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幸せへの導き

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 睦月から、はっきり言われたではないにしろ、はっきり言われるよりわかりやすい「つまらない」評価を受けてしまい、正直落ち込んだ。
 はじめて睦月以外の人から嬉しい評価をされたから、もっと嬉しい評価をされたいって思ったのがいけなかったのかもしれない。もっと、睦月の好みに副った話作りにするべきであったかもしれないのだ。
 だが、そう告げると睦月は「ダメです!」とどうしてか紬の考えを窘めた。
「紬さんの描きたい世界を、私の世界観に狭めないでください」
 そう言って握られたのは手なのに、何故かじんわりとしたのは胸の奥で、睦月に気に入られなかったのは残念だが、アップしたことに後悔もしなかった。
(今回はいいねもコメントももらえないかもしれないなぁ。いや、下手をすると今度こそ苦情が来るかもしれない。前回コメントくれた人から『がっかりしました』とか言われてしまうのでは?)
 一度悪い方向へ考えると、どんどんと膨らんでいってしまうのが紬自身も自覚している悪い癖だ。
 悪い癖だが、これは己の心を護る方法でもある。
 過去、幾度となく否定され続けて育った。その上、自信作であった作品も落選続きで、何度も立ち上がろうとしていた植物の芽のような心は、天気の良い日が続けば「いつまでもこんな天気は続かないさ」と思うことで、後に来る悪天候に備える、そういう気持ちになっていた。
 そういう気持ちになっているだけで、其処に対しての対策や、その後の打開策を講じているわけではないのが問題ではあった。
 それでも紬の心は守られていたのだ。
 そうして、これからも。
 睦月はそんな紬の考えを知ると、握っていた手に念を込めるようにして言った。
「そうですよ。いつも同じ天気なんて続きません。でも、だからこそ、世界は生きていくことが出来ます。紬さんの作品が色々な評価をされるのは、これから長く小説家として生きていくうえで、必要なことなんだと思います」
 睦月の慰め方は上手かった。
 紬が落ち込む材料にしていた考えを力強さに変えてしまうのだ。
(勝てないなぁ)
 紬が降参したように力ない笑みを浮かべた。
 勝てないのなら、とことん睦月の前向きな考えに倣おう、と思ったのだ。
 それが、この先の紬と睦月が幸せな未来へ進む、大事な思考の第一歩であることを今は知る由もなかった。

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