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帰国した貴婦人
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その日、サンドラが帰国したというニュースは新聞の一面を大きく飾った。
サンドラは国の為に年老いた国王に嫁いだのだ。その行いに多くの人々は聖女の如く敬っている。勿論、ティエリー公爵家の使用人達も同じだった。
夫サージェスとは幼馴染であり、公爵家にも度々遊びに来ていた。だから、使用人らの多くは何れ彼女がこの屋敷の女サージェスと結婚して女主人になると思っていた。
ところが、突如王命にて隣国の年老いた国王に嫁ぐ事になり、サージェスとの関係は終わりを迎えた。不完全燃焼した恋が再熱するのではと微かに期待をしている。その様子を見る度にフェリアの心は暗く沈んでいった。
それでも、夫サージェスの望む様に笑顔を取り繕っている。
「フェリア、今日は帰国した友人を歓迎するための夜会が開かれる事になった。迎えを寄越すから支度をしておいてくれ」
「貴方は?」
「一緒に行きたいのだが、急な仕事で君と一緒には行けそうにない。すまないが先に行ってくれないか」
「わかりました。気を付けて行ってください」
「ああ」
いつもの様に夫は出かけるときに新妻の額に軽くキスをすると車で出かけて行った。
サージェスが出かけると、これみよがしにメイドが囀り出した。
「やっぱり、サンドラ様の帰国祝いの夜会なのでしょう。旦那様はいつ奥様と離縁されるのかしら」
「今日、会えば昔の様な関係になるかもしれないわ」
聞こえるように囀るその噂雀たちに一括を入れたのは、侍女長のエルナ。
「貴方達、余計なお喋りをしないで自分の持ち場に戻りなさい。それとこの事は家令のハンスに報告しますから」
「申し訳ございません。二度とそのような事は申しませんので」
「いいえ、きっちりと報告させてもらいます」
「そ…そんな…」
さっきまでの勢いはどこへやら、メイドたちはフェリアを睨みながら「お飾りの妻の癖に」と睨んで立ち去った。
「申し訳ございません。屋敷の者達にはきつく申しておきますので、奥様はご安心なさってお過ごしください。ミリア」
「はい、侍女長」
「奥様は、本日夜会に出席なさいます。しっかりと支度を手伝う様に」
「かしこまりました。腕に寄りをかけますので」
「よろしい。では頼みましたよ」
侍女長にそう指示されたミリアの目がいつも以上に爛々と輝いている。そうでなくてもミリアはフェリアを飾り立てるのが好きなのだ。
ミリアの表情をみて少し怯んだフェリアは気を取り直して、いつもの様に「よろしくね」と静かに微笑んだ。
フェリアの支度が終わる頃、サージェスの秘書トリスが迎えに来た。
「奥様、サージェス様は少し遅れるそうで、先に夜会で待ってるように託られました」
「わかりました。では行きましょう」
「はい」
トリスは、フェリアをエスコートして乗車させた。
車窓から見える街の景色は近代化しつつある国家の風景そのもので、流れる様な光は川の流れの様に見えた。
会場に着くと、案内係が近寄ってきて、来客者の確認を行っていた。
「ティエリー公爵夫人。どうぞこちらに」
案内されて、会場入りしたフェリアを好奇心旺盛な貴族達が一斉に注目した。
サンドラは国の為に年老いた国王に嫁いだのだ。その行いに多くの人々は聖女の如く敬っている。勿論、ティエリー公爵家の使用人達も同じだった。
夫サージェスとは幼馴染であり、公爵家にも度々遊びに来ていた。だから、使用人らの多くは何れ彼女がこの屋敷の女サージェスと結婚して女主人になると思っていた。
ところが、突如王命にて隣国の年老いた国王に嫁ぐ事になり、サージェスとの関係は終わりを迎えた。不完全燃焼した恋が再熱するのではと微かに期待をしている。その様子を見る度にフェリアの心は暗く沈んでいった。
それでも、夫サージェスの望む様に笑顔を取り繕っている。
「フェリア、今日は帰国した友人を歓迎するための夜会が開かれる事になった。迎えを寄越すから支度をしておいてくれ」
「貴方は?」
「一緒に行きたいのだが、急な仕事で君と一緒には行けそうにない。すまないが先に行ってくれないか」
「わかりました。気を付けて行ってください」
「ああ」
いつもの様に夫は出かけるときに新妻の額に軽くキスをすると車で出かけて行った。
サージェスが出かけると、これみよがしにメイドが囀り出した。
「やっぱり、サンドラ様の帰国祝いの夜会なのでしょう。旦那様はいつ奥様と離縁されるのかしら」
「今日、会えば昔の様な関係になるかもしれないわ」
聞こえるように囀るその噂雀たちに一括を入れたのは、侍女長のエルナ。
「貴方達、余計なお喋りをしないで自分の持ち場に戻りなさい。それとこの事は家令のハンスに報告しますから」
「申し訳ございません。二度とそのような事は申しませんので」
「いいえ、きっちりと報告させてもらいます」
「そ…そんな…」
さっきまでの勢いはどこへやら、メイドたちはフェリアを睨みながら「お飾りの妻の癖に」と睨んで立ち去った。
「申し訳ございません。屋敷の者達にはきつく申しておきますので、奥様はご安心なさってお過ごしください。ミリア」
「はい、侍女長」
「奥様は、本日夜会に出席なさいます。しっかりと支度を手伝う様に」
「かしこまりました。腕に寄りをかけますので」
「よろしい。では頼みましたよ」
侍女長にそう指示されたミリアの目がいつも以上に爛々と輝いている。そうでなくてもミリアはフェリアを飾り立てるのが好きなのだ。
ミリアの表情をみて少し怯んだフェリアは気を取り直して、いつもの様に「よろしくね」と静かに微笑んだ。
フェリアの支度が終わる頃、サージェスの秘書トリスが迎えに来た。
「奥様、サージェス様は少し遅れるそうで、先に夜会で待ってるように託られました」
「わかりました。では行きましょう」
「はい」
トリスは、フェリアをエスコートして乗車させた。
車窓から見える街の景色は近代化しつつある国家の風景そのもので、流れる様な光は川の流れの様に見えた。
会場に着くと、案内係が近寄ってきて、来客者の確認を行っていた。
「ティエリー公爵夫人。どうぞこちらに」
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