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第十一章 成田国際空港 北ウイング
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「それで……。実はひとつお願いがあるんです」
私はそう言うと一呼吸置いた。そして「ちょうど弥生さんもいるので良かったです」と続けた。本当は出雲社長に話してからにしようと思ったけれど、まぁ本人を前に話しても問題はないだろう。
「何? やっぱり給料上げて欲しい?」
「いえ、そうではないです。さっきも言いましたがお金に不満はないんです。……今回相談したいのは私の演じる役のことで」
「役?」
「はい、そうです。ご存じとは思いますが私が演じている魔法少女はヒーラーって役柄なんですよね。つまり仲間を回復する魔法少女です」
私はそこまで話すと一旦間を置いた。そして一呼吸置いてから続ける。
「それでなんですが……。これから先弥生さんが抜けたとすれば私の役ってかなり浮いちゃうと思うんですよね。今までは美鈴さんの殺陣と弥生さんのガンアクションの間を埋めるのが私の役割だったので……。あとは香澄さんのこともありますね。あの子もアタッカー寄りなので今のままだときっと私だけ後衛で突っ立てるだけになると思うんです」
私がそこまで言うと出雲社長は「……そう」とポツリと返した。そして「それで? あなたはそれに対してどうしたいの?」と続ける。
「はい、それでここからが私が社長と……。弥生さんにお願いしたいことなんですが……。もし可能なら私に弥生さんの役割を任せて貰えないでしょうか? もし許して貰えるなら美鈴さんと香澄さん、あとは逢川さんと諏訪さんにもこのことは相談しますので」
私はそこまで話すと口の中だけでため息を吐いた。そしてお伺いを立てるように出雲社長の顔を覗き込む。
「そうね……。まぁあなたがそう思うのも分からなくもないわ。確かに今までの興行は弥生ちゃんの役ありきだったからね。……もっとハッキリ言えばこの子なしでやるなら意味がないくらいだと思うわ。仕方ないよね。だってこの子がいなかったら完全に素人がやる個人向け興行だもの」
「ええ、本当にそうだと思います。確かに美鈴さんはかなり演技が上手いとは思います。でも……。正直に言えば弥生さん以外の三人は私も含めてちょっとダンスができるだけの素人なんですよね。なので……。おそらくこのまま弥生さんが抜けての興行は長続きしないと思うんです」
そこまで話して私は『私は何を偉そうなことを言ってるんだ?』と思った。でもここで話を途切れさせるわけにはいかないのだ。全ては目標の百万円のため。本気でそう思う。
「こう言ってはなんですが……。おそらく私がバッファーになった方がまだ魔法少女の興行は続けられると思うんです。それで募集で新しい人が入ったらその子にヒーラーを任せる……。それが最善だと思います」
「……言いたいことは分かった。でもあなたにこの子の代わりが務まるの? 私の見立てだとあなただって十二分に素人よ? この子と比べたら……。正直かなり酷いと思うけど」
私が生意気な言い方をしたせいか出雲社長は今までとは打って変わって厳しい口調でそう言った。まぁ当然だろう。彼女だって慈善事業で興行しているわけではないのだ。会社にとって不利益ならやらない。そんなのは当たり前のことだと思う。
「それは否定できませんね。確かに今の私は素人に毛が生えた程度です。多少台詞を貰っただけの……。その程度のプライベートアクターでしかないです。それでも……。私は弥生さんの抜けた分を埋めたいんです。もしそれで結果が出なければ……。私のことはクビにしてください」
私はそう啖呵を切ると隣に座る弥生さんに視線を向けた。視線の先の弥生さんは不思議なくらい穏やかな顔で笑っていた。
私はそう言うと一呼吸置いた。そして「ちょうど弥生さんもいるので良かったです」と続けた。本当は出雲社長に話してからにしようと思ったけれど、まぁ本人を前に話しても問題はないだろう。
「何? やっぱり給料上げて欲しい?」
「いえ、そうではないです。さっきも言いましたがお金に不満はないんです。……今回相談したいのは私の演じる役のことで」
「役?」
「はい、そうです。ご存じとは思いますが私が演じている魔法少女はヒーラーって役柄なんですよね。つまり仲間を回復する魔法少女です」
私はそこまで話すと一旦間を置いた。そして一呼吸置いてから続ける。
「それでなんですが……。これから先弥生さんが抜けたとすれば私の役ってかなり浮いちゃうと思うんですよね。今までは美鈴さんの殺陣と弥生さんのガンアクションの間を埋めるのが私の役割だったので……。あとは香澄さんのこともありますね。あの子もアタッカー寄りなので今のままだときっと私だけ後衛で突っ立てるだけになると思うんです」
私がそこまで言うと出雲社長は「……そう」とポツリと返した。そして「それで? あなたはそれに対してどうしたいの?」と続ける。
「はい、それでここからが私が社長と……。弥生さんにお願いしたいことなんですが……。もし可能なら私に弥生さんの役割を任せて貰えないでしょうか? もし許して貰えるなら美鈴さんと香澄さん、あとは逢川さんと諏訪さんにもこのことは相談しますので」
私はそこまで話すと口の中だけでため息を吐いた。そしてお伺いを立てるように出雲社長の顔を覗き込む。
「そうね……。まぁあなたがそう思うのも分からなくもないわ。確かに今までの興行は弥生ちゃんの役ありきだったからね。……もっとハッキリ言えばこの子なしでやるなら意味がないくらいだと思うわ。仕方ないよね。だってこの子がいなかったら完全に素人がやる個人向け興行だもの」
「ええ、本当にそうだと思います。確かに美鈴さんはかなり演技が上手いとは思います。でも……。正直に言えば弥生さん以外の三人は私も含めてちょっとダンスができるだけの素人なんですよね。なので……。おそらくこのまま弥生さんが抜けての興行は長続きしないと思うんです」
そこまで話して私は『私は何を偉そうなことを言ってるんだ?』と思った。でもここで話を途切れさせるわけにはいかないのだ。全ては目標の百万円のため。本気でそう思う。
「こう言ってはなんですが……。おそらく私がバッファーになった方がまだ魔法少女の興行は続けられると思うんです。それで募集で新しい人が入ったらその子にヒーラーを任せる……。それが最善だと思います」
「……言いたいことは分かった。でもあなたにこの子の代わりが務まるの? 私の見立てだとあなただって十二分に素人よ? この子と比べたら……。正直かなり酷いと思うけど」
私が生意気な言い方をしたせいか出雲社長は今までとは打って変わって厳しい口調でそう言った。まぁ当然だろう。彼女だって慈善事業で興行しているわけではないのだ。会社にとって不利益ならやらない。そんなのは当たり前のことだと思う。
「それは否定できませんね。確かに今の私は素人に毛が生えた程度です。多少台詞を貰っただけの……。その程度のプライベートアクターでしかないです。それでも……。私は弥生さんの抜けた分を埋めたいんです。もしそれで結果が出なければ……。私のことはクビにしてください」
私はそう啖呵を切ると隣に座る弥生さんに視線を向けた。視線の先の弥生さんは不思議なくらい穏やかな顔で笑っていた。
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