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プロローグ
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もうすぐ日付が変わろうかという時刻。
フェリアを満足そうに抱き寄せて、安心しきった様な寝息を立てている夫サージェスとは反対に、フェリアは夜会で聞いた話を思い出して不安な気持ちでいっぱいだった。
夫婦の寝室に今は二人だけ…。時計の微かな秒針の音と夫の寝息だけがフェリアの耳に聞こえているはずなのに…。
『なあ、サージェス。どうだ。賭けに勝った勝利品の妻は』
『そうだとも。ポーカーで彼女を口説く権利を賭けた時、いつもは参加しないはずのお前が参加すると言い出した時は耳を疑ったよ』
『やっぱり、あれか。彼女、どこか似ているよな』
『そうそう、俺もそう思った』
『何がだ?』
『隠すなよ。お前の初恋の君。ああ…愛しのサンドラってか?ははは』
『別に似ていないだろう』
『何となく儚げな雰囲気とか。瞳の色や髪の色。顔も何処となく似ている様な気がするぞ』
『それは俺も思ったよ。サージェスの好みの女だとな。だけど…まさか本当に結婚までするとはな』
『適当に付き合って別れるんだと…』
『そんな不誠実なことはしない』
『だよな。でなけりゃ、あんな賭けに乗らないだろう』
夫と出かけた夜会で、彼の悪友達に連れて行かれたサージェスを捜して声のするバルコニー近くに行った時、フェリアは夫の本心を知った。
だが、聞こえてきた会話の内容は、他の人が聞けば気分を害するだろうが、フェリアは何処か納得がいくものだった。
彼女の実家は、僅かな蓄えで暮らしていた没落貴族の男爵家の娘で、屋敷は平民が住む家より少しばかり大きい程度。
使用人と呼べる人も置いてなく、家事の一切は近くに住む母の幼馴染のアンナが手伝ってくれた。
そのおかげで、フェリアも平民の暮らしと変わらない程度は、一人で何もかも出来るようになっていた。
年頃になってもデビュタントに出られない孫娘を心配した祖母は、亡き娘婿の実家を頼った。
フェリアの叔父にあたるヘンリー・バーモンド子爵は、美しいフェリアを結婚市場の高額な商品にしたてあげ売り出した。
その所為で、皆はフェリアを賭け事の対象にしてしまったのだ。
何も知らなかったフェリアは、国立公園の園遊会で出会ったサージェスに好意を持ってしまった。
バルコニーで話していた内容が本当なら感謝しなければならないのはフェリアの方だ。
年老いた祖母の為に屋敷を修繕したり、世話をするための使用人も多く雇用し、祖母の生活費も出してくれているのは、夫のサーシェスなのだから。
もし、夫が愚かで純粋な従順な妻を求めているのなら、今まで通り、フェリアは望むように振る舞うことも厭わない。
でも、今のフェリアを不安にさせるのは、そんな事ではない。
会話の最後に聞こえてきたあの話……。
──そういえば、サンドラが帰って来るらしいぞ。未亡人になって……。
サンドラ・ブラック侯爵令嬢。
彼女は昔から有名な令嬢で、この国にいた頃は社交界の若い薔薇と呼ばれていたらしい。
田舎に住んでいたフェリアは知らないが、王都にタウンハウスを持つ貴族令嬢は、彼女に憧れて彼女の持つ物を身に付けようと躍起になった程、流行を作った存在。
そんな女性が独身となってこの国に帰ってきたら……。
フェリアはサージェスが昔の熱をぶり返して、自分を捨てるのではないかという考えが浮かんだ。
何もないフェリアと違って全てを兼ね備えたサンドラ…。
彼女と張り合ってもフェリアは勝てないことは理解している。
不安に押しつぶされそうな気持を抱えたまま、朝までサージェスの胸に顔を埋めた。
『例え偽りだとしても、どうかこの幸せが続きますように』
そんなフェリアの願いも虚しく、サンドラはい週間後に帰国した。
フェリアを満足そうに抱き寄せて、安心しきった様な寝息を立てている夫サージェスとは反対に、フェリアは夜会で聞いた話を思い出して不安な気持ちでいっぱいだった。
夫婦の寝室に今は二人だけ…。時計の微かな秒針の音と夫の寝息だけがフェリアの耳に聞こえているはずなのに…。
『なあ、サージェス。どうだ。賭けに勝った勝利品の妻は』
『そうだとも。ポーカーで彼女を口説く権利を賭けた時、いつもは参加しないはずのお前が参加すると言い出した時は耳を疑ったよ』
『やっぱり、あれか。彼女、どこか似ているよな』
『そうそう、俺もそう思った』
『何がだ?』
『隠すなよ。お前の初恋の君。ああ…愛しのサンドラってか?ははは』
『別に似ていないだろう』
『何となく儚げな雰囲気とか。瞳の色や髪の色。顔も何処となく似ている様な気がするぞ』
『それは俺も思ったよ。サージェスの好みの女だとな。だけど…まさか本当に結婚までするとはな』
『適当に付き合って別れるんだと…』
『そんな不誠実なことはしない』
『だよな。でなけりゃ、あんな賭けに乗らないだろう』
夫と出かけた夜会で、彼の悪友達に連れて行かれたサージェスを捜して声のするバルコニー近くに行った時、フェリアは夫の本心を知った。
だが、聞こえてきた会話の内容は、他の人が聞けば気分を害するだろうが、フェリアは何処か納得がいくものだった。
彼女の実家は、僅かな蓄えで暮らしていた没落貴族の男爵家の娘で、屋敷は平民が住む家より少しばかり大きい程度。
使用人と呼べる人も置いてなく、家事の一切は近くに住む母の幼馴染のアンナが手伝ってくれた。
そのおかげで、フェリアも平民の暮らしと変わらない程度は、一人で何もかも出来るようになっていた。
年頃になってもデビュタントに出られない孫娘を心配した祖母は、亡き娘婿の実家を頼った。
フェリアの叔父にあたるヘンリー・バーモンド子爵は、美しいフェリアを結婚市場の高額な商品にしたてあげ売り出した。
その所為で、皆はフェリアを賭け事の対象にしてしまったのだ。
何も知らなかったフェリアは、国立公園の園遊会で出会ったサージェスに好意を持ってしまった。
バルコニーで話していた内容が本当なら感謝しなければならないのはフェリアの方だ。
年老いた祖母の為に屋敷を修繕したり、世話をするための使用人も多く雇用し、祖母の生活費も出してくれているのは、夫のサーシェスなのだから。
もし、夫が愚かで純粋な従順な妻を求めているのなら、今まで通り、フェリアは望むように振る舞うことも厭わない。
でも、今のフェリアを不安にさせるのは、そんな事ではない。
会話の最後に聞こえてきたあの話……。
──そういえば、サンドラが帰って来るらしいぞ。未亡人になって……。
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彼女と張り合ってもフェリアは勝てないことは理解している。
不安に押しつぶされそうな気持を抱えたまま、朝までサージェスの胸に顔を埋めた。
『例え偽りだとしても、どうかこの幸せが続きますように』
そんなフェリアの願いも虚しく、サンドラはい週間後に帰国した。
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