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第二章 初学院編

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2、3日もつことは確かそうだな。このテレシ―侯爵領から王都まで全速力で行けば、1日半たどり着くころができる。だけど、不測の事態があった時や上級回復魔導士をそろえる時間を考えると、2,3日という時間はあまりに心もとない。それに、アースが回復した後に、こいつは何かをするようだ。何を考えているのかはわからないが、こいつの気味の悪い笑顔から明るいことでないことは想像にたやすい。事前に聞きだしたいところだが、こいつがしゃべるとも思わないし、何より、アース自身が回復しないと意味がない。


自分の魔力を他人に譲渡するのは非常に難しいことだ。ただ流し込むだけならば、以前殿下がアースにやったように騎士にもできることだ。だけど、自分の魔力を相手が使えるように譲渡するのが難しいのだ。魔力と一口に言っても、人によって性質が異なっている。その性質にあうように変化させて、相手に渡さねければ、相手は受け取った魔力を使うことができないのだ。相手の魔力の性質を感知し、自分の魔力をそれに適合するように変える技術がなければならない。そのようなことができるのは、上級魔導士の中でもほんの一握りだ。もちろん、俺達の中の誰かができるとも思えない。ここは、無理をしてでも王都に向かうべきだろうか?
俺達が俯くことしかできないでいると、ジールが主に近づきそして、アースを自分に渡すように言った。

「ジール、できるのか? 魔力の譲渡なんて、そのような高等なことを………。」

「俺にはできないッスよ。だけど、木に任せることはできるッス。俺に任せていただけないッスか? もちろん、俺だけの魔力では足りないと思うッスから、皆の魔力も頂けるとうれしいッス。」

木に任せる………? 木属性の魔法で、魔力の譲渡が可能だというのだろうか? 水の供給といい、索敵といい、ジールの能力はすごいな。アースが以前、木属性は万能だと評していたが、まさにその評価にふさわしい活躍ぶりだ。

「わかった。ジールに任せる。すまない、よろしく頼む。」

主はそういうと、アースを大事そうにしながら、ジールに渡した。ジールはアースを受け取ると、小声で何かをつぶやいた。すると、ジールの手のひらに何かの種のようなものが現れた。そしてジールは、アースの服をめくり丹田あたりにその種を押し付けた。

『魔樹の呼び声』

ジールがそう詠唱した次の瞬間、アースの腹の上でその種が、三十センチメートルくらいの若木へと成長した。

「「「「な………。」」」」

アースの腹に、根を張った木が生えている………。普通の木は人に生えないし、そもそもどういう原理でそうなっているのかもわからない。ジールのことだから、安全面は大丈夫だと思うが………。グート様も目を見開いて、アースに生えた木のことを見ている。

「えーと、急に変なことをしてしまって申し訳ないッス。これは寄生植物の一種で、魔樹の一種でもあるラジュラの木っス。この木は寄生主の魔力で発芽し、その後は木の枝を伸ばして他所から魔力を吸収して、寄生主に流すという習性があるッス。最初は発芽するために寄生主から魔力を吸い取る必要があるッスけど、その後はまるで発芽のお礼をするかのように寄生主に魔力を供給し続けるッス。」


………いや、もはや何も言うことができないけど、とにかくすごいな。初学院生で魔力の譲渡ができることも驚きだし、それをできる能力や魔力量がすごい。


「ジールには感謝してもしきれないな。」


「はっ。万能とは都合のいい言葉だな。所詮は、最強にはなれない器用貧乏なやつに使う言葉だ。」



せっかくのいい雰囲気に、あの角野郎はこの場に水を刺すような言葉を大声で言い放った。

こいつに助けられたのは事実だ。感謝もしている。だけど、そろそろ殴り飛ばさないと気がすまなくなってきた。


「……それはそうッスね。だけど、俺が最強じゃなくてもそれでいいんッスよ。俺達にはアースがいるッスからね。あなたの主は、間違いなく最強ッスよ。それでももちろん、俺は2番手止まりに甘んじずに、研鑽を続けていくッスよ。」


ジールは、アースの腹から生えている木の枝を掴み、魔力を流しながらそう言った。

……ジールは強いな。俺たちもジールに続いて、枝を掴んで魔力を流した。


「……お前らは、誰も彼も気持ちが悪いなぁ。人の心配ばかりしてやがる。」


そいつはそう言うと、いまいましそうにしながら、どこかへと姿を消した。



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