90 / 149
第二章 初学院編
89
しおりを挟む
2、3日もつことは確かそうだな。このテレシ―侯爵領から王都まで全速力で行けば、1日半たどり着くころができる。だけど、不測の事態があった時や上級回復魔導士をそろえる時間を考えると、2,3日という時間はあまりに心もとない。それに、アースが回復した後に、こいつは何かをするようだ。何を考えているのかはわからないが、こいつの気味の悪い笑顔から明るいことでないことは想像にたやすい。事前に聞きだしたいところだが、こいつがしゃべるとも思わないし、何より、アース自身が回復しないと意味がない。
自分の魔力を他人に譲渡するのは非常に難しいことだ。ただ流し込むだけならば、以前殿下がアースにやったように騎士にもできることだ。だけど、自分の魔力を相手が使えるように譲渡するのが難しいのだ。魔力と一口に言っても、人によって性質が異なっている。その性質にあうように変化させて、相手に渡さねければ、相手は受け取った魔力を使うことができないのだ。相手の魔力の性質を感知し、自分の魔力をそれに適合するように変える技術がなければならない。そのようなことができるのは、上級魔導士の中でもほんの一握りだ。もちろん、俺達の中の誰かができるとも思えない。ここは、無理をしてでも王都に向かうべきだろうか?
俺達が俯くことしかできないでいると、ジールが主に近づきそして、アースを自分に渡すように言った。
「ジール、できるのか? 魔力の譲渡なんて、そのような高等なことを………。」
「俺にはできないッスよ。だけど、木に任せることはできるッス。俺に任せていただけないッスか? もちろん、俺だけの魔力では足りないと思うッスから、皆の魔力も頂けるとうれしいッス。」
木に任せる………? 木属性の魔法で、魔力の譲渡が可能だというのだろうか? 水の供給といい、索敵といい、ジールの能力はすごいな。アースが以前、木属性は万能だと評していたが、まさにその評価にふさわしい活躍ぶりだ。
「わかった。ジールに任せる。すまない、よろしく頼む。」
主はそういうと、アースを大事そうにしながら、ジールに渡した。ジールはアースを受け取ると、小声で何かをつぶやいた。すると、ジールの手のひらに何かの種のようなものが現れた。そしてジールは、アースの服をめくり丹田あたりにその種を押し付けた。
『魔樹の呼び声』
ジールがそう詠唱した次の瞬間、アースの腹の上でその種が、三十センチメートルくらいの若木へと成長した。
「「「「な………。」」」」
アースの腹に、根を張った木が生えている………。普通の木は人に生えないし、そもそもどういう原理でそうなっているのかもわからない。ジールのことだから、安全面は大丈夫だと思うが………。グート様も目を見開いて、アースに生えた木のことを見ている。
「えーと、急に変なことをしてしまって申し訳ないッス。これは寄生植物の一種で、魔樹の一種でもあるラジュラの木っス。この木は寄生主の魔力で発芽し、その後は木の枝を伸ばして他所から魔力を吸収して、寄生主に流すという習性があるッス。最初は発芽するために寄生主から魔力を吸い取る必要があるッスけど、その後はまるで発芽のお礼をするかのように寄生主に魔力を供給し続けるッス。」
………いや、もはや何も言うことができないけど、とにかくすごいな。初学院生で魔力の譲渡ができることも驚きだし、それをできる能力や魔力量がすごい。
「ジールには感謝してもしきれないな。」
「はっ。万能とは都合のいい言葉だな。所詮は、最強にはなれない器用貧乏なやつに使う言葉だ。」
せっかくのいい雰囲気に、あの角野郎はこの場に水を刺すような言葉を大声で言い放った。
こいつに助けられたのは事実だ。感謝もしている。だけど、そろそろ殴り飛ばさないと気がすまなくなってきた。
「……それはそうッスね。だけど、俺が最強じゃなくてもそれでいいんッスよ。俺達にはアースがいるッスからね。あなたの主は、間違いなく最強ッスよ。それでももちろん、俺は2番手止まりに甘んじずに、研鑽を続けていくッスよ。」
ジールは、アースの腹から生えている木の枝を掴み、魔力を流しながらそう言った。
……ジールは強いな。俺たちもジールに続いて、枝を掴んで魔力を流した。
「……お前らは、誰も彼も気持ちが悪いなぁ。人の心配ばかりしてやがる。」
そいつはそう言うと、いまいましそうにしながら、どこかへと姿を消した。
自分の魔力を他人に譲渡するのは非常に難しいことだ。ただ流し込むだけならば、以前殿下がアースにやったように騎士にもできることだ。だけど、自分の魔力を相手が使えるように譲渡するのが難しいのだ。魔力と一口に言っても、人によって性質が異なっている。その性質にあうように変化させて、相手に渡さねければ、相手は受け取った魔力を使うことができないのだ。相手の魔力の性質を感知し、自分の魔力をそれに適合するように変える技術がなければならない。そのようなことができるのは、上級魔導士の中でもほんの一握りだ。もちろん、俺達の中の誰かができるとも思えない。ここは、無理をしてでも王都に向かうべきだろうか?
俺達が俯くことしかできないでいると、ジールが主に近づきそして、アースを自分に渡すように言った。
「ジール、できるのか? 魔力の譲渡なんて、そのような高等なことを………。」
「俺にはできないッスよ。だけど、木に任せることはできるッス。俺に任せていただけないッスか? もちろん、俺だけの魔力では足りないと思うッスから、皆の魔力も頂けるとうれしいッス。」
木に任せる………? 木属性の魔法で、魔力の譲渡が可能だというのだろうか? 水の供給といい、索敵といい、ジールの能力はすごいな。アースが以前、木属性は万能だと評していたが、まさにその評価にふさわしい活躍ぶりだ。
「わかった。ジールに任せる。すまない、よろしく頼む。」
主はそういうと、アースを大事そうにしながら、ジールに渡した。ジールはアースを受け取ると、小声で何かをつぶやいた。すると、ジールの手のひらに何かの種のようなものが現れた。そしてジールは、アースの服をめくり丹田あたりにその種を押し付けた。
『魔樹の呼び声』
ジールがそう詠唱した次の瞬間、アースの腹の上でその種が、三十センチメートルくらいの若木へと成長した。
「「「「な………。」」」」
アースの腹に、根を張った木が生えている………。普通の木は人に生えないし、そもそもどういう原理でそうなっているのかもわからない。ジールのことだから、安全面は大丈夫だと思うが………。グート様も目を見開いて、アースに生えた木のことを見ている。
「えーと、急に変なことをしてしまって申し訳ないッス。これは寄生植物の一種で、魔樹の一種でもあるラジュラの木っス。この木は寄生主の魔力で発芽し、その後は木の枝を伸ばして他所から魔力を吸収して、寄生主に流すという習性があるッス。最初は発芽するために寄生主から魔力を吸い取る必要があるッスけど、その後はまるで発芽のお礼をするかのように寄生主に魔力を供給し続けるッス。」
………いや、もはや何も言うことができないけど、とにかくすごいな。初学院生で魔力の譲渡ができることも驚きだし、それをできる能力や魔力量がすごい。
「ジールには感謝してもしきれないな。」
「はっ。万能とは都合のいい言葉だな。所詮は、最強にはなれない器用貧乏なやつに使う言葉だ。」
せっかくのいい雰囲気に、あの角野郎はこの場に水を刺すような言葉を大声で言い放った。
こいつに助けられたのは事実だ。感謝もしている。だけど、そろそろ殴り飛ばさないと気がすまなくなってきた。
「……それはそうッスね。だけど、俺が最強じゃなくてもそれでいいんッスよ。俺達にはアースがいるッスからね。あなたの主は、間違いなく最強ッスよ。それでももちろん、俺は2番手止まりに甘んじずに、研鑽を続けていくッスよ。」
ジールは、アースの腹から生えている木の枝を掴み、魔力を流しながらそう言った。
……ジールは強いな。俺たちもジールに続いて、枝を掴んで魔力を流した。
「……お前らは、誰も彼も気持ちが悪いなぁ。人の心配ばかりしてやがる。」
そいつはそう言うと、いまいましそうにしながら、どこかへと姿を消した。
174
お気に入りに追加
3,571
あなたにおすすめの小説
悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
▼毎日18時投稿予定
チャラ男会計目指しました
岬ゆづ
BL
編入試験の時に出会った、あの人のタイプの人になれるように…………
――――――それを目指して1年3ヶ月
英華学園に高等部から編入した齋木 葵《サイキ アオイ 》は念願のチャラ男会計になれた
意中の相手に好きになってもらうためにチャラ男会計を目指した素は真面目で素直な主人公が王道学園でがんばる話です。
※この小説はBL小説です。
苦手な方は見ないようにお願いします。
※コメントでの誹謗中傷はお控えください。
初執筆初投稿のため、至らない点が多いと思いますが、よろしくお願いします。
他サイトにも掲載しています。
突然異世界転移させられたと思ったら騎士に拾われて執事にされて愛されています
ブラフ
BL
学校からの帰宅中、突然マンホールが光って知らない場所にいた神田伊織は森の中を彷徨っていた
魔獣に襲われ通りかかった騎士に助けてもらったところ、なぜだか騎士にいたく気に入られて屋敷に連れて帰られて執事となった。
そこまではよかったがなぜだか騎士に別の意味で気に入られていたのだった。
だがその騎士にも秘密があった―――。
その秘密を知り、伊織はどう決断していくのか。
人生イージーモードになるはずだった俺!!
抹茶ごはん
BL
平凡な容姿にろくでもない人生を歩み事故死した俺。
前世の記憶を持ったまま転生し、なんと金持ちイケメンのお坊ちゃまになった!!
これはもう人生イージーモード一直線、前世のような思いはするまいと日々邁進するのだが…。
何故か男にばかりモテまくり、厄介な事件には巻き込まれ!?
本作は現実のあらゆる人物、団体、思想及び事件等に関係ございません。あくまでファンタジーとしてお楽しみください。
悪役側のモブになっても推しを拝みたい。【完結】
瑳来
BL
大学生でホストでオタクの如月杏樹はホストの仕事をした帰り道、自分のお客に刺されてしまう。
そして、気がついたら自分の夢中になっていたBLゲームのモブキャラになっていた!
……ま、推しを拝めるからいっか! てな感じで、ほのぼのと生きていこうと心に決めたのであった。
ウィル様のおまけにて完結致しました。
長い間お付き合い頂きありがとうございました!
名前のない脇役で異世界召喚~頼む、脇役の僕を巻き込まないでくれ~
沖田さくら
BL
仕事帰り、ラノベでよく見る異世界召喚に遭遇。
巻き込まれない様、召喚される予定?らしき青年とそんな青年の救出を試みる高校生を傍観していた八乙女昌斗だが。
予想だにしない事態が起きてしまう
巻き込まれ召喚に巻き込まれ、ラノベでも登場しないポジションで異世界転移。
”召喚された美青年リーマン”
”人助けをしようとして召喚に巻き込まれた高校生”
じゃあ、何もせず巻き込まれた僕は”なに”?
名前のない脇役にも居場所はあるのか。
捻くれ主人公が異世界転移をきっかけに様々な”経験”と”感情”を知っていく物語。
「頼むから脇役の僕を巻き込まないでくれ!」
ーーーーーー・ーーーーーー
小説家になろう!でも更新中!
早めにお話を読みたい方は、是非其方に見に来て下さい!
結婚式当日に「ちょっと待った」されたので、転生特典(執事)と旅に出たい
オオトリ
BL
とある教会で、今日一組の若い男女が結婚式を挙げようとしていた。
今、まさに新郎新婦が手を取り合おうとしたその時―――
「ちょっと待ったー!」
乱入者の声が響き渡った。
これは、とある事情で異世界転生した主人公が、結婚式当日に「ちょっと待った」されたので、
白米を求めて 俺TUEEEEせずに、執事TUEEEEな旅に出たい
そんなお話
※主人公は当初女性と婚約しています(タイトルの通り)
※主人公ではない部分で、男女の恋愛がお話に絡んでくることがあります
※BLは読むことも初心者の作者の初作品なので、タグ付けなど必要があれば教えてください
※完結しておりますが、今後番外編及び小話、続編をいずれ追加して参りたいと思っています
※小説家になろうさんでも同時公開中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる