見ず知らずの(たぶん)乙女ゲーに(おそらく)悪役令嬢として転生したので(とりあえず)破滅回避をめざします!

すな子

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 わたくしが前世の記憶を思い出しはじめたのは、5歳の頃。
 見たこともない部屋や調度、景色の中、おもに黒い髪のぼんやりとした顔の人々が生活していて、わたくしもその一人として暮らしている夢を見ました。
 侍女や母に不思議な夢を見たと話したのはそのはじめの一度きり。
 次の日にも同じような夢を見て目が覚めたとき、これは誰にも話してはいけないことだとおぼろげに認識しておりました。
 それから毎日同じような夢を見続け、異世界、という言葉を思い出したのは五日目。
 見ている夢は自分の前世で、わたくしは異世界に転生したのだとわかったのは一週間目、だいたい三十路くらいの記憶がそのすべてでした。
 そのほとんどは色のない単調な日々の繰り返しで、親の顔や生い立ちはおろか、自分の名前や最期のことすらわからないのに、友だちも恋人もいなかったであろうこと、前世のわたくしが重度のオタクで、いわゆる乙女ゲームをプレイしたり転生や転移系の異世界が舞台の小説を読むのが大好きだったということだけはわかりました。

 これまで公爵家の愛娘として蝶よ花よと育てられてきたたった5歳の幼女に殺伐とした三十路女の記憶がインした結果、どうなったと思います?
 まだ出来あがっていなかったルクレツィアの本来の自我はどんどん薄れ、淑女教育をされ、異世界の大人だった記憶だけを持つ世にも奇妙な人格だけが取り残されてしまいましたの。

 そうしてわたくしがしなければならなかったのは、まずは5歳の幼女のフリ!
 愛らしく天真爛漫な公爵家の天使として、みなさまを潤さなくてはならないのが最初のミッション。
 少しでもおかしな素振りをして、気持ち悪がられては先が思いやられてしまいますもの。
 
 わたくしはこの世界ゲームを、平穏無事に生き抜かなければならないのです!

 異世界、そして由緒ある公爵家のご令嬢に転生したとなれば、わたくしの立場は自ずと知れるもの。

(これは、悪役令嬢に転生、ということですわね……!)

 そうテンションが上がったのも一瞬のこと、あいにく、そこだけは鮮明に思い出したはずの前世の記憶で、あれだけたくさんプレイしたゲームにも、読み漁った小説にも、ルクレツィアというキャラクターにまったく覚えがないのです。なぜ。
 まさかのモブというには、ルクレツィアはスペックが高すぎてそんなはずありえません。
 いくら鏡を見ても可愛らしい顔立ちは悪役令嬢というよりは天使のようで、似たような他のゲームや物語のキャラクターのことはいくらでも思い出せるのに、このキャラクターにも、そして世界観にも思い当たらないのです。
 こっそり公爵家の蔵書からこの世界の地図や歴史、お伽噺、伝承や伝説の類いまで調べても、記憶の隅にも引っかかるところが何もありませんでした。なぜなんですの。

(悪役令嬢に転生といえば、断罪されて婚約破棄から破滅フラグのはずなのに、これではどんな破滅フラグかさっぱりわからない……!)

 来たる破滅の時を回避するべく対策を立てようにも、どんな破滅がやってくるかがわからないからいったい何をしたらいいのかもわからないのです。

 もしかしてこの世界観だけ思い出せていないのかもしれないと、ありとあらゆるきっかけを模索してみました。
 兄のアンジェロは、天使の兄なので彼もまた天使のような顔立ちだからきっと攻略キャラクターなのだろうけど、まったく琴線に触れません。
 まあでもまだ少年だからと思い直し、彼が友人として王城に召喚されるようになった、わたくしと同じ年に生まれた第一王子のエンディミオン殿下のお話も聞いてはみましたけれど、そのお名前で思い出せるのはギリシア神話にいる美青年の話、もしくはタキシードと仮面で、学生服を着た美少女戦士のピンチを救っていた大学生の前世だったなというそれだけ。
 こんなにインパクトがある名前の攻略キャラクターがいたら絶対忘れないのに、ピンとも来ません。
 
 わたくしの前世の記憶が、乙女ゲームどころか18禁ゲームもBLゲームも含めて、やったことがないゲームはほとんどないと言っても過言ではないと自負しておりますのに、まったく思い出すところがない!

 そう、そうなのです。
 可能性として、18禁やBLだって候補のひとつなのです。
 この世界観がどんなシナリオかわからないかぎり、その可能性だってないとは言えません。

 こうなってしまえば、前世の記憶の知識という知識を総動員してパターンをしぼり、どうにか断罪からの破滅の道へ踏み込まないように立居振る舞いに気をつけていくしかありません。
 もしかしたら何かの拍子で思い出すかもしれませんし。
 その時になって、あの時こうしていればなんてタラレバな後悔をしないように、ひとつひとつ、細心の注意を払う必要があるのですわ。
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