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19話 ルティロン視点

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 彼女は、俺を好きになってくれていた。けどどうやらそれに本人は気づいていないらしい。俺を好きだと知ったからにはもう、手放す気はないよ。

 侯爵令息の俺は、ケイハース皇国でそれなりにモテた。と言っても顔が特段良いからでなく、どちらかと言うと女顔で、女装してもバレなかったくらいだ。
 ケイハース皇国でのモテ顔は、凛々しい顔つきだからな。
 なので近づいてくるのは、俺が侯爵家の息子だから。
 それは仕方がないと思っていた。

 そう思っていたんだ。だがそれ以外の俺に対峙してくれる君が現れた。
 男なら痣を作ってもいいよねと、侯爵家の息子だというのは彼女には関係ない様で、本当にボコボコにされた。

 初めは、侯爵家の息子でも容赦ないなんて! と思ったけど、それって自分でも侯爵家なんだから特別扱いが普通だと思い込んでいた事に気づかされる。
 ロデでいる時の彼女は生き生きとしていて、女性なのに貴族なのに騎士としての生活を楽しんでいた。
 それは、自分自身で手に入れたポジションだ。

 俺は、親の権力に噛り付いているだけだった。
 作戦の為に二人で出かけた日々は、楽しかった。初めて知る事も多く、彼女の強さと優しさに触れて、気づけばいつも目で追っていたんだ。

 そして気が付いてしまった。このままだと俺は、作戦が終了と同時に彼女とは別れる事になると。
 ハルサッグ伯爵は、俺とメロディーナ嬢を結婚させたいわけではない。最悪の事態を回避したいだけだ。
 だから無事に作戦が終了すれば、向こうから婚約破棄を言い出すつもりなのだと。

 守り方は特殊だけど、愛娘なのには変わりない。ハルサッグ伯爵なりの守り方をしているんだ。
 彼女は、騎士としての生活を謳歌している。それを奪いたくない。俺はそう思った。そして、同じことをハルサッグ伯爵も思っているんだ。
 つまり、ロデもメロディーナ嬢の一部だと受け入れ、支えになってくれる人物でないとダメなんだと。
 そう彼女より強くなる必要はない。

 俺が彼女と結婚する為には、ハルサッグ伯爵に認めてもらわなくてはいけない。
 作戦終了までの短い間で、彼女を強さ以外で守れると誠意を見せる事しか思いつかない。いやそれしか方法はなかった。時間がない。

 そう思った俺は、ハルサッグ伯爵、いや副隊長に直談判をした。
 自身を守れるように。作戦時に彼女に守ってもらわなくてもいいよに。頭を下げた。

 「ふははは。嫁に欲しくなったか?」
 
 ば、バレてる。

 「はい……」
 「ふむ。いいだろう。お前が自分自身を守れるならメロディーナが、怪我を負う確率がぐ~んと減るからな」

 ですよね。このままだと俺が足を引っ張るよな。
 父上は、完璧な作戦だと思っているようだけど、俺を戦うとなれば、彼女も怪我を負うかもしれない。

 「俺との訓練は、剣を使う。それでもいいか?」

 う……剣を使うのか。怖いが、襲って来る相手は剣を振うのだから、木刀だけでの打ち合いだけではダメだ。

 「はい。宜しくお願いします」

 こうして、俺は副隊長に直に指導を受ける事になった。
 朝は、ロデと手合わせをし、午後からは剣を使った副隊長の指導。
 剣は、当たり前だが木刀より重い。それは、持って重いだけではなく、攻撃を受けた時の衝撃も重かった。

 「まずは、握力をつけたほうがいいな。武器が手元になくなったらお前はその時、死ぬだろう」

 剣を吹き飛ばされて副隊長にそう言われ、あぁ親子だなと思った。
 これは相手の事を思って、思った事を言っている。

 「ルティロン、私は剣では攻撃せずあなたの剣を受け止めるだけだが、剣以外で反撃はする。制限は10分。倒れず防げ。もちろん攻撃は仕掛けて来いよ」
 「はい!」

 って、剣を振り上げた途端、俺は腹を蹴られて思いっきり後ろに吹き飛んだ。

 「げっほ……」

 い、痛くて、動けない。

 「私は、手を抜かない。これが毎回する指導だ。それもいいなら、明日も来い」

 なんか似たようなセリフを聞いたな。あははは。やっぱり親子だ。
 その日は、食事は取れなかった。もちろん、腹は青あざだ。
 ハッキリ言って、投げ出したかった。
 これが妹の為ならきっと、ここまでしていない。

 俺は、彼女ロデとのデートを癒しに頑張った。

 「ほう、やるではないか」

 初めて、副隊長から少しだけ認める言葉を引き出した。
 だがやった事は、蹴って来た足をで受け止めるだ。

 「できれば、そのまま切りつけるまで出来れば上出来だ」
 「え……」
 「木刀なら出来ていただろう? 私を殺す気で来い。傷つける事を恐れていては、相手を切れないぞ」
 「わ、わかりました」

 そうだ。俺が切りつけたところで、かすり傷程度だろう。
 しかも倒す気ではなく殺す気で来いだなんて、そうしないと副隊長には当たらないって事だろうね。
 そう理解できても、無意識に剣で切るのを恐れているのだった。
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