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第74話 海といったら水着だろう!?

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「海じゃ!海海海~♪」

初音はバギーが停車するや、一目散に浜辺を目指して駆け出す。
リュックから解放されたギンレイも、初めて見るであろう海に興奮しているようだ。

「服のまま海に入るんじゃないぞ。
あいつ聞こえてんのかな…」

初音は町を歩く事すら許されなかった程の超箱入り娘。
当然、海になど入った経験はないはず、だからこそテンションを上げ過ぎて溺れたりでもしたら大変だ。

俺も急いで浜辺へと走り寄ろうとしたが、初音は砂煙を巻き上げて戻ってきた。

「あしな!皆が海に入っておる!ワシも、ワシも入りたい入りたい!」

この時代でも海水浴の習慣があるのか。
そんな思いで浜辺へ到着すると、白装束に身を包んだ人達が静かな祈りを捧げているのを目にする。

「……初音さん?」

「いや、よく見るのじゃ楽しそうじゃろ?」

どんな神経してんだ、こいつ。
そこに集まった人は伊勢神宮への参拝前に穢れを祓う為の禊を行っているのだろう。
俺達が神宮での参拝前に五十鈴川で手を洗っていたのと同じだ。

「さっき川遊びを我慢したじゃろ?
こういう時にこそAwazonでな…言いたい事は分かるじゃろ?」

初音さんが良くない知恵をつけ始めている。それは由々しき事態以外の何物でもなく、じきにマリオとかゼルダといったお財布に優しくない単語を口にするのは明白。

だからと言って無下に断れば、鬼のフィジカルをフル活用した初音にスマホを独占されてしまう恐れもある…。
どうするのか?
もう俺に残された選択肢などなかった……。

「…ご希望はこちらのタンキニでよろしいでしょうか…?」

震える手でスマホ画面を提示すると、そこのは白のホルターネックとショートパンツの水着が映し出されている。

「…フム……まぁ、よかろう」

ギリ妥協しましたと言いたげな態度だが、逆らえば砂地を踏まずに直行で海へ放り投げられる可能性が高い。
見ようによってはギリのギリギリ白装束に見えなくもない、と思う…。

Awazonから水着を購入……うわぁ、高っけぇ…。
それを受け取った初音は実に嬉しそうに、近くの空き家へ向かうと着替えを始めた。
俺は背後を向いて誰か通りかかるのではと心配してしまうが、初音は非常にノンビリとして焦った様子も見せない。

しばらくして着替え終わった初音は、水着の御披露目といった感じで姿を見せた。
初めての水着なのに随分と堂々としており、やはり鬼は恥ずかしいという感情がないのではと思わせる。

「どうじゃ!まさに圧巻であろう?」

それが水着に求める感想か?
だが、そんな事を口にできるはずもない。
なぜなら死にたくないからだ。

初音はクルクルと回り全身隈無く見せつけてくるが、俺は全力の『可愛い』と『似合ってる』を連呼してこれ以上の支出を防ぐ。
でなければ、こいつは次に『アクセサリーが欲しい』とか言い出しかねない。

ギンレイが水着姿の初音を誉めちぎるように尻尾を振っている。
お前はなんて賢い犬なんだろうなぁ。

「おぉ、ギンレイも水着のワシを誉めてくれるのか。…口だけのあしなとは違うのう」

…お前はなんて賢い鬼なんだろうなぁ。
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