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第11話 苦渋の決断

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「やべぇよ……やべぇよ……」

 異世界ソロキャンが始まったかと思ったら終わりそうだった件。
 そんな聞いた事がありそうなタイトルが頭を過っていたが、今の俺には物語を考える余裕などない。

 あれから河原を一通り歩いて探索していると、少し小高い所に大きな岩の裂け目を見つけた。
 あそこなら雨風を避けられるかも、そんな淡い期待で足を運び中を覗いてみると、一匹の獣が息も絶え絶えに血を流していたのだ。

 幸いな事に暗がりにいる獣はこちらに気付いておらず、時折辛そうな唸り声を挙げている。
 ゆっくり音を立てずに裂け目から離れると、スマホから『異世界の歩き方』を呼び出してうずくまる獣について調べた。

「こいつはイヌ科の動物か?
 現実世界では見た事がない…下手に近付くのは危険だろう」

 召喚された本のページをぱらぱらとめくり、該当する情報を調べて驚いた。
 こいつはタテガミギンロウ!
 獰猛な森の捕食者でクマと並び、自然界のヒエラルキー上位を占める存在。
 通常はオスメスのつがいや群れで狩りをするのだが、この個体ははぐれてしまったのか、それとも怪我が原因で置いていかれたのか判然としない。

 どの道、ここで寝泊まりするのは危険過ぎる。
手負いは気が立っているので見境なく襲われる可能性が高いのだ。
 水場も近くて良い拠点になりそうな場所ではあるが…仕方がない。

 そのまま歩き出すと裂け目から悲痛な鳴き声が聞こえてくる。
 可哀想だが俺にはどうする事も……出来なくはないかもしれん…。
 無論、俺は獣医ではないし野生動物の治療など行った事はない。

 だが、異世界アプリ『Awazon』がある。
 この中には食料や水の類いはないが、その代わりに医薬品は豊富に揃っていた。
 それは人間を対象にした物だけでなく、犬や猫、馬などの動物を対象にした物まであるのだ。
 これを使えばあるいは……。

「待て待て、貴重なポイントをこんな所で使うのか?馬鹿馬鹿しい、俺は遭難してるんだぞ!」

 冷静にならなければ。
 ここで野生動物を助けて何になる?
 食料にするなら分かるが、明日は我が身かもしれないんだ。
 こんな事にポイントを使っては万が一の時に……。


  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 俺の意思は鋼よりも硬く、正しいと思う選択をしたのだろう。
 手の中には犬用の治療薬や包帯を納めたキットが握られていた。
 総額4400ポイント……高っけぇ。
 いや、安いのか?
 もう何が正常な判断なのかも分からないが、目の前で死にかけている命を見捨てる事などできなかった。

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