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第116話 〜『転』は案外すぐに来る〜

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 そんなこんなで俺にとって舞花さんは『おともだち』から『こいびと』に変わり、その事はすぐ侑斗にも報告した。
 ‎侑斗はすんなりと受け入れてくれ、むしろもっとデートとかしてきぃと嬉しそうに言うてくるようになった。俺としては先の事も考えとるからおかん……とコダマにも一応伝えておいた。
 ‎おかんにはやっとかいなと呆れられ、コダマにはスケベな顔をしておると茶化された。お見合い写真を勝手に持ち込まれたりしとった河合家にもその旨を伝えると、皆好意的な反応でひとまずはホッとする。

 「この際堂々と付き合いんか」

 陽ちゃんにはそう言われたけど、いきなり外でイチャコラするんも……なんで表向きはこれまでとあんま変えてない。


 「週末珍しく連休が取れたの」

 彼女のこの一言で、土曜日は朝から侑斗も入れた三人で県立公園に足を伸ばしていた。侑斗は高木先生に貰った竹とんぼを嬉しそうに飛ばしとる。俺はその姿を何となく自分自身と重ね合わせてしまい、兄貴の事をふと思い出した。
 ‎もしあの時竹とんぼに興味を示さんかったら……とか今更どないしようもないifが頭をよぎる。何もこんな時にとも思うんやけど、もうじき兄貴の二十五周忌やから無意識におセンチな気持ちを引き出してしもとるんかも知れん。

 「どないしたん?難しい顔して」

 舞花さんは俺を見上げて声を掛けてきてくれた。それで我に返り、何でもないとごまかすんも変やと思うたから兄貴の事を思い出しとったと正直に話した。
 ‎二十五年前の水難事故の話は彼女にも大まかにはしてある。侑斗には話してないけど、この前コダマと一緒に兄貴の部屋で過ごしたらしい。

 「そっか……お兄様ちょっと思い出して欲しかったんちがう?」

 「そうなんかな?」

 気のせいであってほしいと思うけど、ごくたまに『こんなに早う死にとうなかった』って思われとるんちゃうか?と考えてしまう時がある。そう勝手に被害妄想しとるだけやと思うし、その手の事は夢の中でさえも言われた事無いけども。

 「あーっ!」

 侑斗の叫び声で俺らの会話は中断される。

 「どないしたん侑斗?」

 侑斗は人口の小川の方を見て寂しそうな表情を浮かべとる。

 「竹とんぼはまってもうた……」

 「えっ?どこ?」

 俺らは侑斗の視線を追うように小川を注視すると、竹とんぼが川の上にぷかぷか浮いて流されとった。

 「そこで待っとって!取ってくる……」

 「俺が行くわ、侑斗の側におったって」

 俺は彼女を引き留めて小川まで走る。流れはそこそこ早いけど大人が歩く程度やから、すぐに追い付き竹とんぼをすくい上げた。ズボンのポケットに入れとるハンカチで水気を拭き取り、それを侑斗に掲げてみせた。
 竹とんぼはちょっとだけ水気を含んで重うなっとる、乾けば大丈夫やろけどね今日はもう飛ばすん無理やろな。
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