171 / 310
117 断罪の予期せぬ展開
しおりを挟む
葬録を部屋の床一面に広げて、僕とミーガン嬢たち三人はその日アーロンの母親らしき記載を探していた。
隊長から以前受け取った調書に書かれていたことだが、女性には決まった名が無かったということだ。だから僕たちも名前で呼べずにいたのだが…客たちもそれぞれが好き好きに名を呼んだらしい。
きっとワケアリで名前を隠したかったのだろう。隣室の娼婦仲間や歓楽街で働く男どもには姫と呼ばせていたというのだからかなり徹底している。
そして悲しいことだが教会に運び込まれる身元不明の娼婦は少なくない。スキッド地区に居たゾンビといい勝負だ。ましてや教会の人たちはアーロンとその娼婦の会遇を何も知らない。
つまり司祭様たちは名もなき憐れな一娼婦としていつもと変わりなく弔ったにすぎない。いちいち覚えていないだろう。
けど大丈夫。名簿には見た目年齢、身長体格、髪の色瞳の色、その時の衣類所持品などが細かく記載されている。
アーロンの母親はアーロンと同じマルーン色の髪だったというのが孤児院の目撃証言だ。
赤みがかった暗めの茶色、取り立てて珍しい髪色ではないが、アーロンに聞いた彼女が運び込まれた辺り(子供の記憶だからちょっとあやふや)の年代で名もなき女性を調べればある程度絞り込めるだろう。
「ありましたわ。こちらに一人」
「ここにも一人。いや、老齢と記載されていますね…」
「これはどうでしょう。20代半ばとあります。暗い赤茶の髪と記載が…所持品は…カトレアを刻んだロザリオが一つ…あっ、すみません。これはかなり古い葬録でした」
アリソン君の言葉にふっと反応したのがミーガン嬢。
「あら?カトレアのロザリオでしたらこちらにも記載がありましたわ」
へー、珍しいこともあるもんだ。カトレアの花なんて珍しいわけではないが、かといってポピュラーな花っていうわけでもないのに。
「アリソン様、古いって…いつ頃の葬録ですか?」
「何十年も前の記録です。関係ないでしょう」
そのとき僕の頭をふっとよぎったのは王妃様から指摘された寄付元不明の神具だ。
所持品のロザリオ…ロザリオ…ロザリオかぁ…もしかしてそのロザリオがそうなんじゃないの?
因みにクロスとロザリオは同じ十字架だけど大きく違いがある。クロスはただのアクセサリーだがロザリオはれっきとした神具だ。ざっくり言うと、クロスに磔刑像が付いたもの、それがロザリオである。
異世界であるここではロザリオと言ってもクロスに絡むのはただの家紋だ。それぞれのお家の紋章が飾られたクロスがロザリオとして祈りの場での神具になる。因みに庶民はロザリオなんか持っていない。そもそもがね。
貴族の持ち物だけにロザリオも高価なものだ。だから二重の意味(へそくり的な)でお守りにして大事に持っていたのだろうか?
どこで手に入れたか知らないが、身元不明者が持っていたロザリオならそのまま神具として教会に奉納されていてもおかしくない。
それにしても、もしホントにそれが奉納されたロザリオなら今も教会の宝物庫にあるはずだ。
王妃様は書類の空欄が気になるタイプだ。寄付元がわかって空欄が埋まれば地味に喜ぶかもしれない。
僕は王妃様に小さな恩を売、ゴホン、ささやかな手助けするべく確認に行くことを即座に決めた。
え?何故今行くかって?…気分転換だよ、ほんのね。
ミーガン嬢たちに「すぐ戻るから」と中座を詫びて、カイルと護衛ABCを伴い先週訪れたばかりの教会へ再訪する。
経費書類の不備を王妃様から叱責され、老齢の司祭様はすっかり意気消沈だ。ちょっと罪悪感…
「お取込み中スミマセンが神具を少し拝見しても?」
「神具…でございますか?」
「ええ。保管庫のロザリオを見せてください。そうしたら僕から王妃様へ書類の件はとりなしましょう」
今の司祭様には何よりの台詞だ。彼は二つ返事で保管庫に案内してくれる。
きちんと分類され丁寧に保管されたロザリオ類。思った通り、ビンゴだ…。僕の目にはカトレアのロザリオが飛び込んできた。
「このロザリオって…」
「ああ、それは名もなき歓楽街の…その、…花売りが身につけていたのですよ」
それは知ってる。僕は他に何か気付かなかったか聞いてみたのだが…帰ってきたのは意外な返答。
「そうですな…思いだすのはアーロンでですか…」
「アーロン?」ドキ!
「あの子は腹を真っ赤に染めた亡骸を見るのが初めてで…、ショックを受け随分その遺体の前に立ちすくんでおりました」
はい身元判明ー!カトレアの君はアーロンの母親で決定!なんたる棚からぼたもち。
でも…アーロンの心情を想うといたたまれない。ところが!シンミリしかけた僕の耳に飛び込んできたのは驚きの新情報!
「そのロザリオはそもそもここから盗み出されたものなのですよ」
なんだってー!
「えっ?えっ?そ、それどういうことですか?」
「それはもともとここにあったものなのですよ。いつの間にか盗まれていたようで…この女性が運び込まれた時に初めて保管庫から無くなっていることに気が付いたのです」
司祭様…杜撰な管理っていわれるのはそういうところだよ?
「もとは暴漢に襲われて命を落とした気の毒な女性が身につけていた品でしてね。あれは私がまだ青年の頃でしたか。細工の美しいロザリオだったので記憶に残っておったのです」
「そ、その女性はどうなったんですか?」
「確か…しばらく待ちましたが家族が名乗り出ることはありませんでしたな。どうしても素性がはっきりせず…ここで弔ったのだと思いましたが。恐らく隣に今も眠っているはずです」
隣…。教会の敷地横には墓地がある。家族のあるものは個別の墓碑に、身寄りのない者は無縁碑に弔われる。そこに彼女たちは居る。カトレアのロザリオを所持していた…二人の女性が。
何かは分からないが…それでも何かが見えた気がする…。が!これは…僕の脳細胞ではお手上げである。早急に帰ってブレーンたちと相談を、おっとその前にこれだけは。
「司祭様、こんな事聞くのもなんですが…教会にフレッチャー候は今までどれ程関りをお持ちですか?」
「…そうですな。アーロンが神子候補になる前からあの方は色々と口を挟んでおいででした。当時まだ中流地区と呼ばれていた頃、ここは下町に属し管理はバーナード伯が受け持っておられましたが、それでもフレッチャー候は折につけ顔を出し我々に指図をしていかれました」
聖職者には通常ある程度の権威があるものだが、下町の小さな教会の司祭ごときでは、高位貴族のワガママに太刀打ちできるはずがない。
「例えばそうですな…。アーロンをここで育てるよう指示されたのもフレッチャー候です」
「へー…、えっ!? 」
またしても驚きの新情報!フレッチャーはアーロンの存在を知ってたってこと?
フレッチャーからは誰にも言うなと念押しされていたらしいが…、司祭様はあの男が教会への関与を王様直々に禁止されたことで気が弛んだようだ。口調こそ穏やかだが、どこはかとなく恨み辛みがこぶしを利かせている。そっか…ムカついてたのか…
それにしてもちょっと待って、…ああどうしよう…。カトレアのロザリオ、二人の女性、そのうえ赤子のアーロンをフレッチャーが認識してたとか、ああもうっ!情報が…情報が多い!
隊長から以前受け取った調書に書かれていたことだが、女性には決まった名が無かったということだ。だから僕たちも名前で呼べずにいたのだが…客たちもそれぞれが好き好きに名を呼んだらしい。
きっとワケアリで名前を隠したかったのだろう。隣室の娼婦仲間や歓楽街で働く男どもには姫と呼ばせていたというのだからかなり徹底している。
そして悲しいことだが教会に運び込まれる身元不明の娼婦は少なくない。スキッド地区に居たゾンビといい勝負だ。ましてや教会の人たちはアーロンとその娼婦の会遇を何も知らない。
つまり司祭様たちは名もなき憐れな一娼婦としていつもと変わりなく弔ったにすぎない。いちいち覚えていないだろう。
けど大丈夫。名簿には見た目年齢、身長体格、髪の色瞳の色、その時の衣類所持品などが細かく記載されている。
アーロンの母親はアーロンと同じマルーン色の髪だったというのが孤児院の目撃証言だ。
赤みがかった暗めの茶色、取り立てて珍しい髪色ではないが、アーロンに聞いた彼女が運び込まれた辺り(子供の記憶だからちょっとあやふや)の年代で名もなき女性を調べればある程度絞り込めるだろう。
「ありましたわ。こちらに一人」
「ここにも一人。いや、老齢と記載されていますね…」
「これはどうでしょう。20代半ばとあります。暗い赤茶の髪と記載が…所持品は…カトレアを刻んだロザリオが一つ…あっ、すみません。これはかなり古い葬録でした」
アリソン君の言葉にふっと反応したのがミーガン嬢。
「あら?カトレアのロザリオでしたらこちらにも記載がありましたわ」
へー、珍しいこともあるもんだ。カトレアの花なんて珍しいわけではないが、かといってポピュラーな花っていうわけでもないのに。
「アリソン様、古いって…いつ頃の葬録ですか?」
「何十年も前の記録です。関係ないでしょう」
そのとき僕の頭をふっとよぎったのは王妃様から指摘された寄付元不明の神具だ。
所持品のロザリオ…ロザリオ…ロザリオかぁ…もしかしてそのロザリオがそうなんじゃないの?
因みにクロスとロザリオは同じ十字架だけど大きく違いがある。クロスはただのアクセサリーだがロザリオはれっきとした神具だ。ざっくり言うと、クロスに磔刑像が付いたもの、それがロザリオである。
異世界であるここではロザリオと言ってもクロスに絡むのはただの家紋だ。それぞれのお家の紋章が飾られたクロスがロザリオとして祈りの場での神具になる。因みに庶民はロザリオなんか持っていない。そもそもがね。
貴族の持ち物だけにロザリオも高価なものだ。だから二重の意味(へそくり的な)でお守りにして大事に持っていたのだろうか?
どこで手に入れたか知らないが、身元不明者が持っていたロザリオならそのまま神具として教会に奉納されていてもおかしくない。
それにしても、もしホントにそれが奉納されたロザリオなら今も教会の宝物庫にあるはずだ。
王妃様は書類の空欄が気になるタイプだ。寄付元がわかって空欄が埋まれば地味に喜ぶかもしれない。
僕は王妃様に小さな恩を売、ゴホン、ささやかな手助けするべく確認に行くことを即座に決めた。
え?何故今行くかって?…気分転換だよ、ほんのね。
ミーガン嬢たちに「すぐ戻るから」と中座を詫びて、カイルと護衛ABCを伴い先週訪れたばかりの教会へ再訪する。
経費書類の不備を王妃様から叱責され、老齢の司祭様はすっかり意気消沈だ。ちょっと罪悪感…
「お取込み中スミマセンが神具を少し拝見しても?」
「神具…でございますか?」
「ええ。保管庫のロザリオを見せてください。そうしたら僕から王妃様へ書類の件はとりなしましょう」
今の司祭様には何よりの台詞だ。彼は二つ返事で保管庫に案内してくれる。
きちんと分類され丁寧に保管されたロザリオ類。思った通り、ビンゴだ…。僕の目にはカトレアのロザリオが飛び込んできた。
「このロザリオって…」
「ああ、それは名もなき歓楽街の…その、…花売りが身につけていたのですよ」
それは知ってる。僕は他に何か気付かなかったか聞いてみたのだが…帰ってきたのは意外な返答。
「そうですな…思いだすのはアーロンでですか…」
「アーロン?」ドキ!
「あの子は腹を真っ赤に染めた亡骸を見るのが初めてで…、ショックを受け随分その遺体の前に立ちすくんでおりました」
はい身元判明ー!カトレアの君はアーロンの母親で決定!なんたる棚からぼたもち。
でも…アーロンの心情を想うといたたまれない。ところが!シンミリしかけた僕の耳に飛び込んできたのは驚きの新情報!
「そのロザリオはそもそもここから盗み出されたものなのですよ」
なんだってー!
「えっ?えっ?そ、それどういうことですか?」
「それはもともとここにあったものなのですよ。いつの間にか盗まれていたようで…この女性が運び込まれた時に初めて保管庫から無くなっていることに気が付いたのです」
司祭様…杜撰な管理っていわれるのはそういうところだよ?
「もとは暴漢に襲われて命を落とした気の毒な女性が身につけていた品でしてね。あれは私がまだ青年の頃でしたか。細工の美しいロザリオだったので記憶に残っておったのです」
「そ、その女性はどうなったんですか?」
「確か…しばらく待ちましたが家族が名乗り出ることはありませんでしたな。どうしても素性がはっきりせず…ここで弔ったのだと思いましたが。恐らく隣に今も眠っているはずです」
隣…。教会の敷地横には墓地がある。家族のあるものは個別の墓碑に、身寄りのない者は無縁碑に弔われる。そこに彼女たちは居る。カトレアのロザリオを所持していた…二人の女性が。
何かは分からないが…それでも何かが見えた気がする…。が!これは…僕の脳細胞ではお手上げである。早急に帰ってブレーンたちと相談を、おっとその前にこれだけは。
「司祭様、こんな事聞くのもなんですが…教会にフレッチャー候は今までどれ程関りをお持ちですか?」
「…そうですな。アーロンが神子候補になる前からあの方は色々と口を挟んでおいででした。当時まだ中流地区と呼ばれていた頃、ここは下町に属し管理はバーナード伯が受け持っておられましたが、それでもフレッチャー候は折につけ顔を出し我々に指図をしていかれました」
聖職者には通常ある程度の権威があるものだが、下町の小さな教会の司祭ごときでは、高位貴族のワガママに太刀打ちできるはずがない。
「例えばそうですな…。アーロンをここで育てるよう指示されたのもフレッチャー候です」
「へー…、えっ!? 」
またしても驚きの新情報!フレッチャーはアーロンの存在を知ってたってこと?
フレッチャーからは誰にも言うなと念押しされていたらしいが…、司祭様はあの男が教会への関与を王様直々に禁止されたことで気が弛んだようだ。口調こそ穏やかだが、どこはかとなく恨み辛みがこぶしを利かせている。そっか…ムカついてたのか…
それにしてもちょっと待って、…ああどうしよう…。カトレアのロザリオ、二人の女性、そのうえ赤子のアーロンをフレッチャーが認識してたとか、ああもうっ!情報が…情報が多い!
2,301
あなたにおすすめの小説
私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。
小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。
「マリアが熱を出したらしい」
駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。
「また裏切られた……」
いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。
「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」
離婚する気持ちが固まっていく。
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
もう一度君に会えたなら、愛してると言わせてくれるだろうか
まんまる
BL
王太子であるテオバルトは、婚約者の公爵家三男のリアンを蔑ろにして、男爵令嬢のミランジュと常に行動を共にしている。
そんな時、ミランジュがリアンの差し金で酷い目にあったと泣きついて来た。
テオバルトはリアンの弁解も聞かず、一方的に責めてしまう。
そしてその日の夜、テオバルトの元に訃報が届く。
大人になりきれない王太子テオバルト×無口で一途な公爵家三男リアン
ハッピーエンドかどうかは読んでからのお楽しみという事で。
テオバルドとリアンの息子の第一王子のお話を《もう一度君に会えたなら~2》として上げました。
※画像は男の子メーカーpicrewさんよりお借りしました。
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
【本編完結】処刑台の元婚約者は無実でした~聖女に騙された元王太子が幸せになるまで~
TOY
BL
【本編完結・後日譚更新中】
公開処刑のその日、王太子メルドは元婚約者で“稀代の悪女”とされたレイチェルの最期を見届けようとしていた。
しかし「最後のお別れの挨拶」で現婚約者候補の“聖女”アリアの裏の顔を、偶然にも暴いてしまい……!?
王位継承権、婚約、信頼、すべてを失った王子のもとに残ったのは、幼馴染であり護衛騎士のケイ。
これは、聖女に騙され全てを失った王子と、その護衛騎士のちょっとズレた恋の物語。
※別で投稿している作品、
『物語によくいる「ざまぁされる王子」に転生したら』の全年齢版です。
設定と後半の展開が少し変わっています。
※後日譚を追加しました。
後日譚① レイチェル視点→メルド視点
後日譚② 王弟→王→ケイ視点
後日譚③ メルド視点
番解除した僕等の末路【完結済・短編】
藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。
番になって数日後、「番解除」された事を悟った。
「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。
けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。
2026/02/14 累計30万P突破御礼バレンタインSS追加しました
2026/02/15 累計いいね♡7777突破御礼SS 19時に公開します。
様々な形での応援ありがとうございます!
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
優秀な婚約者が去った後の世界
月樹《つき》
BL
公爵令嬢パトリシアは婚約者である王太子ラファエル様に会った瞬間、前世の記憶を思い出した。そして、ここが前世の自分が読んでいた小説『光溢れる国であなたと…』の世界で、自分は光の聖女と王太子ラファエルの恋を邪魔する悪役令嬢パトリシアだと…。
パトリシアは前世の知識もフル活用し、幼い頃からいつでも逃げ出せるよう腕を磨き、そして準備が整ったところでこちらから婚約破棄を告げ、母国を捨てた…。
このお話は捨てられた後の王太子ラファエルのお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる