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第12話 運命の出会い

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 タテガミギンロウは人間である俺が近付いても抵抗したり、逃げ出したりはしなかった。既にそんな体力がない位、弱っていたのかもしれない。
 お陰で噛みつかれる事なく治療できたのだが、どうやら生まれて間もない個体のようだ。

 その証拠にヘソの緒が付いた状態で放置されており、母狼の姿はどこにも見当たらない。
 もし居たらエライ事になるんだけどね。
 緒の処置については迷ったが放置して感染症になると命取りになる為、ここで切ってしまう事に決めた。

 ヘソから1cm程の所をキットに付属していた縫合糸で縛り、そこから更に2cmの所をハサミで切る……これで良いんだよな?
 異世界の本から得た知識なので不安はあるが、出血もないので恐らく大丈夫だろう。
 後は数日乾燥すれば残った緒も糸も自然と体から離れるはずだ。

 傷の手当てと緒の除去。
 慣れない作業でどっと疲れが出たのか、俺は裂け目の岩肌に身を寄せると、そのまま深い眠りに落ちてしまった。


  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 耳元には川のせせらぎと鳥達の囀り、まぶしい朝の光が顔を照らし目を覚ます。
 あれから母狼に出くわさなかったのは本当に幸運だった。
 キャンプ場のように安全が確保されている訳ではない以上、一つの油断が命を脅かす恐れもあるのだ。

 起きて早々だがここを離れよう。
 そう思い腰を上げると背後から悲痛な鳴き声が。
 どうやらまだ自力で餌や水を飲みに行ける状態ではないらしい。
 当然と言えるのだが、どうする…?

「…喉乾いたなぁ、水でも飲みに行くか。
 …そのだからな?」

 誰に対しての言い訳なのか自分でも分からない。
 河原に降りていくと鹿や鳥も水を求めて集まっていた。
 彼らと一定の距離を保ちつつ、透き通る水で手や顔を洗い喉の乾きを癒す。
 ふとAwazonを見ると今日のログインボーナス300ポイントを加えて合計800…もう1ポイントも無駄にはできない。

 ウグイストリイチゴを頬張りながら僅かな糧で空腹を癒し、先日採取したミツミシソとキノモトワラビを水で満たした缶詰に入れて火を起こす。
 やはりファイヤースターターがあると格段に楽だ。
 火と水が身近にあるだけで生活レベルがまるで違う。
 煮立てたシソはハーブにも似た爽やかな香りがして味も悪くないが、どうにも腹持ちが悪い。
 ワラビの方は煮ると茎が柔らかい食感に変わり、独特の粘りと苦味が食卓の良いアクセントになりそうだ。

 一頻り食事を済ませた後、空の缶詰に水を汲み入れると狼の元へ行き、顔の前に置いて少し離れる。
 しばらく遠巻きから見ていたが鼻を動かすだけで飲もうとしない。いや、できないのか。
 仕方なく缶を口元に持っていき、僅かに傾けてやると舌を伸ばして飲み始めた。

 駄目だ、このままだと…。
 俺が恐れているのは噛みつかれる事ではなく、情が移ってしまう事だ。
 今すぐ缶を放り出して離れてしまおうと何度も考える。
 しかし、懸命に生きようとする幼い狼に今の自分を重ねてしまうと見捨てられず、その度に意思を砕かれてしまう。

 何故、俺は自分よりも他者を優先しているのか、何度も何度も河原を行き来して水を汲んでいるのか。
 説明がつかない、今の俺にも、今までの俺にも……。

 どれだけの時間が過ぎただろうか、狼は驚く程の水を飲むとそのまま眠ってしまった。
 俺も同じく抵抗し難い睡魔に襲われ、そのまま隣で崩れるように眠りについた。
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