見ず知らずの(たぶん)乙女ゲーに(おそらく)悪役令嬢として転生したので(とりあえず)破滅回避をめざします!

すな子

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 さて。
 前門の虎、後門の狼、とは少々異なりますが、ベアトリーチェ様の誘導にて、セーラ様はわたくしとヴィオラ様の間の席へ。
 主催としてお誕生日席にいらっしゃるベアトリーチェ様を挟んで向かいにはスカーレット様、そしてマリレーナ様がお座りです。
 本来、家格的にクラリーチェ様がわたくしの真向かいに座るはずが、遅参を理由にあえて末席を選ぶのがクラリーチェ様ですから、セーラ様は圧迫面接さながらに、不機嫌なマリレーナ様とあからさまにこちらを見ようとしないスカーレット様と対面することになりました。

(どんなお話をすれば皆さま打ち解けられますかしら……)

 お互いに腹を割って話すなど貴族令嬢にはなかなかハードルの高いことで、前世のぼっちの記憶にはもちろんそんな経験がありませんから、気持ちとしては余計に難易度が上がっている気がいたします。

 セーラ様とクラリーチェ様、それからついでに飲み干してしまったわたくしに新しい紅茶が運ばれる間、なんとなく皆さま無言。

(女子会ってもっと和やかなものではなくって……?)

 気まずい空気に一人胃を痛めております。

 スカーレット様とマリレーナ様はピリピリとした空気のまま、ヴィオラ様はセーラ様にまだ少し人見知り、クラリーチェ様はマリレーナ様のいつもと異なる様子に困惑して、セーラ様もそわそわと落ち着かなげ、そんな皆さまを順番に見回した後、わたくしはベアトリーチェ様にそっと視線を投げかけました。

 とくに無言を意に介した様子もなく、わたくしと同じようにゆったりと全員を見渡していたお姉さまは、穏やかに微笑んだまま、最後にわたくしと目を合わせてくださいました。
 わたくしを安心させるようなその雰囲気が、最近とくにお兄さまに似てきているようで、絶対の信頼を寄せてしまいます。

 わたくしの期待に応えるように、ベアトリーチェお姉さまは全員のティーカップが満たされたことを確認すると、ゆっくりと口を開きました。

「では、クラリーチェ様もいらっしゃいましたし、特別なお客さまもお迎えいたしましたから、あらためまして、皆さまと素敵な時間が過ごせますよう、お茶会を再開いたしましょう」

 それぞれがまったくちぐはぐな気持ちでいるのを、柔らかな水流でひとつにまとめるように、お姉さまの声がゆったりとお茶会のテーブルに行き渡りました。

 ベアトリーチェ様のお茶会を台無しにしてしまうような態度をとるべきではないという空気がそれとなく広がり、スカーレット様の顔がまず真正面を向きました。

 高飛車なお顔立ちは生まれつきですから、挑むような睨むような表情でセーラ様を見てしまうのはご愛嬌ですわね。
 まずは第一歩です。
 急に近付いては、野良猫のように逃げてしまうか、あるいは猛獣のように襲いかかってくるかも知れませんから、慎重に。

(やはりまずはセーラ様とスカーレット様ですわね)

 ヒロイン対悪役令嬢の構図を作っている中心と言ってもいいお二人に和解をしていただければ、シナリオ後半がかなり穏やかに進むと思いますの!

 ハラハラと見守っていると、先に口を開いたのはセーラ様でした。

「わたし、あの、スカーレットちゃんに嫌われているのはなんとなくわかるんだけど、でも誤解をときたくって!」

 意を決したようなセーラ様は、やはりコミュ力がカンストしているようで、あんな態度をとっているスカーレット様にも「ちゃん」呼びです。
 殿下には「様」で、年上は「さん」、同じ年と年下には「ちゃん」か「君」で無意識に使い分けているのでしょうか。

「誤解?」

 一瞬、苛立たしげに片方の眉尻を器用に跳ねさせたスカーレット様ですが、ぐっとガマンをしたようで、セーラ様の言葉を反復しました。

「そう!
 ……あのね、わたし、ちゃんともとの世界に帰りたいんだ」

 セーラ様が躊躇いがちに、それでも真剣な声音で告げた言葉は、巫女様の、切実な本音をわたくしたちに突きつけました。


「お父さんもお母さんもここにはいなくて、学校で友だちにも会えなくて、スマホでおしゃべりもできないの。
 ちょっといいな、て思ってたセンパイだっていたし、ドラマの続きだって気になる。
 だからね、ずっとここにはいられないの。
 帰るために、エンディミオン様たちのお手伝いが必要なら、わたしがんばってみんなの世界を災厄から守るよ。
 でも、それが終わったら……お家に帰りたいな」
 

(……帰り、たい)

 異世界から、わたくしたちの世界の災厄を止めるために召喚された巫女様。
 まったく見ず知らずの、家族も友だちもいない世界に突然連れてこられれば、きっと誰もがいちばんはじめに考えること。

 目を瞑って見ないふりをしていたそのことに、セーラ様は真っ直ぐに気持ちを向けていました。

「スカーレットちゃんがわたしをキライなのは、きっとエンディミオン様といっしょにいるからだよね?
 でも、星の巫女のお仕事をしないとお家に帰れないなら、わたしはスカーレットちゃんにどう思われても、今できることをしたいな。
 でもわたしがエンディミオン様と恋人みたいになることを心配してキライなら、それは誤解だし、絶対にそんな風にはならないって約束できるから、わたしとも仲良くしてほしい。
 せっかくぜんぜん違う世界同士で出会えたんだから、いっしょに過ごせる時間は、仲良く過ごしたいよ」

 訴えるようなセーラ様に、呑まれるようにスカーレット様は瞳を揺らしております。

 嘘でもなんでもなく、セーラ様が自分の世界に、家族がいて生活のあった家に帰りたい気持ちは、スカーレット様にも真っ直ぐに伝わったようです。

 そんな気持ちを聞いても意固地な態度をとるようなスカーレット様ではないとは思いますが、素直に改められるかと言われればそれもまた難しいことのようで……。

「どうして……どうしてそんなことが約束できますの?」

 絞り出すような声は、それでも承諾しがたいことがあると、セーラ様に向けられ、

「……エンディミオン様の、何が気に入らないと仰るの?
 …………どうして、エンディミオン様ではダメなのですっ」

 ────そうして、わたくしに向けられている言葉でした。

 


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