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第65話 〜やっと戻った静寂やけど〜

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 「「「「……」」」」

 二人組の退出にほぅと息を吐くおかん。

 「片平さん、お恥ずかしいとこお見せしました」

 あ~俺が引き留めるような事言うたからや……。

 「いえ、僕も少々図々しかったですね。何と言うか桐山さんの言いなりになりたくなかったんです」

 「恐らくそれが良かったのであろう、でなければもっと長引いておった」

 「きっとせや、陣ちゃんてっぺにはある程度の気ぃ遣いよるから」

 他の人間には皆無やけどな、おかんはそう言うて再び大きく息を吐いた。それやったら人の部屋勝手に入るん止めてほしかったわ。

 「うむ、もし片平殿がここを出らおられたらてっぺに根掘り葉掘り聞いて無駄な時間が増えておったであろうな。彼はてっペの事になると踏み込み過ぎるところがある、矛盾しておるがそれが桐山陣という男なのだ」

 「何と言いますか……別の方を見ている様でした。少なくとも僕が知ってる桐山さんではありません」

 片平さんはそう言うて座り直し、俺らもそれに倣う感じで元の椅子に座った。

 「今回はクライアントとして桐山さんとお仕事をさせて頂いております。彼と知り合ったのは十年前、山岳救助隊時代なんです。彼は一つ上なんですがキャリアで言えば三年先輩に当たります」

 彼は大学を卒業して消防署に入職し、憧れの山岳救助隊の配属となった。んで当時の指導員があの人やって、新人時代はかなりお世話になったそうや。
 ‎日頃からあらゆる事態を想定しての訓練は行われているのだが、スキー場の多い冬場の活動は特に厳しいものであるらしい。当時一年目やった片平さんは救助チームではなく対策本部との連絡を仲介する役割やって、その時に俺の名前を聞いたらしい。
 ‎その日は二つの遭難事故が発生し、片平さんは俺やない方の担当になり、あの人は俺の方の担当の当たっとった。そういう事情もあって俺の方の詳細は分からんらしいんやけど、それから数日経ってあの人はいきなり退職し、ぷつっと消息を断ってしもた。

 「上司の話によると事前に退職届は出てたらしいんだ、けどあのタイミングだったからひょっとして早過ぎる救助劇と何か関係があるんじゃないか?って憶測も出てたくらいで……真実は桐山さんのみが知るってところなんだけど」

 片平さんは俺に視線だけで何か知ってる?と問いかけてきた(様な気がした)ので首を振ってみせるとそう、とだけ仰った。

 「さっ、考えたところで分からん話はそんくらいにしまひょ。片平さん、お嫌でなければ夕飯一緒にどないです?」

 喜んで。彼の返事におかんは満足して和やかな雰囲気での晩飯になったが、片平さんの話が何故か俺の中で引っ掛かってモヤモヤした気分が付きまとっとった。
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