断罪希望の令息は何故か断罪から遠ざかる

kozzy

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117 断罪の予期せぬ展開

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葬録を部屋の床一面に広げて、僕とミーガン嬢たち三人はその日アーロンの母親らしき記載を探していた。

隊長から以前受け取った調書に書かれていたことだが、女性には決まった名が無かったということだ。だから僕たちも名前で呼べずにいたのだが…客たちもそれぞれが好き好きに名を呼んだらしい。
きっとワケアリで名前を隠したかったのだろう。隣室の娼婦仲間や歓楽街で働く男どもには姫と呼ばせていたというのだからかなり徹底している。

そして悲しいことだが教会に運び込まれる身元不明の娼婦は少なくない。スキッド地区に居たゾンビといい勝負だ。ましてや教会の人たちはアーロンとその娼婦の会遇を何も知らない。
つまり司祭様たちは名もなき憐れな一娼婦としていつもと変わりなく弔ったにすぎない。いちいち覚えていないだろう。

けど大丈夫。名簿には見た目年齢、身長体格、髪の色瞳の色、その時の衣類所持品などが細かく記載されている。

アーロンの母親はアーロンと同じマルーン色の髪だったというのが孤児院の目撃証言だ。
赤みがかった暗めの茶色、取り立てて珍しい髪色ではないが、アーロンに聞いた彼女が運び込まれた辺り(子供の記憶だからちょっとあやふや)の年代で名もなき女性を調べればある程度絞り込めるだろう。

「ありましたわ。こちらに一人」

「ここにも一人。いや、老齢と記載されていますね…」

「これはどうでしょう。20代半ばとあります。暗い赤茶の髪と記載が…所持品は…カトレアを刻んだロザリオが一つ…あっ、すみません。これはかなり古い葬録でした」

アリソン君の言葉にふっと反応したのがミーガン嬢。

「あら?カトレアのロザリオでしたらこちらにも記載がありましたわ」

へー、珍しいこともあるもんだ。カトレアの花なんて珍しいわけではないが、かといってポピュラーな花っていうわけでもないのに。

「アリソン様、古いって…いつ頃の葬録ですか?」
「何十年も前の記録です。関係ないでしょう」

そのとき僕の頭をふっとよぎったのは王妃様から指摘された寄付元不明の神具だ。
所持品のロザリオ…ロザリオ…ロザリオかぁ…もしかしてそのロザリオがそうなんじゃないの?

因みにクロスとロザリオは同じ十字架だけど大きく違いがある。クロスはただのアクセサリーだがロザリオはれっきとした神具だ。ざっくり言うと、クロスに磔刑像が付いたもの、それがロザリオである。

異世界であるここではロザリオと言ってもクロスに絡むのはただの家紋だ。それぞれのお家の紋章が飾られたクロスがロザリオとして祈りの場での神具になる。因みに庶民はロザリオなんか持っていない。そもそもがね。

貴族の持ち物だけにロザリオも高価なものだ。だから二重の意味(へそくり的な)でお守りにして大事に持っていたのだろうか?
どこで手に入れたか知らないが、身元不明者が持っていたロザリオならそのまま神具として教会に奉納されていてもおかしくない。

それにしても、もしホントにそれが奉納されたロザリオなら今も教会の宝物庫にあるはずだ。

王妃様は書類の空欄が気になるタイプだ。寄付元がわかって空欄が埋まれば地味に喜ぶかもしれない。
僕は王妃様に小さな恩を売、ゴホン、ささやかな手助けするべく確認に行くことを即座に決めた。
え?何故今行くかって?…気分転換だよ、ほんのね。

ミーガン嬢たちに「すぐ戻るから」と中座を詫びて、カイルと護衛ABCを伴い先週訪れたばかりの教会へ再訪する。
経費書類の不備を王妃様から叱責され、老齢の司祭様はすっかり意気消沈だ。ちょっと罪悪感…

「お取込み中スミマセンが神具を少し拝見しても?」
「神具…でございますか?」

「ええ。保管庫のロザリオを見せてください。そうしたら僕から王妃様へ書類の件はとりなしましょう」

今の司祭様には何よりの台詞だ。彼は二つ返事で保管庫に案内してくれる。
きちんと分類され丁寧に保管されたロザリオ類。思った通り、ビンゴだ…。僕の目にはカトレアのロザリオが飛び込んできた。

「このロザリオって…」
「ああ、それは名もなき歓楽街の…その、…花売りが身につけていたのですよ」

それは知ってる。僕は他に何か気付かなかったか聞いてみたのだが…帰ってきたのは意外な返答。

「そうですな…思いだすのはアーロンでですか…」
「アーロン?」ドキ!

「あの子は腹を真っ赤に染めた亡骸を見るのが初めてで…、ショックを受け随分その遺体の前に立ちすくんでおりました」

はい身元判明ー!カトレアの君はアーロンの母親で決定!なんたる棚からぼたもち。
でも…アーロンの心情を想うといたたまれない。ところが!シンミリしかけた僕の耳に飛び込んできたのは驚きの新情報!

「そのロザリオはそもそもここから盗み出されたものなのですよ」

なんだってー!

「えっ?えっ?そ、それどういうことですか?」

「それはもともとここにあったものなのですよ。いつの間にか盗まれていたようで…この女性が運び込まれた時に初めて保管庫から無くなっていることに気が付いたのです」

司祭様…杜撰な管理っていわれるのはそういうところだよ?

「もとは暴漢に襲われて命を落とした気の毒な女性が身につけていた品でしてね。あれは私がまだ青年の頃でしたか。細工の美しいロザリオだったので記憶に残っておったのです」
「そ、その女性はどうなったんですか?」

「確か…しばらく待ちましたが家族が名乗り出ることはありませんでしたな。どうしても素性がはっきりせず…ここで弔ったのだと思いましたが。恐らく隣に今も眠っているはずです」

隣…。教会の敷地横には墓地がある。家族のあるものは個別の墓碑に、身寄りのない者は無縁碑に弔われる。そこに彼女たちは居る。カトレアのロザリオを所持していた…二人の女性が。
何かは分からないが…それでも何かが見えた気がする…。が!これは…僕の脳細胞ではお手上げである。早急に帰ってブレーンたちと相談を、おっとその前にこれだけは。

「司祭様、こんな事聞くのもなんですが…教会にフレッチャー候は今までどれ程関りをお持ちですか?」

「…そうですな。アーロンが神子候補になる前からあの方は色々と口を挟んでおいででした。当時まだ中流地区と呼ばれていた頃、ここは下町に属し管理はバーナード伯が受け持っておられましたが、それでもフレッチャー候は折につけ顔を出し我々に指図をしていかれました」

聖職者には通常ある程度の権威があるものだが、下町の小さな教会の司祭ごときでは、高位貴族のワガママに太刀打ちできるはずがない。

「例えばそうですな…。アーロンをここで育てるよう指示されたのもフレッチャー候です」

「へー…、えっ!? 」

またしても驚きの新情報!フレッチャーはアーロンの存在を知ってたってこと?
フレッチャーからは誰にも言うなと念押しされていたらしいが…、司祭様はあの男が教会への関与を王様直々に禁止されたことで気が弛んだようだ。口調こそ穏やかだが、どこはかとなく恨み辛みがこぶしを利かせている。そっか…ムカついてたのか…

それにしてもちょっと待って、…ああどうしよう…。カトレアのロザリオ、二人の女性、そのうえ赤子のアーロンをフレッチャーが認識してたとか、ああもうっ!情報が…情報が多い!







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