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第115話 〜舞花の幸福〜

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 それからしばらくして妙子さんが迎えに来はって、侑斗は有岡家でお世話になる事になった。代わりに徹平君がここにおってくれて正直ドキドキが止まらんかった。上着を架ける時にポケットの膨らみ方がおかしかったからもしやとは思ったけど、彼は私の健康状態を案じてくれて土曜日は何も無かった。
 ‎日曜日になって熱も下がり、万全ではなかったけど体調も戻ってきた。外出せずに家で過ごし、消化のええ食べ物を作ってくれた。妙子さんの仰った通り彼結構な料理上手で、とっても優しい味付けで心に沁みる美味しさやった。
 ‎その後はのんびりテレビを見とったんやけど、何となくつまらんくなって録画しとった恋愛ドラマとか映画を片っ端から観賞しとった。こういったジャンルのものって男と女二人きりで観るもんやないわね、お話が佳境になるにつれてこっちの気持ちも引きずられ、いつの間にかテレビなんかそっちのけになっとった。

 彼の体は熱いくらいやった。緊張してはったみたいで最初はちょっとぎこちなかったけど、その体温を感じられてる時間は本当に幸せやった。すっかりあばずれてしまった私の体を、まるで宝物でも扱うかのように大切にしてくれてそれが余計に感度を上げた。
 ‎回数はそこそここなしてきたけど、これまで余り良い記憶がない。夫とも出会い方は客と娼婦やったから、夫婦になってもそれが微妙に抜けんかった。夫はちゃんと愛してくれてた……それは分かるけど、頭の片隅には徹平君の面影がずっと存在しとって心の底からは向き合えてなかったかも知れん。
 ‎彼は私を綺麗やと言うてくれた、蔑視のない優しい視線を向けてくれた。それだけでも泣きそうなくらいに嬉しかった。彼がご近所でモテてはるんは噂話程度では聞いてたから、今ここで全てを独占出来てることにちょっとした優越感もある。
 ‎それだけにこの幸せがいつするんと抜け落ちてしまうんか……という怖い気持ちも同時に湧き上がっていた。今ここで彼に愛されてるという証をこの体に刻みつけておきたかった。私の思考は全て徹平君で埋め尽くされ、これまで一瞬でも忘れた事のなかった侑斗の事でさえ打ち消されてしまうほどに夢中になっとった。
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