月不知のセレネー

海獺屋ぼの

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第四章 月の墓標

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 半透明なクリアファイルから中の写真が透けて見えた。ぼやけているけれど前回見せて貰った写真で間違いないと思う。
「んで? まずはどっちから話す? 西浦有栖の件か? それともこっち?」
 惣介はそう言うと前のめりにソファーに座って両手を前で組んだ。
「そうね。まずは西浦さんの件から」
 私はそう前置きしてから西浦さんのニンヒア離反の件を順序立てて彼に説明した。話している最中、惣介は相づちも打たずに黙って私の話を訊き続ける。
 そんな私たちの様子を京介は何も言わずに黙って聞いていた。完全な部外者モード。おそらく口出しするのは野暮だと思っているのだと思う。
「――って感じ。だからあんたんとこのフリーの記者はガセ掴まされたみたいよ?」
 私は半分嘲笑も含めて惣介にそう伝えた。そして『ご愁傷様。御社のスクープはお亡くなりになりました。次の取材にご期待ください』と私はあえてそんな皮肉めいた言い方で続けた。これはこの前アポなしでニンヒアに来た惣介への当てつけだ。これぐらいの嫌味を言ったって罰は当たらないだろう。
「そうか……。まぁいいよ」
 惣介は私の侮蔑的な言葉など意に介さないみたいに言うと「ふぅー」とため息を吐いた。そしてゆっくりと目尻を押さえる。
「あら? いいの?」
「ああ。……つーか、そんな気はしたんだ。西浦有栖と話した後に他の筋からたれ込みあってな。ま、とにかくこれで裏取りできたよ。さんきゅ」
 惣介はそう言うと天を仰ぐみたいに天井を見上げた。上にはシーリングライトしかないのに惣介はやたらまぶしそうに目を細める。
「それよりだ。こっちの方が問題だろ? 春川、お前が俺のこと呼んだ本命は西浦有栖の件じゃねーだろうし」
 惣介は何もかも分かってるみたいに言うとクリアファイルに手を伸ばした。そして中身をテーブル上に広げる。
「そうね。こっちが本命」
 私はそう言ってその広げられた写真を一枚手に取った――。
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