上 下
387 / 497
5章 お爺ちゃんと聖魔大戦

343.お爺ちゃんと婿さんズ③

しおりを挟む
 ログを読み解くと、百鬼鎧袖の効果はスーパーアーマーであることがわかる。俗に言う攻撃を受けてものけ反らず、そのまま反撃に転じる事が出来る優れものだ。
 その上でダメージそのものをエネルギーに変換する事ができるそうだ。
 回数は9回まで。
 だがチャージングで使われると18回までのけ反り無効に蓄積ダメージエネルギー変換を行える非常に厄介なものらしい。
 
 続いてヒャッコ君は更に三度霊装を重ねがけする。
 霊装のデメリットは一日に一回しか使えない事だが、全く別のものなら何度だって使える事にある。
 そして彼の場合、持ってる霊装の数もトップだと言う事で油断はできないそうだ。
 そこら辺はオクト君達が茶番混じりで教えてくれた。

 重ねた霊装は『百足薙ぎ』『幻影剣』『残像演舞』。
 百足薙ぎは攻撃が意思を持ってこちらを狙うというもの。
 幻影剣は一度に限り攻撃を4回行う。
 残像演舞はミラージュのような物。3回まで直撃を無かったことにするらしい。
 これらを繰り出してくる時点で向こうの本気度が良くわかる。


『ここからが俺の本気です』


 ヒャッコ君が無造作に口を開けてビームを放ち、その形が百足へと変化する。数は8匹。
 直撃すれば触腕をもいで来る意思を持つレーザーが回避しても何処までも迫ってくる。

 チャージングの特性は回数制限なら倍の数、威力ならば二倍。
 距離ならば飛距離。しかし生命の具現ならば?
 それは知識なのだと理解する。

 それがただのレーザーだったのなら、貫通して明後日の方へ飛んでいくが、百足の特性を持ったそれらが触腕にくっつき、捕食するように口の鋏を動かした。

 鈍痛。再生する端から食べられて、ずっと捕食され続ける。
 制限時間はどれくらいだ?
 数を増やしたのなら制限時間の方は変わってないはずだ。
 私はレーザー百足を振り払うようにショートワープで移動するが……


『読んでましたよ』


 移動した先に待ち構えるヒャッコ君。
 わざと開けていた退路に誘い込まれていたようだ。
 その上でショートワープしたのに百足達もついて来ている。
 対象が同じビームだからビームを当てても消滅しない。
 非常に厄介な手合いだ。触腕にビーム能力をつけたのがこうも仇になるか。


『不思議だと言う顔ですね。その百足の出自を考えればわかる事ですが、レーザーという物は光の速さで動けるんですよ。そして百足の特性で一度捕食した餌は逃さない。こんな狭いフィールドでは彼らにとって庭みたいな物です』


 何処か説明するような口調でありながら一切の油断なく手の甲から生やしたビームソードで斬りつけてくる。
 肉体が再生するからと受けに回っていてはいずれ負けるだろう。ここは少しずるいが反撃させてもらおうか。


「『これは参った。このままでは負けてしまうな』」

『降参しますか?』

「『いいや、別のプランを考えるよ。山田家、タワー召喚!』」


 ヒャッコ君と私を阻むように山三つ分の巨体が差し込まれる。
 

『召喚! そう言えば義父さんはテイマーだったか!』

「『忘れてたかな? 私にとってはこちらが本業。でもそれだけじゃあない。掌握領域・山田家、タワー」」

『えっ?』


 ヒャッコ君が狼狽える。
 よもやレムリアの器のように取り込むとは思わなかったのだろう。私の背中からカラフルな首が9本現れる。
 通常の8本の他に9本目の桃色。
 桃色の特性はビーム無効だ。

 そして再生した触腕にはそれぞれLP吸収、SP吸収、ST吸収、EN吸収効果がついた。

 触腕が反撃を始める。
 張り付いた百足は突然食べられなくなった餌に負けじと触腕に攻撃を繰り返すが、レーザーの本質はエネルギー体。
 だからEN吸収効果は特攻だった。
 レーザー百足はあっさりと無効化される。
 そして6本の首が同時に海中と化したフィールドにブレスを撒き散らした。
 海の中で炎のブレスこそ消失したが、猛毒だけは消えずにフィールドに混ざる。


『残念ですが、俺に状態異常は通じませんよ』


 そう、レムリアには状態異常の類は通用しない。
 なにせ向こうは精神生命体。ボディはただの乗り物だ。
 だからこれは目隠し。

 透明度の高い海の中は毒が混ざって濃い紫色となって視界を覆う。最早位置の特定すらままならないだろう。
 レーザービームを闇雲に撃っても、私の肉体はビーム無効。

 だが私が思っている以上にヒャッコ君は冷静で、優秀だった。
 そういえば彼は天空の試練を乗り越えているんだったか。

 紫色だったフィールドがみるみるうちに晴れ渡っていく。
 水流操作だろうか?
 それともまた別のスキルだったりするのだろうか?

 晴れ渡る海水。ヒャッコ君の手元にかき集められた毒が玉のように凝縮された。


『効かないと思いますがお返ししますね。霊装〝凝縮剣〟』


 集められた玉が剣の形を取る。
 よもやこんなものまであるなんてすごいね。
 レーザービームのみならず、いろんな手札を惜しまず切ってくるのは娘だったらまずやらないだろう。
 彼女の場合は確実に倒せると確信した時じゃないと手札を切らないからね。
 それに比べてヒャッコ君は思い切りがいい。
 こちらも何度もびっくりさせられたよ。
 百足薙ぎもそうだけど、私ももう少し霊装について調べてみてもいいのかもしれないと興味を持ったほどだ。
 
 時間制限が来たのか、毒の剣は霧散した。
 こちらはそれほど損失もなく、お互いに無傷。

 こちらは再生能力の高さ。ヒャッコ君は予知能力と回避行動の巧みさで無傷なのだ。


「『やるなぁ、ヒャッコ君』」

『まだまだこれからですよ! 義父さん』


 まだ手札があるそうだ。それを聞いてワクワクする私がいる。
 娘の親だとこう言う感情はぶつけてこないものね。
 ちょっとだけ息子の父親に憧れが出てくる。
 ジキンさんを羨ましがる日が来るとは思わなかった。


「『いいね、付き合うよ』」

『こちらとしてはもう少し驚いて欲しいのですけど』

「『ははは、十分驚いてるさ』」

『本当ですか? ならばもっと高みの戦闘というのをお見せしますね』


 ヒャッコ君はステップを刻む。
 海中だと言うのに、まるで地上のような軽やかさだ。
 重力操作の類だろうか?
 判明しないが、様子を見る。

 今まではただの陣営のジョブとスキル、霊装の合わせ技だった。それに対する私も神格の能力のゴリ押しだけども。
 そこは突っ込んではならない。


『今までのがチュートリアルで、ここからが本番です』

「『結構質の高いチュートリアルだね。普通の人だったらやられてるんじゃないの?』」

『そうですね、プレイヤーの上位陣以外ならやられてますよ。妻だったらウォーミングアップの範囲内かと』

「『そっちの基準か、参るなぁ。私は戦闘では素人なのだけど』」

『ははは、どの口でそんなことを言うんだか』


 軽いやりとり。
 だと言うのにヒャッコ君の姿が描き消える。
 気がつけば巨大化した私の背後に回り込んでいて……


『この装甲、ビームは無効ですが物理は通用しますよね?』


 何かで切り裂いた。
 武器らしいものは見えない。
 そもそも死角に回り込まれての一撃だ。
 触腕で痛みのした方角を振り払っても、既にもぬけの殻。
 ヒャッコ君の声だけがフィールド内に残されている。

 そうか、君のスタイルはそっちか。
 アサシンスタイル。
 人前に姿を現さず、対象を前に検証を重ねる。
 切り付けられた胴体の再生こそ間に合ったが、何で切り付けられたかの解答は得られなかった。

 厄介な手合いだ。
 さっきまでのでも十分厄介だったが、本来のプレイスタイルはそれを上回るほどの厄介さだ。
 案外、探偵さんと仲良くできるかもしれないね。

 あの人って普段はあんなだけど、結構冷静に物事対処してるから。そういえば彼も息子を持つ父親か。
 その違いが私を苦境に陥らせている?

 いやいや、そんな事はないはずだ。
 娘の父親だって素晴らしいはずだぞ。


『ふむ、再生速度が速すぎてこちらの攻撃は無駄ですね』

「『降参するかい?』」

『いえ、攻略し甲斐が出てきましたよ』


 声色は明るいのに、攻撃は苛烈さを増す。
 会話のキャッチボールこそ親と子のそれなのだが、絵面はそれの真逆と言っていい。
 私と言う怪異にアサシンスタイルで攻撃し続けるヒャッコ君。
 結局位置が把握できても速度が速すぎて触腕での攻撃が追いつかない。隙を見せれば切り付けられ、まるで難易度を上げすぎたモグラ叩きのようなイライラが募るばかりだった。

 想像以上にトッププレイヤーというのは厄介だね。
 だからどうしたものかと考えて……行動に移す。


「『掌握領域・重力操作』」


 テイムモンスターの掌握ができるのなら、スキルや称号スキルも可能ではないか? そう考えて行動に移したら案の定いけた。

 ただでさえフレーバーのレムリアの器がいけたのだ。
 なんでもやってみるものだ。
 取り敢えずフィールドの重力を100倍にする。
 向こうはワープを使えるけど、TPを消費するので連続的には使えないはずだ。
 スキルだってゲージ消費制。
 霊装だって同じ。
 そこで領域内で留まるヒャッコ君を見つけ、ショートワープで移動する。


「『捕まえた』」


 通常攻撃でさえ、クトゥルフの鷲掴みが発動するモード。
 そこに四種の吸収攻撃とビーム、ブレスが集中すれば、ヒャッコ君のLPはあっという間に溶けた。

 やはり防御系統は紙のように薄っぺらい様だね。
 それでもミラージュ込み、百鬼鎧袖込みの防御力はあったんだけど、反撃させずにそのまま押し込んだ。

 のけ反り向こうでも、ST吸収で移動が困難になってたのが痛いだろう。その前にLPが全損した可能性もあるか。
 どちらにせよ私の勝利である。


<ラウンド1 アキカゼ・ハヤテWIN!>


 システムも私の勝利を告げてくれた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】6歳の王子は無自覚に兄を断罪する

土広真丘
ファンタジー
ノーザッツ王国の末の王子アーサーにはある悩みがあった。 異母兄のゴードン王子が婚約者にひどい対応をしているのだ。 その婚約者は、アーサーにも優しいマリーお姉様だった。 心を痛めながら、アーサーは「作文」を書く。 ※全2話。R15は念のため。ふんわりした世界観です。 前半はひらがなばかりで、読みにくいかもしれません。 主人公の年齢的に恋愛ではないかなと思ってファンタジーにしました。 小説家になろうに投稿したものを加筆修正しました。

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

Select Life Online~最後にゲームをはじめた出遅れ組

瑞多美音
SF
 福引の景品が発売分最後のパッケージであると運営が認め話題になっているVRMMOゲームをたまたま手に入れた少女は……  「はあ、農業って結構重労働なんだ……筋力が足りないからなかなか進まないよー」※ STRにポイントを振れば解決することを思いつきません、根性で頑張ります。  「なんか、はじまりの街なのに外のモンスター強すぎだよね?めっちゃ、死に戻るんだけど……わたし弱すぎ?」※ここははじまりの街ではありません。  「裁縫かぁ。布……あ、畑で綿を育てて布を作ろう!」※布を売っていることを知りません。布から用意するものと思い込んでいます。  リアルラックが高いのに自分はついてないと思っている高山由莉奈(たかやまゆりな)。ついていないなーと言いつつ、ゲームのことを知らないままのんびり楽しくマイペースに過ごしていきます。  そのうち、STRにポイントを振れば解決することや布のこと、自身がどの街にいるか知り大変驚きますが、それでもマイペースは変わらず……どこかで話題になるかも?しれないそんな少女の物語です。  出遅れ組と言っていますが主人公はまったく気にしていません。      ○*○*○*○*○*○*○*○*○*○*○  ※VRMMO物ですが、作者はゲーム物執筆初心者です。つたない文章ではありますが広いお心で読んで頂けたら幸いです。  ※1話約2000〜3000字程度です。時々長かったり短い話もあるかもしれません。

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

運極ちゃんの珍道中!〜APの意味がわからなかったのでとりあえず運に極振りしました〜

斑鳩 鳰
ファンタジー
今話題のVRMMOゲーム"Another World Online"通称AWO。リアルをとことん追求した設計に、壮大なグラフィック。多種多様なスキルで戦闘方法は無限大。 ひょんなことからAWOの第二陣としてプレイすることになった女子高生天草大空は、チュートリアルの段階で、AP振り分けの意味が分からず困ってしまう。 「この中じゃあ、運が一番大切だよね。」 とりあえず運に極振りした大空は、既に有名人になってしまった双子の弟や幼馴染の誘いを断り、ソロプレーヤーとしてほのぼのAWOの世界を回ることにした。 それからレベルが上がってもAPを運に振り続ける大空のもとに個性の強い仲間ができて... どこか抜けている少女が道端で出会った仲間たちと旅をするほのぼの逆ハーコメディー 一次小説処女作です。ツッコミどころ満載のあまあま設定です。 作者はぐつぐつに煮たお豆腐よりもやわやわなメンタルなのでお手柔らかにお願いします。

処理中です...