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4章 お爺ちゃんと生配信

296.お爺ちゃんと古代獣討伐スレ民_5

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 ずるり、ずるり。
 スズキさんは無言で三人に近づく。そしてパクパクと口を開閉したあと、パァンとその場で爆発四散した。
 肉片を真正面から受けた三人は恐怖に飲まれてしまったようにその場で尻餅をついていた。


「スズキさん、やりすぎ」

「ちょっとした悪戯じゃないですか」

「だとしても心に傷を負うレベルの悪戯はダメじゃない」

「ごめんなさーい」

【かつてここまで謝る気のない謝罪をした人が居ただろうか?】
【魚の人の悪ノリは止まる事を知らないからな】
【あーあ、ゲストさんSAN値チェック失敗したような顔しちゃってるじゃーん】
【あの子達何故にあんな目に?】
【元々アキカゼさんに向いてたヘイトを独り占めした形だぞ】
【草】
【魚の人、アキカゼさん好きすぎだろ】

「なんだか体が勝手に動いちゃうんですよねー。面白い方に面白い方に向かわせようと考えてたら、つい」

【つい、で恐慌状態にすな!】
【普通にホラーなんだよなぁ】
【そりゃ(一緒に戦って人が目の前で爆発すれば)そうよ】

「まぁ、みんなに黙ってたサクラ君も悪いけど。壁を感じているのを気がついてなんとかしようと動いていたのも彼と言うわけだ。他の二人は自分なりになんとかしようとしてたんだったろうけど、サクラ君としては頭打ちだと気がついてたって事なんでしょ?」

「ええ。僕達のクランは同じくらいの年齢で固まってます。マリンちゃん程とは行きませんが、それなりに規模も大きくやってきました。けど、自分たちで考えずにきたツケがここに来てやってきまして」

「そのツケとは?」

「試行錯誤、手探りのやり方について僕たちは何も知らないんです。今までは誰かの調べ上げた攻略情報の最善を選択してきました。実際にそれのおかげでうまく行ってましたし」

「うん」

「ですができる事をやり尽くしてしまったあと、僕達は答えの出てない攻略に対しても後続に示すための選択をしなくてはいけなくなりました」

「それが古代獣の討伐などかな?」

「ええ、今までは精巧超人が後続のためにとあらゆる種族での討伐パターンを組んでいてくれました」

「成る程、うちの娘が先頭を走るのをやめた弊害が君たちに来たと?」

「それだけではありませんが、大きな損失であることは確かです。僕たちのクランは中規模で、人数こそ多いですが運営費もカツカツです。幹部である僕たちが稼いでなんとか回してるくらいです。今はクランメンバーを繋ぎ止めるのにいっぱいで、攻略パターンを支持する余裕もなくて」

「ふぅむ。何というか自業自得じゃないの、それ?」


 彼の話を最後まで聞いた私は、ありきたりな答えを出す。
 その答えを聞いたサクラ君は苦笑する。

 彼らは失敗をしない、事前知識ありきの予習をきちんとするクランで順位を上げてきた。
 それはすごいし立派だと思う。

 当時のマリンもそうだった。クラスメイトという立ち位置のサクラ君もデバッファーとして彼女に協力していた時、彼は私に対して得意満面だった。

 その態度は私のみならず、孫のマリンやユーノ君に対しても変わらずだ。
 きっとそのやり方こそが至高だとそう信じ込んでいたんだろうね。
 でもやり方が立ち行かなくなった理由を他人になすりつける精神性が気に食わない。


「そうは言いますけど、僕たちの世代はその手法が当たり前でしたので」

「別にプレイスタイルにまで文句は言わないけどね、そのやり方を選んだのは君たちだよ? なのに攻略情報が入ってこないから無理というのは少し感心しないな。その攻略情報はそもそもうちの娘のようなプレイヤーが善意で出した情報だ。それを君たちが都合の良い解釈で利用した。違うかね?」

「その通りです。けど僕たちのようなプレイイングは他の誰でもやってる事ですよ? 僕だけ責めるのもおかしな話です」


 サクラ君の言葉は色々と浅い。
 他の誰かがやっている。だから自分がやっても問題ないし、責められる謂れもないと言いたげだ。
 なのに、立ち行かなくなった理由を尋ねれば途端に攻略者のせいにし出す。自分達は被害者だと正当性を示す様に逃げるのだ。


「どうにも話が平行線だね」

「その様ですね」

「そもそも君たちはゲーム内で何をしたいのさ? どうにも目的を見失ってる様に見えてならない。クラン維持はやりたい事の過程であってまさか目標にはしてないよね?」

「それは……」

【アキカゼさんほど自由にやれてるクランも珍しいですよ】
【そうそう、普通はクラン維持で一杯一杯になるんだ】
【そういう場合は無計画にクランメンバー増やしすぎたことによる弊害だけどな】
【仲良しこよしではじめると、倍々に増える罠】
【序盤は良いよ? けど人数が増えていくと要望が増えすぎててんてこまいになる】
【あるある】

「うーん、よくわからないね。私はマスターという立場上、一応企画立案はしてるが、クランメンバーさんから資金を徴収したことは一度もないよ?」

【それが理想なんですけどねー】
【基本的にメンバーにノルマを設けるのが普通ですよ】

「ウチもノルマは週にアベレージ10000納める様に促してます。その分攻略情報を出して、メンバーに損失が出ない様に気を使ってます」

【むしろその皺寄せが今来てるんじゃないのか?】
【ありそう】
【ノルマの代価を用意すると破滅の一途だぞ?】

「そうは言いますが、全員が全員時間に余裕があるわけでもないですし。僕達学生の本文は勉強ですし」

【多分クランのテーマがぼやけてるからイン率低いんじゃないか?】
【ウチのクランはエンジョイ前提だからダメ元の自業自得で損失はメンバーさん負担にしてるぞ。クラン側はメンバーの貸し出しをする場所と割り切ったらようやくうまく回るようになったわ】
【ただし、人も居なくなりやすい】
【そこがエンジョイの辛いところやで】

「取り敢えず、君たちのクランはうちの傘下に入りなさい。面倒云々は娘達に任せよう。よし、話はまとまったな」

【強引すぎる】
【ランクBになったばかりのクランが傘下率いてるってやばいな】
【傘下クランが気になるところ】

「身内しかいないよ? うちの娘三人と、ダグラスさんとこの息子さん、あとサブマスターの息子さんのクランぐらいだよ」

【精錬の騎士に漆黒の帝、精巧超人…豪華メンツやんけ】
【三姉妹とか、他誰だ?】
【ダグラス師の息子って?】

「朱の明星さん」

【草】
【鍛治のトップやんけ!】
【すげーじゃん、羨ましすぎんぞ】
【ウチのクランと変わってほしいくらいだわ】

「流石に誰でもってわけには行かないよ? ただでさえシェリルのところの傘下が丸々きてるもの」

「そんな凄いところにお世話になって良いんですか?」

「クラン維持費くらいはこっちで持つさ。ただしそれ以外は自己責任で頼むよ? それとウチのクランの参加であるからと言って増長する様なら切るから。ウチはね、頑張ってる子の見方はするけど、楽をしたい人や迷惑をかける人には容赦しないから」

「それなら、お願いします。僕たちのようなクランは多分いっぱいあると思うんです。そのせいで僕たちばかりが世話になることに対して心苦しくなる面もあるにはあるんですが、どうしてもこのクランは消したくなくて……」

「何か理由があるんだね? ああ、別にここで話さなくて良いよ。私はただ手を差し伸べただけだ。道は示した、あとは君たち次第だよ」

「すいません、ウチの問題を押し付けるような形で」

「良いの良いの。でも君たちがウチの濃さに埋没してしまわないか今から心配だよ。ウチのメンバーはとにかく濃いからさ」

「あはは、善処します」

「その意気だ。よし、じゃあもう3周ほどしてから次に行こうか」

「もう次に行ってしまわれるんですか?」

「君たちの抱える問題も解決したし、他にも応募はたくさんあるからね。だから周回には付き合うけどずっとじゃない」

「いえ、十分です。そういうわけでエリーシアちゃん、ラングスタ。せめて素材だけでも持ち帰ってクランの糧にするぞ」

「ええ」

「おう! つってもこれから返しきれないほどの恩をもらいそうだが」

【アキカゼさん面倒見良すぎない?】
【俺のクランも面倒みてほしい】
【やめてやれ】
【むしろゴリ押しで解決したんだぞ】
【金だけは持ってるから】
【実際羨ましい限り】
【そのお陰で情報班と練金班が嬉しい悲鳴を毎日のように上げてる件】
【草】
【メリットの皮を被ったデメリットかな?】
【むしろSAN値チェックを毎回行う最近の情報の方がやばい】
【それ】


 そのあと爆速で三周してからドロップ品を三人に渡して次へと向かう。
 随分と初日で時間を使ってしまったが巻いて行くよ。


 ◇


「はい、先ほどから引き続き視聴してくれてる人はさっきぶり。今から参加してくれる人はこんにちは。アキカゼ・ハヤテです」

「助っ人の魚の人だよ!」


 今私の前では三匹のスズキさんが謎の踊りをしながら周囲を回っている。そして少し距離を空けてゲストが現れた。
 場所はシクセリオン。
 私が来るのは久しぶり。

 確かリーガル氏と影の大陸探検で譲歩した時以来か。
 しかし今日のメンツは彼らではない。
 間を空けてゲストの自己紹介を始めてもらった。


「おっす、今回初めて配信に顔を出す事で緊張してるモロゾフだ」


 モロゾフ氏は緊張しているとは思えない飄々とした態度の狼耳を生やしたハーフビーストである。屈強な肉体と手入れの行き届いた装備から只者じゃない雰囲気を匂わせる。
 そんな彼に続いたのはハーフビーストで野生種の鷲であった。


「緊張とは縁のない癖しやがって。俺は掲示板で募集されたメンバーで唯一のテイマーだった男のチキンタルタルだ。以後よろしく頼むぜ」

【鳥類でその名前はwww】
【死後の調理法まで決まってて覚悟完了してるんですね】

「お、テイマー仲間ですね。よろしくお願いします」

「古代獣のテイム第一人者のアキカゼさんと出会えて光栄っすわ」

「ほう、ということは君も?」

「俺はヘビーだけっすけどね」

【やめて差し上げろ!】
【ヘビーはアキカゼさんのペットの名前なんだよなぁ】

「いやいや心強いよ。私のヘビーの召喚時間が切れたら当てにさせてもらうよ?」

「了解っす」

【後にも先にもヘビーで空飛んだ人はアキカゼさんしかいないだろうけどな】


 早速濃いメンバーの紹介から始まり、私達は握手を交わして問題の古代獣へと向き直る。

 相手はテュポーン。
 神話上に存在する巨人の一種だ。
 肩から蛇を生やし、人の上半身と鳥の羽を持つとされた魔獣の王。だというのに…/


「どうしてこうなったの?」

「なんの話っすか?」

「いや、テュポーンだけど」
 
「アキカゼさん、歴史上のテュポーンとこれは別物だぞ?」

「そうなんだろうけど」

「ただ、こいつは一定時間後に配下を生み出す。無駄にでかいボディはその為だ。足は蛇で腕も蛇。動きは遅いが物理と魔法は通用せず。偶に覗くコアがビームを吸収するが物理は通る。しかしそこ以外へのダメージソースはないと来てる」

「そうなんだ」

「単純に手数が足りずに俺たちは負け越してるよ。アキカゼさんとこの娘さんはさっさとクリアしていっちまったが、動きが意味不明すぎてなんの参考にもならなかった」

「そりゃ申し訳ないことをしたね」

「いや、無い物ねだりをしてんのはこちらだ。アキカゼさんが悪いわけじゃねぇよ」

「そう言ってくれるのはありがたいね。しかし私たちが参加したからと討伐できるか保証はできないよ?」

「そこは全然問題ない。単純に手詰まりだからアキカゼさんを加えることで起こる科学変化に期待してるって感じだな。チキンタルタルの奴も同じテイマーとして学ぶこともあるかもだし?」

「成る程、概ね理解した。それではスズキさん、頑張ろうか」

「はい!」


 話してみたところ、彼らは卑屈じゃなくて実に良い。
 みんながみんなサクラ君達のようなプレイヤーではないと知れて安心たと同時にホッとする。

 そして通される祠。
 つまりこの古代獣もギミック付きというわけか。
 今から気を揉んでしまうのはファイベリオンで嫌というほど味わったからだろうか?

 別にテイムするわけでもないし、今回は気楽にやろうか。
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