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124話 クララちゃん強化計画 3
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料理としては最高なはずなのに、テーブルの上でクララちゃん以外は顰めっ面。
しかしそれは次に出されるスープによって払拭された。
「なんでぇ、この極上スープは!」
「信じられない! この黄金の輝き!」
「ステータスが一気に2段階上がりましたよ!?」
味で、舌触りで、副次効果で。
三者三様の驚きを見せる。
味見させてもらったけど、あの三種以外にも何かを入れたことくらいしかわからなかった。
優しく、ほんのり甘いスパークリングワインの香り。
コクと辛味はカレースパイスやワインを思わせる。
濃厚でいて、口の中を駆け回るニンニク。
それを口内に残すことなく爽やかに引き締める。
柑橘系の仕業だろうか?
菊池さんはよく好んで使うから。
他にも全く別のうまさを感じさせる。
飲めば飲むほど味が変わる。
まるで七色のスープ。
「これが味の究極系だと俺は思ってます。全てが隠し味でありながらメインに置かれてる。が、この後出す洋一のポワソンは別格だぜ? 味見したが、ありゃ天下を取れると思う」
「あんたほどの腕前の職人がそこまでいうのか?」
「俺でもあそこまで味を引き出せる自信はねぇ。あれは洋一の加工あっての一品だ。だからさ、爺さん。加工全てを取り捨て選択なんてせず、なんでもまずは味わうことをお勧めするぜ?」
「そりゃ忠告のつもりか?」
「いや、逃した魚はでかいっていうだろ? 実際、うちの倅の残したスパークリングワインはドン・ペリニヨンに匹敵する名酒だ。あんたの中で何と比べてるかは知らないが、せっかくの商材。いらないの一言で済ませたら世の酒造は泣くぜ?」
「料理人が人の好みにまで首突っ込んでくるんじゃねーよ」
富井さんは何かにつけてスパークリングワインを否定する。
ここまで言いがかりをつけるなんて、過去に相当深い何かがあったに違いない。
「これを話すと、きっとワシらの評価は変わるので、口に出せずにいたが……シゲちゃん、これ以上わがままを通せそうにないぞ?」
「く、ここいらが年貢の納め時ってやつか!」
八尾さんの白状により、富井さんが過去に起きた全てを語る。
かつて世界中で起きた厄災。
その渦中で起きた出来ごとを。
かいつまんで話せば、二人は洋酒の良さをミリも理解できていなかった。
最初は渋いだけで、酸っぱい業務用アルコールを飲ませられてひどく困惑した嘆く富井さん。
日本酒やいも焼酎の良さを普及しにきたのに、フランスのボルドー地方が災害に遭ったことにより、救援した後の祝杯にワインが出されたのが始まり。
そこは世界的に有名なワイン生産地であり、ワイン以外はこき下ろす風潮があった。
別に全く認めてないわけじゃないが、一番美味いのはワインで、それ以下はその下だと信じて疑わぬ者たちが住む場所であったというだけだ。
「カメラの回ってる場所で、あれこれ言いたくなかったが、正直一番うめぇのは日本酒だと思ってる」
「日本人ならそれが当たり前だ。だが、ワインだってうまく飲む方法がある。あんたらはそれを理解してないだけ。そうだろう?」
「そいつを認めちまうのは癪だが、ご教授願おうじゃねぇか」
「すまんな、うちのシゲちゃんはこの通り頑固者で」
「あんたも相当に食えない爺さんだということは理解してるよ。改めて、今回オードブルを担当させていただいた菊池蓮司だ」
「その名前、覚えておこう」
「それにしてもこのスープは美味かった」
「かの英雄からそうおっしゃっていただけるのは光栄なことです」
<コメント>
:英雄のワイン好きにそんな過去があったなんてな
:割と浅い理由だった
:そら救助先の歓迎を無碍にはできんでしょ
:実際生産者からしたらワインは血液みたいなもん
:そら生産者はそうよ
:だからって無理強いはよくねーよ
:この爺さん、まだ何か隠してねーか?
:隠すっつーより、表に出すに出せない情報の宝庫だろ
:あり得そう
ニコニコしながらも一歩も引かず、大人たちの話し合いは収束した。
この後に出す俺のポワソン、やたら評価されるって意味もあって今から不備はないかと緊張する。
「お待たせしました。これが俺のポワソンです」
「これは、煮凝りか!」
富井さんが言ったように、俺の仕掛けは全ての食材を煮凝りの中に封じ込めた手法をとった。
本来ならオードブルに散りばめられた一つの作品になりかねないが、俺はこれをメインに添えた理由の一つは菊池さんのスープ同様、食べる角度によって食感を変えるからだ。
部位によっては味覚や食感が千差万別となる。
なのでオードブルには忍び込ませず、全てを食べてもらって評価させようと試みた。
一見食えないからとあの時匙を投げた俺のリベンジである。
まずクマ肉をミンサーで肉に変えて厚めの衣をまとって低温調理。
熱を入れすぎないように真空パック煮詰めてもいいが、それだと肉汁を全てパックに飲まれてしまうのでそれは避けたかった。
「はい。菊池さんのスープほどではないですが、ちょっとした仕掛けをしております。チョウチンアンコウの身はそのまま食べるには硬いですが、こうやって煮込んでほろほろにした状態で煮凝りの中に封じ込めると面白い食感が味わえると思ったんです」
「世界中が匙を投げたって聞くぜぃ?」
「それはまだこいつの本質を知らなかったんでしょう。これは空ウツボと同様の特殊調理素材なんですよ。その上でメインにはなり得ない」
「こんなに図体がでかいのにか?」
「図体がデカくとも、あの世界においては海藻と同じ扱いなのだと思います」
煮凝りとは素材のゼラチン質を冷やし固めたものをさすが、あのチョウチンアンコウは粗熱が冷めた時点で固まり始める特性を持っていた。
なので完全に冷え切らぬうちに提供できるのが強みだ。
とにかく冷えたら美味しくない代表の料理なので、熱いうちにいただいてもらいたいのである。
「爺さんたち、これは熱いうちに食うのが鉄則だぜ?」
一度した後悔を嘆くように、裏方で味見をしていたヨッちゃんが偉そうにアドバイスをする。
「ならば早速いただこうか」
音頭をとった富井さんに八尾さんとクララちゃんが続く。
そして、口に入れた全員が破顔した。
「これ、洋一さんは先ほど出された菊池さんには劣るとおっしゃられてますが、私からしたら遜色ありません。それどころか具材の食感がアクセントになって、よりおいしさを感じることができます」
<コメント>
:もう匂いだけで美味い!
:食感はコリコリ? ザクザク?
:きっとジャリジャリだぞ
:あー!匂いだけじゃなく食感も味わいたい!
:だからそれは追走してもろて
:きっと高いんだろうなぁ
「いえ、思いの外ふわふわ、とろとろで。菊池さんのお出ししたスープを煮凝りにした際のつるん、ぷりぷりと合わせて、さらにはシュワっとしていて不思議な食べ心地です」
そのシュワっとした食感は、衣に使った厚めの皮だ。
これにはベア肉の旨みが全て凝縮されている。
そのまま捨てるのは勿体無かったので、煮凝りの中に仕込ませてもらった。
ポワソンなのに、肉をメインに置いていいのか?
と言われそうだが、あのクマは魚の一部なので問題はない。多分、きっと。
俺がそう決めた。
「はぁ、もうこれだけ今日の思い出にして帰って反芻してもいいぐらいです」
「待て待て、これはフルコースだ。これで切り上げるのはもったいねぇぞ」
「ポワソンでこれならば、アントレはどうなるか気になるじゃろ?」
「それはそうなんですが、そのまま食べてしまって良いものか……」
ここにきて急に食べるのが怖くなったというクララちゃん。
もうここでステータスの伸びも恐ろしいことになってるだろう。
Aになるならいざ知らず、Sにも伸びそうな勢い。
だが、これで成長してもらうことで、俺たちにも旨みがある。
今回の配信はクララちゃんの修行パートなのだ。
食事前にできなかった特殊変化を、食事後にどこまで変化させられるか。
それを検証していくのが主題なのである。
俺のポワソンの後に出されたソルベは、フルーツの風味が聞いたスパークリングワインゴリ押しのシャーベット。
俺の予想通り、ポワソンで摂取したあっさり目だけど結構きつい油分は完全に殺された。
今回のフルコース仕様でなければ、連続で油物を口に運ぶのは厳しかったが、菊池さんのソルベで口の中の油分は完璧に払拭。
ここにもう一品、肉を放り込む余裕が生まれる。
満を持してのお膳立ての後、俺のアントレが運ばれる。
「お待たせしました。本日のメインディッシュ。まだ市場に出していないスパイダーツリーの手ゴネハンバーグの赤ワイン煮と、スパイダーフットのボイル、樹液ソースがけです」
「配信で流してたあれか!」
「ずっと味が気になっていたんです!」
あれ、クララちゃんも食べてなかったっけ?
「実は、あまりにおいしすぎて記憶になく、気がついたらどこにも無くなってたんですよね」
それって結局二の舞になるんじゃないか?
「その後喧嘩するまでがデフォだな」
そういえば、ヨッちゃんすら記憶なくしてたんだよな。
あまりの旨さにか、それともまた別の要因があるのか。
特に下処理せずとも美味いのは気にかかるところだ。
「今回は洋一さんのお料理ですもの。全て味わって堪能いたします」
「それではワシらもいただくとしようか」
クララちゃんに続き、富井さんや八尾さんもナイフとフォークを持つが、そこからの記憶が一気になくなったように、数分後に目の前で突っ伏す事態を引き起こす。
「はっ、私は!」
あ、正気に戻った。
「おい、誰だ!ワシの皿の中身を奪ったやつは!」
「爺さんが自分で食ってたぜ?」
「そんなわけなかろう! 全く記憶になかったぞ?」
「クララちゃんも同じ?」
「お恥ずかしながら」
<コメント>
:それだけうまかったってことか?
:適合食材と似たような効果を引き出すってことか?
:匂いは普通のステーキなんだよな
:煮込んだ赤ワインの風味が食欲をそそるが……
:ああ、それ以外は全く感じられないよな
:実際、そんなに美味いの?
「気がついたら調理後の足が無数に転がってるくらい美味いですね。俺も夢中で料理してました」
「本当な、無限に生えてこなかったら絶交するくらい喧嘩してたと思う」
「先に腹が膨れたおかげで解散は免れたけどな」
<コメント>
:解散の危機を促すとか
:これもダンジョン側の仕掛けだったりして
「キュ(何でもかんでもダンジョンのせいにするとは、人類は本当、どうにかしておる)」
後日、あまりの美味さに市場に流れた後も話題を攫い続けるその食材は仲間割れスパイダーとして揶揄され、美食家の間で高値で取引されるようになった。
それに触発されるように、唯一の入り口である武蔵野支部には多くの探索者が顔を寄せるようになるが、それはまた別の話。
しかしそれは次に出されるスープによって払拭された。
「なんでぇ、この極上スープは!」
「信じられない! この黄金の輝き!」
「ステータスが一気に2段階上がりましたよ!?」
味で、舌触りで、副次効果で。
三者三様の驚きを見せる。
味見させてもらったけど、あの三種以外にも何かを入れたことくらいしかわからなかった。
優しく、ほんのり甘いスパークリングワインの香り。
コクと辛味はカレースパイスやワインを思わせる。
濃厚でいて、口の中を駆け回るニンニク。
それを口内に残すことなく爽やかに引き締める。
柑橘系の仕業だろうか?
菊池さんはよく好んで使うから。
他にも全く別のうまさを感じさせる。
飲めば飲むほど味が変わる。
まるで七色のスープ。
「これが味の究極系だと俺は思ってます。全てが隠し味でありながらメインに置かれてる。が、この後出す洋一のポワソンは別格だぜ? 味見したが、ありゃ天下を取れると思う」
「あんたほどの腕前の職人がそこまでいうのか?」
「俺でもあそこまで味を引き出せる自信はねぇ。あれは洋一の加工あっての一品だ。だからさ、爺さん。加工全てを取り捨て選択なんてせず、なんでもまずは味わうことをお勧めするぜ?」
「そりゃ忠告のつもりか?」
「いや、逃した魚はでかいっていうだろ? 実際、うちの倅の残したスパークリングワインはドン・ペリニヨンに匹敵する名酒だ。あんたの中で何と比べてるかは知らないが、せっかくの商材。いらないの一言で済ませたら世の酒造は泣くぜ?」
「料理人が人の好みにまで首突っ込んでくるんじゃねーよ」
富井さんは何かにつけてスパークリングワインを否定する。
ここまで言いがかりをつけるなんて、過去に相当深い何かがあったに違いない。
「これを話すと、きっとワシらの評価は変わるので、口に出せずにいたが……シゲちゃん、これ以上わがままを通せそうにないぞ?」
「く、ここいらが年貢の納め時ってやつか!」
八尾さんの白状により、富井さんが過去に起きた全てを語る。
かつて世界中で起きた厄災。
その渦中で起きた出来ごとを。
かいつまんで話せば、二人は洋酒の良さをミリも理解できていなかった。
最初は渋いだけで、酸っぱい業務用アルコールを飲ませられてひどく困惑した嘆く富井さん。
日本酒やいも焼酎の良さを普及しにきたのに、フランスのボルドー地方が災害に遭ったことにより、救援した後の祝杯にワインが出されたのが始まり。
そこは世界的に有名なワイン生産地であり、ワイン以外はこき下ろす風潮があった。
別に全く認めてないわけじゃないが、一番美味いのはワインで、それ以下はその下だと信じて疑わぬ者たちが住む場所であったというだけだ。
「カメラの回ってる場所で、あれこれ言いたくなかったが、正直一番うめぇのは日本酒だと思ってる」
「日本人ならそれが当たり前だ。だが、ワインだってうまく飲む方法がある。あんたらはそれを理解してないだけ。そうだろう?」
「そいつを認めちまうのは癪だが、ご教授願おうじゃねぇか」
「すまんな、うちのシゲちゃんはこの通り頑固者で」
「あんたも相当に食えない爺さんだということは理解してるよ。改めて、今回オードブルを担当させていただいた菊池蓮司だ」
「その名前、覚えておこう」
「それにしてもこのスープは美味かった」
「かの英雄からそうおっしゃっていただけるのは光栄なことです」
<コメント>
:英雄のワイン好きにそんな過去があったなんてな
:割と浅い理由だった
:そら救助先の歓迎を無碍にはできんでしょ
:実際生産者からしたらワインは血液みたいなもん
:そら生産者はそうよ
:だからって無理強いはよくねーよ
:この爺さん、まだ何か隠してねーか?
:隠すっつーより、表に出すに出せない情報の宝庫だろ
:あり得そう
ニコニコしながらも一歩も引かず、大人たちの話し合いは収束した。
この後に出す俺のポワソン、やたら評価されるって意味もあって今から不備はないかと緊張する。
「お待たせしました。これが俺のポワソンです」
「これは、煮凝りか!」
富井さんが言ったように、俺の仕掛けは全ての食材を煮凝りの中に封じ込めた手法をとった。
本来ならオードブルに散りばめられた一つの作品になりかねないが、俺はこれをメインに添えた理由の一つは菊池さんのスープ同様、食べる角度によって食感を変えるからだ。
部位によっては味覚や食感が千差万別となる。
なのでオードブルには忍び込ませず、全てを食べてもらって評価させようと試みた。
一見食えないからとあの時匙を投げた俺のリベンジである。
まずクマ肉をミンサーで肉に変えて厚めの衣をまとって低温調理。
熱を入れすぎないように真空パック煮詰めてもいいが、それだと肉汁を全てパックに飲まれてしまうのでそれは避けたかった。
「はい。菊池さんのスープほどではないですが、ちょっとした仕掛けをしております。チョウチンアンコウの身はそのまま食べるには硬いですが、こうやって煮込んでほろほろにした状態で煮凝りの中に封じ込めると面白い食感が味わえると思ったんです」
「世界中が匙を投げたって聞くぜぃ?」
「それはまだこいつの本質を知らなかったんでしょう。これは空ウツボと同様の特殊調理素材なんですよ。その上でメインにはなり得ない」
「こんなに図体がでかいのにか?」
「図体がデカくとも、あの世界においては海藻と同じ扱いなのだと思います」
煮凝りとは素材のゼラチン質を冷やし固めたものをさすが、あのチョウチンアンコウは粗熱が冷めた時点で固まり始める特性を持っていた。
なので完全に冷え切らぬうちに提供できるのが強みだ。
とにかく冷えたら美味しくない代表の料理なので、熱いうちにいただいてもらいたいのである。
「爺さんたち、これは熱いうちに食うのが鉄則だぜ?」
一度した後悔を嘆くように、裏方で味見をしていたヨッちゃんが偉そうにアドバイスをする。
「ならば早速いただこうか」
音頭をとった富井さんに八尾さんとクララちゃんが続く。
そして、口に入れた全員が破顔した。
「これ、洋一さんは先ほど出された菊池さんには劣るとおっしゃられてますが、私からしたら遜色ありません。それどころか具材の食感がアクセントになって、よりおいしさを感じることができます」
<コメント>
:もう匂いだけで美味い!
:食感はコリコリ? ザクザク?
:きっとジャリジャリだぞ
:あー!匂いだけじゃなく食感も味わいたい!
:だからそれは追走してもろて
:きっと高いんだろうなぁ
「いえ、思いの外ふわふわ、とろとろで。菊池さんのお出ししたスープを煮凝りにした際のつるん、ぷりぷりと合わせて、さらにはシュワっとしていて不思議な食べ心地です」
そのシュワっとした食感は、衣に使った厚めの皮だ。
これにはベア肉の旨みが全て凝縮されている。
そのまま捨てるのは勿体無かったので、煮凝りの中に仕込ませてもらった。
ポワソンなのに、肉をメインに置いていいのか?
と言われそうだが、あのクマは魚の一部なので問題はない。多分、きっと。
俺がそう決めた。
「はぁ、もうこれだけ今日の思い出にして帰って反芻してもいいぐらいです」
「待て待て、これはフルコースだ。これで切り上げるのはもったいねぇぞ」
「ポワソンでこれならば、アントレはどうなるか気になるじゃろ?」
「それはそうなんですが、そのまま食べてしまって良いものか……」
ここにきて急に食べるのが怖くなったというクララちゃん。
もうここでステータスの伸びも恐ろしいことになってるだろう。
Aになるならいざ知らず、Sにも伸びそうな勢い。
だが、これで成長してもらうことで、俺たちにも旨みがある。
今回の配信はクララちゃんの修行パートなのだ。
食事前にできなかった特殊変化を、食事後にどこまで変化させられるか。
それを検証していくのが主題なのである。
俺のポワソンの後に出されたソルベは、フルーツの風味が聞いたスパークリングワインゴリ押しのシャーベット。
俺の予想通り、ポワソンで摂取したあっさり目だけど結構きつい油分は完全に殺された。
今回のフルコース仕様でなければ、連続で油物を口に運ぶのは厳しかったが、菊池さんのソルベで口の中の油分は完璧に払拭。
ここにもう一品、肉を放り込む余裕が生まれる。
満を持してのお膳立ての後、俺のアントレが運ばれる。
「お待たせしました。本日のメインディッシュ。まだ市場に出していないスパイダーツリーの手ゴネハンバーグの赤ワイン煮と、スパイダーフットのボイル、樹液ソースがけです」
「配信で流してたあれか!」
「ずっと味が気になっていたんです!」
あれ、クララちゃんも食べてなかったっけ?
「実は、あまりにおいしすぎて記憶になく、気がついたらどこにも無くなってたんですよね」
それって結局二の舞になるんじゃないか?
「その後喧嘩するまでがデフォだな」
そういえば、ヨッちゃんすら記憶なくしてたんだよな。
あまりの旨さにか、それともまた別の要因があるのか。
特に下処理せずとも美味いのは気にかかるところだ。
「今回は洋一さんのお料理ですもの。全て味わって堪能いたします」
「それではワシらもいただくとしようか」
クララちゃんに続き、富井さんや八尾さんもナイフとフォークを持つが、そこからの記憶が一気になくなったように、数分後に目の前で突っ伏す事態を引き起こす。
「はっ、私は!」
あ、正気に戻った。
「おい、誰だ!ワシの皿の中身を奪ったやつは!」
「爺さんが自分で食ってたぜ?」
「そんなわけなかろう! 全く記憶になかったぞ?」
「クララちゃんも同じ?」
「お恥ずかしながら」
<コメント>
:それだけうまかったってことか?
:適合食材と似たような効果を引き出すってことか?
:匂いは普通のステーキなんだよな
:煮込んだ赤ワインの風味が食欲をそそるが……
:ああ、それ以外は全く感じられないよな
:実際、そんなに美味いの?
「気がついたら調理後の足が無数に転がってるくらい美味いですね。俺も夢中で料理してました」
「本当な、無限に生えてこなかったら絶交するくらい喧嘩してたと思う」
「先に腹が膨れたおかげで解散は免れたけどな」
<コメント>
:解散の危機を促すとか
:これもダンジョン側の仕掛けだったりして
「キュ(何でもかんでもダンジョンのせいにするとは、人類は本当、どうにかしておる)」
後日、あまりの美味さに市場に流れた後も話題を攫い続けるその食材は仲間割れスパイダーとして揶揄され、美食家の間で高値で取引されるようになった。
それに触発されるように、唯一の入り口である武蔵野支部には多くの探索者が顔を寄せるようになるが、それはまた別の話。
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