断罪希望の令息は何故か断罪から遠ざかる

kozzy

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116 断罪とお手伝いの報酬

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シェイナとアノンの記念すべき一歳の誕生日。そのパーティーを万全にするため、準備やら企画やら奔走していた僕に飛び込んできたのは王様からのトップダウン。
アーロンが禁書を見つけたという下町の教会。そこで王妃様直属の騎士がおこなっている監査にこの週末同行しろというのだ。

「なんで僕が休みを返上してまで…」

「あの教会は神子候補を有し陛下の鳴り物入りで保護された教会です。陛下は二度とあのように見苦しい失態はならぬとひどくお怒りです。ですがアーロンに余計な入れ知恵をしたフレッチャー侯も、アーロンに思いを寄せるコンラッドも、この調査に関わらせるわけにはいきません。そこでシャノン、あなたの出番です」

「…というと?」

「あなたは様々な先見をしてみせた『神託』シャノン。そのあなたが同行すれば見落としなく不備を発見するだろう、というのが陛下のお考えです」

「ふ、不備ですか…?」
「表に見えぬ隠された何か、ということよ。これが上手くいけばわたくしと陛下の話し合いも大きく進展するでしょう」

「そ、そうですか?」
「あなたの存在、あなたの言葉を陛下が無視できぬと重要視されればいいのです。時間をとらせますがお願いねシャノン」
「わかりました…」

僕は何故シャノンがあれほど王宮に詰めっぱなしだったのか、その理由が分かった気がした。
ブラック労働を美徳とする旧価値観の王妃様は、こうやって事も無げに次から次へとシャノンにも課題を与えていったのだろう。「時間はかかりますが頑張るのですよシャノン」なんかそんな感じで。王妃様にはいつか業務の合理化とスリム化、ストレスが与える身体的影響、そして適度な休息の必要性を進言しておこうと思う。もちろん王妃様の健康のために。

それにしても、王様は僕を鬼〇郎アンテナかなんかと勘違いしているんだろうか?言っておくが僕のセンサーは男同士の行き過ぎた友情にしか反応しない。悪しからず。

そんなわけでその週末やって来たのは準貴族街。アーロンの所属教会だ。一緒に居るのは王妃様直属の騎士たち(黒髪)と僕の護衛ABCとカイル、あと案内代りのアシュリーね。彼は教会の司祭様たちと懇意だから。

え?何で王妃様の騎士まで全員黒髪かって?それは僕たってのお願いによりもれなく全員黒髪で揃えてもらったからだ。せめてこれくらいの要望はきいてもらわないとやってられない。

ここは貴族街の国教会と違って随分こじんまりとした教会だ。ここに居るのは司祭様以下アーロン入れても7名程度。彼らは善良で凡庸な中年から初老の聖職者たちだ。
そして塀で囲まれた敷地の中には教会があり彼らが住む宿舎があり、家庭菜園程度の小さな畑や薬草園があったりする。あ、あと葬式を待つ安置室なんかもあるよ。
その教会と宿舎の間は回廊でつながれ、その途中に納戸みたいな小さい建物が三つ並んでいる。

一つは聖具がしまってある人の出入りの多い保管庫。ここは全てが整然としピカピカに掃除されている。
もう一つは雑多なものが放りこんであるいわゆる倉庫。ここも物の出したりしまったりが多い分それなりに整理整頓されている。
最後の一つが古い聖典や過去の書類を保管してある人の出入りの少ない書庫。ここは紙が傷まないよう最低限の明かりを確保するための小さな窓が一つしかない書庫で、実に埃っぽい薄暗い倉庫。つまり子供が隠れ家にするにはピッタリの場所だ。アーロンはここで禁書を見つけたのだ。

アシュリーをここに同行したのには理由がある。彼は一番偉い司祭様に、アーロンが捨てられていた時のことを確認している。
ここは隊長も一度調べてくれてはいるが…一学生の隊長と子爵であるアシュリーでは、司祭様の記憶にも多少の違いがあるかもしれない。

そして僕はというと、古い書類を手にとってはパラ見して戻し、その隣の書類をとってはチラ見して戻しを繰り返していた。ときどき難しい顔をしてみたり、ため息をついてみたり。このわざとらしいアピールは全て王妃様の騎士に見せるためのものだ。彼らは全てを報告する。おさぼりは許されない…

はぁ…めんどくさい。そう思いつつふと手に取った古い古い書類…

゛葬録”

これって…葬式の葬だよね…?で記録の録…。つまり弔いの記録ってこと?(あ、僕は転生チートで全ての言語が脳内日本語になっているので矛盾はスルーの方向で)表紙には年代が記されている。ここにあるのは全て三年以上前のもの。その葬録が古いのから順に五冊六冊七冊…

確か娼婦は客に刺されてここで弔われたはず…

パラパラパラ…うーん、今ここで全部チェックするのは無理だな。

パタ…えーと…さっき見たこれとこれを使って…

「騎士α様。この帳面に記載されている数字に関して(てきとー)司祭様に確認をとってきて下さい」
「今ですか?」
「ええ今すぐに。重要な問題なので(てきとー)証人として騎士β様もご一緒にお願いします」
「は、はい!」

「それから騎士Ω様。この目録と神具の数が合うか確認を(てきとー)お願いします」
「ですがそれは先日すでに我々が…」
「いいから!」
「か、畏まりました!」

さっ、邪魔者が居なくなったところで…

「護衛ABC。何も言わずに後ろを向いて」
「はっ!」

これだよ。

「カイル…は」
「僕は何も見えません」
「だよね」

ささっ!
たらららららん、たらららーん!シャノンは葬録をてにいれた!

余談だが僕が騎士αに渡した書類は一見何も発見できなかったのだが、「シャノン様がああ言われるのだ!何かあるに違いない!」と言い募る騎士βにより王妃様に提出され、その結果、王妃様の眼力により巧妙に隠された使途不明の経費がいくつか発見された。
そして神具の目録も同じように「我々には分りかねます…」とさじを投げた騎士Ωによりやっぱり王妃様に提出され、大したことではないが寄付元不明の祭具が幾つか発見された。

それをみた王様は言葉を失いその書類を凝視していたという。そして僕は王妃様の期待通りに成果を出せたというわけだ。

いやー、偶然とは恐ろしい。これも日ごろの行いかな?てへっ☆






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