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第二章 初学院編
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俺がシャワーから上がると、キルは俺を訝しみながらもお風呂場へと向かっていった。朝っぱらから、「毛が生えた」というパワーワードを聞いたのだから、訝しんでも仕方がない。ただ幸いなことに、シャワーを浴びたことによって頭は冷えたので、通常運転に戻ることができそうだ。
キルの準備が整うと、部屋のドアがノックされた。ホテルの中と言えどキルは側近無しに移動するわけにはいかないから、側近のみんなが迎えに来てくれることになっている。
「おはようッスーって、寒い! 何で、暖房付けてないんッスか!?」
うん、寒いよね………。昨日の夜から暖房がついていないから、朝方の冷え込みも相まって結構寒いのだ。
「魔道具の調子が悪いみたいなんだ。ホテルの従業員に言って、今夜までに直してもらえるといいが………。」
「そういうことなら、皆が朝練している間に俺が行ってきますよ。」
「悪いな、ローウェル。よろしく頼む。」
キルがそういうと、ローウェルはさっそく向かおうとしたが、俺は少し話があるのでローウェルを止めた。そして、キースにも話があることを伝えた。
「まずはキース、今晩マッサージとストレッチを行うから俺たちの部屋に来てもらえる? 俺がキースの部屋に行ってもいいけど、キルもまとめてやっちゃいたいからさ。」
俺がそういうと、キースはあからさまに面倒くさそうな顔をした。あーこれは、難癖付けて回避しようとする前兆だな。その時はキースを無理やり捕獲するまでだ。
「………俺には必要ない。怪我をしたら、回復を受ければいいだけだ。」
………またそれか。回復魔法は毒にも薬にもなるようだ。この危険思想は、誰由来のものだろうか? 騎士団長の場合は、今度一発魔法を打ちこみたい所存だ。俺の怒りが笑顔となって表れていることに気づいたのか、キルが間に入ってキースを説得し始めた。昨日俺が言ったように、戦闘中の怪我のリスクや体が柔らかくなり戦闘に幅が出ることなどを説明していた。すると少しだけ気持ちが動いたのか、それとも主のキルに言われたのかはわからないが、少しだけ表情が明るくなった。しかし了承の言質がまだとれていないので、少しだけ圧力をかけることにしよう。
「キース、逃げるなら俺の全魔力をもって捕獲するからそのつもりで。………別に怪我したって治せばいいという、回復魔法便りの思考に腹を立てているわけではないからね?」
俺が貴族スマイルでそう言うと、全員が若干引いた気がしたけどなぜだろうか? おそらく、俺の貴族スマイルのレベルが上がっているのだろう。
「キ、キース! ここは素直にアースの言うことを聞くッスよ! キースにとってもメリットしかない話ッスからね。………それに、アースの全魔力をかけて捕獲するという意味は、このホテルを氷漬けにして逃げ道をすべてなくして、逃げ惑う身体を氷漬けにしてさらに、冷水で低体温にして意識を混濁させるという意味ッスよ! 大人しく従う方が身のためッス………。」
うん? いったい誰の話をしているのだろうか? そんな恐ろしいこと俺にはできそうもないし、なにより俺がそんなことをしでかすような人間に見られていると認めたくはない。
「あはははは………。ジールってば大げさだよ。今年魔法を習い始めた俺に、そんなことはできないよ。」
「それくらいのことができるほどの魔力をアースは持っているという話っスよ。加えて、魔法実技の授業の時、魔導士を何人か氷漬けにしていたじゃないッスか。」
うっ………それを言われると何も言い返せないな。軽い感じで全魔力をもってと言ってしまったけど、これからは使い方を考えなければ大惨事になりそうだ。ただ使いどころを間違えなければ、いい脅しにはなりそうだ。
「………わかった。このホテルを氷漬けにされるのは俺も本望ではない。大人しくアースの言うとおりにする。」
「う、うん。よろしくお願いするよ。」
釈然としないけど、キースにもストレッチを毎日やってもらって、けが予防をしてもらえると考えるとこれで良しとできるかな。
「キースの話は終わったようだな。それじゃあアース、俺にも用があるんだろ?」
ローウェルはどこか余裕そうな顔でそう言った。俺が何を言いたいのか大体わかっているようだ。俺が言いたいこととはそう、キルに泊りと言えば恋バナだということを吹き込んだ件についてだ。ローウェルのおかげで、色々とまずかったし、寝不足なのもローウェルのせいだ。
「うん、話したいことがあるから少し席をはずそうか。………来てくれるよね?」
「ああ、もちろんだぜ。」
――
席を外すと言ってもあまり離れすぎるのはよくないので、部屋の隅の方にローウェルを引っ張ってきた。
「さてローウェル、キルに泊りの定番は恋バナだと吹き込んだのはなぜかな? 俺たちの合宿の時、直接はそういう話をしなかったと思うけど?」
「うーん、簡単に言うと………面白そうだったから?」
はい………? まだ泊りをしたことがなかった純情なキルに、変なことを吹き込んだ罪は重い。まあ確かに、泊りの定番は恋バナだということには一理あるけど、少し早いと思う。
「面白いからって、まったく………。他の場所で、キルが泊りの定番は恋バナだと言って、そこかしこで好きな人や好きな人のタイプを言いふらしたらどうするんだよ。王族のキルのその手の情報は広まっちゃいけないでしょ?」
「それはわかってるさ。アースが泊りの相手だから言ったんだ、一応人は選んでいるつもりだ。それに………楽しかっただろ?」
ローウェルは楽しそうな表情でそう言った。………ムカつくけど、楽しかったのは事実だ。よし、ローウェルの好きな人のタイプを教えてもらってこの件は終わりにしよう。
「まあ、楽しかったよ………。なんか釈然としないから、ローウェルの好きな人のタイプを教えてよ。」
「俺の好きなタイプか? ………もちろん秘密だ。」
ローウェルは俺の頭の上に手を置いてそういうと、話は終わりだと言わんばかりに部屋を出ていった。今日の夜、ローウェルを捕獲して聞き出すのも悪くないな………。
その後俺たちは、朝練へと繰り出していった。どこにも向かうことのないこのモヤモヤを、魔法をぶっ放すことでいくらか沈めたのであった。
残りの林間学校では、レクなどの様々な催しがあって、寝不足ではあったけど非常に楽しかった。その日もキルと相部屋ではあったけど、眠気の方が勝っていつの間にか寝入ってしまった。いろいろあったけど、とても楽しい行事だった。
キルの準備が整うと、部屋のドアがノックされた。ホテルの中と言えどキルは側近無しに移動するわけにはいかないから、側近のみんなが迎えに来てくれることになっている。
「おはようッスーって、寒い! 何で、暖房付けてないんッスか!?」
うん、寒いよね………。昨日の夜から暖房がついていないから、朝方の冷え込みも相まって結構寒いのだ。
「魔道具の調子が悪いみたいなんだ。ホテルの従業員に言って、今夜までに直してもらえるといいが………。」
「そういうことなら、皆が朝練している間に俺が行ってきますよ。」
「悪いな、ローウェル。よろしく頼む。」
キルがそういうと、ローウェルはさっそく向かおうとしたが、俺は少し話があるのでローウェルを止めた。そして、キースにも話があることを伝えた。
「まずはキース、今晩マッサージとストレッチを行うから俺たちの部屋に来てもらえる? 俺がキースの部屋に行ってもいいけど、キルもまとめてやっちゃいたいからさ。」
俺がそういうと、キースはあからさまに面倒くさそうな顔をした。あーこれは、難癖付けて回避しようとする前兆だな。その時はキースを無理やり捕獲するまでだ。
「………俺には必要ない。怪我をしたら、回復を受ければいいだけだ。」
………またそれか。回復魔法は毒にも薬にもなるようだ。この危険思想は、誰由来のものだろうか? 騎士団長の場合は、今度一発魔法を打ちこみたい所存だ。俺の怒りが笑顔となって表れていることに気づいたのか、キルが間に入ってキースを説得し始めた。昨日俺が言ったように、戦闘中の怪我のリスクや体が柔らかくなり戦闘に幅が出ることなどを説明していた。すると少しだけ気持ちが動いたのか、それとも主のキルに言われたのかはわからないが、少しだけ表情が明るくなった。しかし了承の言質がまだとれていないので、少しだけ圧力をかけることにしよう。
「キース、逃げるなら俺の全魔力をもって捕獲するからそのつもりで。………別に怪我したって治せばいいという、回復魔法便りの思考に腹を立てているわけではないからね?」
俺が貴族スマイルでそう言うと、全員が若干引いた気がしたけどなぜだろうか? おそらく、俺の貴族スマイルのレベルが上がっているのだろう。
「キ、キース! ここは素直にアースの言うことを聞くッスよ! キースにとってもメリットしかない話ッスからね。………それに、アースの全魔力をかけて捕獲するという意味は、このホテルを氷漬けにして逃げ道をすべてなくして、逃げ惑う身体を氷漬けにしてさらに、冷水で低体温にして意識を混濁させるという意味ッスよ! 大人しく従う方が身のためッス………。」
うん? いったい誰の話をしているのだろうか? そんな恐ろしいこと俺にはできそうもないし、なにより俺がそんなことをしでかすような人間に見られていると認めたくはない。
「あはははは………。ジールってば大げさだよ。今年魔法を習い始めた俺に、そんなことはできないよ。」
「それくらいのことができるほどの魔力をアースは持っているという話っスよ。加えて、魔法実技の授業の時、魔導士を何人か氷漬けにしていたじゃないッスか。」
うっ………それを言われると何も言い返せないな。軽い感じで全魔力をもってと言ってしまったけど、これからは使い方を考えなければ大惨事になりそうだ。ただ使いどころを間違えなければ、いい脅しにはなりそうだ。
「………わかった。このホテルを氷漬けにされるのは俺も本望ではない。大人しくアースの言うとおりにする。」
「う、うん。よろしくお願いするよ。」
釈然としないけど、キースにもストレッチを毎日やってもらって、けが予防をしてもらえると考えるとこれで良しとできるかな。
「キースの話は終わったようだな。それじゃあアース、俺にも用があるんだろ?」
ローウェルはどこか余裕そうな顔でそう言った。俺が何を言いたいのか大体わかっているようだ。俺が言いたいこととはそう、キルに泊りと言えば恋バナだということを吹き込んだ件についてだ。ローウェルのおかげで、色々とまずかったし、寝不足なのもローウェルのせいだ。
「うん、話したいことがあるから少し席をはずそうか。………来てくれるよね?」
「ああ、もちろんだぜ。」
――
席を外すと言ってもあまり離れすぎるのはよくないので、部屋の隅の方にローウェルを引っ張ってきた。
「さてローウェル、キルに泊りの定番は恋バナだと吹き込んだのはなぜかな? 俺たちの合宿の時、直接はそういう話をしなかったと思うけど?」
「うーん、簡単に言うと………面白そうだったから?」
はい………? まだ泊りをしたことがなかった純情なキルに、変なことを吹き込んだ罪は重い。まあ確かに、泊りの定番は恋バナだということには一理あるけど、少し早いと思う。
「面白いからって、まったく………。他の場所で、キルが泊りの定番は恋バナだと言って、そこかしこで好きな人や好きな人のタイプを言いふらしたらどうするんだよ。王族のキルのその手の情報は広まっちゃいけないでしょ?」
「それはわかってるさ。アースが泊りの相手だから言ったんだ、一応人は選んでいるつもりだ。それに………楽しかっただろ?」
ローウェルは楽しそうな表情でそう言った。………ムカつくけど、楽しかったのは事実だ。よし、ローウェルの好きな人のタイプを教えてもらってこの件は終わりにしよう。
「まあ、楽しかったよ………。なんか釈然としないから、ローウェルの好きな人のタイプを教えてよ。」
「俺の好きなタイプか? ………もちろん秘密だ。」
ローウェルは俺の頭の上に手を置いてそういうと、話は終わりだと言わんばかりに部屋を出ていった。今日の夜、ローウェルを捕獲して聞き出すのも悪くないな………。
その後俺たちは、朝練へと繰り出していった。どこにも向かうことのないこのモヤモヤを、魔法をぶっ放すことでいくらか沈めたのであった。
残りの林間学校では、レクなどの様々な催しがあって、寝不足ではあったけど非常に楽しかった。その日もキルと相部屋ではあったけど、眠気の方が勝っていつの間にか寝入ってしまった。いろいろあったけど、とても楽しい行事だった。
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