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5章 お爺ちゃんと聖魔大戦

344.お爺ちゃんと婿さんズ④

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 結果から先に言わせて貰えば、残る二戦も私の勝利で試合を終えた。 
 相手が強かったからこそ、手を考え、取り込むだけでは悪手だと考えた私はある手法に思い至った。
 それこそが掌握した能力の融合だ。

 これは理論的、机上の空論とでも言おうか?
 一度取り込んだ、掌握した能力を解析、解明できるのなら。
 それらを使って全く新しいものができるのではないかと思い至ったのだ。
 例えばヒャッコ君がレーザービームと霊装を掛け合わせたように、レーザーとピョン吉を融合したり、スキルとテイムモンスターを融合させて支配下に置いた。そのおかげでようやく勝ち取ったと言っても過言ではない。

 あの攻撃自体が私の価値観を大きく塗り替えてくれたと言っていい。
 他にも様々、スキルと霊装の組み合わせを披露してくれた。最初こその力じゃなかったPVPモードも、終わってみたら一番楽しんでいたのは私だった。

 勿論、相手がヒャッコ君レベルだったからこその楽しさだ。
 相手が強く、窮地になればなるほど勘働きが良くなるからね。


『今日は勉強させていただきました』


 試合後、改めて頭を下げるヒャッコ君。
 こうも礼儀正しいのは私が勝ち越したからではない。
 途中から彼、私を試すような動きをしてたもの。
 一回戦こそ実力で勝ち取ったものの、それ以降は勝たせてもらった。いわゆる接待のようなもの。
 勿論一切手は抜いてないし、窮地には追い込まれたよ?
 
 あらゆる方法で神格と同一存在になった私を追い詰める相手。
 なかなか見れるものじゃないよ。
 なにせ相手はベルトを持たない一般プレイヤーだ。
 伊達に攻略班の一柱を担ってる訳ではないのだろう。


「『勉強させていただいたのはこちらも同じさ。結果としては勝たせていただいたけど、ヒャッコ君としては少しでも得られるものがあったかな?』」

『はい、妻にいい知らせができそうです。それとこの事はご内密に』

「『ああ、私の胸の内にしまっておこう。それよりも周囲に対して口の軽そうなオクト君を注意したほうが良さそうじゃない?』」


 二人して苦笑する。
 まぁそれはともかくだ。私は今回のバトルを通じて大きく成長できていた。
 心の住人であるクトゥルフさんも随分とご機嫌だった。

 彼の住んでる世界にスキルこそあれど、霊装なる能力はない。
 あれは聖典陣営が力なき民に与え賜うた奇跡なのだろう。
 だからか、世界を一変させたこの状況を憂いていた。


[あの残り滓共にも価値はあったのだな]


 神々に対してこのいい様。クトゥルフさんも相変わらずだ。


『ええ、でしたら閣下も何かを与えたら良いのじゃないですか? 人類側の神々が与えたのが霊装なら、我ら魚類にもそれに通ずる恩恵があればさらに発展するのではないかと思います。今やこの世界の人類は減り、魚類が支配する地。今まで通りとはいかないでしょう? なにせ我々に対してあそこまで追従してくる能力。魚類に分が悪すぎます』

[そうだな、考えておこう。勝者故の特権と言うやつか]
 

 と、そんな訳で新しいシステムがこの度追加された。
 それこそが海霧纏カムイ
 霊装と対を成す今の時代の開拓者に授けられた恩恵だった。

 システムは全くと言っていいほど似通っていて、しかし取得方法がまた別物であった。
 それこそがまず頭に魚人種である事が条件。
 そして魚人種の全プレイヤーに挑戦権が委ねられた。

 これを機に残された人類を一気にこちら側に引き込もうとのお考えだろう。
 私とクトゥルフさんの悪巧みで発令されたワールドアナウンスに対し、目敏いオクト君が声をかけてくる。



「お義父さん、このアナウンス。お義父さん絡みですか?」

「なんでそう思うの?」


 ライダーモードを解除し、普段の私に戻ってからPVPルームを出た先でそんなことを言われたので返事をする。


「だって前情報なしに今の今ですよ? お義父さんが楽しそうにバトルした後に霊装に変わる新システムです。そりゃ疑いもかけたくなりますよ」


 捲し立てるオクト君に、私は肩をすくめて見せるだけだ。
 クトゥルフさんは特に表に出てくる事なく、私の内側で傍観している。きっとどう対処するのか見定める所存なのだろう。
 彼って身内のトラブルが全くと言ってないからね。
 私と親類のトラブルを見て学んでる節がある。


「そうか。他のみんなも私を疑ってるのかな?」

『俺は特には。ゲーム内のことに対してそこまでシビアではありません。ただそうですね、そのシステムがどんなものか今から気になってます。経緯はこの際どうでもいいですね』

「つくづくヒャッコ君は攻略気質だねぇ」

『きっと妻に似たのでしょう。これで手土産が二つ。良いことづくめですよ』

「うんうん、彼女もそう言うところあるから。きっと今頃そのシステムを物にしようと奮闘している頃だよ」

『はい』

「僕からはそうですね、早く僕もガタトノーア様とお話しできる状況に持っていきたいです」


 もりもりハンバーグ君はとっくにその位置にいるのだと思っていたけど、未だ彼の元には降り立っていないのだとか?
 その原因に思い至る事はいくつかあるが、それは彼が気づく事がきっかけだ。
 あんまり部外者の私があれこれ教えてしまうのは面白くないので、アドバイスは簡潔に添える程度に留めた。


「そうだね、これは私の予測なんだけど。実はもうとっくにもりもりハンバーグ君を観察してると私は思ってるよ?」

「僕を観察、ですか?」

「ええ。彼らは非常にシャイで、普段は心の奥底でこちらを観察しています。話しかけてくる時は向こう側と同調する何かがあった時だと私は思っている。だからもりもりハンバーグ君の場合は、考え込むよりまず行動を起こす事が大事なのだと思うよ」

「成る程。さすがお義父さん。体験談からのアドバイスありがとうございます。僕も行動あるのみですね!」

「陰ながら応援してます」


 もりもりハンバーグ君も実に物分かりのいい性格をしている。
 それと伸び悩んでいた壁の壊し方を教えてあげたら驚くほど懐いてくれた。いや、彼は最初からこちら側だったか。
 それでも婿という立場からこちらへ一歩寄ってくれてるのは確実だろうけどね。

 残る障害は一つ。


「なんだかここで追及したら僕だけが悪者みたいじゃないですか」


 同調圧力に負けたのか?
 それとも三女の夫という立場からくる窮地なのか。
 オクト君はあっさり引き下がる。
 勿論言葉の上でだけど。
 これはリアルであれこれ聞かれそうなパターンだな。

 一応私は養ってもらってる立場上、彼には頭が上がらないのだ。他の二人には内緒にしてもらう口約束を結べば、別に語っても良いのだけど、それはまた別の話。


「ではヒャッコ君。私の方から一つ提案がある」

『なんでしょう?』


 バトルを終え、現地解散する雰囲気を匂わせたところで私は一つの提案を持ち出した。


「もし君が望むなら、私はいつでも君の挑戦を受けよう」

『良いんですか?』

「それは勿論。遠い場所に住む家族が私を頼ってくれたんだ。これほど嬉しい事はないよ」

『今までご連絡もせずにすいませんでした』

「そうだね。でも君たちにとって現実ほど生きづらい環境もないだろう。そこでどうだね、VR世界での交流というのは」

『AWO以外でですか?』

「VR井戸端会議というのをご存知かな?」

『妻から聞いた事はありますが、興味は持てずじまいで』


 たしかに名前だけ聞けば道の上で立ち話をするだけみたいなニュアンスに受け取れるものね。システムが素晴らしいのだから絶対改名すべきだよ、あれ。


「実はあれ、過去に私が住んでたリアルの街を完全再現させる試みでね。ゲーム以外で顔を合わせる時などに重宝するんだ。君が良ければ招待コードを教えるよ。どうもあの場所は登録者以外は閉鎖的な空間になってる様でね。勿論娘も一度招待している」

『そんなシステムだったのですね。でしたら息子と娘の分も合わせて送ってくれると助かります。俺はどうも妻の事しか頭にない物で。顔を見せにいくのを今のいままで忘れる様な体たらくです』

「それは仕方ない。私からの願いを叶えるべく全てを賭していたのだろう? あんなものは心構えの一つとして受け止めてくれれば良いものを、君は実直にそれを行動に移していた。それは称賛するべき事であれ、そうまで気にやむことではないよ」

『夫として妻を支えていくのが使命なのは今も変わりません。もう少し肩の力を抜けとは妻からも言われていますが』

「そうだね、君は私が思った以上に娘一筋だ。あの子は表面上こそ冷静さを保っているけど、案外それ以外が抜けてるところがあってね。まぁ、そこがまた可愛いのだけど。ところが周囲はそうは見てくれない。そんな彼女を守るためにも君というナイトがいてくれた方が私は安心できると思ったんだ。便りのない事が元気な証拠ではあるけどね、親としてはずっと顔も見せないというのは少し寂しく感じてしまう物なんだ」

『不徳の致すところでした』

「結局のところこれは私のただの我儘だよ。君が必要以上に気にする事はない。現に私の妻は娘たちを一人前だと認めて送り出しているからね」

『これからはなるべく顔を見せにいこうと思います』

「うん、期待してるよ。さて、立ち話もこれくらいにして、それぞれの活動に戻ろうか」


 パン、と手を打って注意を集め、各々別れる。
 ヒャッコ君は早速海霧纏カムイの検証に入るようだ。彼のことだからきっと今以上に強くなることだろう。
 私もうかうかしてられないな。

 そしてもりもりハンバーグ君もまた、神格との対話に至れるように行動に移した。

 残るオクト君だけがその場に残っている。


「オクト君は今暇?」

「暇じゃないですけどお義父さんに思うところがありまして」

「まぁ君の思惑はさておいて。これからマリンのアイドル活動でも鑑賞しようと思ってたんだ。どうだい? 一緒に鑑賞しながらそのことについて語らおうじゃないか」

「そう言って、今から僕の話をはぐらかす気満々じゃないですか……」

「なんのことやらわからないね」


 アイドル活動という名のダンジョンアタック。
 とっくにアーカイブ化されていて、それを鑑賞しながらあーだこーだ言い合う。

 途中までしつこくクトゥルフさんとの打ち合わせ内容を問いただしていたオクト君だけど、娘のピンチに私以上に声をあげて応援していて、いつのまにか私と一緒に応援合戦をしていた。

 終わった頃にはなんの質問をしていたのかも忘れてしまい終始孫の活躍を語り合う。

 うん、結局彼は私と同じで親バカなんだ。
 気になることを追求したいのは性分なんだけど、優先順位はやはり身内な辺りが検証班に至れない理由だと思うな。
 それはそれで付き合いやすいんだけどね?
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