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4章 お爺ちゃんと生配信

295.お爺ちゃんと古代獣討伐スレ民_4

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 変身後の私は邪神インストール前とはいえ、明らかに前とは様子が様変わりしている。
 銀色に艶めく全身はどちらかと言えばレムリアの民に近く、しかし人間らしさも残している。
 変貌した私に、一瞬あんぐりと口を開くゲストたちだったが、ニコニコしてるスズキさんを見て平常心を取り戻した様だ。
 所詮は見せかけのボディ。
 イベント期間外は能力半減の補正を受けるので強さを期待してはいけない。しかもそれは邪神インストールをした後のことを指すので、その前の状態なら尚のことである。


「さて、行きましょうか」


 四人の仲間を率い、眼前には鎌首をもたげるレヴィアタン。
 早速ヘイト集めに宴会芸を披露するスズキさん。
 サクラ君はタイミングを計り、魔法の詠唱を開始する。
 エリーシア君は回り込むように助走をつけ、ラングスタ君はその場で大砲を構えて待機した。
 大砲の強みは射線さえ通れば距離を無視できることにある。

 それぞれがそれぞれの行動を開始し、私も同じように準備を始める。


「ライドオン、ヘビー」

[キシャァアアアアアアアアア!!!]


 初手、召喚+ライダーモードで一直線に空へ。


【と、飛んだぁああああ!?】
【ここで来るか、移送スキル】
【仲間やテイムモンスターに使えるのは知ってたけど】
【古代獣も問題なく飛ばせるのは厄介】
【まるでアキカゼさん専用マシンの様だ】
【テイマー/ライダーとしては正しいけど、姿と合わさって既視感を覚える】
【正しくマスクドライダーだよな、バイクには乗らんけど】


 無論、ヘビーは超重量級なので空は飛べない。
 なので移送+風操作で高々と空中へと上がった。
 今のヘビーは蛇ではなくドラゴンの様に天空を舞い、上空から援護射撃ができる私専用のマシンとなった。
 たったの100秒、いやライダーの効果で200秒まで伸びた召喚時間を有意義に扱う。

 ここまで派手なアクションを決めても、レビィアタンの視界はスズキさんが映り続けているのはさすがとしか言いようがない。


「ヘビー、レーザー攻撃!」


 命令に従い、上空からレヴィアタンの絶対防御を無視する無慈悲の雨が舞い降りる。
 ヘビーのボディはレヴィアタン相当あるとはいえ、同じくらいの物理耐性を持つので噛みつき攻撃をされようとこちらへダメージは殆ど通らず、むしろその体を縛る様に絡みつけば動きを封じることだって出来た。

 それをチャンスと見て仲間が一斉に攻撃準備に移る。
 特効武器を持ったスズキさんがヒャッホーイと飛び込み、騎士剣を携えるエリーシア君が追撃。
 サクラ君は攻撃に回った二人へバフをばら撒き、ラングスタ君はタイミングを見てスズキさんが攻撃した後ののけぞり時間をキープする様に砲撃を当てていく。
 普段ならこの繰り返しをするのだが、ヘビーが絡み付いてる状況では動き出すこともできない。
 耐久は残り40%──ヘビーの召喚時間も残りわずか。

 最高の見せ場を作るにはここしかないかと私は単独で上空へと舞い上がった。
 何をしに? ……マスクドライダーの必殺技の準備をしに、ですよ。


「みなさん、ヘビーがそろそろ消えます。退避を!」


 私の声が聞こえたのか、陣取って斬りつけまくってた四人が蜘蛛の子を散らす様に退避した。
 直後に光の粒子となって消えるヘビーにお疲れ様と労いの言葉をかけて右側のベルトに提げたレムリアの器でレヴィアタンを適当に打つ。


「召喚、ピョン吉+私を敵に向けて全力で張り手して!」


 鞭を打つ様にしなる右手が、私の背を押す!
 その勢いたるや幾層の空気の壁をぶち破り、やがてレヴィアタンの頭部を紙のように貫いた。
 もちろん、蹴りでだ。

 耐久は一気に減り、0%へ。
 ここは派手な爆発が欲しいところだけど、無い物ねだりは寂しいのでそっとピョン吉を送還して決めポーズを取って視聴者アピールをしておいた。

 
「わー、恰好いいです。ハヤテさ~ん」


 スズキさんがすててててーとかけてきて犬のようにその場でお座りする。


「なんですか、さっきのあれ」

「ライダーキックだよ。知らない?」

「ライドオンしてないのにライダーキックなんですか? 意味がわかりません」

「エリーシアちゃん、それはそう言うものだと受け止めておいた方がいいよ?」

「そうそう、そういう必殺技なんだよ。深く考えちゃダメなやつだ」


 二人は男の子だから今も続くライダーシリーズを視聴しているのだろうか味方についてくれた。一人納得の行かぬエリーシア君は、仲間二人から宥められて渋々としたがっていた。
 彼女的には活躍の場を全て私に持って行かれたことによる不服の方が上回って居たのだろうね。


「それにしても、そんな必殺技があるなら事前に教えてくださいよ」

「一応考えては居たけど、正直机上の空論に過ぎない。ぶっつけ本番に巻き込む可能性の方が大きかったのでみんなには退避してもらったんだ」

「ぶっつけ本番!? 正気ですか!」

「でも上手くいったでしょ?」


 ニコニコする私の圧に負けるようにサクラ君はたじろいだ。
 それに対してスズキさんはベタ褒めだ。
 この魔術師モードは魔導書に取っても近しい関係らしく、ニコニコが止まらない。普段よりだらしない笑顔を見せてくれている。


「ハヤテさんはいつも使う直前まで教えてくれませんよ」

「だってその方が面白いじゃない」


 私とスズキさんの会話に三人は入ってこなかった。
 普段ならここでジキンさんの小言が唸り、探偵さんの細かい注文に見せかけた解釈不一致の請求が発生する所だが、彼らにはそこまでの引き出しがないように思えた。信じられないと言わんばかりにこちらを見続けた。

 張り合いがないと言って仕舞えばそれまでだが、彼らの考えではぶっつけ本番と仲間への被害は最も重い罪のように捉えられてるのかも知れないね。

 ゲームなんだからもっと楽しめばいいのに。

 やっぱり今の時代の子はVR空間がリアルと同義だから現実とアバターが一緒くたになってる子が多いのだろうか?

 学校に行くのもアバターなら、仕事をするのもアバターだ。
 リアルのボディでは食事を摂ったり清潔に保つことを心がけられているが、活躍の機会を与えられてるのはどちらかといえばリアルの肉体よりはアバター方面にあるのだろう。

 だからか失敗を過剰に捉える。
 そう考えるとわかる気がするな。
 リアルでの失敗の方が彼らにとっては低リスクで、こっちの失敗はハイリスクに見えてしまうのだろうね。

 意外と根が深い問題かも知れないな。
 孫世代の抱える問題は会話だけでは平行線になりそうだ。
 これは態度で示すしかないな。
 思えば私と同世代の方達はそこらへんの気遣いができて居た。
 ただそれを孫世代に当て嵌めて考えるのは酷だと言えよう。


「事前に手札を見せ合うのが君たちの流儀だとは知らなかった。許して欲しい」

「ごめんなさい」


 何故か一緒に謝ってくれるスズキさん。ただし言葉とは裏腹に地面に見てるだけとも言える程度の姿勢の変化で、頭を下げてるようには見えなかった。ここは土下座をした方がいいんじゃない? 
 そう促せば正座をしつつ、体をこれでもかと曲げて土下座のポーズをしようとして「グエー」と言いながら横になって転がったスズキさん。
 そのまま気絶するように口からワタを吐き出して息を引き取った。
 

【魚の人ぉおおおおお】
【魚の人無理すんな】
【謝罪の流れから何故命をかける流れに?】
【あー、もうぐっちゃぐちゃだよ】
【ゲストさん苦笑いじゃん】
【いつの間にかアイドルの方が出てきて追悼してるの草】
【こんな空気の中で話を続けるアキカゼさんも大概やろ】
【ペロッ、これはなし崩しにする空気!】

「いえ、別に手札を見せろというわけではありませんが。仲間の安全は守るべきと教えられてきてたので、びっくりしてしまったんです」

「あ、そうなの?」

「むしろ手札見せろなんてマナー違反どころの問題じゃないでしょ」

「えー、私の手札ほどオープンになってるのもないよ?」

「アキカゼさんの場合は配信者としてと言うより、無編集でうつしちゃまずいものまで見せてるからですよね?」

「そうだっけ?」

「そうですよ」

【恥を自ら晒していくスタイル】
【そこに痺れはするけど憧れはしない】
【逆に組み合わせ次第でこうも化けるのかと見せてくれるから常に新鮮な気持ちで見れるよ】
【それ】
【ライダーキックの出来も良かった】
【最後爆発しないのだけが不服】
【ゲームにそれまで求めるな】
【一発で倒せたんだから満点上げてもいいだろ】


 スズキさんが挟んでくれた茶番のおかげで彼ら孫世代が槍玉にあげられなくてホッとする。
 手札晒せ問題がマナー違反である事は彼らも認めてるあたり、それを許せない人もいるらしく、もちろん視聴者の中にもいると見ていい。
 私としても意地悪な切り返しをした自覚はあったが、スズキさんが茶番を差し込んでくれなかったらもっと険悪な雰囲気になって居たと思う。本当、彼女には助けられてばかりだ。


「まぁ私の手札なんてバレてるくらいで丁度いいよ」

「それじゃあバトルに勝てませんよ?」

「私は別にバトルできなくなったからと言って困らないからね。スクリーンショットと、のめり込める程度の謎が転がってればお腹いっぱいになれる人間だ。バトル要素はそうだな、孫と一緒の時間を作るためのものだね」

「そんなふうに切り返されたの、アキカゼさんが初めてです」

「そもそもゲームに求める目的からして違うんだ。他人の土俵に合わせる意味ってある?」

「それを言われたら返す言葉もありませんけど」

「でしょ? 君たちの世代は自分のスタイルを他人にも同じように求めてしまう。それは非常にもったいない事だと私は思うんだよね」

「勿体無い、ですか?」

「うん。だって、おんなじ環境にいたら成長がないもの。ただしそれ方面の効率は非常に良くなる。けどそれ以外の事ではすぐに意識が働かなくなってしまうよね?」

「全くもってその通りだ。サクラ、この人には俺たちがぶち当たってる壁を見透かされてるぞ」

「ラングスタ、それは僕だってわかってるよ。だからこうやって応募して何か変えられる手はないか考えているんじゃないか」

「サクラ君、そうなの?」


 どうやらゲストさんは一枚岩ではなかったらしい。
 企画は彼が立てて、他二人は尻馬に乗っただけか?


「黙っててごめん、実はこの状況を打破したくてアキカゼさんに縋ったんだ」

「そうか」

「仲間なんだから秘密は禁止にしようと言ったのに破ったのね?」

「正直に言ったらついてきてくれた?」

「俺はともかくエリーの奴は来ないな」

「そう言うわけでは……でも私達の為なのよね? きちんと話してくれたら分かってあげられたわ」


 エリーシア君は居心地が悪そうにしながら、この状況から助けてくれと言わんばかりにこちらを見つめている。
 それに対してどんよりとする男二人。
 完全に行き詰まってる状態だ。

 そこへ──
 ずるり、と忍び寄る影があった。

 先程埋葬されたスズキさんがホラーな演出とともに三人に近寄っていく風景だ。
 リリーは外に出ているので、遠隔操作だろうか?
 ゲストに今まさに茶番が降り掛かろうとしているのを、私には笑いを堪えながら見守る事しかできなかった。
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