおりを挟む
「洋? 何をぼんやりして……」
「あっごめん。何処からだ? 」
kaiから声を掛けられてはっとした。まずいな、今は授業中じゃないか。あーもう、どう考えても寝不足だ。テキストを指さしながら集中しようと思うのに、今度はじっとkaiが俺のことを見つめてくるので不審に思った。
「……何かついてる?」
「んっ……あのさ、これってキスマークなのか」
そう呟きながら伸ばされたkaiの長い指が、俺の首筋に触れてくるので焦った。慌てて一歩退き、首元を手の平で覆う。
「なっ!蚊に刺されたんだ。なんでもないっ」
恥ずかしいっ……丈の奴! あれだけ見えるところに付けるなって言っているのに、またっ!
「へぇ……こんな季節に蚊? 」
「どっどうでもいいだろう! 」
目を細めニヤニヤしてくるkaiも憎たらしい。どうして俺はいつもこう揶揄われやすいのか。これというのも、朝から丈が俺を抱いて離さないのがいけないんだ。
来週にはあの小高い丘の家に引っ越せるから、寝室は絶対に別にしよう。
俺の躰がもたないし、勉学に差し障る!
ぷんぷんと怒っていると、kaiがくすっと笑っている。
「洋って本当に可愛いな。見飽きないよ。それじゃ明日の十時に我が家でな。まぁ丈さんと仲良く来てくれよ。そうだ、くれぐれもやり過ぎて寝坊するなよ! 」
「なっ! 」
はぁ……kaiにはすべてお見通しか。kaiがすべてに寛容なのは助かるが、あからさまにそのようなことを言われるのは恥ずかしくて堪らない。
それにしてもいよいよ明日だ。丈と共にkaiの家を訪問することにより、何が分かるのか……受け止める覚悟なら出来ている。
俺達はいろんなことを乗り越え捨てて、今この国に来ているのだから。
これ以上、怖いものなどない。
****
「この道でいいのか」
「あぁたぶんな……」
俺達が宿泊しているホテルから地下鉄を乗り継いで数駅。スマホのナビを頼りにkaiの家に丈と二人で向かった。やっとたどり着いたkaiの家は、家というには立派過ぎる佇まいだった。まるで時代劇に出てくる武家屋敷のような趣で、広大な敷地の中庭には美しい枝ぶりの木々が植えられ、秋の深まりを感じさせていた。
その庭に面して歴史を感じさせる悠然とした構えの屋敷と蔵が建っていた。
何よりこの庭に立った途端、また俺の記憶がざわつきだし、ぐらっと目の前の地面が揺れているように感じた。
あ……俺はこの家を知っている。
吹き抜けていく風と共に沸き立つ強烈なデジャブ感に、躰ごとを持っていかれそうになる。丈も何かを感じているのか、無言で家を見つめ続けていた。
「ここはずいぶん立派な家だな」
「丈……俺、ここを知ってる」
「私も知っているような気がするよ」
「ようこそ、洋と丈さん」
呆然と立ち尽くす俺達の横に、いつの間にかkaiが来ていた。
「あっkai……ここはヨウ将軍の生家だと言ったな?」
「そうだよ、何か感じる?」
「……凄く感じる」
目を閉じれば、まるで俺が体験したかのように浮かぶ情景。
遠い遠い記憶の彼方
俺(ヨウ)はこの家の前で、こうやって丈(ジョウ)と共に立っていたのではなかろうか。
「俺の部屋……」
そうだ。この屋敷の中にあるはずの俺(ヨウ)の部屋。そこで、ジョウとヨウの間に何かが一つ大きく弾け、二人は一つになったのだ。
「重なる月……」
ふとそんな言葉が口から自然に零れ落ちた。
****
いよいよ『悲しい月』や『月夜の湖』とのリンクが濃厚になってきました!
※「悲しい月」春の虹 ~俺の部屋・俺の自由~
※「悲しい月」春の虹 ~重なる月・2~
を読んでいただけると、お話がスムーズ化と思います。
「あっごめん。何処からだ? 」
kaiから声を掛けられてはっとした。まずいな、今は授業中じゃないか。あーもう、どう考えても寝不足だ。テキストを指さしながら集中しようと思うのに、今度はじっとkaiが俺のことを見つめてくるので不審に思った。
「……何かついてる?」
「んっ……あのさ、これってキスマークなのか」
そう呟きながら伸ばされたkaiの長い指が、俺の首筋に触れてくるので焦った。慌てて一歩退き、首元を手の平で覆う。
「なっ!蚊に刺されたんだ。なんでもないっ」
恥ずかしいっ……丈の奴! あれだけ見えるところに付けるなって言っているのに、またっ!
「へぇ……こんな季節に蚊? 」
「どっどうでもいいだろう! 」
目を細めニヤニヤしてくるkaiも憎たらしい。どうして俺はいつもこう揶揄われやすいのか。これというのも、朝から丈が俺を抱いて離さないのがいけないんだ。
来週にはあの小高い丘の家に引っ越せるから、寝室は絶対に別にしよう。
俺の躰がもたないし、勉学に差し障る!
ぷんぷんと怒っていると、kaiがくすっと笑っている。
「洋って本当に可愛いな。見飽きないよ。それじゃ明日の十時に我が家でな。まぁ丈さんと仲良く来てくれよ。そうだ、くれぐれもやり過ぎて寝坊するなよ! 」
「なっ! 」
はぁ……kaiにはすべてお見通しか。kaiがすべてに寛容なのは助かるが、あからさまにそのようなことを言われるのは恥ずかしくて堪らない。
それにしてもいよいよ明日だ。丈と共にkaiの家を訪問することにより、何が分かるのか……受け止める覚悟なら出来ている。
俺達はいろんなことを乗り越え捨てて、今この国に来ているのだから。
これ以上、怖いものなどない。
****
「この道でいいのか」
「あぁたぶんな……」
俺達が宿泊しているホテルから地下鉄を乗り継いで数駅。スマホのナビを頼りにkaiの家に丈と二人で向かった。やっとたどり着いたkaiの家は、家というには立派過ぎる佇まいだった。まるで時代劇に出てくる武家屋敷のような趣で、広大な敷地の中庭には美しい枝ぶりの木々が植えられ、秋の深まりを感じさせていた。
その庭に面して歴史を感じさせる悠然とした構えの屋敷と蔵が建っていた。
何よりこの庭に立った途端、また俺の記憶がざわつきだし、ぐらっと目の前の地面が揺れているように感じた。
あ……俺はこの家を知っている。
吹き抜けていく風と共に沸き立つ強烈なデジャブ感に、躰ごとを持っていかれそうになる。丈も何かを感じているのか、無言で家を見つめ続けていた。
「ここはずいぶん立派な家だな」
「丈……俺、ここを知ってる」
「私も知っているような気がするよ」
「ようこそ、洋と丈さん」
呆然と立ち尽くす俺達の横に、いつの間にかkaiが来ていた。
「あっkai……ここはヨウ将軍の生家だと言ったな?」
「そうだよ、何か感じる?」
「……凄く感じる」
目を閉じれば、まるで俺が体験したかのように浮かぶ情景。
遠い遠い記憶の彼方
俺(ヨウ)はこの家の前で、こうやって丈(ジョウ)と共に立っていたのではなかろうか。
「俺の部屋……」
そうだ。この屋敷の中にあるはずの俺(ヨウ)の部屋。そこで、ジョウとヨウの間に何かが一つ大きく弾け、二人は一つになったのだ。
「重なる月……」
ふとそんな言葉が口から自然に零れ落ちた。
****
いよいよ『悲しい月』や『月夜の湖』とのリンクが濃厚になってきました!
※「悲しい月」春の虹 ~俺の部屋・俺の自由~
※「悲しい月」春の虹 ~重なる月・2~
を読んでいただけると、お話がスムーズ化と思います。
10
お気に入りに追加
445
あなたにおすすめの小説
【完結】双子の伯爵令嬢とその許婚たちの物語
ひかり芽衣
恋愛
伯爵令嬢のリリカとキャサリンは二卵性双生児。生まれつき病弱でどんどん母似の美女へ成長するキャサリンを母は溺愛し、そんな母に父は何も言えない……。そんな家庭で育った父似のリリカは、とにかく自分に自信がない。幼い頃からの許婚である伯爵家長男ウィリアムが心の支えだ。しかしある日、ウィリアムに許婚の話をなかったことにして欲しいと言われ……
リリカとキャサリン、ウィリアム、キャサリンの許婚である公爵家次男のスターリン……彼らの物語を一緒に見守って下さると嬉しいです。
⭐︎2023.4.24完結⭐︎
※2024.2.8~追加・修正作業のため、2話以降を一旦非公開にしていました。
→2024.3.4再投稿。大幅に追加&修正をしたので、もしよければ読んでみて下さい(^^)


そんなの真実じゃない
イヌノカニ
BL
引きこもって四年、生きていてもしょうがないと感じた主人公は身の周りの整理し始める。自分の部屋に溢れる幼馴染との思い出を見て、どんなパソコンやスマホよりも自分の事を知っているのは幼馴染だと気付く。どうにかして彼から自分に関する記憶を消したいと思った主人公は偶然見た広告の人を意のままに操れるというお香を手に幼馴染に会いに行くが———?
彼は本当に俺の知っている彼なのだろうか。
==============
人の証言と記憶の曖昧さをテーマに書いたので、ハッキリとせずに終わります。

代わりでいいから
氷魚彰人
BL
親に裏切られ、一人で生きていこうと決めた青年『護』の隣に引っ越してきたのは強面のおっさん『岩間』だった。
不定期に岩間に晩御飯を誘われるようになり、何時からかそれが護の楽しみとなっていくが……。
ハピエンですがちょっと暗い内容ですので、苦手な方、コメディ系の明るいお話しをお求めの方はお気を付け下さいませ。
他サイトに投稿した「隣のお節介」をタイトルを変え、手直ししたものになります。
六日の菖蒲
あこ
BL
突然一方的に別れを告げられた紫はその後、理由を目の当たりにする。
落ち込んで行く紫を見ていた萌葱は、図らずも自分と向き合う事になった。
▷ 王道?全寮制学園ものっぽい学園が舞台です。
▷ 同室の紫と萌葱を中心にその脇でアンチ王道な展開ですが、アンチの影は薄め(のはず)
▷ 身代わりにされてた受けが幸せになるまで、が目標。
▷ 見た目不良な萌葱は不良ではありません。見た目だけ。そして世話焼き(紫限定)です。
▷ 紫はのほほん健気な普通顔です。でも雰囲気補正でちょっと可愛く見えます。
▷ 章や作品タイトルの頭に『★』があるものは、個人サイトでリクエストしていただいたものです。こちらではいただいたリクエスト内容やお礼などの後書きを省略させていただいています。
消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

愛する貴方の心から消えた私は…
矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。
周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。
…彼は絶対に生きている。
そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。
だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。
「すまない、君を愛せない」
そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。
*設定はゆるいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる