上 下
119 / 131

第117話 〜『転』は案外すぐに来た〜

しおりを挟む
 「侑斗、ちょっと湿気てもたわ」

 俺は竹とんぼを侑斗に返す。

 「うん……ほなキャッチボールしよ」

 侑斗はすぐ気を取り直して荷物を置いとる場所まで走っていく。舞花さんも小走りで追い掛け、俺は二人の後ろ姿を何となく眺めとった。
 ‎こういうのが家庭を持つ『幸せ』いうやつなんかな?俺は父親いう立場に立ったことは無いけど、子供の頃は兄貴が先頭を走り、俺とおかんが追い掛けて親父はそれを後ろで眺めとるいうんが常やったように思う。
 ‎親父は体がそない丈夫やなかったから、体を動かす遊びはほとんどしてくれた事がない。けどちょっと離れた所で静かに見てくれとるだけで守ってもらえとる安心感があった。
 ‎多分侑斗にとってご主人がそういった存在やったと思う、俺のその役割が出来とるんやろか?彼女との交際は受け入れてくれとるけど、お父ちゃんとしてとなると別の話やと思う。

 「てっぺいちゃーん!ケータイ鳴っとるよー!」

 侑斗は俺のケータイを持ってこっちに持ってきてくれる。にしても誰からや?こんな時に。ちょっとばかし迷惑やなぁと思いつつも、侑斗の気遣いまで無下にする必要はないと思い直して、俺は礼を言ってからそれを受け取った。画面をチェックすると啓さん、正直あんまええ予感がせん。
 ‎仮におかんに何かあったと仮定しても、コダマが知らせてくれる可能性が高いと思う。まぁそれ以前にそれは御免被りたいけど……う~ん出たくない。

 「どないしたん?」

 通話ボタンを押すんをためらう俺を不思議そうに見てくる侑斗。まぁ知らん相手やないし、せっかく持ってきてくれとるからとりあえず出よか。俺は多少嫌々やったけど通話ボタンを押して耳に当てた。

 「……はい」

 『てっぺ、今どこに居んのや?』

 「○○市の県立公園です」

 『何や!?お前そんなトコに居んのか⁉』

 えぇ、竹とんぼ飛ばせる雪の無いエリアまで足伸ばしとります。

 『すぐに出ても二時間弱は掛かるなぁ……』

 何や?また何ぞやらかしたんかいな?俺はあの人の顔が一瞬浮かんで嫌な気分になる。

 『陣が川にはまりおった』

 「そんな事で電話してこんといてください」

 俺はむしゃくしゃしかかった気持ちを啓さんにぶつけてしまう。けどそれで話は終わらんかった。
しおりを挟む

処理中です...