上 下
68 / 131

第66話 〜案外気の合う二人〜

しおりを挟む
 それからあの人とサキちゃんは家に来んくなった。んで水嶋家でも家で起こった出来事を考慮してサキちゃんとルミちゃんの部屋が入れ替わっとった。つまりベランダ沿いの部屋はルミちゃんが使うようになり、俺としては水嶋家の配慮には感謝の言葉しかない。
 数日後、片平さんが再び家にやって来た。何でもあの人に契約を打ち切られたらしく、ここに居る理由が無くなったんで帰る事にすると仰った。

 「その前に君の顔を見ておこうと思って」

 「恋人と別れを惜しむ様な顔で言いおってからに」

 何でそうなんねん?俺は隣に来たコダマの頭を叩く。

 「ある意味そういうところはあるかもね、投手としては惚れ込んでた訳だから」

 片平さん、そういうんは否定してください。ってかあなた何気にコダマと気が合う様ですね?コダマはちょっとでも気に入らん相手やと自分からは寄りつかん、そう言や今回の再会であの人とほとんど絡んどらんな。

 「しかし逆に良かったのではないのか?ピーターパンもあそこまでいくと手に負えん」

 「仕事柄そういうクライアントは多いよ、俺としても彼らと接すると時々ハッとさせられる」

 「そなたもピーターパンの様だな」

 片平さんは普段からと違うやろ。

 「それは否定出来ないね、君も純粋に見えるけど」

 「私の場合中二病だ」

 それもっと重症のやつや、自信満々で言うな。

 「それに実家も金持ちでな、だからこの年でも働かずのうのうと生きておられるのだ」

 お前急に物凄い発言しおったな、片平さん苦笑い浮かべとるやないか。

 「そう。君の呟きは時々拝見してるよ、人を集める事がしたくなったら連絡くれると嬉しいな」

 片平さんはコダマに名刺を差し出した。

 「三十年後くらいに連絡してやる、潰れるでないぞ」

 コダマはニヤリと笑うて名刺を受け取っとった。

 「そろそろ行くよ、たまには連絡してね」

 片平さんは最後まで格好良いまんま信州に帰っていった。


 それから一時間ほど経ってからおかんがいつもの様に買い物をして帰宅してきた。

 「今日は鍋すんで、夜から冷えるらしいからな」

 と突き出されたのは売り物とは思えんクソでかい白菜。ちょっと土も付いとるいう事は……。

 「帰りしなまなみちゃんに会うてん、コレ大量消費すんで」

 ってかむしろそっちやろ、俺は重量感半端ない白菜を抱えてキッチンに入る。ん~何鍋にしよ?

 「うむ、美味そうであるな」

 コダマは嬉しそうに一枚めくってバリバリと食い始める。この男料理が一切出来んからちょいちょいこういう事をするのだが、ウサギやないねんから最低限水洗いはしよか。

 「せめて土は落とせて」

 「ん?さすがその日に収穫しただけあって美味いぞ」

 せやから会話せぇよお前。
しおりを挟む

処理中です...