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3羽 師と弟子の星瞬く夜話

3羽 師と弟子の星瞬く夜話

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ベルク村で”贅沢チョコレートパフェ”を二人で食べた日の夜──。
銀色狼と空駒鳥の二人は、宿の一室で”贅沢チョコレートパフェ”の半分を食べた口直しにと銀色狼が要求した空駒鳥の手首を拘束してのプレイの最中だった。
空駒鳥ことリーネは両手首を痛めないように柔らかいロープで縛られた上、更に腕を上げた状態でベッドボードの柵に括り付けられており、一切の上半身の抵抗を奪われていた。
銀色狼ライキの舌が彼女の白くてなだらかな双丘を這い登り、頂の薄紅色の蕾をチュッと音を立てて吸う。
「ひゃああっ♡♥❣」
リーネが耳まで赤く染めて、身体をくねらせて甘い声をあげた。
同時に手でもその可愛い乳房を潰したり捏ねたりして弄ぶと、彼女は涙を浮かべていつもよりも甘く大きな声を出してよがる。
「あっ・・・はあっ…♡
あっ!・・・ダメぇ、こんなのっ・・・♥」
「いつもよりもいい反応♡
俺に縛られてこんなに喜ぶだなんて、やっぱりリーネは変態ドMだな・・・♥」
ライキは背筋をゾクゾクさせながら敢えてリーネを煽るような言葉を吐いた。
「ち、違うもん・・・!
ライキが凄くエッチな顔してるからぁ・・・
それに充てられただけだもん・・・!」
リーネは少し眉を吊り上げて空色の瞳を涙で滲ませながら抗議した。
ライキは銀のまつ毛を伏せて口角を上げながら、
「そんなこと言って、媚薬を使ったときみたいにぬるぬるにしてるくせに♡
ほら・・・♥」
と言ってリーネのパンツに手を突っ込んでわざと聴こえるように音を立てて彼女の濡れた蜜の溢れる泉周辺を掻き混ぜた。
ぴちゃ・・・くちゅ・・・いやらしい水音が狭い部屋にやけに響く。
「あっ・・・ああっ・・・音っ・・・やだぁっ・・・♥
ライキ・・・ライキぃ・・・♡」
リーネが彼による刺激を良いところに欲しがって腰を浮かせる。
ライキはそれを察してわざとクリトリスを避けるかのように指を動かして焦らす。
「・・・ライキ・・・意地悪しないで・・・?
も、もう私っ・・・」
リーネが堪らず頭を振る。
「ん?
どうしたんだ?」
だがライキはわざと空惚そらとぼける。
「お、お願い・・・・・
もう我慢できないの・・・・・!」
リーネは内股をモジモジと擦り合わせた。
「何を我慢出来ないんだ?
ちゃんと言ってくれないとわからないな。」
ライキは膣口をクリクリと指で弄りながら微笑み尋ねた。
「うっ・・・・・
ライキの・・・お、おちんちんでっ・・・私の恥ずかしいところ・・・を・・・いっぱい擦って欲しいのっ♡♥❣」
リーネは目を回しそうなくらい真っ赤になって涙をぽろぽろと溢れさせながら振り絞るように言った。
「・・・よく言った!
偉いぞリーネ!」
ライキはゴクッと生唾を飲むと、素早くリーネのパンツを抜き取って足を開かせた。
そして、その濡れそぼった花弁に自らの竿を挟み込んで愛液をたっぷりと絡めてから、そのまま花弁に裏側を擦りつけ上下し始めた。
その際、彼女の欲しがっていたクリトリスへの甘い刺激を、鈴口と裏スジを擦りつけてしっかりと与えてやる。
ぬるぬるになったペニスでクリトリスを擦られて、リーネは堪らず高くて甘い声を上げた。
「ひあぅんv♡❣
あっ♡あっ、あっ・・・気持ちいいよぉ・・・♥
ライキ・・・好き・・・好きぃ・・・♥
ライキっ・・・♡♥」
「くっ・・・あっ♡・・・リーネ・・・♥
俺もっ・・・最高に、気持ちいいっ・・・♥
っあ・・・うあっ・・・マジ大好き・・・♥
あっ・・・ああっ♥」
ライキは身も心も気持ち良すぎて、堪らず彼女の太ももを甘噛みする。
「ひあっ・・・♥!!」
そんな刺激でさえも、今のリーネには快楽に結びついてしまい、リーネは一際甘い声を上げた。
ギシッ・・・ギシッ・・・ギシッ、ギシッ、ギッギッギッギッ・・・
ベッドが軋み、その音も段々と激しく短い間隔になっていく。
はあっ・・・クチュ・・・はあっ・・・ぴちゃっ・・・
二人の吐息が何度も溶け合い、艶めかしい水音が響く。
「はあっ・・・はあっ・・・俺のっ・・・俺だけのリーネ・・・
あっ・・・くっ・・・も、もう出る・・・・・!
はっ、はっ、はっ、リーネ!
はっ、はっ、はあっ・・・・・リーネ!!
・・・・・っうっ・・・・・!!」
「あっあっあうっあっああっ・・・・・♥
私もっ・・・もうイっちゃう・・・♡
イっちゃうよぉ♥
あっあっあっあっ・・・
あああああああぁ~~~~~❥❥❥」
二人は同時に果て、ライキは荒い息をつきながらリーネの白い胸に大量の精液を開放した。
リーネはあまりの快楽の強さに果てると同時に失神してしまい、涎を垂らしたままガクンと力を失った。
リーネの手首がベッドボードの柵に固定されていたため、ベッドも荷物と認識されてベッドごと身体が透けて空に浮かんでいく──。

「あっ・・・やべっ・・・!
ベッドまで空についてきた・・・。
これ、戻ったときにドスン!とでかい音が立ったりしないかな・・・?」
とライキがくたっとなったリーネを抱きしめながら冷や汗をかいて独り呟いた。
興奮状態から冷めた頭でその状況を見れば、リーネの手首を拘束したままなのが痛々しくて、すぐに解いてやろうと手を伸ばすが、ロープを解いた瞬間にベッドが荷物と認識されなくなって、上空30mから落下し真下の宿の屋根が破壊されてしまうところを想像して青くなり、そっとその手を引っ込めた。
すると、空から聴き覚えのある低く穏やかな、だが笑いを堪え震えた声が降ってきた。
「プッ・・・くっ・・・・・・!
後先考えずに拘束プレイに勤しむとは・・・貴方らしくもない・・・!」
「・・・・し・・・師匠・・・見てたんですね・・・。」
ライキは師に先程までの行為を見られていたことを実感し、ぷしゅううぅ・・・と湯気を上げて真っ赤になり俯いた。
「こんばんは。
ネーザ村ではナイトメア騒動の円満解決、お見事でしたね。」
ライキは師の挨拶にまだ少し熱のこもった顔のまま、そっとリーネの身体に布団をかけてやりながら答えた。
「・・・こんばんは・・・。
・・・ナイトメア騒動の賛辞は・・・俺は特に何もしてないので、リーネに言ってあげてください。
俺一人だと犠牲が伴うやり方を選んでいました・・・。
リーネの優しさと閃きがあってこその円満な結末です。
今は失神してますけどね・・・。」
とライキは苦笑しながら愛しの彼女の髪を撫でた。
「えぇ。
今度リーネさんが意識のあるときにでも改めて伝えましょう。
私も今夜奥さんと久々だったので、つい苛めすぎて気を失わせてしまったので人のことは言えませんが・・・お互いに程々にしましょうね。」
クスクスとヴィセルテが笑った。
(あっ・・・それで今夜は師匠だけで話しかけて来たのか・・・。)
ライキが納得して苦笑いをした。
「さて、挨拶はこのくらいにして。
早速◆の魔獣の件をお話しましょう。
本当はネーザ村のナイトメア騒動が解決した晩にあなた達にお伝えしようと思ったのですが、あの日は急にボラント近郊へ魔獣が現れてその対応に向かいましたので、今日になってしまいました。
申し訳ありません。」
「いいえ!
この間◆の魔獣の件は急を要する事態ではないと言われてましたし、師匠が都合の良いときで良かったのですよ?」
「ええ。
ですが、◆の魔獣の件の他にもうひとつ・・・
エングリアに着く前に貴方に伝えておかなければならない話もありましてね。
話の内容的にリーネさんが気を失っている今夜が丁度良いと思いましたので。」
「リーネに聴かれたらまずい話なのですか?」
「そういうわけではないのですが、男同士のほうが遠慮なく直接的な表現で伝えられますのでね・・・。」
ライキは師の口振りからあまり良い話では無いのだろうと察して口元を引き結んだ。
「まずは、ネーザ村近辺に現れた◆の銀の狼の魔獣についてですが・・・。
奴は貴方と特徴が被るところがありますので、貴方の通り名と区別化するために、我々はシルバーファングウルフと呼ぶことにしました。
そのシルバーファングウルフは、最初はダルダンテ神国のゲートから現れたただのありふれた魔獣でした。
それをダルダンテ神の力により短期間で極限まで進化されてからこの国に送り込まれたのです。
まあダルダンテ神が放った最初の刺客といったところでしょうね。
奴は触れた動物を魔獣化させたり、元から居る魔獣を強化したうえで意のままに操る特殊能力を持っているようです。
そうすることで私の仕事を増やしてこの国の守りに隙を作ろうとしているのでしょう。
そうすればリーネさんを攫うことも容易くなってしまいますから・・・。
まぁ、そう簡単にダルダンテ神の思い通りにはさせるつもりはありませんがね。」
ヴィセルテはライキの姿を映し出したモニタを見て、まだ余裕といった感じでほくそ笑んだ。
「・・・ただ、そのシルバーファングウルフの厄介なところは、私が退治しようとしても、フェリシア様にその動向を知られないようにと私との接触を避けるようダルダンテ神に命令されているのか、私が近づくとそれを事前に察知して逃げてしまうのですよ。
きっと創造神様へ告げ口される口実を作らないためにでしょうね。
私はフェリシア様の眷属。
私がこの金の眼で直接見たものは、フェリシア様に共有されて、創造神様に土地神同士の不可侵条約をダンダンテ神が破った証拠として突きつけることが出来ますから、それを避けてのことでしょう。
奴は現在ネーザ村から逃げてエングリア南の森にいますが、私が再び奴の元へ向かえば、きっとまた逃げて違う場所へと移動するだけ。
ですので、奴の退治は貴方にお願いしたいのです。」
「わかりました。
ですが、師匠のつけてくださっている修行のお蔭で移動の力を戦闘において使えるようにはなってきてはいますが、まだ自在にとはいきません。
今の俺にそのシルバーファングウルフを倒せますか?」
ライキが師に尋ねた。
「ええ。
一般の魔獣とは桁が違うとはいえ、まだ◆の魔獣になってからの日が浅い相手です。
今の貴方の力でも銀色狼の剣を使えば充分に退治出来るでしょう。」
「わかりました。
やってみます。」
ライキは頷いた。
「シルバーファングウルフについての詳細は教会からの依頼という形で冒険者ギルドに討伐依頼を出していますので、そちらで聞いてみてください。」
「わかりました。
でも、冒険者ギルドに依頼を出されているのなら、俺が向かう前に既に他の冒険者が退治しているかもしれませんね?」
「いえ・・・それは難しいでしょう。
まだ◆の魔獣としての経験が浅いとはいえ、フォレストサイド村の南の森にいるウルトラクラスの魔獣の”中の上”程度の力はありますからね・・・。
エングリアにいる一流冒険者パーティーでも歯が立たず、奴により強化された他の魔獣による被害を広げないよう食い止めるのが精一杯といった状況のようです。
この国の民で貴方の他に奴を倒せるのは、貴方のお父さんとスイズリー村にいるお爺さん、お兄さんも貴方と同様に武器次第では倒せるでしょうが、ハント家以外の者ではまず無理でしょうね。」
「・・・わかりました。
エングリアに着いて冒険者登録をしたらすぐ奴の退治に向かいます。」
ライキは力強く頷いた。
「お願いしますね。
それと、もうひとつの男同士で話すほうが良さそうだと申した件ですが・・・。
フェリシア神国の西にアデルバート神国という国があるのをご存知ですか?」
ライキはジュニアスクールの授業で目にした世界地図を頭に思い浮かべた。
「あぁ、はい。
世界でも一二を争う武力国家ですよね?」
「ええ。
アデルバート神様は武具づくりを得意とされるフェリシア様の二番目の兄君様で、貴方の銀色狼シリーズを作ってくださった神使の主様です。」
「あっ!その神様でしたか!
そのアデルバート神様が何か?」
「いえ、アデルバート様はこの件に関係がなく、問題となるのはアデルバート神国出身のとある人物なのです・・・。
このフェリシア神国に5英雄の末裔のハント家・・・貴方の一族がいるように、アデルバート神国にも5英雄の末裔がいるのをご存知ですか?」
「はい、ナイト家、ですよね?
噂でその名前を聞くくらいですが・・・。」
ライキは他の5英雄については狩人仲間や祖父から多少噂を聞いたことがあったため頷いた。
「ナイト家初代のラスター・ナイトは5英雄の中で勇者と同等に武力が高く優秀と名高い男です。
勇者は子孫を遺さなかったので、5英雄の末裔の中でナイト家は最強と呼ばれていますね。」
(まぁ、ヘイズ・ハントは他の英雄を立てて自分は一歩引くところがあったらしいからな・・・。
その実力は勇者には及ばないものの、ラスター・ナイトよりも本当は強かったのではないかと僕は思うが・・。
まぁ、僕が自国の英雄を贔屓目ひいきめで見ているからこその評価かも知れないが。
それに、5英雄最強と謳われた勇者はリーネさんと無関係でもないのだが、今は関係のない話だ。
また別の機会にでも話すとしよう・・・。)
ヴィセルテは一人そう思ってから更に続けた。
「シルバーファングウルフのことを私の千里眼で見たときにたまたま知り得たのですが、そのナイト家の末裔がダルダンテ神の駒として◆の印を与えられて、現在エングリアにいるのです。」
「アデルバート神国の英雄の末裔がダルダンテ神の駒としてですか?
何故・・・?」
「ええ・・・。
私も彼のことが気になって千里眼で見てみたのですが、彼はダルダンテ神により私からの干渉を遮断する魔道具を与えられたようで、ほんの一部の情報しか盗み視れませんでした。
よってこれは私の推測も入る話なのですが、彼はナイト家現当主の嫡男ではありますが、後継ぎは彼の腹違いの弟に決定しています。
どうやら彼は政権争いに負けて腹違いの弟よりも高い実力を持ちながらも跡継ぎとして選ばれなかった・・・。
そして彼等に追い出される形でアデルバート神国を出て、隣のダンダンテ神国に入ったところをダルダンテ神に誘われ、取り引きに応じて◆の印を受け入れた、という経緯のようですね。」
「取り引き・・・。」
「ええ。
ダルダンテの神の駒として働き、リーネさんをダルダンテ神国に連れて行けば、ダルダンテ神が彼に称号を与え、ダンダンテ神国での地位を約束するという取り引きです。
彼がダンダンテ神国で地位を獲得すれば、いずれアデルバート神国内の自分の敵に復讐することも可能でしょうから、それを狙ってのことのようです。
彼はその取り引きに応じることにして、◆の印を受け入れた。
彼は人間ですから、◆の魔獣よりも近い位置で貴方達に絡んで来れます。
これはなかなか厄介ですよ?
彼があなた達にとっての危険因子だとしても、現段階で特に表立った悪事を働いているわけでもないので、私も神使として手を下すことはできませんし・・・。
魔獣相手なら容赦なく力を振るえる貴方でも、人間相手となれば流石にやりにくいでしょう?」
「・・・そうですね・・・。
魔獣相手なら相手を殺すことを前提として戦えますが、人間を殺すわけにはいかない。
そして相手が強敵であればある程その加減が難しくなる・・・。」
「それもそうですし、相手は男です。
アデルバート神国は、この国のように未成年の性を守るためのつがいシステムのような取り決めや概念のない性に奔放な国で、性を商売にする未成年も数多く存在する・・・その国で育った彼です。
我々の常識を超える”男”を使った誘惑や策略を躊躇なく仕掛てくるかもしれません。
相手が厳つい無骨な男であれば、リーネさんも流石に警戒するでしょう。
しかし、生憎と彼は大変見目麗しい青年なのです。
貴方も美青年ですが、また系列の違う・・・そうですね・・・どちらかといえば貴方のお兄さんのように穏やかな顔立ちで、絵本に出てくる王子様・・・そういった例えがわかりやすいでしょうか?
そういった見た目の男性に女性は弱く、警戒心を解きやすいです。」
「・・・リーネがそいつに口説かれて心変わりをするとでも?
リーネはそんな尻の軽い女じゃないです。」
ライキは口元を引き結ぶと鋭く眼を尖らせて師に冷淡に返した。
「えぇ。
勿論それはわかっていますよ。
リーネさんはフェリシア様が寵愛を与えるくらいの娘ですからね。
ですが、リーネさんがそうであっても、他の女性が彼に魅了され、彼に協力してしまう。
リーネさんは優しい人ですし、人の悪意に対してあなたほど冷徹には対処出来ないでしょう?」
「・・・えぇ、確かに・・・。」
ライキはローデリス夫人の毒薬事件のときに自分に罪を着せたヨハナを庇ったり、ネーザ村でもナイトメアシープになってしまったズワルトを殺さなければならないとライキが言ったときに心から悲しみ涙したリーネの姿を思い出し、深刻な表情になった。
「・・・それだけではありません。
ダルダンテ神がリーネさんに処女を望んでいる以上、彼がリーネさんを強姦するようなことはないとは思いますが、ダンダンテ神に追い詰められればそれに近いことを仕掛けてくる可能性があります。
貴方に貞操を捧げると誓っているのに、最後までされなかったとしても、他の男にけがされるようなことがあれば、リーネさんの心はきっと折れてしまうでしょう。
そうすることで、命がけで貴方と刃を交わすよりも簡単に、彼は目的を達成出来るのです・・・。」
ライキはリーネが他の男にけがされる想像などしたくもなくて、未だ気を失ったままの彼女を抱き締めて辛そうに眉をひそめ頭を振った。
「嫌なことを言ってしまい申し訳ございません・・・。
ですが、貴方達二人がそのような目に決して遭うことのないようにと、敢えて言わせて頂きました。
以前フェリシア様からもお伝えしたかとは存じますが、特にエングリアではリーネさんの傍を離れないよう気をつけてあげてください。
◆の魔獣を退治に向かうときも、危険な戦いになるでしょうが、リーネさんを宿に一人残すよりも一緒に連れて行くほうが逆に安全だと思います。」
「・・・わかりました・・・。」
ライキは深刻な表情のまま、拳を強く握り締めて俯いた。
そんな彼の様子を見て、ヴィセルテは穏やかな声で言葉を添えた。
「そんなに心配しなくても大丈夫ですよ。
リーネさんにはフェリシア様が授けたお守りがあります。
あのお守りを身につけている以上、彼女が心を許していない男性は皆、邪な気持ちで彼女に触れることは出来ません。」
「あっ・・・そうか・・・あのペンダント・・・!
でも、ネーザ村のハンスは最初リーネに対して明らかに下心があったのに、リーネの手を握っていましたが・・・。」
「えぇ。
あのお守りは彼女が警戒心を解きやすい相手・・・子供や女性には効きづらいですからね。
ですので、リーネさんが彼に心を許す、もしくは女性か子供がリーネさんからあのお守りを外すようなことが無ければ大丈夫です。
ですが、そうと気がつけば彼は周りの女性や子供を使って外させるかもしれません。
そこだけはご注意を・・・。」
「・・・はい。」
ライキは真剣な顔で頷いた。
「先程も言いましたが、今の話には私の推測も入っていますから、彼の全てではありません。
ですが、彼にはそのような行動に出る可能性があるということを心に留めて置いてください。」
「わかりました。
心配して下さりありがとうございます。
重々気をつけます・・・!」
ライキが力の籠もった眼差しでそう答えた。
「えぇ。
微力ながら私もフェリシア様と同様に貴方達の力になりたいと思っています。
また何かわかりましたらお知らせ致しますね。」
ヴィセルテが穏やかにそう付け加えた。
「はい・・・ありがとうございます・・・!
心強いです!」
そこで意識を失っていたリーネがピクッと動いた。
「おや、リーネさんがそろそろ気が付きそうですね?
夜分も遅いですし、男同士の夜話もここまでとしましょうか。」
師がクスッと微笑みながらそう言った。
「はい。」
ライキも微笑んで頷いた。
「それではまた近いうちに。
おやすみなさい。」
「はい!おやすみなさい。」
ライキはそう答えると目を閉じて意識を集中させ、リーネと一緒に宿の部屋へと戻った。
ベッドは着地時にドスン!と音が出ないように、シュン!と降り立つ直前に移動の力による物体のコントロールを応用して、ゆっくり、ゆっくりと元の場所に下ろしていった。
無事にベッドが元の場所に収まると同時に、意識が戻ったリーネが寝ぼけ眼で口を開いた。
「ライキ・・・さっき、ヴィセルテさんとお話してなかった?
うっすらとヴィセルテさんの声が聴こえたから・・・。」
「リーネ、気がついたか。
あぁ、うん、そうなんだ。
◆の魔獣の情報とかいろいろな。」
ライキは優しくリーネの髪を撫でてやる。
「そっか・・・。
お話の内容、また明日ちゃんと聞かせて・・・?」
「・・・ん・・・。」
(◆の印を持ったナイト家の男がエングリアにいることもリーネに話しておくべきだが、師匠と話した奴の男としての危険性については予測に過ぎないし、必要以上に怖がらせてしまいそうだからな・・・。
”美青年らいしけどダルダンテの手の者だから何をするかわからない。気をつけろよ?”
程度で留めておいたほうが良いだろう・・・。)
ライキがそんなことを考えていると、リーネが涙を浮かべて大欠伸おおあくびをした。
「ふぁあぁぁ・・・駄目・・・眠たくってまたすぐに寝ちゃいそう・・・。
そういえば、フェリシア様の声は聴こえなかった気がするけど・・・フェリシア様ともお話したの?」
「ん・・・フェリシア様はいなかった。
疲れてて先に寝たんじゃないか?」
ライキが苦笑いをしてそう誤魔化すと、リーネはもぞっとライキの胸元に潜り込み、そのまますー、すー、と寝息を立ててまた寝てしまった。
「・・・おやすみ、リーネ。
俺も寝るか・・・。」
ライキは愛しの彼女を抱きしめるとまつげを伏せておでこにキスを落とした。
この幸せな夜を守るために、師の注意喚起を胸に深く刻み込み、明日朝旅立ち、数日後には辿り着くであろうエングリアでは特に気をつけようと思いながら、ライキはゆっくりと目を閉じた。
夜空には彼らの幸せを見守るかのように幾千の星たちが瞬いていた──。
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