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第二章 初学院編

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「おはよう、キル、みんな。見てくれよ! いっぱいお見舞いもらったよ! この学院の人は、皆優しいね。」


「おはよう、アース。ああ、まあ………優しいな。体調はもう大丈夫か?」


「もう大丈夫だよ。魔法実技の授業が楽しみすぎて、朝早く来ちゃったよ。そういえばジール、魔法実技の授業も魔導士団長くらいすごい人が来るの? 確か魔導士団長の名前は、サール・バルザンスさんだったね。ジールの父上だと思っていたけど、合ってる?」



ジールはお菓子を夢中になってみていたけど、俺がそういうと顔を上げた。一人では食べきれなさそうだし、ジールにあげよう。俺は、ジールがみていたお菓子を差し出した。



「あ………、ありがとうッス。魔導士団長の話っスよね。そのサールは、俺の兄上ッスよ。兄上が成人すると同時に父上が兄上に席を譲ったッス。父上もすごい魔導士ッスけど、それ以上に外交が得意ということで、今は外務大臣を仰せつかっているッスよ。」


成人してすぐ魔導士団長だと!? この国での成人は十八歳だから、そんな若さから団長をしているのか。それにしても、ジールと年が離れすぎではないだろうか? まあ、貴族は早くに結婚するし、いつまでたっても若々しいからハッスルすれば可能と言えば可能か………。それから、ジールも弟だったのか。これでローウェルにも兄がいたら、俺たちは弟軍団だな。


「ジールの兄上はすごく優秀なんだね。あと、気になったんだけど、もしかしてローウェルにもお兄さんがいる? それなら俺たちは、弟ばかりになるね。」



俺がそういうと、ローウェルは面白そうに頬を上げた。


「ただの弟じゃないぜ。俺たちは全員次男だ。何の運命か、俺たちは全員次男なんだよ! 加えて、全員の兄は優秀ときた。その兄と比べられる俺たちは、その辛さを共有できるという強みを持っている。まあ、アースは比べられてはいないと思うけどな。」



なんと、全員が次男だったとは驚きだ。まあ、言われてみると全員性格は違うようだけど、「長男」という感じではないよな。どこか似たような雰囲気を感じるのは、同じ次男という生き物だったからなのか。確かに俺は兄上と比べられたことはまだないけど、皆色々と経験しているんだろうな………。俺は温かい目でみんなを見つめた。



「「「「その顔はやめろ(ッス)!」」」」










――









それから、午前の授業そして昼休みを経て、ようやく魔法実技の時間がやってきた。俺たちは張り切って、魔法訓練場へとやってきた。訓練場には昨日の剣術の授業と同様に、多くの魔導士団員が待機していた。これは先ほど聞いたのだけど、ジールの兄のサール様の世代を最後に、アーキウェル王国の魔導士の質は下がっているらしい。騎士は兄上たちの世代が頭角を現しているが、魔導士はめぼしい人材が現れていないため、騎士よりも状況が逼迫しているのだ。



「君がアース・ジーマル君だね! 俺は君に会えることを楽しみにしていたんだよ!」



突然声がしたかと思ったら、肩を掴まれた。え、誰? 

振り返ると、緑の髪に金色の目をもった青年………いや、少年か? 背は平均ほどあるが顔が童顔すぎる。だけど、かっこかわいい。うん? かっこかわいいといえばジールも同じような感じだけど、もしかして………。



「兄上、急に転移をつかったらダメっスよ! 慣れてない人は驚いてしまうッスからね。」


あーやっぱり。髪の色がそっくりだし、顔もジールが成長したらこんな感じになるんだろうなと思えてくる。彼がジールの兄で魔導士団長のサール・バルサンスだ。



「やあ、ジール。相変わらずかわいいね。そのまま成長しないでくれると嬉しいな。」



「いやッスよ! というかアースにちゃんと自己紹介をしてくださいッス!」



そのまま成長しないでくれると嬉しいとか、一種の変態だろうか? もしかしてこの人も、重度のブラコンなのだろうか?



「そうだね、アース君! 始めまして、サール・バルザンスです! 昨日騎士団長殿にこき使われたと聞いたけど大丈夫そうだね。でも、たしかに貧弱そうだね。だけど………そこがいいと思うよ!」


騎士団長殿はものすごい風評被害に遭っているのではないだろうか? 来週顔を合わせるのが億劫である。それにしても貧弱そうなところがいいとは、どういうことだろうか?



「お初にお目にかかります。アース・ジーマルと申します。その件については、ほとんどデマ情報なのでできれば忘れていただければ幸いです。魔導士団長殿とジールは、とても仲がよろしいのですね。」



「サールでいいよ。そうだね、俺とジールはとても仲良しだ。それから弟だけではなく、俺は幼い子が大好きなのさ!」



その瞬間、場が一瞬凍り付いた。公然と幼い子が大好きだと言う人が存在するんだな。ジールは珍しく、笑顔を失っている。


「サール様、そこは「幼い子」ではなく「幼そうな顔に見える人」の方がよろしいのではないでしょうか?」



「あー、アース? まじめに返さなくていいッスよ。兄上は基本いい人なんッスけど、ちょっと変………個性的なんッスよ。だけど、魔導士としての実力は確かなので安心してくださいッス!」



一瞬、「変」と聞こえた気がしたけどまあ個性的と受け取っておこう。それにしても、この世界の「兄」という生き物は、個性が強くなければいけないという決まりでもあるのだろうか? 今のところまともな兄と言えば、アルフォンスさんくらいしか出会っていない。


「うん、ジールがそういうなら………。ところで、転移ってさっき言った? 全然気がつかなかったけど、すごい魔法だね。」


「そうッスね。この国で使えるのは祖父上と兄上だけッスよ。空間の無属性の適性がないと使えないんッスよ。」



転移とか、ものすごくかっこいいじゃん! なんか魔法の中でも特に異世界っぽいよな! いいな、転移が使えたらものすごく快適な生活ができそうだ。

俺が転移の可能性について浸っていると、さっきまで別の世界に行っていたサール様が、こちら側に帰ってきたようだった。



「君も充分すごいじゃないか! 俺達には指導に当たる生徒の個人情報の閲覧が許可されているんだけど、君のステータスを見たときは驚いたね。俺は幼い子も好きだけど、それと同じくらい魔導士の原石も好きなんだ。ということで、アース君。君とジールは僕が見るからね。大丈夫安心して。騎士団長殿のように、筋トレさせたり走らせたりはしないから。ただちょっと、二人が頑張る姿を間近で見させてもらうね。」



最後の一文が気になったけど、まあみられるだけなら問題ないか。イケメンに見られていると思って、流してしまおう。それに、サール様が教えてくださるなんて贅沢すぎる。この機会をしっかりと大事にしよう。

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