Ωだから仕方ない。

佳乃

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羽琉  告白。

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「何でもいいの?」

 聞きたいことはたくさんあるし、今までの話の内容で理解できていない事もあるけれど、それよりも何よりも聞きたい事があった。
 僕を深く傷付け、僕が諦めるきっかけになった言葉、その言葉の意味を知りたかったから。

『いいよ、何でも答える』

「………【あの子】って、僕のことを馬鹿にしてたよね?」

『え、何のこと?』

 僕の決死の質問だったのに、返された答えに失望する。彼のことを少しは信用して聞いてみたのに、結局相手にとってはそれだけの価値しかない言葉だったのだろう。

「もういいや、燈哉も今居君もありがとう。
 2人でお幸せに」

『ちょ、何でそうなるの?
 燈哉君、どういう事なの?』
「羽琉、違うから、ちゃんと説明するから」
 
 無理に笑って話を終えようとした僕に2人が言葉を重ねる。そして、「俺のせいなんだ」と言った燈哉は彼に説明を始める。

「羽琉は俺たちが羽琉のことを【あの子】って呼んでたことを気にしてるんだ。
 あと、夏休みに遊ぶ約束した事も」

『え、それまだ弁解してなかったの?』

「だって、涼夏の事情を勝手に話すわけにもいかないし」

『それで羽琉君が誤解してたら意味無いし。何、どこから説明すればいいの?
 【あの子】って呼び方になった理由って言うと、俺の事情から説明しないとだよね』

「悪い、お願いできるか?」

『そんな事、勝手に言って良かったのに』

 燈哉の言葉を聞いて彼は呆れたような言葉を発し、あからさまな溜め息を吐く。そして『真面目って言うか、融通が効かないって言うか、ヘタレっていうか』とブツブツと辛辣な言葉を呟く。

『さっき、同級生のΩと付き合ってたって言ったよね?』

 文句を呟いて気が済んだのか、画面越しに僕を見た彼にそう確認されたため無言で頷く。

『その彼がオレのこと嗤ってた事も言ったよね。
 それ聞いた時にちゃんと話せばもしかしたら誤解だったのかもしれないって、今ならそう思うけど当時は色々と不安の方が多くてさ』

 そうして話してくれた内容は、確かに燈哉が勝手に話すことを躊躇っても仕方のない内容だった。

 彼と友人の話を聞いてしまい、嗤われる事が怖くて「時間が欲しい」と言われていたのを逆手に取り、ちゃんと話す事なく彼とは別れた事。別れたと言うか、αではない自分は不必要だと思い、自分からも一切コンタクトを取らなかった事。
 その時に話をして、どんな結果であれちゃんと終わらせていればもっと違う関係になれていたかもしれないけれど、彼に対する嫌悪の方が強くて、名前を思い出すだけで気分が塞ぎ込むようになった事。

 それを聞いて僕の名前も燈哉にとってそうなのかと不安になり、思わずその顔を確認してしまう。
 画面には映らないものの、僕の隣に座る燈哉は動揺する事なく、僕と目が合うと「大丈夫だから」と口を動かす。
 何が大丈夫なのかは分からないけれど、僕の気持ちが伝わっていたのなら嬉しいのにと思ってしまう。僕がどの言葉に不安になったのかが伝わっているのなら、まだ完全に気持ちが離れたわけではないと思うことができるから。

『羽琉君が一緒に登下校することや、テスト勉強を一緒にすることを許してくれたから話す時間も結構あったんだ。
 だからオレは一方的に羽琉君のこと知ってるし、ずっと話したいと思ってたんだけど、ふたりの関係がギクシャクしてくると燈哉君が羽琉君呼ぶ時に苦しそうな顔をするようになったんだよね』

「何それ?」

 思わず溢れた言葉と何も言わない燈哉。そして続けられる彼の話。
 燈哉は彼の事情を知っているし、自分の話したことなのだからこの話の結末は当然知っているだろう。僕には聞かれたくない話だって、中にはあるかもしれない。だけど、口を挟むことなく、言い訳をすることもなく彼の話を聞いているのは彼に対する誠意なのか、僕に対する誠意なのか…。

『オレも自分の時にそうだったから。
 相手のことが好きだったせいで、そうやって名前を呼んで仲良くしてた頃を思い出して、だけど現状を考えるとその名前を呼ぶことが辛くて…。
 そうしてるうちに名前、呼べなくなったんだよね。

 だからそうなる前に、羽琉君の前で羽琉君の名前を呼ぶ時以外、って言うか、愚痴?不満?そう言う時には名前を呼ぶのやめなって言ったんだ。
 大切な人の名前をそんなふうに辛そうに呼ぶくらいなら別の呼び方をすればいいって。【あの子】って言うのに眉間に皺寄せてたって誰も何も思わないだろうし。
 それこそ、オレと話してる時にそんな顔で羽琉君のこと呼んでたら誤解しか招かないし』

 そして、『こんなこと言うと怒るかもしれないけど、羽琉君が話す機会作ってくれたらこんなに拗れる事もなかったと思うんだけどね』と言われてしまった。
 僕に対する不満や愚痴と言われ嫌な気分になりはしたものの、僕だって燈哉に対する不満や愚痴はたくさんある。聞いてくれる誰かがいればきっと口にしていただろう。
 そうやって話せる相手が目の前にいたか、いなかったか、きっとそれだけの違いなのだろう。
 僕が校内で燈哉と話していた内容は最近のメッセージと同じような当たり障りのないものばかりで、燈哉本人に不満や愚痴をぶつける事はなかった。それでもマーキングのおかげで彼よりも近い距離にいると思っていた。
 ふたりの話を聞くと僕と燈哉はマーキングされることで身体的な距離は近かったけれど、それはふたりの対話、精神的な距離の近さがあった上で成り立っていた関係だったのだろうか。

 それに、僕のことを【あの子】と呼ぶ理由はそうだとしても僕との仲を心配するのなら夏休みの予定はどう言い訳をするのかと、全てを鵜呑みにできない僕は意地悪な気持ちになってしまう。

「僕が入院してる間の計画を楽しそうにしてたのは?
 どこに遊びに行く予定だったの?
 もしかして一緒にヒートを過ごす計画もしてた?」

『ちょ、待ってっ!
 羽琉君、それ絶対無いから。
 それだって、羽琉君のためだし。

 本当、勘弁してよ~。何で何も説明してないの?馬鹿なの?
 オレの事情とか話さなくても説明できる事、たくさんあると思うんだけど?』

「でも、どこまで話していいのか判断が付かなかったし」

『だったら先に確認しておけばよかったのに。話して欲しくないことがあるのかとか、話しちゃいけないことはあるのかとか』

「それで口裏合わせてると誤解されるのも嫌だったし」

『信頼されてないんだね、燈哉君』

 心底呆れた声と、大きな溜め息。
 そして『全部バラしてやる』と言う不穏な言葉。

『燈哉君ね、夏休みに馬鹿な遊び方してたくせに、普通の遊び方知らないんだって。だからオレが付き合ってた頃にしてた遊びを教える事になってたの。
 夏休みの間に羽琉君連れて行っても大丈夫そうな所をリサーチして、羽琉君を連れて行きたいって。
 だから羽琉君が入院してるならバレる事もないだろうから安心だなって話してたんだよね、あの日。

 羽琉君がどの部分をどこまで聞いてたのか分からないけどそれがあの日に話してた事だし、ヒートを一緒に過ごすとか、絶対無いからっ!』

「そうなの?」

 思わず燈哉に顔を向ければ気不味そうな、それでいて照れているような表情をしてはいるけれど、彼の言葉を否定るすことも肯定することも、もちろん言い訳することもない。
 燈哉は燈哉で覚悟を決めたのだろう。

『そうなのっ!
 そもそも…燈哉君は好みじゃない。
 本当、ゴメンだけど入学式のあの日は不安の方が大きくて、利用できるものは何でも利用してやろうって本気で思ってたから』

 そう言って真っ直ぐに僕の目を見て、決して逸らす事なく話を続ける。

『αに庇護されるなんてって、庇護する立場だと思ってたから納得できなかったけど、それでも自分を守るためならって。
 何か言われても誘われたのは自分だって言い訳できるしね。
 打算が働いたんだ』

「打算?」

『そう、打算。
 新しい環境で、訳もわからないまま手探りで自分の居場所を探すよりも、手っ取り早く強い奴の庇護下に入れば過ごし易くない?
 だから強いαの庇護下に入って、それを盾に取って自分の居場所を作ればいいと思ったんだ。

 それなのに馬鹿正直にオレの匂いを利用しようとしたとか言っちゃうし、自分のせいで立場が悪くならないように登下校の間は守らせてほしいとか言ってくるし。
 それなら校内でも何とかしてくれって思うのに、校内では羽琉君を守るから友達と過ごせとか言うし。

 校内はセキュリティは万全だし、羽琉君は登下校は車が来るからオレに付き合うって。よく考えたら失礼だよね。

 責任感があるのか、無責任なのか理解できなくない?
 あれさ、オレに友達できなかったらどうするつもりだったの?』

 呆れた声を出し、笑いながら言った言葉だけど責めていると思った。中途半端に手を出したことを、そして、僕に何も言わないまま彼に声をかけたことを。
 自分の非を認めながらも燈哉の非も赤裸々に並べ立てる。

「でも、校内の案内した時に男性Ωから声かけられたって言ってたし」

『それが嫌な奴だったら僕が危険とかは、』

「………でも、相手は浬と忍だって分かったから。あのふたりと一緒にいれば大丈夫だろうって」

「浬君と忍君?」

「そう、涼夏と同じクラスだったんだ。
 あのふたりなら幼稚舎から一緒だから色々知ってるし、公平だし。
 だから問題ないと判断した」

 その名前を聞いて彼にはすぐに友達ができるからと言った燈哉の言葉を思い出す。関わりが無いわけではないけれど、関わりが深いわけでもない幼稚舎からの同級生。ずっと同じ場所で同じ時を過ごしていたから互いに人となりを知っているけれど、確かに彼等なら外部入学の彼に対しても公平に接するだろう。

 そう思えるような同級生。

 燈哉の言葉で勝手に傷ついていた僕だけれど、その訳を知れば納得はできなくても理解のできることが多く、その理由が対話の少なさだった事に嫌でも気付かされる。周りを上手くコントロールしていたつもりが、周りを見ない独りよがりな行動だったと認めざるを得ないようだ。

 

 

 

 

 
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