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第118話 〜啓輔の奔走〜

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 『陣が川にはまっとったらしゅうて入院したって』

 剛太からそう連絡を受けた俺はまず病院に向かった。陣が来た最初の頃はアイツの宿屋に入り浸っとったから、実家も無い事やし取り敢えずの緊急連絡先になっとったらしい。
 ‎それにしたって今二月やぞ、そんな所であの男一体何さらしとったんや?川いうくらいやから多分あっこやろ、遼生が流されたあの川原らへんやと思う。

 「おい、アイツちょっとヤバイらしいぞ」

 病院に着いたら剛太がケータイ持って入り口前に立っとった。んで開口一番に吐いたセリフがこれや、つまりはご家族の連絡先知らんか?いう事やろな。

 「『ご家族の方の連絡先分かります?』言われてしもうたけど……」

 案の定や、アイツ昔っから細かったけど何とのうやつれとる感じやったからな。

 「お前が知らんもん俺が知っとる訳ないやろ」

 「せやんな……俺|池上(いけがみ)さんとこ行ってくるわ、丨健(けん)さんとこの連絡先聞いてくる」

 健さんいうんは陣の姉さんである丨優莉(ゆうり)さんの旦那であり幼馴染でもあるから、多分ご実家に行けば連絡先も分かるやろ。けどあの夫婦今は九州の離島に住んどるはずや、“ちょっとそこまで”いうような距離やないから早うても明後日くらいにならんと着かん思うけど。
 ‎ご両親は……海外に移住しとるって風の便りでしか聞いてない、正直何で海外なんかも分からん。あそこのおっちゃんも陣とよう似た性格しとって、底辺の凡人である俺らには全く理解出来ん人種の人やったからな。

 「すみません!ご家族の方とご連絡……あれ?松中さんは?」

 とワタワタした感じで、陣のケータイ持って走ってきた看護師さんが俺を見て変な顔してくる。この片田舎の不動産屋の俺は、地主家系なだけあって顔は知られとるし、彼女たま~に祖母ちゃんのデイケアで顔合わすけどな。

 「瀬戸さん、松中さんは?」

 「さっき患者の姉さんと連絡取れそうな所の家行きました。生憎手元に連絡先が無かったんで」

 「そうですか……あの、“弟さん”の連絡先、分かりますか?」

 「はぁ?」

 まぁこの看護師さんに対して返す返事ちがうけど……アイツは末っ子や、弟なんか居る訳ない。いや何言うてんの?としか思えんかった俺に手に持っとるガラケーの画面を見せてきた。

 「この方です、“家族カテゴリ”に入ってますけど……」

 「……」

 俺はそれを見てちょっと呆れてしもた。コイツ一体何考えとんねん?と……せやったら何であん時わざわざ連絡取れんよう細工したんや?それで『俺は兄貴やぞ』ヅラされてもなぁ。
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