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決断の時編

~もう一人のアデル 前編~

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真っ暗な時空間を超えると目の前に見慣れた僕の部屋が映る。
来れた。成功だ。成功した。ついに帰って来れたんだ。
ああ、懐かしい。僕の部屋だ。机もベッドもそのまんまだ。身体があったら今すぐベッドにダイブするのに。

机の上の教科書を手に取る。
…ふんふん、×××デザイン専門学校。
そっか、大学へは行かなかったんだ。
そりゃそうだ。異世界生まれのアデルにここの勉強は分からないよね。

それにしても…
壁、天井、ドア、全面に貼られていたはずの坂下クンが…一枚もない…だと⁉
えっ、なんで?どうして?僕の坂下クンどこ行ったの?

んん?なんだこれ?これは…JJFの後輩グループ〝スカイパレス”…じゃないか。
JJFと違って全面的にキラキラ感を押し出していた王道アイドルグループだ。
げっ!これセンターメンのジュン君じゃん。
え、まさか…まさか…いやだっ!考えたくないけど、まさかっ…推し変した人みたいになってるーー⁉

押し入れ…押し入れは?
僕の隠し収納押し入れは?
はぁぁぁ…ここもジュン君一色…詰んだ…

んん?こ、これは一世を風靡していたアニマルフレンズ!
え、ちょ、まってまって、どゆこと?
ジュン君!アニフレの舞台やってんの?そっか~2.5次元行っちゃったか~。
確かに可愛い顔したジュン君にはアニフレのファンタジー感あるけれどっ!

あ、ああ…あーー!!アデル君…ケモノ属性だったっ!

あの日のお父様の言葉が蘇る…リスやウサギと戯れ…

ちょ、アデルはアデル君はどこっ?






「おかあさ~ん行ってきま~す。今日ライブの後オフ会だから遅くなるよ~」
「ご飯は~?」
「いらな~い。友達と食べてくる~」

「新太~ちょっと待てば駅まで送ったげるよ?」
「ありがとおねえちゃん、でもコンビニ寄りたいから歩いてく~」

バタン

「新太、気をつけてな。池には近づくなよ~」
「は~い、行ってきま~すお父さん。お父さんもゴルフ楽しんできて~」


…下にいたのか。
みんな下に揃ってるみたい…あぁ、今日日曜なんだ…意識だけになってる僕は大急ぎで階下に降りた。

お母さん…おかあさん…僕…元気だよ…ああっ、卵焼きだっ、お母さんのお弁当食べたいな…いつも部屋散らかしててごめんね。ぶつぶつ言いながら毎回片付けてくれてありがとう。

お姉ちゃん…今日デート?メイク気合入ってるじゃん…いっぱい口げんかもしたけれど、ご飯おごってくれたの忘れない。彼氏といつまでも仲良くね。

お父さん…ゴルフのスコアあがったかな?腰痛めないよう気を付けてね…あっ、それ誕生日にあげたカバンじゃん。まだ使ってくれてるの?嬉しいな。

意識だけなのにどうしてかな?僕は僕が泣いてるのが分かった。

ねぇ、みんなに会いに来たんだよ。どうしてもどうしても言いたいことがあって。

18年間本当にありがとう。僕はここんちの子でとってもとっても幸せでした。
ずっと息子で居たかっけど、あそこには僕が居ないと幸せになれない悲しい人が居るから…
だから、だからね…
これがほんとうのお別れだよ。
僕がそうであったみたいに、アデルとみんなにももう4年分の絆がきっと出来てる。
だからここにはもう来ない…僕がフラフラしてたら、お腹の子にだって叱られる…

もう一度言わせて。心からありがとう。そして、そして…さようなら……大好きな僕のもうひとつの家族…





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