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3章 お爺ちゃんと古代の導き
127.お爺ちゃんと代わりゆく空の暮らし
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「よーし、だいたいこんなものかな?」
出来上がった商品を並べて出店スペースを見下ろす。
商品は現在天空人が着ている衣装と首や手首につけているアクセサリーだ。素材は赤の禁忌エリア内で取れる遺跡のかけらを加工したもので大した効果はないが、なんかオシャレなのでつけてもらったら概ね好評だった経緯がある。
普段は呼び掛けても返事もしてくれない街の住民だけど、天使さんを連れて歩くと表情豊かに会話してくれるのである。
謎だ。何かプレイヤーが関われない封印が施されているのであろうか? まぁ大した問題じゃない。
その上で天使さんに着せた衣装の色違いをお配りしたいと提案したところ、喜んでいたので全員に無償で提供しておいた。
「そうですね。大体こんなところでしょう。買いにきてくれた方には例のメダルを?」
そこへ妻が慣れた声かけで私に聞いてくる。
一度ショップを開いた経験上、彼女にもう来客を恐れる気持ちはない。
それ以前に商品が高過ぎてバカ売れするものではないのも理由か。
要はコスプレ衣装だ。なのに素材が赤の禁忌由来だから少し強気の値段で売り出している。
衣装一つにアベレージ15万相当。払える人がいたらうちの記念メダルを進呈しようという腹積りだ。
アクセサリーですら5万を超えるぼったくりぶりである。ちなみに装備してもこれと言って効果はない。
「うん、値段が値段だからね。趣味でポンと買ってくれる人は限られてる。だからおまけが必要なのさ」
「売れるかしら?」
「売れるよ。だって君がデザインした服は天空人がみんな着てるもの。天使さんだって絶賛してたでしょ? ここに来る客層は何も攻略者ばかりじゃない。空の景色を眺めに来るお客さんだって多いはずだ。そういう時に同じ格好から入るのは鉄板ネタなのさ」
「確かにそれはあるかもだけど、良いのかしら? 元々ここの人達の衣装ですらないのだけど」
「大丈夫だよ。ここにたどり着いたものは少ない。知ってる人は違和感を覚えるだろうけど、初めて来た人はそれが当たり前と捉える」
「なんだか騙してる様で気が引けるわ」
「君は考えすぎだよ。もっと自信を持って」
「あなたに言われるまでもないわ」
ツンツンとした返しだが、彼女はそこまで怒ってはいない。
照れ屋なのだ。それを知ってる私は微笑みながら言葉を返す。
「ふふ。それじゃあ私は私の仕事をしてくるよ」
「行ってらっしゃい、あなた」
妻からの見送りを経て私は街……と呼ぶにはあまりにも殺風景な遺跡跡を歩いていく。
丁度開けた場所にはジキンさんやランダさんがおり、天使さんやオババ様を交えて新たな食事の試食会をしていた。
うちの妻をして着想が凄いと言わしめるランダさんは新たな空の食事開発に余念がない。
最初のシチューですらあんなに大絶賛だった。すっかり胃袋を掴まれた天使さんはランダさんを気に入ってしまった様だ。
私が一番最初に相対したのにとられてしまった様で少し悔しい。
「やあ、ジキンさん。そろそろお客様を呼んでこようと思うんだけどどうかな?」
「こっちは概ね順調ですよ。もう匂いを嗅ぐだけで近隣の天空人を虜にしてしまいましたから。風の流れに乗ったら鐘がなる前に集まってくることでしょう」
そう言いながらNPCよりもがっつき具合を見せるジキンさんは器に顔を突っ込んでガツガツと犬食いしている。汚い食べ方だなぁ。誰もツッコミを入れないのは居ないものとして考えてるからだろうか?
「まぁ、この人はそう言ってくれてるけどね? あたしはまだ納得出来ちゃ居ないんだ。まだ地上のメニューに引き擦られちまってる状態だよ」
それのどこがいけないんだろうよツッこみたかったが、職人には職人のプライドがあるのだろう。
私は口を噤み、話を変えた。
「ならば次に攻略するときは食べられそうなデータを中心に集めてくるよ。そうすれば後々どのフィールドから入手すればいいかわかるだろう?」
「頼んだよ、マスター。この空の食事改善はマスターにかかってるんだ」
「期待しないで待っててよ」
広場を後にして入場専用の船のおろし場へやってくる。
そこでは探偵さんとスズキさんが何やら遊んでいた。
実に暇そうにしている。
「やあ、君たち。暇なら手伝ってよ」
「少年、会って早々その言葉掛けは失礼じゃないか?」
「そうですよ、ハヤテさんのイケズー」
文句は一切聞かぬままに引率し、船に乗っかって雲の上へと降りる。
そこではどうやって鯨の上に上ったものかと悩んでいるプレイヤー達がボートの上でうんうんと頷いていた。
「こんにちは、皆さん。本日は観光で?」
「メインは攻略だ。けど、情報が足りなすぎる。当分は情報収集だな」
「なるほど」
私は攻略メインのプレイヤーと特に話すことなく、違う人のもとまで歩いて行った。
観光目的じゃないと取り合って貰えないと察したプレイヤーからは次々と虚偽の申請が打ち立てられた。
さっきまで攻略メインと言ってた人すらも掌を変えて観光目的だと言い切る。
まぁ、良いんだけどさ。
今赤の禁忌はお昼ご飯中だから。
だから舟番の代わりを私達がやっているのだ。
そして私達が売り込みたいのは天空人と言う新しい人種との触れ合いだ。
天使さんが在籍中はNPCの素っ気なさは消え失せ、まるでプレイヤーの様な対応で出迎えてくれる。
ちなみに食事を邪魔されると怒るので無理強いはしない様にして欲しい。なので攻略しか考えてない層は後回しなのである。
『ハヤテさん、ウチのマスターもこの場所で出店したいそうですが、場所はありますか?』
気がつけばムッコロ氏が私の近くで首を傾げていた。
いつの間に来たの、君? 全く気づかなかったよ。
仕方ないので個人チャットを開いて対応した。
あとは本人が来てから場所決めしようか。
彼らが販売するのはきっと地図とかだろう。
なんだったら空撮した写真集とかもあり得る。
ちょっと興味が湧いてきた。
大体を上に上げたらボートを回収してマナの大木の入り口まで戻る。プレイヤーの乗り入れ作業は探偵さんとスズキさんに任せてきた。あの船は空導力を消費して動かすので、舟番が居ないとどうしようもないのだ。
「やあ、オクト君。商売は順調かい?」
「今のところボートの貸し出しだけですかね? 個人的に乗りたいとの要望も入ってきてますが無視してます」
「それが懸命だよ。ウチの船が出来るまであの人達は私達の貸切だから」
「妻から聞きましたよ? また何か大きな事業を進めてるらしいじゃないですか?」
オクト君の懐疑的な視線を払いながら、私は笑ってごまかす。
はっはっは。なんのことやら。
アイテムバッグから回収したボートを雲の上に並べて行き、オールをトレードでオクトくんに渡した。
実際のところ船そのものは浮いてるだけなのだ。
オールの方に雲をかき分ける装置がついており、それは量産体制に入って居るがいまだ量は少ない為こうして頻繁に回収している。
本当はこんなの無くても進んで欲しいんだけどね。
「まぁ、お義父さんが何を進めていようと僕には関係がありませんからね。でも、空の攻略や素材に関しては首を突っ込ませていただきますから」
「わかっているよ。そのための協定だ。それより金狼氏は? 最近見ないけど」
「あの人はあの人で単独で雲の上を渡る手段を考えてますよ。なるべくなら独自で雲を制御下におきたいとかで乱気流の師父さんの所で修行中です」
「へぇ、頑張っているねぇ。そうだ、どうせならオクト君もこんな場所じゃなくて赤の禁忌で一緒に商売しないかい?」
そうお誘いすると、彼は諦めた様に肩を竦めて首を横に振る。
「残念ながら、ウチのクランで木の上に登れるのが僕しか居ないので無理ですね。商売を始めてもプレイヤーがそちらにたどり着かなければ旨味はないでしょう?」
「確かにね、他に信頼のおけるクランもないし、当分は君のところに世話になりっぱなしか」
「僕はそれでも全然構いませんけどね?」
「君は謙虚なのか強欲なのか分からなくなる時があるなぁ」
「興味あることに対しては強欲にもなりますが、それ以外は割と無関心ですね。でも僕の世代は結構そういう人多いですよ? お義父さんの世代は少なかったんですか?」
「ある意味で何事にも全力で立ち向かう人が多かったね。だからと言ってそれを君達の世代に押し付けたりはしないけど」
「本当かなー?」
「疑ってるのかい?」
「冗談ですよ」
オクト君はは本当か嘘かわからない表情で笑った。
出来上がった商品を並べて出店スペースを見下ろす。
商品は現在天空人が着ている衣装と首や手首につけているアクセサリーだ。素材は赤の禁忌エリア内で取れる遺跡のかけらを加工したもので大した効果はないが、なんかオシャレなのでつけてもらったら概ね好評だった経緯がある。
普段は呼び掛けても返事もしてくれない街の住民だけど、天使さんを連れて歩くと表情豊かに会話してくれるのである。
謎だ。何かプレイヤーが関われない封印が施されているのであろうか? まぁ大した問題じゃない。
その上で天使さんに着せた衣装の色違いをお配りしたいと提案したところ、喜んでいたので全員に無償で提供しておいた。
「そうですね。大体こんなところでしょう。買いにきてくれた方には例のメダルを?」
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要はコスプレ衣装だ。なのに素材が赤の禁忌由来だから少し強気の値段で売り出している。
衣装一つにアベレージ15万相当。払える人がいたらうちの記念メダルを進呈しようという腹積りだ。
アクセサリーですら5万を超えるぼったくりぶりである。ちなみに装備してもこれと言って効果はない。
「うん、値段が値段だからね。趣味でポンと買ってくれる人は限られてる。だからおまけが必要なのさ」
「売れるかしら?」
「売れるよ。だって君がデザインした服は天空人がみんな着てるもの。天使さんだって絶賛してたでしょ? ここに来る客層は何も攻略者ばかりじゃない。空の景色を眺めに来るお客さんだって多いはずだ。そういう時に同じ格好から入るのは鉄板ネタなのさ」
「確かにそれはあるかもだけど、良いのかしら? 元々ここの人達の衣装ですらないのだけど」
「大丈夫だよ。ここにたどり着いたものは少ない。知ってる人は違和感を覚えるだろうけど、初めて来た人はそれが当たり前と捉える」
「なんだか騙してる様で気が引けるわ」
「君は考えすぎだよ。もっと自信を持って」
「あなたに言われるまでもないわ」
ツンツンとした返しだが、彼女はそこまで怒ってはいない。
照れ屋なのだ。それを知ってる私は微笑みながら言葉を返す。
「ふふ。それじゃあ私は私の仕事をしてくるよ」
「行ってらっしゃい、あなた」
妻からの見送りを経て私は街……と呼ぶにはあまりにも殺風景な遺跡跡を歩いていく。
丁度開けた場所にはジキンさんやランダさんがおり、天使さんやオババ様を交えて新たな食事の試食会をしていた。
うちの妻をして着想が凄いと言わしめるランダさんは新たな空の食事開発に余念がない。
最初のシチューですらあんなに大絶賛だった。すっかり胃袋を掴まれた天使さんはランダさんを気に入ってしまった様だ。
私が一番最初に相対したのにとられてしまった様で少し悔しい。
「やあ、ジキンさん。そろそろお客様を呼んでこようと思うんだけどどうかな?」
「こっちは概ね順調ですよ。もう匂いを嗅ぐだけで近隣の天空人を虜にしてしまいましたから。風の流れに乗ったら鐘がなる前に集まってくることでしょう」
そう言いながらNPCよりもがっつき具合を見せるジキンさんは器に顔を突っ込んでガツガツと犬食いしている。汚い食べ方だなぁ。誰もツッコミを入れないのは居ないものとして考えてるからだろうか?
「まぁ、この人はそう言ってくれてるけどね? あたしはまだ納得出来ちゃ居ないんだ。まだ地上のメニューに引き擦られちまってる状態だよ」
それのどこがいけないんだろうよツッこみたかったが、職人には職人のプライドがあるのだろう。
私は口を噤み、話を変えた。
「ならば次に攻略するときは食べられそうなデータを中心に集めてくるよ。そうすれば後々どのフィールドから入手すればいいかわかるだろう?」
「頼んだよ、マスター。この空の食事改善はマスターにかかってるんだ」
「期待しないで待っててよ」
広場を後にして入場専用の船のおろし場へやってくる。
そこでは探偵さんとスズキさんが何やら遊んでいた。
実に暇そうにしている。
「やあ、君たち。暇なら手伝ってよ」
「少年、会って早々その言葉掛けは失礼じゃないか?」
「そうですよ、ハヤテさんのイケズー」
文句は一切聞かぬままに引率し、船に乗っかって雲の上へと降りる。
そこではどうやって鯨の上に上ったものかと悩んでいるプレイヤー達がボートの上でうんうんと頷いていた。
「こんにちは、皆さん。本日は観光で?」
「メインは攻略だ。けど、情報が足りなすぎる。当分は情報収集だな」
「なるほど」
私は攻略メインのプレイヤーと特に話すことなく、違う人のもとまで歩いて行った。
観光目的じゃないと取り合って貰えないと察したプレイヤーからは次々と虚偽の申請が打ち立てられた。
さっきまで攻略メインと言ってた人すらも掌を変えて観光目的だと言い切る。
まぁ、良いんだけどさ。
今赤の禁忌はお昼ご飯中だから。
だから舟番の代わりを私達がやっているのだ。
そして私達が売り込みたいのは天空人と言う新しい人種との触れ合いだ。
天使さんが在籍中はNPCの素っ気なさは消え失せ、まるでプレイヤーの様な対応で出迎えてくれる。
ちなみに食事を邪魔されると怒るので無理強いはしない様にして欲しい。なので攻略しか考えてない層は後回しなのである。
『ハヤテさん、ウチのマスターもこの場所で出店したいそうですが、場所はありますか?』
気がつけばムッコロ氏が私の近くで首を傾げていた。
いつの間に来たの、君? 全く気づかなかったよ。
仕方ないので個人チャットを開いて対応した。
あとは本人が来てから場所決めしようか。
彼らが販売するのはきっと地図とかだろう。
なんだったら空撮した写真集とかもあり得る。
ちょっと興味が湧いてきた。
大体を上に上げたらボートを回収してマナの大木の入り口まで戻る。プレイヤーの乗り入れ作業は探偵さんとスズキさんに任せてきた。あの船は空導力を消費して動かすので、舟番が居ないとどうしようもないのだ。
「やあ、オクト君。商売は順調かい?」
「今のところボートの貸し出しだけですかね? 個人的に乗りたいとの要望も入ってきてますが無視してます」
「それが懸命だよ。ウチの船が出来るまであの人達は私達の貸切だから」
「妻から聞きましたよ? また何か大きな事業を進めてるらしいじゃないですか?」
オクト君の懐疑的な視線を払いながら、私は笑ってごまかす。
はっはっは。なんのことやら。
アイテムバッグから回収したボートを雲の上に並べて行き、オールをトレードでオクトくんに渡した。
実際のところ船そのものは浮いてるだけなのだ。
オールの方に雲をかき分ける装置がついており、それは量産体制に入って居るがいまだ量は少ない為こうして頻繁に回収している。
本当はこんなの無くても進んで欲しいんだけどね。
「まぁ、お義父さんが何を進めていようと僕には関係がありませんからね。でも、空の攻略や素材に関しては首を突っ込ませていただきますから」
「わかっているよ。そのための協定だ。それより金狼氏は? 最近見ないけど」
「あの人はあの人で単独で雲の上を渡る手段を考えてますよ。なるべくなら独自で雲を制御下におきたいとかで乱気流の師父さんの所で修行中です」
「へぇ、頑張っているねぇ。そうだ、どうせならオクト君もこんな場所じゃなくて赤の禁忌で一緒に商売しないかい?」
そうお誘いすると、彼は諦めた様に肩を竦めて首を横に振る。
「残念ながら、ウチのクランで木の上に登れるのが僕しか居ないので無理ですね。商売を始めてもプレイヤーがそちらにたどり着かなければ旨味はないでしょう?」
「確かにね、他に信頼のおけるクランもないし、当分は君のところに世話になりっぱなしか」
「僕はそれでも全然構いませんけどね?」
「君は謙虚なのか強欲なのか分からなくなる時があるなぁ」
「興味あることに対しては強欲にもなりますが、それ以外は割と無関心ですね。でも僕の世代は結構そういう人多いですよ? お義父さんの世代は少なかったんですか?」
「ある意味で何事にも全力で立ち向かう人が多かったね。だからと言ってそれを君達の世代に押し付けたりはしないけど」
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