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118 断罪の影に居る者
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僕は司祭様に使途不明金の帳面の件は任せておけと太鼓判を押し(フレッチャーに擦り付けてやる!)大急ぎで屋敷へ戻ることにした。
ああ…頭の中がまとまらない。
頭の良いシェイナと違って、僕の脳細胞はBL人物相関図と妄想以外はあまり働かない仕様だ。
「うぅぅ…こんな時に隊長が居たら…」
その時!僕の背後から聞こえてきたのは、まるで布で押さえたかのようにくぐもった声!はっ!ま、まさか…これは隊長!?
「受け…」
「せ、攻めっ!」
「隊長?ホントに隊長なの?」
「シャノン様、私をお呼びですか?」
「…ウソみたい…」
だけど隊長は言う。決して後ろを振り返ってはいけないと。ああ!なんてもどかしい!
だからって立ち話もなんだし…、っていうか、立ち話で出来る相談じゃない!でも馬車はすぐそこ。そうだっ!
「隊長。今から僕は目隠しをします。なので手を引いて僕を馬車まで連れていってください。それで屋敷に付くまで話を聞いて?」
「…わ…わかりましたっ!」
カイルは隊長に関する特殊な事情をカフェでの初顔合わせ?時に把握済みだ。それでも「二人きりなんて!」と渋るカイルを、「これは大事なことだから!」と説得して御者席に移動させ、目隠しをした僕は隊長に手を引かれながら無事馬車の中へ。
だいたい嫁入り前だから男性と二人きりはNGとか…現代日本人の僕には意味わかんない!こんなに立派な隊長に失礼でしょうが!
ジワジワと汗ばんでいく隊長の掌が、うわ…って感じだったのはおいといて、僕はまとまりのない事実を思いつくまま羅列した。隊長はそれを黙って聞いてくれる。時々ウーンと小さく唸るのは思案の声だろう。最後まで聞き終えると先ずはカトレアの件から考えを聞かせてくれた。
「私が考えるにその暴漢に襲われ命を落としたという女性は…娼婦の縁者でしょう。母親かもしれないと私は考えます」
「母親の母親…、つまりアーロンのおばあさん?」
「同じ髪色、同じカトレアのロザリオ、そう考える方が自然だと思うが…」
「でもロザリオは二人の間で受け継がれたんじゃなく教会から盗まれたものですよ?」
「それでもです」
「で、でも彼女がアーロンと会ってたのは孤児院の裏で…、司祭様は女性を見たこと無いって言ってましたよ?教会に寄り付きもしてなかった彼女がどうやってロザリオを…」
「彼女は間違いなく一度教会に立ち寄っています」
僕を制したのは確信に満ちた隊長の声。
「それはアーロンを捨てた時です」
「 ‼ 」
そ、そうだよ!彼女は教会に赤子を捨てた!それは教会の前の路上…ってこたぁないだろう。つまり彼女は教会の敷地の中にいた。その時一度は、間違いなく。
「もしかしたらロザリオを盗んだのはその時かもしれない」
「ならそこにロザリオがあるのを知ってたって言うの?」
「すべては想像でしかないが。だが逆に…そこにロザリオがあったからアーロンを教会に捨てたのかもしれない」
「ロザリオを盗むために…、ううん、返してもらうために教会に行ったってこと?」
「捨てようと思って連れて行ったのか、それとも突発的にそうしたのか、それは分からないが…」
「どっちでもいっしょか…。自分と居るよりはマシ。そう思ったんだよ、きっと…」
続けて隊長は次の事実にも切り込んでいく。フレッチャーがアーロンの養育を司祭様に指示したという件だ。
「フレッチャーの子飼いが娼婦の周辺を嗅ぎまわっていたなら、恐らくアーロンの周辺も見張ることを考えただろうと思う。所在が明らかなら都合が良い。ましてや教会なら余計な雑音は入らない。だから王都外に養子に出すこともさせず教会に留め置いた」
「その雑音って…フレッチャーに都合の悪い雑音って事?」
「その通り。こうは考えられませんか?赤ん坊のアーロンは何も知らない。そして教会に居れば世俗のことはほとんど耳にしない。だから消されず、むしろ利用された」
「それって…女性たちがまるで消されたみたい…」
「あくまで想像ですが」
コ、コワー!でも、話が見えてきたのはいけど深まる謎も山ほどある。娼婦は…いや、それより暴漢に襲われた娼婦の母親、アーロンのおばあちゃんは一体何者なんだ!
僕の頭が程よく煮詰まりパンクしそうな頃、馬車は停車しカイルが屋敷に近いことを告げる。
「では私はこれで。馬車を降りますのでシャノン様は100数えてから目隠しをお取りください」
「…さすがですね隊長。分かってます。ズルはしませんよ。いーち、にーい…」
なんてハードボイルド。ああカッコいい僕と隊長…
とにかく、アリソン君たちにも話して情報を吟味しなくては。あっ、そうだ!シェイナも呼んで、それから…それから…
ゴンゴン
考え事をしながら屋敷に戻った僕の背後で鳴らされたのは正面扉のドアノッカー。カイルが扉を開けるとそこに居たのは…
「やあシャノン様。ブラッドは在宅ですか?」
「ロイド様…、居ませんけど…また来たんですか?毎週毎週仲いいですね。まあいいです。みんなは居るんでどうぞ僕の部屋でお待ちください」
この二人ってこんなに仲良かったっけ?二人のスチルは各々アーロンとのツーショットが鉄板なんだけど、ゲームでは。
うーん、ロイド、ブラッド。もと断罪を裏で支えたこの二人には決して萌えない、萌えないよ?ああだけど!
少しくらいならキャパを空けてもやってもいいだろう…萌え要員キープとして。
ああ…頭の中がまとまらない。
頭の良いシェイナと違って、僕の脳細胞はBL人物相関図と妄想以外はあまり働かない仕様だ。
「うぅぅ…こんな時に隊長が居たら…」
その時!僕の背後から聞こえてきたのは、まるで布で押さえたかのようにくぐもった声!はっ!ま、まさか…これは隊長!?
「受け…」
「せ、攻めっ!」
「隊長?ホントに隊長なの?」
「シャノン様、私をお呼びですか?」
「…ウソみたい…」
だけど隊長は言う。決して後ろを振り返ってはいけないと。ああ!なんてもどかしい!
だからって立ち話もなんだし…、っていうか、立ち話で出来る相談じゃない!でも馬車はすぐそこ。そうだっ!
「隊長。今から僕は目隠しをします。なので手を引いて僕を馬車まで連れていってください。それで屋敷に付くまで話を聞いて?」
「…わ…わかりましたっ!」
カイルは隊長に関する特殊な事情をカフェでの初顔合わせ?時に把握済みだ。それでも「二人きりなんて!」と渋るカイルを、「これは大事なことだから!」と説得して御者席に移動させ、目隠しをした僕は隊長に手を引かれながら無事馬車の中へ。
だいたい嫁入り前だから男性と二人きりはNGとか…現代日本人の僕には意味わかんない!こんなに立派な隊長に失礼でしょうが!
ジワジワと汗ばんでいく隊長の掌が、うわ…って感じだったのはおいといて、僕はまとまりのない事実を思いつくまま羅列した。隊長はそれを黙って聞いてくれる。時々ウーンと小さく唸るのは思案の声だろう。最後まで聞き終えると先ずはカトレアの件から考えを聞かせてくれた。
「私が考えるにその暴漢に襲われ命を落としたという女性は…娼婦の縁者でしょう。母親かもしれないと私は考えます」
「母親の母親…、つまりアーロンのおばあさん?」
「同じ髪色、同じカトレアのロザリオ、そう考える方が自然だと思うが…」
「でもロザリオは二人の間で受け継がれたんじゃなく教会から盗まれたものですよ?」
「それでもです」
「で、でも彼女がアーロンと会ってたのは孤児院の裏で…、司祭様は女性を見たこと無いって言ってましたよ?教会に寄り付きもしてなかった彼女がどうやってロザリオを…」
「彼女は間違いなく一度教会に立ち寄っています」
僕を制したのは確信に満ちた隊長の声。
「それはアーロンを捨てた時です」
「 ‼ 」
そ、そうだよ!彼女は教会に赤子を捨てた!それは教会の前の路上…ってこたぁないだろう。つまり彼女は教会の敷地の中にいた。その時一度は、間違いなく。
「もしかしたらロザリオを盗んだのはその時かもしれない」
「ならそこにロザリオがあるのを知ってたって言うの?」
「すべては想像でしかないが。だが逆に…そこにロザリオがあったからアーロンを教会に捨てたのかもしれない」
「ロザリオを盗むために…、ううん、返してもらうために教会に行ったってこと?」
「捨てようと思って連れて行ったのか、それとも突発的にそうしたのか、それは分からないが…」
「どっちでもいっしょか…。自分と居るよりはマシ。そう思ったんだよ、きっと…」
続けて隊長は次の事実にも切り込んでいく。フレッチャーがアーロンの養育を司祭様に指示したという件だ。
「フレッチャーの子飼いが娼婦の周辺を嗅ぎまわっていたなら、恐らくアーロンの周辺も見張ることを考えただろうと思う。所在が明らかなら都合が良い。ましてや教会なら余計な雑音は入らない。だから王都外に養子に出すこともさせず教会に留め置いた」
「その雑音って…フレッチャーに都合の悪い雑音って事?」
「その通り。こうは考えられませんか?赤ん坊のアーロンは何も知らない。そして教会に居れば世俗のことはほとんど耳にしない。だから消されず、むしろ利用された」
「それって…女性たちがまるで消されたみたい…」
「あくまで想像ですが」
コ、コワー!でも、話が見えてきたのはいけど深まる謎も山ほどある。娼婦は…いや、それより暴漢に襲われた娼婦の母親、アーロンのおばあちゃんは一体何者なんだ!
僕の頭が程よく煮詰まりパンクしそうな頃、馬車は停車しカイルが屋敷に近いことを告げる。
「では私はこれで。馬車を降りますのでシャノン様は100数えてから目隠しをお取りください」
「…さすがですね隊長。分かってます。ズルはしませんよ。いーち、にーい…」
なんてハードボイルド。ああカッコいい僕と隊長…
とにかく、アリソン君たちにも話して情報を吟味しなくては。あっ、そうだ!シェイナも呼んで、それから…それから…
ゴンゴン
考え事をしながら屋敷に戻った僕の背後で鳴らされたのは正面扉のドアノッカー。カイルが扉を開けるとそこに居たのは…
「やあシャノン様。ブラッドは在宅ですか?」
「ロイド様…、居ませんけど…また来たんですか?毎週毎週仲いいですね。まあいいです。みんなは居るんでどうぞ僕の部屋でお待ちください」
この二人ってこんなに仲良かったっけ?二人のスチルは各々アーロンとのツーショットが鉄板なんだけど、ゲームでは。
うーん、ロイド、ブラッド。もと断罪を裏で支えたこの二人には決して萌えない、萌えないよ?ああだけど!
少しくらいならキャパを空けてもやってもいいだろう…萌え要員キープとして。
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