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第一部 一章 遭難と書いてソロキャンと読もう!

異世界キャンプの始まり

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 翌朝、深刻な頭痛はロックなリズムを刻み、不必要な頻度で体の不調を知らせてくれた。
 これも全部、あの蛇女とバカみたいな力を持った子供のせいだ。
 異世界こっちに来て以来、普通なら有り得ない位の不運に見舞われ続け、マジに心が折れそうになっていた。
 とてもではないが食事の用意などする気になれず、保存食の甘露煮と梅干しで朝食を済ませるべく、コットから身を乗り出すと衝撃の光景に出くわす。

「あひな! おふぁよう~」

 初音がギンレイの猛攻を巧みに避けつつ、竹筒に入れて取っておいた甘露煮と梅干しを口一杯に頬張ほおばり、綺麗にたいらげた後だった。
 ――お前、鬼か?
 本当……そう遠くない内に、こいつらに殺されたとしても全然ッ不思議じゃねぇ。

「あー、おはよう……。
 ところで昨日の件について聞きたい。
 知ってる事を教えて欲しいんだよ。全部」

 丹精たんせい込めて作っておいた保存食を食い尽くした件じゃないぞ?
 例の蛇女を退散させた初音なら、何か知っているんじゃないか――わらにもすがる思いでたずねるが…。

「ワシに聞いても仕方あるまい。
 それよりも自分の胸に手を当てて聞いてみよ。
 このような猛獣のみならず、魑魅魍魎ちみもうりょうまうもりに好き好んで長居するのであれば、余程よほどの物好きか…相応の罪を犯したのではないか?」

「アホか! 俺は自慢じゃないが生まれて21年間、一度たりとも犯罪なんかしてねーよ!」

 割とマジな話である。
 今までフラれる事はあっても、誰かに恨まれるだの酷く嫌われるだのといった、人間関係のトラブルとは無縁の人生を送ってきた。
 それに、自分の意思とは無関係で異世界に飛ばされたとなれば、妙な勘繰かんぐりなど筋違いもはなはだしい!
 流石に憤慨ふんがいした様子を示すと初音も素直に勘違いを認め、保存食を全て食べてしまった事を謝罪した。
 ……だから、そっちじゃねぇって!

「すまんすまん、そう怒るでない。
 せめてものびに、ワシの知っている事を教えてしんぜようぞ」

「はぁ、やっとかよ。お前は昨日、蛇女の事を『たいしん』とか言ってたよな?
 それって相手は神ってコトか?」

 イメージしてる神ってのは……こう、バーッと光ってて雲の上から……ひげの爺さんみたいな?
 初音は俺の貧困な描写を聞き、可哀想な人を見る目で眉間にシワを寄せる。

「……もう少し畏敬の念を…まぁよいわ。
 お主が蛇女などと呼ぶ存在はのう、おそれ多くも妖怪の類いだと思うておるのじゃろうが、実際には真逆! 御前ごぜんはワシら日ノ本の民からしても神と同列ぞ」

「神…確かに人間じゃないとは思うが……」

 そんな大層なモノから嫌われた覚えはない。
 だが、初音の懸念は俺の想像を遥かに上回り、シャレにならないレベルに到達していた。

貴名きめい女媧ジョカと呼ばれておる。
 古くは大陸から海を渡ってきたと伝え聞くが、実際には誰にも分からぬ。蛇に似た体を持ち、美しい相貌そうぼうで若い男を魅了するらしいのじゃが……」

 何故なぜか気になる部分で話を区切られた。
 女媧ジョカだかショッカーだか知らないが、取りかれた理由が分からない以上、魅了されてしまった後が肝心なのだ。
 しかし、まるで禁忌きんきでもあるかのように、口外する事を渋る初音。
 遂にしびれを切らした俺は、本日の夕飯を人質にして真相を聞き出す。

「それで魅了されると…どうなるんだよ?」

「はぁ~~~……仕方ないのう。
 ワシも取りかれた者を見るのは初めてじゃが…聞いたところによると、身体中の精気を吸い尽くされた末、やがては――死ぬ」

「……マジに不運どころか呪われてんじゃん」

 理不尽にも程がある話に、天をあおいだまま倒れ込むしかなかった。

 バッタリと仰向けになったまま動かない俺を見て、腹を空かせたギンレイが朝食の催促を顔面ペロペロで促す。
 頼むから……今だけはそっとしておいてくれ……。

「情けないのう! それに話はなかばば途中ぞ。
 お主は死ぬと決まった訳ではないのじゃ」

「……は…はいぃ? なんだよ!
 それを先に言ってくれよ!
 メタクソ焦ったじゃねーか!」

 まだ助かる道が残されている。
 俺ははやる気持ちを抑え、初音大明神様の有り難い御言葉を待つ。
 だが――。

「ここ、神奈備かんなびもりは元来、人の立ち入るべき土地ではない。もり全体が霊気に満ち溢れ、強すぎる力によって意思薄弱な者は近づくだけで悪影響が出ると聞く」

 思わず喉が鳴る。
 そんな危険な場所で遭難ソロキャンしていたとは…。
 初音の言葉は更に続く。

「だがな、霊力を得ようとする修験者にとっては絶好の土地なのじゃ。その中でも、取り分け強い力を持った者がもりの奥地に居を構え、今も存在するらしい…」

 、か……。
 多分、誰かからの伝聞だと思うが…それでも現状、話を聞いておかなければならない。
 たとえ、根も葉もない噂話だったとしても、他に助かる道はないのだ。

「つまり、俺はそこへ行って女媧ジョカはらうしか助かる方法はないって事なんだな?」

「まぁ、そういう事じゃよ。
 それまでの間、お主には数々の厄災が降りかかるであろうが――極上の暇潰しぞ。
 ワシにとってはな!」

 流石は行動力の化身、鬼属きぞくの初音さんだ。
 これなら遠慮など無用だろう。

「OKOK.そういうコトなら良心の呵責かしゃくってヤツにさいなまれずに済むってわけだ。だってそうだろ?
 好き好んでヤバい橋を渡ろうってんだからな。こちらの家出少女サマはよ!」

 互いの奇妙な利害関係は奇跡的な一致をみせ、ここに種族と世界すら超越したコンビが誕生した。
 そうだ、最初から何も変わっていない。
 俺が異世界に来てからずっと、遭難ソロキャンしているという事実に変わりはない。
 唯一の懸念であったギンレイの怪我も完治を果たし、数日ぶりに解いた包帯の下は艶やかな毛に被われていた。

「良かった。これで完全復活だな」

 覚悟を決めた俺は簡単な朝食を済ませた後、大急ぎで出発の準備を始める。
 本来なら刈り取った後に乾燥させるハトマメムギを可能な限り脱穀して麻袋に入れ、その他に採取した有益な植物も残らず持っていく。
 ラセンタケとツルムシで組んだ背負子しょいこにドラム缶を載せ、山盛りの塩とハーブや香辛料を加えて凍った猪を詰め込み、当面の食料とした。
 最後に猪の毛皮でフタをすると、普通の人間なら移動させるどころか持ち上げる事すら不可能な重量なのだが、幸いにして同行者は人間ではなく鬼だ。

「これくらいなら朝飯前じゃよ」

 そう言って猪入りのドラム缶を背に、軽快な小走りまで披露してみせた。
 きっと日々の膨大な食費を補って余りある働きをみせてくれるだろう。
 新しくAwazonで80リットルの登山用バックパックを購入して荷物を入れると、ホームと呼んでいた洞窟にしばしの別れを告げる。

「今日をもって遭難ソロキャン改め、異世界の旅《キャンプ》が始まるんだ!」

 隆々とした川に導かれるまま、俺達は神奈備かんなびもりの先にあるという奥地を目指して歩き始めた。

  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

ここまでのAwazonポイント収支

『ドラム缶風呂を体験――3000P』

 以下を購入

『ドラム缶――5000ポイント』
『メンズ夏服一式――5000ポイント』
『ルームウェアワンピース――3000ポイント』
『タオル(二枚)――1500ポイント』
『メンズシャツ――1000ポイント』
『おろし金――500ポイント』
『登山用バックパック――12000ポイント』

 現在のAwazonポイント――365,900P
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