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第73話 気晴らしを兼ねて
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「容態は安定したみたいですね」
薬を服用してから3日、俺達は森田屋に滞在してお藍さんの状態を注視していたが、心配をよそに容態は急速に快方へと向かい、今日は歩けるまでに良くなっていた。
「あ…り……ぅぐ…ぁぁ……」
妹の回復を祈るお江さんは感謝の言葉を口にするが、感情が昂り過ぎて泣く事しかできないでいる。
お鈴ちゃんは母親の元から離れようとせず、四六時中ずっと抱きついたままだ。
中居さん達からも次々と感謝の言葉を受け取り、それどころか宿泊している旅人達からも医者としての腕前を持ち上げられてしまう。
次第に噂はおはらい町全体にまで広まり、俺を一目見ようと見物客まで宿を訪れる始末。
このままではお藍さんの体調に障る為、急いで初音とギンレイを連れて宿を出た。
「あしなよ、どうするつもりじゃ?
まさか、このまま伊勢の地を離れる訳ではあるまいな?」
正直、それも考えた。
しかし、お藍さんの回復を見届けるまでは滞在するつもりであり、このまま別れを告げずにホームへ戻るつもりもない。
「じゃあ、どうすんだって話なんだよなぁ…はぁ」
町中に顔や服装がバレてしまった為、どこへ行っても人だかりができてしまって気の休まる時間がないのだ。
そんな時、ふとある事に気付く。
「そうだ、近くに神社があるから気晴らしも兼ねて御参りしよう」
「伊勢の神宮かの?構わんがどこに行っても人が集まってくるぞ」
そこじゃないさ。
俺達は人通りの少ない川原沿いから町を離れ、人が居ない所でバギーを呼び出すと久しぶりのドライブを始める。
「どこへ行くんじゃ?神宮は逆方向ぞ」
「いや、神宮とは別。多分、こっちの世界にも存在するはず」
意味が分からないといった感じの初音。
そんな事はお構いなしにバギーは進路を北西(本当は北東だけど異世界だと東西が逆)へ向けて快音を響かせ、五十鈴川沿いの長閑な道を飛ばしていく。
時折すれ違う旅人や田畑の世話をする人達は驚いた表情を浮かべ、指を差したり手を振る仕草で見送ってくれた。
見た事のない乗り物に珍しい洋装、更には犬まで背負っているのだから当然かもしれない。
このバギー、移動は便利なのだが如何《いかん》せん目立ち過ぎるのが難点か。
「でもドライブは楽しいのう。
こう…ビューンと鳥になった気分じゃ」
梅雨入り前の晴れ間は清々しい陽気に恵まれ、絶好のドライブ日和と言えた。
正面から受け止める初夏の風も実に気分が良く、近くを流れる川では子供達が水遊びを楽しむ光景と歓声が聞こえてくる。
「……あしなよ」
「着替えがないからダメです」
振り返らなくても初音の頬が不満を示すように、プクプクと膨らんでいるのが手に取るように分かる。
こいつなら『これだけ暑いなら服などすぐ乾く』とか言って、服のまま川に飛び込んでも不思議ではない。
既に近付きつつある潮風の匂いを嗅ぎとったのか、ギンレイがリュック越しに嬉しそうな遠吠えを挙げると、目の前には広大な伊勢湾が手を広げ、俺達の到着を待ち望んでいるかのような光景が姿を現す。
薬を服用してから3日、俺達は森田屋に滞在してお藍さんの状態を注視していたが、心配をよそに容態は急速に快方へと向かい、今日は歩けるまでに良くなっていた。
「あ…り……ぅぐ…ぁぁ……」
妹の回復を祈るお江さんは感謝の言葉を口にするが、感情が昂り過ぎて泣く事しかできないでいる。
お鈴ちゃんは母親の元から離れようとせず、四六時中ずっと抱きついたままだ。
中居さん達からも次々と感謝の言葉を受け取り、それどころか宿泊している旅人達からも医者としての腕前を持ち上げられてしまう。
次第に噂はおはらい町全体にまで広まり、俺を一目見ようと見物客まで宿を訪れる始末。
このままではお藍さんの体調に障る為、急いで初音とギンレイを連れて宿を出た。
「あしなよ、どうするつもりじゃ?
まさか、このまま伊勢の地を離れる訳ではあるまいな?」
正直、それも考えた。
しかし、お藍さんの回復を見届けるまでは滞在するつもりであり、このまま別れを告げずにホームへ戻るつもりもない。
「じゃあ、どうすんだって話なんだよなぁ…はぁ」
町中に顔や服装がバレてしまった為、どこへ行っても人だかりができてしまって気の休まる時間がないのだ。
そんな時、ふとある事に気付く。
「そうだ、近くに神社があるから気晴らしも兼ねて御参りしよう」
「伊勢の神宮かの?構わんがどこに行っても人が集まってくるぞ」
そこじゃないさ。
俺達は人通りの少ない川原沿いから町を離れ、人が居ない所でバギーを呼び出すと久しぶりのドライブを始める。
「どこへ行くんじゃ?神宮は逆方向ぞ」
「いや、神宮とは別。多分、こっちの世界にも存在するはず」
意味が分からないといった感じの初音。
そんな事はお構いなしにバギーは進路を北西(本当は北東だけど異世界だと東西が逆)へ向けて快音を響かせ、五十鈴川沿いの長閑な道を飛ばしていく。
時折すれ違う旅人や田畑の世話をする人達は驚いた表情を浮かべ、指を差したり手を振る仕草で見送ってくれた。
見た事のない乗り物に珍しい洋装、更には犬まで背負っているのだから当然かもしれない。
このバギー、移動は便利なのだが如何《いかん》せん目立ち過ぎるのが難点か。
「でもドライブは楽しいのう。
こう…ビューンと鳥になった気分じゃ」
梅雨入り前の晴れ間は清々しい陽気に恵まれ、絶好のドライブ日和と言えた。
正面から受け止める初夏の風も実に気分が良く、近くを流れる川では子供達が水遊びを楽しむ光景と歓声が聞こえてくる。
「……あしなよ」
「着替えがないからダメです」
振り返らなくても初音の頬が不満を示すように、プクプクと膨らんでいるのが手に取るように分かる。
こいつなら『これだけ暑いなら服などすぐ乾く』とか言って、服のまま川に飛び込んでも不思議ではない。
既に近付きつつある潮風の匂いを嗅ぎとったのか、ギンレイがリュック越しに嬉しそうな遠吠えを挙げると、目の前には広大な伊勢湾が手を広げ、俺達の到着を待ち望んでいるかのような光景が姿を現す。
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