上 下
205 / 247
番外編 騒動のその後色々

新妻のつぶやき

しおりを挟む
「よう、若奥様。こっちこっち」
「うっ!…どうも先輩…」[
「いやぁ、まさかお前が伯爵夫人になる日が来るとは思わなかったぜ」


久しぶりに会う隊のみんなにからかわれたり、冷やかされたり。でもちゃんと祝福の気持ちは伝わってくる。
気の良い人達ばかりだけれど、大酒飲みなのが玉に瑕だ。

「あの俺、前の様のには飲めませんからね。トールキン様に恥をかかせるわけにはいきませんから。」
「何、今日は身内だけの気を使わない集まりだ。多少の無礼講は許すと閣下自身が言っておられた。」

笑いながらマカフィー先輩がなみなみと注がれたグラスを手にやってくる。その隣にはジョッシュ先輩。一番厄介な先輩だ。

「それよりローラン、いつまでも俺たちの事先輩よばわりしてちゃダメだろ。ほら言ってみろよ、ジョッシュ、マカフィーつまみ持ってこいって」
「言えませんよ、そんなこと…」

肩に手を回しながらおおらかに笑う。こんなやり取りも久しぶりだ。

「『ジョッシュ、マカフィーつまみ持ってこい!』ほら早く!ローランさんを困らせないの!飲んでますか~ローランさん。お兄様とののろけ話聞きに来ました~。」
「アデル様…もうっ!」

違った、一番厄介なのはこの人だった。
なにかやらかしてはトールキン様にお叱りをうけるアデル様は、こうして俺から兄の弱みを探ろうとする。
通信石を無駄使いしては俺に内緒話を持ち掛けるので、この間はデラ奥様にも叱られていた。懲りない人だ。

「ところで生誕珠はまだ賜りに行かないんですか?グラナダ様からもワイアットお兄様からも十分な協力はあったと思ったんだけど…」
「あ、ええ。それどころかデューリー子爵までもがご協力を下さいまして…。二人目までは安心して考えられそうです。その実は…」
「あっ!まさか…」

アデル様が大きな声で歓喜をあげるものだから皆にそれが知れ渡ってしまった。
アデル様ったら意味深な目で俺を見るけど…
昔アデル様が言っていた、「生誕珠を孕んだ人には自分の痴態がばれてしまってるみたいで恥ずかしい」の意味が今ならすごく良く分かる。
本当にあれは…翌朝のダイニング、奥様の慈愛に満ちた眼差しとハモンさんから差し出された喉に良いと言われる薬効の飴。

これから先の人生にだってあんな恥ずかしい瞬間は二度とないだろう。




末の弟アデルが大きな声で騒ぐものだから、ローランの妊娠が皆に知れてしまった。
私の口からきちんとした場で父や閣下にはご報告申し上げようと思っていたのだが…
困った弟だ。後できつく叱っておかなくては。


「そうかおめでとうトールキン。これでお前も肩の荷が下りたであろう。しっかり者のローランと共にカマーフィールドを頼んだぞ」
「お任せください父上。父上が宮廷の職を辞して田舎で隠居生活を営むその日までにカマーフィールドをさらに豊かな領民の笑顔あふれる地にしてみせましょう。気立ての良い妻と共に」

「カマーフィールド卿、まさかここでこんな目出たい話を聞けるとは。ふふ、ルミエにまた一人従兄弟ができた」
「トールキン兄上、なんてすばらしい!ローランには感謝しかありませんね。兄上のお子を孕んでくれた事、それ以上に兄上の心を射止めてくれた事。」
「ローランは元気が取り柄の丈夫なやつだ。受精行為にも耐えられたであろう?布施なら協力は惜しまぬからいくらでも作るが良い。我がバーガンディと競ってはどうだ」

まさか私が王家の方々とこうして肩を並べて話をするような立場になるとは、人生とはわからぬものだ。
それにしても辺境伯閣下の明け透けな物言いには恐れ入る…ワイアットも頬を染めているではないか。
確かにあれは…あ、いや。
そう、とても…何を思い出してるんだ、私は!
だがしかし、ローランのあの姿は…いや実に…

いつの間にやら背後に迫ったアデルがこっそりささやいた。




「お兄様、いま思い出していましたね。ローランさんとの受精の夜を。お兄様はむっつりですか?」







しおりを挟む
感想 102

あなたにおすすめの小説

トップアイドルα様は平凡βを運命にする

新羽梅衣
BL
ありきたりなベータらしい人生を送ってきた平凡な大学生・春崎陽は深夜のコンビニでアルバイトをしている。 ある夜、コンビニに訪れた男と目が合った瞬間、まるで炭酸が弾けるような胸の高鳴りを感じてしまう。どこかで見たことのある彼はトップアイドル・sui(深山翠)だった。 翠と陽の距離は急接近するが、ふたりはアルファとベータ。翠が運命の番に憧れて相手を探すために芸能界に入ったと知った陽は、どう足掻いても番にはなれない関係に思い悩む。そんなとき、翠のマネージャーに声をかけられた陽はある決心をする。 運命の番を探すトップアイドルα×自分に自信がない平凡βの切ない恋のお話。

【第1章完結】悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼第2章2025年1月18日より投稿予定 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。

【BL】婚約破棄で『不能男』認定された公爵に憑依したから、やり返すことにした。~計画で元婚約者の相手を狙ったら溺愛された~

楠ノ木雫
BL
 俺が憑依したのは、容姿端麗で由緒正しい公爵家の当主だった。憑依する前日、婚約者に婚約破棄をされ『不能男認定』をされた、クズ公爵に。  これから俺がこの公爵として生きていくことになっしまったが、流石の俺も『不能男』にはキレたため、元婚約者に仕返しをする事を決意する。  計画のために、元婚約者の今の婚約者、第二皇子を狙うが……  ※以前作ったものを改稿しBL版にリメイクしました。  ※他のサイトにも投稿しています。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

婚約破棄される悪役令嬢ですが実はワタクシ…男なんだわ

秋空花林
BL
「ヴィラトリア嬢、僕はこの場で君との婚約破棄を宣言する!」  ワタクシ、フラれてしまいました。  でも、これで良かったのです。  どのみち、結婚は無理でしたもの。  だってー。  実はワタクシ…男なんだわ。  だからオレは逃げ出した。  貴族令嬢の名を捨てて、1人の平民の男として生きると決めた。  なのにー。 「ずっと、君の事が好きだったんだ」  数年後。何故かオレは元婚約者に執着され、溺愛されていた…!?  この物語は、乙女ゲームの不憫な悪役令嬢(男)が元婚約者(もちろん男)に一途に追いかけられ、最後に幸せになる物語です。  幼少期からスタートするので、R 18まで長めです。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

処理中です...