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五章

17_勇者協会を立て直そう⑦

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 押しかける女性客に、俺はまあまあと宥めながらどこに不正があるのか洗っていくことにした。
 不満を覚えるアリエルを横に、ムーンスレイの不良獣人のイチャモンに比べればまだ優しい威圧をさらっと流す。

「いきなりやってきて何事ですか。不正とは、何を持ってそう言うんです?」

「そうよね、すぐには認めないわよね。まずあのヒヤヤッコ。美味しいのだけど、だからと言って納得できないことがいくつかあるわ」

「と言うと?」

「初めて扱ったにしては練度が高すぎると思うのよ。坊や、この禁製品を随分前から確保して料理していたんじゃないの?」

「なるほど、そう思ってしまうのも仕方ないかもしれませんね。要は作り方を教えろと?」

「有体に言えばそうね。でも素人が手をつけて安定供給ができるとは思えないの。だから不正と訴えられたくなかったら、私達に優先的に回してちょうだい。そうしてくれれば、坊やを悪いようにはしないわよ?」


 ああ、そう言う目論見なのね?
 要はイチャモンつけて美味い思いだけしたいと。
 これはダウトかなぁ?
 まだ教えて欲しいくらいだったらいくらでも教えるのに。


「雄介、これはいったいなんの騒ぎだ?」

「あ、ユースキー。ちょうどいいところに来た。このお姉さん方がさ、俺の出したヒヤヤッコに異議申し立てをしてきたんで対応してたんだよ」

「異議申し立て? 我々教会の見出した料理人にそんな事を?」

 理解できないと言う顔で女性陣を見据えるユースキー。
 ここに来て教会の教祖が現れるなんて予定にないとばかりに訴えてきた女性陣が狼狽えた。

「どうにも俺のヒヤヤッコがずば抜けて練度が高いのが気に食わないのか、流通した際に自分たちに優先して交換してくれたら不正は見て見ぬ振りとのお達しでさ」

「あまり料理人同士でそう言う不正は行なってほしくないんだが……」

「ち、ちがうんです教祖様! これは私どもと彼のちょっとした取引でして」

「取引だなんてよく言えるわね、人数使って圧力かけて」

「アリエルはちょっと黙ってようなー?」

「何よ、言わせっぱなしで悔しくないの?」

 今は相手の自滅ターンだからな。
 それとなく耳打ちしてやると、なるほどと溜飲を下げてくれた。
 そもそもこっちが言いがかりつけられたら薫が黙ってるわけないのだ。
 委員長からの情報開示もないし、杜若さんも動いてない。
 坂下さんに至っては食事をするのに夢中だし、三上と木下はどこほっつき歩いてるんだか。

「そう言うことね、雄介もみんなから頼られる存在になったってこと。じゃああたしが前に出るのも違うわね」

 ありがたい事だよ。
 前まではヒロインの如く守られてたからな。
 主に食料の維持的な意味で。

「で、助けはいるかな?」

「取り敢えず公平な場で捌いて欲しいですね」

「その場合、ヒヤヤッコの製法を明かせと言われるが?」

「作り手が広まってくれるんなら俺としては問題ないです。それと不正についての情報開示はユースキーが行ってくれるとありがたい」

「やはり不正をしていたのですね! ようやく尻尾を掴んだわ」

 観念する事ねとキーキー騒ぎ出す不正取引班。
 よくも自分のことを棚に上げて言えるものだ。

「それは、お前の屋台の効果を言っているのか?」

「ああ、主に時間加速が深く関わってる。豆腐がたった一時間でできるはずもないからな」

「なるほど、それは確かに不正と疑われてもおかしくない。そもそも雄介は教会預かり枠だ。その為のパフォーマンスも兼任しているのだが」

「それはイベントが終わってからのネタバラシだろ?」

「どう言うことです教祖様! この坊やはうちの主人よりも優れた料理人だと言うことですか!?」

 早速ボロを出すお姉さん方。
 ああ、つまりこの集まりは今回エントリーした店主の奥様連中なのかな?
 旦那の地位を守りたい一心で子供を脅すとかどれだけ追い込まれてるんだか。

「落ち着け、それも含めて秘匿事項だ。何しろ彼の扱いは教会でも最重要案件なのだ。おいそれと情報開示はできない。今回のイベント発案者も彼だと言ったらわかるか? 料理人の境遇を良くしようて苦心してくれた相手に、あなた方は脅しを仕掛けてイベントをメチャクチャにしようとしたのだ。どちらが罰を受けるべきか、私に裁かせないでくれ」

 どっちが脅しだ。
 ユースキーの言葉でお姉さん方が震え上がってしまった。

「俺は別にこのイベントの勝敗に特別興味はないですし、豆腐の製法の開示にも協力します。でも自分たちの優位性を示すべく脅してくるのは失態でしたね。俺の正体を秘匿してたのは円満にイベントを進行するためでもありました。露見してしまったのは後の祭りでしたが、今日は胸を借りるつもりで参加したと言うのは本当ですよ?」

「ご、ごめんなさい。私達、夫の進退次第で生活水準が変わる立場に居るものだから……」

「俺が言うのもなんですけど、もうちょっと旦那さんの腕を信じてあげてくださいよ。ぽっと出の俺なんかより長くこの町でお店を持っておられるんでしょう? お客さんは奇抜な俺の料理より子供の頃から食べ慣れてる旦那さんの料理に一票入れますよ。このイベントは街の復興も担ってるんですから。俺は街から街に渡る都合上、ずっとは居ません。この街の食文化を築くのはあなた方なんですよ?」

 お姉さん達は顔を見合わせ、己の行いを恥じた。
 肩を落としてトボトボと雑踏に紛れていく。

「あれで許してしまっていいのか?」

「不正してたのは事実だしな。けど、思っていた以上に大豆の加工は四苦八苦したのが見てとれた。それだけ知れただけでも一財産だよ」

「日本人の食文化の拘りは特にすごいとマスターから伝え聴いてる」

「まぁな、食うことにかけては生粋の変人だよ2000年以上、その追求を緩めない」

 本当、どっからそのアイディア出すんだろうと不思議なくらい食えないものを口にしてきた歴史がある。

「雄介、ところでこいつ誰?」

 今まで状況を見守ってたアリエルが、騒ぎが解決したと安堵しつつもずっと横入りしてきた相手を気にしていた。
 あまりにも馴れ馴れしい態度。
 そして教会を我が物顔で統治するユースキーを不審げに見つめた。
 これは言っていいものか、言ったら言ったで絶対指差して笑う。そんな確信がある。

「俺はそこに居るコピーのアンドロイド、要は人造人間という奴だ。元ドリュアネスのエルフ、マスターササモリによる製造された」

「え、こいつ雄介のコピーなの? 全然似てないじゃない!」

 やっぱり笑われた。
 でも、違う意味での指摘だった。

「雄介はもっと自信満々で何にでも挑戦する男よ、あんたも雄介のコピーだったらもっとあらゆることにチャレンジなさい!」

「俺も彼ぐらいサポートメンバーに恵まれてたならそれぐらいやれたさ」

「バカね、その全員から信頼を勝ち取るのも人望よ。雄介は誰でも彼でも分け隔てなく手を差し伸べるのよ? 貴方は過去に一度でもそれをしたことがある? 雄介のコピーを名乗るならそれくらいしてから名乗りなさい!」

「落ち着け、アリエル。本人目の前にしてあんまり言うなや。恥ずいだろうが」

「このお人好しはこうまで言わなきゃ直らないからいいのよ。でしょ、由乃。みゆり、恵?」

 アリエルに同意を求められた女性陣は顔を見合わせて苦笑した。反論なしってことは普段からそう思ってるってことなんだな。
 まぁ、思い当たるところはある。

「確かに阿久津君は行動が空回りしてるように見えて、実際には本人が思ってる以上にこっちを気にかけてくれてるわ」

「はい。阿久津さんにはいつも頼りっぱなしで」

「彼はなんと言ってわからないくらい、あらゆることを安請け合いするのよ。ちょっとこっちが心配になるくらいに自分を犠牲にするのよね。躊躇いがない、と言えば嘘になるけど。自分よりもまず周りを優先するのよね」

「雄介はそこが良いんじゃないか。女子は見る目ないね」

「おい、薫まで加わるなよ。誰か俺をこの褒めちぎり空間から助けてくれー」

「本当に羨ましい限りだよ。一度くらい交代して欲しいものだ」

「別にしても良いんじゃない? したら雄介色に染まり切ってもう貴方の居場所は無くなるかもしれないけど」

 アリエルの指摘に、それは困るなとユースキー。
 他の面々も頷いて納得している。
 ちょっと待て、俺のイメージそんななの?

 こうして第一回イベントは終わりを迎え、ユースキーとも別れた。お姉さん方のお店で色々料理を教えてもらったり、優勝した屋台にこれから扱うだろう大豆のレクチャーをした。
 豆乳の製法、豆腐の製法、豆腐の搾りかすであるおからの用途などなど。
 油揚げは評価が分かれたのでお蔵入りとする。
 好きな人だけ食べれば良いよな。

 その日以降、ユースキーが俺の屋台に頻繁に現れるようになったのは内緒である。
 仕事の合間の憩いのひと時というが、どうもアリエルの言葉を真に受けて俺を調査しにきてるっぽい。

 あんまり見られると手元が狂うのでやめて欲しいが、これに他人に影響を与えた結果かと諦める俺だった。




 

 



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