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第二章 初学院編

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「キルの好きな人のタイプを教えてもらえない俺の方が、不公平だと思うけど? ということで………」



俺は素早い動きで、キルの両脇に手を差し込んだ。その瞬間、キルは体をビクッと震わせて丸まってしまった。

やばい、反応がツボすぎる。脇はまごうことなき、俺のフェチの一つである。他には腹筋とか萎えチ………などあるけれど。俺はゆっくりと人差し指だけを動かした。



「くっ! あ、やめっ! あははは、やめっ! 話す、話すから! あはははは、やめっ、くぁ!」


やばい、かわいすぎるな………。笑い声を耐えようとしているけど、漏れてしまっている。俺の手をはさんでいるキルの腕の筋肉質な感じもたまらない。このまま中指も動かしてみようかな………。俺はキルの声を聞こえないふりをして、中指も動かした。



「うぁ! やめ、無理だって………あはははははは! 話す、話すって! くっ! 聞けよ、アース!」



それにしても、キルは逃げようとしたり、俺の手を振り払おうとしたりしないな。もしかして、意外にも好きにさせてくれているのだろうか? よし、すべての指を動かそう。俺は一気に全部の指を動かした。



「くっ! アース!!」



すると、キルはもう耐えられないとばかりに俺の両腕を脇から引き抜いて、俺の両腕を俺の頭の上に固定し、俺の上にまたがった。そして、片手を俺の無防備な脇に置いた。



「はぁはぁ、アースよくもやってくれたな………。はぁはぁ、俺は騎士だ。こういう風に、一方的にアースをくすぐり倒すことだってできるんだぞ?」


キルはそういうと、俺のわきに添えていた手をバラバラと動かし始めた。俺だって、脇は弱いんだ。そんなに動かされたら………。



「うははははは! ごめん、ごめんなさい! やめ、やめ………反省してるから!」



俺が必死でそう言うと、キルはいったん手を止めてくれた。



「ごめん、俺もついやりすぎちゃって………。キルの反応がその、面白くて止められなかったんだ、ごめん………。」


「はー………。今回だけは、条件を呑めば許してやるよ。次やったら、すぐに反撃するからな。………人前では絶対にやるなよな。」


「うっ………わかりました。人前でなければ、スキンシップとしてはいいということ?」


俺がそういうと、キルは貴族スマイルで俺を見つめて、再び俺の脇に添えている手に力を入れ始めた。



「………懲りないな。こういう風に、一方的に反撃される覚悟があるならやってもいいぞ? もう一度確認してみるか?」


「わ、わかりました! 気を付けます! ………ちなみに、条件とは何かな?」



ここで、絶対にもうしませんと言わないことがミソだ。身体能力で組み敷かれる可能性があるけど、スキンシップとしての可能性を残しておきたい。



「許す条件は、今晩俺の暖房器具になることだ。」


「………意味がよくわからないのだけど、俺がキルを温めればいいということ?」



俺がそういうと、キルは俺に反対側を向くように指示した。俺が言われたとおりに反対側を向くと、後ろからキルが密着してきた。

うん? これはバックハグというやつだろうか………まて、密着しすぎではないだろうか? 先ほどはつい我を忘れてじゃれてしまったけど、冷静にこれは心臓が痛いくらいドキドキしている。


「………キル、これでいいの? 合ってる?」


「ああ、合ってる。アースも温かいだろ? ………そういえば後ろからでも、脇を一方的に触りやすいな。」



キルは楽し気な声でそう言った。うっ………完全に面白がっている。自分の欲望に屈して、キルのわきを触ってしまったことが悔やまれる。



「………反省してますので、許してください。」


「あはははは! 悪い悪い、意地悪するつもりはないんだ。そういえば、俺の好きな人のタイプの話だったな。俺は、俺自身が尊敬できると思った人がタイプだ。」



尊敬できる人か………これはまたイメージしづらいタイプ像だな。キルには気になっている人がいるようだし、その人にはキル自身が尊敬できると思ったポイントがあるんだろうな。



「なるほどね、教えてくれてありがとう。俺の周りには尊敬できる人がたくさんいるみたいだ。側近のみんなも尊敬できる点がたくさんあるよね。」


「そうだな、俺はいい人たちに恵まれている。」



今日はキルのことをたくさん知ることができて、総じて良かったな。気になっている人がいることには少しチクッとしたけど、これで将来の身の振り方についての踏ん切りがつくというものだ。


………あれ、少し気になることがあるんだけど、俺の腿付近に当たっているこの温かくて柔らかいものはいったい何だろうか………? 位置的にはキルの下半身で………いやぁぁぁぁぁぁ! まさか、俺の腿に当たっているのって、キルのキル自身では………。俺は頭を抱えたいのを必死に我慢して、プルプルと震えてしまった。



「おい、あんまり動くなよ。くすぐってーだろ。」



どこがーーー!?



「だから、あまり頭を動かすな。アースの髪がくすぐったいんだ。」


あ、よかったそっちね。下の方がくすぐったいとか言われたら、鼻血どころの騒ぎではなかった。とにかく、気を紛らわすために何か別の話題を………そうだ、お昼のBBQの話を聞こう!


「ごめん………。そういえばキル、今日のお昼はどんな感じだっ………」


俺がそういう途中で、キルは俺の頭に手を置いた。


「アース、もう寝よう。その話は明日の朝練中に話すから。………少し夜更かしをしすぎたからな。」



夜更かしと言うほどの時間でもないと思うけど………俺もいっぱいいっぱいだしここはキルの提案に乗っておこう。



「そうだね、明日のために今日は早く寝ようか。今日はたくさん話せて楽しかったよ。明日もよろしくね。」


「ああ、俺の方こそ楽しかった。おやすみ。」



そうして俺は、何とか眠れるように努力した。








――








朝、俺はすでに目が覚めていた。というか、ほとんど眠れなかったという方が正しい。好きな人に抱きしめられて、さらに大事なところが当たっている感触があるにもかかわらず、眠れるわけがないのだ。キルの寝息を感じながら、俺は悶々をした一晩を過ごした。それにしても、キルはやっぱり寝られたんだな。俺のことを抱き枕くらいにしか思っていないのだろう。若干チクッときたので、キルの寝顔を見ることで相殺しようか。俺は少しずつ体を動かして、キルの寝顔を見ようとした。しかし、キルが俺の頭の上に手を置いた。



「………アース、何かいたずらをしようとしているのか?」



あれ、さっきまで寝ていたよね? 俺はゆっくりと動いたので、気づかれることはほとんどないはずだ。



「た、ただ起きているのか確認しようとしただけだよ! キルの方こそ、さっきまで寝ていたよね?」


「俺は王族だから、無防備な就寝中に襲われる可能性がある。だから、何か気配が動いたら起きられるように、昔から訓練されていてるんだ。」



なるほど………理由はわかるけれど、それだと熟睡したことがないということではないだろうか? しっかりと、疲れがとれていればいいのだけど………。



「ちゃんと疲れはとれてるの? 日中、俺たち側近がキルを護衛しながら、安全の中で寝るというはどう?」


「申し出はありがたいが、気が散って多分寝れないな。これでもしっかりと、疲れはとれるから大丈夫だ。………俺よりも、アースの方が疲れていないか? ちゃんと寝られたのか?」



いや、寝られなかったのですよ………。いろいろ気になりすぎて寝られなかったよ。特に、キルのキルが柔らかくて温かくて………やばい、顔が赤くなりそうだ。


「あ、あんまり寝れなかったんだ! ………その、ハムスター………ネズミが気になって寝れなかったんだ!」




うがーーー! テンパりすぎて、キルのキルをネズミに例えてしまった………。まあ、柔らかくて温かいという点では、似ているのかもしれない。



「………ネズミだと? このホテルに出るはずはないが、本当に見たのか? 俺は見たことがないが、本では見たことがある。あの、全身が毛で覆われている小動物だろ?」



「………はーーー!? もう毛が生えてるの!?」


「何の話をしてるんだよ!!」



八歳だよ、八歳! 早い子なら生えているのかもしれないけど、キルにすでに生えていると思うと………。いや、ネズミの話だよね、ネズミ!

寝ていないせいで、頭がおかしくなっているようだ。朝シャンをして、目を覚ますことにしよう。

「ご、ごめん! 少し寝ぼけているみたいだから、シャワーを浴びて目を覚ましてくるね!」




俺は素早い動きでベッドから這い出て、急いでお風呂場へと向かった。はー、色々とリセットしたいので、熱いシャワーを浴びたい………。


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