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3章 お爺ちゃんと古代の導き

128.お爺ちゃん達と[三の試練]①

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 空に人がやってきてリアルで数週間経つ。
 雲の上で行動できる人もできてきて、いくつか試練クリア者も出てきた。
 攻略は出来ても、得られるスキルの使い道がないと困り果てる声もある。
 いよいよ私たちも動く頃か。
 記念コインも大体捌けた。店を畳んで攻略でもしようかと思い腰を上げる。


「どこに向かうつもりなんです?」

「そうだね。三の試練はエネミーを倒していくマップらしい。今回はそこに向かってみようと思う」

「なるほど、僕の水操作が役に立つ時がきたか!」


 何故かそう言いながらポーズを取る探偵さん。
 私達が出店している間、暇を持て余した探偵さんやスズキさんは二の試練を突破しており、水をいつでも操れるようになっていた。
 スズキさんはともかく、探偵さんまで取れるとは思わなかったよ。
 ちなみに一の試練のクリア者は意外と少なかったりする。
 私含めて3人だよ。そんなに難しいかな、あの場所?
 まぁそれは今問題ではない。
 探偵さんがウザ絡みしてくるので鬱陶しそうにしながら対応する。


「そうですね。私のAPが切れたらお願いします」

「そうやって、ウチの奥さんのご飯食べてればAP切れないの知っててそんな事言うんだから。どれだけ目立ちたがり屋なんですか。もっとメンバーにチャンスをくださいよ」


 ジキンさんが吠えた。
 うん、まあ彼の言い分はごもっとも。
 ランダさんの開発した赤の禁忌ご謹製『ダークマター』はサクサクとしたクッキーの中に少し緩めの胡麻団子が入った調理アイテムだ。
 見た目の暗黒物質感から取ってつけたネーミングだが、普通に美味しくて腹持ちも良く、天空人の非常食として重宝されている。
 お値段も“ランダさんにしては”お手頃で、5個入りでアベレージ500相当で販売している。
 これらの旨みは先ほども言われた通り、30分間APが消費されないと言う優れものだ。けどENは全然増えないのでおやつみたいな感覚で食べる人が多い。


「チャンスは与えられるものじゃなく、掴み取るものだよ? 私より先に活躍してみればいいだけじゃない。何でもかんでも与えてもらえると思わないでくださいよ。それに私も初めていきますからね。楽しみです」

「やっぱり情報仕入れてないんですね」


 ジキンさんは唸る。けれど、直ぐにくたびれたようにうなだれた。
 言っても無駄だと理解してくれたのだろう。


「はっはっは。ジキンさん、彼の無謀は今に始まった事ではないよ? 諦めたまえ。それに最善を尽くすより、もしもの時のためにと準備をするのも探偵道だ!」

「そうそう。ハヤテさんは思いつきで動くから準備しない人だよ?」

「僕は別に探偵になりたいわけじゃないんですけどね……まあいいです。それで? ランダムでたどり着くこの鯨さんがどうやってその場所に連れてってくれるんです?」

「なーに、こう言う時のコネクションてね? ランダさん、オババ様はどちらにいらっしゃいましたか?」

「ああ、あの人ならまだ広場で鍋突いてると思うよ?」

「ならば会いに行ってきます」

「何をしにいくんです?」

「実はあの人はこの鯨さんの運転手さんなんです。とある試練を乗り越えた人だけがその人にお目通りできて、そして要望を聞いてもらえる権利を得る」

「それ、古代語関連ですか?」


 スズキさんの鋭い指摘に私は頷き、ある程度纏めておいた画像をパーティメンバー全員にメール送信した。
 受け取ったスズキさんとジキンさんが頷き、探偵さんは興奮気味に私に擦り寄った。


「少年! 私に隠れてこんな面白いことやってたなんてずるいよ!」

「だから今回誘ったじゃないですか」

「ああ、今やってるクエストの?」

「現在進行形ですね。これによってフィールドが増える可能性があります。今の試練はそこに到達するまでの試練かもしれないと言うことです」

「なるほど……」

「あの、あなた?」


 そこでさっきまで黙認していた妻がようやく口を開いた。


「何かな?」

「私達は特にそっち系に興味はないのだけど」


 うん、まぁそうだよね。


「別に無理して付き合ってくれなくてもいいよ。イベントはこっちでやっとくから、君達は好きな事をしてたらいい。新しい素材を集めたり、自分たちに旨味のある事を優先するのも大事だよ。私たちの場合はそっちの方が面白いからやってるだけなのさ。あ、でも。戦闘面では助けてくれると嬉しい」

「そうね、好きにさせてもらうわ。ランダさんもそれで構わない?」

「アタシはどっちでも良いよ。今は食材が欲しいね。そこのフィールドに行けば新しい素材が見つかるってんなら嬉しいね」

「じゃあ私達は食材優先で」

「うん、こっちはイベントを紐解くことを優先にするよ」


 フィールドに赴く際に確認事項を終え、鍋を突いていたオババ様に新作料理の是非を問いながら耳打ちする。
 

(そろそろウチの調理スタッフが新しい食材を欲しがっているので三の試練へ移動お願いしても良いですか?)

(なんと、ランダ殿が? 今すぐ手配しよう!)


 慌てるように遺跡に向かっていくオババ様には、あの時のような威厳は一切見当たらなくなっていた。
 完全に胃袋掴まれてるとこうなるのか。
 気持ちはわかるけどね。


「オババ様はなんと?」

「ランダさんの新作が食べられるかもしれないと耳打ちしたら、こうしちゃいられないと急いで行かれました」

「なんだい、そりゃ」

「それだけウチの奥さんの料理が大好きだってことだよね。ウンウン」

「恥ずかしいこと言わないでおくれよ」


 ジキンさんがしたり顔で頷いてる。
 あなたの手柄じゃないでしょうに。

 少ししてオババ様が戻ってきた。
 あとは待つだけと私に話して鍋を突きに戻った。
 どれだけ夢中なんですか。
 そのうち鍋をつかんで飲み出しそうなほど真剣な顔つきである。
 まぁオババ様と名乗っていても見目麗しいお方だからね。
 天使さんもそうだったけど、20代にしか見えないんだ。
 そんな彼女たちが美味しそうに食べている姿はほっこりしてしまうよね。


 少しして何か空気が切り替わる感覚があった。
 スクリーンショット越しに街の景色が、配置換えされ、そこに浮かび上がった文字は[三の試練:蜃気楼の迷宮、ゴールは遠くて近い場所にある]

 
「さて、これから向かうのは蜃気楼の迷宮らしい。みんな、気を引き締めて行くように」

「そんな情報どこに出てました?」

「この街さ。スズキさんに分かるように言えば、海底にあった黄金宮殿があったろう?」

「はい……あぁ、そういうことですか。なる程。この鯨さんにも同じ仕掛けが?」

「そうです。背景がフィールドごとに様変わりし、私の目に古代語で持って教えてくれる。その答えがこれさ」


 先ほど写した画像を添付して送信、受け取ったジキンさんが渋い顔をした。


「またなんとも面倒な仕掛けを」

「古代イベントって最初っから手間しかないですよ。ね、スズキさん?」

「そうですね。でも足場が安定しない分、難易度は随分上がってる気がしますけど」


 スズキさんはそう言うけどね?
 海底だって普通は足場が安定しないよね。
 そういうと、彼女は忘れてましたと自分の特性を棚上げした。
 なんだか難しそうな話で盛り上がってる私達四人をよそに、妻たちは「行かないの?」と痺れを切らしている。


「今行くよ。ほら、みんな急いで」

「今僕たちじゃなくてハヤテさんに言いましたよね?」

「ですねー。でもハヤテさんはこういう人ですし」

「少年と一緒にいると本当に飽きないな!」


 三者三様の返事で、私達のパーティーは[三の試練]へと辿り着いた。

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