君との怪異に僕は溺れる

箕田 悠

文字の大きさ
上 下
178 / 259
第六章「帰省」

20

しおりを挟む


「まさかお漏らしですか」

「ち、違うよ!」

「じゃあ何ですか?」

 神近くんはダルそうな表情で、僕をジッと見つめる。

「あの部屋の障子に変な影があって……」

 そう言いつつも神近くんに、寝ぼけてるんじゃないんですかと言われそうで、言葉尻が萎んでいく。

「分かりました。一緒に見にいきましょう」

 そう言って神近くんは欠伸をしつつ、アッサリと立ち上がる。

「へっ?」

 唖然としている僕に対し、神近くんは眉を顰め「はやくしてください。眠いんです」と言って部屋の入り口の襖を開く。

 まさかすんなりと僕の言葉を信じてくれるとは思ってもみなかった。もっと色々と言われたり、馬鹿にされるかと思っていたのだから。

 訝しく思いつつも神近くんを伴って僕の部屋へと向かう。神近くんが僕の部屋の襖を開くと、そこには最初に見た揺れる木の影が障子に映し出されているだけだった。

「どうですか?」

 神近くんがチラリと僕を見遣り、さっきの異変が続いているのか確認してくる。

 僕は居た堪れない気持ちで俯くと「ごめん。見間違いだったかも……」と謝った。そこに異変がない以上は、証明する手立てがなかった。僕はぐっと唇を噛みしめる。神近くんはきっと、ちゃんと確認してから起こしてくださいと怒るだろう。


しおりを挟む

処理中です...