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睦月、気になった
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睦月の生活は、この家に居候してから大きく変わった。
電子機器も扱えるようになり、調理も出来るようになった。一番大きいのは、家に自分一人じゃない時間が増えてきた、ということだ。
前の夫・宏は仕事に忙しい人だった。
紬もバイトとはいえ外で仕事をしているが、遅くとも夕食前には帰ってくるので、一人ぼっちで食事ということがなくなったのだ。
結婚を保留にしよう、と言われてから三カ月ほど経ち、外の景色も、桜が花を芽吹かせている光景へと変わっていた。
三カ月ほど、睦月はこの家に居候をさせてもらっている。
(結局結婚はどうするのだろう)
と思わなくもないが、紬が家に置いてくれることを許してくれるのなら、このままでも良いのだろうか、と気になっていた。
それも気になるが、それより気になっている問題も、宙ぶらりん状態で睦月の前に垂れ下がっていた。
睦月の生活は大きく変わったが、紬の生活は、睦月がここに来てから特別変わった気がしないのだ。
バイト先も、バイトのシフトも特に変わらない。休みも勤務日も変わらない。
強いて言うのなら、投稿サイトにアップする用と、それとは別に今まで通り賞に応募する用で、圧倒的に書く量が増えた。
あとは、投稿サイトで得られる反応が増えてきたことだ。
睦月があまり面白くないかもしれないと感じた作品も、予想通り気に入ってくれる人はいた。
作品によっていいねや感想をくれる人もいれば、紬の作品自体を好きになってくれて、紬の書く作品ならすべて好き、という人もいた。
あの場で足踏みしなかったことで得られた成果は確かにあった。
それゆえか、一つ大きく変わったことと言えば、紬は変わらず落選しても反応がなくても前のように落ちこむ姿を見せなくなったことだ。
紬の心の内側までは見れないから、無理をして明るく振舞っているだけかもしれないが、自身で書いた作品を否定しなくなったのは、睦月から見れば大きな変化であった。
それでも、それ以外紬の生活に大きな変化は見られない。
今まで睦月が住まわせていただいた人たちの生活は、大きく富んでいた。暮らしが貧しくて食べるものを工面していた人たちも、一、二カ月もすれば次の日の食事を心配することがないほど生活が潤っていたのだ。
(これも、私が人の目に見えるほど力を失くしてしまったから?)
人を幸せにする力が無くなってしまった座敷わらしに、存在する意味はあるのだろうか。
不安が募っていくが、結局のところ、力がないのなら、睦月自身で出来ることをして、紬の生活を支えていこう、と決意した。
「絶対に絶対に、紬さんを幸せにするんだから!」
それは、座敷わらしとしての意地などではなく、純粋に、紬に恩返しをしたいという感謝の気持ちであった。
そしてもう一つ。
「……力を失くしても、私は座敷わらし。使命を果たすために、絶対に紬さんにも幸せになってもらわなくちゃ」
睦月はそう独り言ちる。そして両手で拳を作り、それを天井に向かって突き上げた。
「頑張るぞ~~!」
電子機器も扱えるようになり、調理も出来るようになった。一番大きいのは、家に自分一人じゃない時間が増えてきた、ということだ。
前の夫・宏は仕事に忙しい人だった。
紬もバイトとはいえ外で仕事をしているが、遅くとも夕食前には帰ってくるので、一人ぼっちで食事ということがなくなったのだ。
結婚を保留にしよう、と言われてから三カ月ほど経ち、外の景色も、桜が花を芽吹かせている光景へと変わっていた。
三カ月ほど、睦月はこの家に居候をさせてもらっている。
(結局結婚はどうするのだろう)
と思わなくもないが、紬が家に置いてくれることを許してくれるのなら、このままでも良いのだろうか、と気になっていた。
それも気になるが、それより気になっている問題も、宙ぶらりん状態で睦月の前に垂れ下がっていた。
睦月の生活は大きく変わったが、紬の生活は、睦月がここに来てから特別変わった気がしないのだ。
バイト先も、バイトのシフトも特に変わらない。休みも勤務日も変わらない。
強いて言うのなら、投稿サイトにアップする用と、それとは別に今まで通り賞に応募する用で、圧倒的に書く量が増えた。
あとは、投稿サイトで得られる反応が増えてきたことだ。
睦月があまり面白くないかもしれないと感じた作品も、予想通り気に入ってくれる人はいた。
作品によっていいねや感想をくれる人もいれば、紬の作品自体を好きになってくれて、紬の書く作品ならすべて好き、という人もいた。
あの場で足踏みしなかったことで得られた成果は確かにあった。
それゆえか、一つ大きく変わったことと言えば、紬は変わらず落選しても反応がなくても前のように落ちこむ姿を見せなくなったことだ。
紬の心の内側までは見れないから、無理をして明るく振舞っているだけかもしれないが、自身で書いた作品を否定しなくなったのは、睦月から見れば大きな変化であった。
それでも、それ以外紬の生活に大きな変化は見られない。
今まで睦月が住まわせていただいた人たちの生活は、大きく富んでいた。暮らしが貧しくて食べるものを工面していた人たちも、一、二カ月もすれば次の日の食事を心配することがないほど生活が潤っていたのだ。
(これも、私が人の目に見えるほど力を失くしてしまったから?)
人を幸せにする力が無くなってしまった座敷わらしに、存在する意味はあるのだろうか。
不安が募っていくが、結局のところ、力がないのなら、睦月自身で出来ることをして、紬の生活を支えていこう、と決意した。
「絶対に絶対に、紬さんを幸せにするんだから!」
それは、座敷わらしとしての意地などではなく、純粋に、紬に恩返しをしたいという感謝の気持ちであった。
そしてもう一つ。
「……力を失くしても、私は座敷わらし。使命を果たすために、絶対に紬さんにも幸せになってもらわなくちゃ」
睦月はそう独り言ちる。そして両手で拳を作り、それを天井に向かって突き上げた。
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