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123話 クララちゃん強化計画 2
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菊池さんと一緒に厨房で腕を振るうことになり、一番最初に取り決めたのは誰がどのメニューを作るかだった。
それぞれが己の頭の中に一つはレシピを持っている。
俺の中で思い浮かべるのと、菊池さんのノウハウで出来上がるのは違う。
「俺が見るに、真に食わせたい相手はあの爺さんたちじゃないだろう?」
「よくお分かりで」
相変わらずの観察眼。
ダイちゃんと入れ替わるように現れたのに、状況把握が的確だ。
「なんとなくだが……ゲストとして参加させ、その上で料理を振る舞うなんて接待以外の何者でもないだろ」
「おっしゃるとおりです」
初めから配信を見てたのか、というほどの状況把握能力。
ダイちゃんからある程度話は聞いてたのかな?
「んで、あの爺さんたちはそれなりに舌が肥えているな?」
「ご存知でしたか?」
菊池さんは首を横に振り、蘊蓄を語った。
「スパークリングワインの中でも、白はシャンパーニュ地方の法律でシャンパンとして扱われる高級品。上を見ればキリのない話だが、それでもワインと比べて価値が低いものと言って憚らない連中がいる」
「富井さん達がそうだと?」
「いいや、そういう連中がこぞって取り上げるのが決まってワインなだけだ。なぜこんな持て囃されるのか気になって調べてみた事があるが、あの爺さん達がヒットした」
「英雄の言葉、ですか?」
「知っていたか」
知りはしなかったが、予想はついた。
実際に俺も北海道で似たような活動をしたものだ。
たまたま討伐したモンスターが野菜タイプだったから、その場で炊き出しを行ったのが始まり。
でもあの二人の場合、加工した際に出来上がるのが酒と野菜なもんだから……モンスター肉をダイレクトに食うとなったら、合わせる酒が自ずとワインになったとか?
それか、特定モンスターがワインになって、死ぬほど余ってたかだな。
だからって本人がここまでワイン好きになるかは定かではない。
きっとマンドラゴラ酒のような、世に出してない酒の中でとびっきり美味いやつに該当するワインがあるのだろう。
それを超えるスパークリングワインに出会ってないとかだったらいいんだが……
「いえ、特には。ですがあの二人の残した伝説はあまりにも多く、学校に通ってない俺たちの耳にも入ってくる程。だからそうなのかなって」
「そうだな、あの爺さんたちが件の英雄なら、俺はスパークリングワインの底力を見せてやりてぇ。あんたたちにとっては取るに足らないものかもしれないが、合わせる料理によっては劇的に変わるんだぜってな」
「どうしてそこまでスパークリングワインにこだわるんですか?」
「どうしてって? 倅の加工を気にいらねぇと言われたら親父としても心苦しいのさ。洋一だって、出来上がった品をどうでもいいように扱われたら嫌な気持ちになんだろ? 二人であの爺さんたちに一泡吹かせてやろうぜ? 酒はワインだけじゃねーってな」
そういうことか。
要はダイちゃんの敵討がしたいと。
だったら最初からそう言えばいいのに。
「ちなみに、うちにもワインは置いてるが、値段の都合でワインよりスパークリングワインの方が多い。そりゃあんまり高い方はおけないが、それでも満足いただいてるぜ?」
これは店の威信も賭けてそうな発言だ。
「俺のメインディッシュもダイちゃんのスパークリングワインに合わせますか?」
「いや、俺のだけでいい。ファンガスみたいに、ワインで食べてもいいが、大輝のスパークリングワインに死ぬほど合うアミューズを作るつもりだ」
すっごく悪い顔してる。
こういうところで人相の悪さに磨きがかかったんだろうか?
「あのファンガスのオリーブオイル和えは、マジで最初からホットワインで合わせときゃよかったと死ぬほど思ったからな」
ヨッちゃんが当時を思い出してため息をついた。
天邪鬼が発動してビールに合わせたばかりに、真の味に気付かぬまま過ごしていた当時の自分をぶん殴ってやりたいとたまに思い出しては憤っている。
「だからって、下手なものは出せませんよ?」
「まぁ、そこは任せてくれよ。あのお嬢ちゃんはアルコールはダメなんだろ?」
「まだ17歳ですからね。法で禁止されてます」
「なら香り付け程度であとは熱で飛ばすか。洋一はどうするんだ?」
「俺は肉と一緒に揉み込んでから腸詰めしてフライですかね」
「腸詰めをフライ? 相変わらずよくわかんねぇ調理過程だが、楽しみにしてるぜ」
こうして菊池さんは
お通し
前菜
スープ
シャーベット
洋菓子
コーヒーまで担当してくれた。
俺は魚料理と肉料理を担当する。
魚は例の味のしないチョウチンアンコウを選択。
ワイン、カレーパウダー、にんにくが不思議とまとまる可能性を信じて、出汁に浸してから味見する。
「これは、また……」
「どうなった?」
「味見お願いします」
「うん、なんだこりゃ。何混ぜたらこうなる?」
「例のチョウチンアンコウにですね、ゴールデンカレースパイスに黒にんにく、あとは赤ワインですかね」
「絶対合わない三種の神器じゃねーか」
「ですが、このまとまりです」
「ニンニクの強すぎる風味も消え、カレーパウダーも隠し味に徹してる。その上でワインの風味が信じられねぇくらい強い。だが、アルコール味は一切感じさせない。これを漬け汁にするって正気か?」
菊池さんから「俺ならスープにするぜ」って真顔で言われてしまう。
「これは煮凝りにしようかと思って」
「髄を煮出してか?」
「肉と合わせて口の中で完成する仕組みです」
「贅沢だねぇ。だがワインの風味を強く出したのは?」
「偶然の産物ですね」
「計算じゃなくか?」
「こちらがこの鍋に投入した一覧となります」
この鍋の中身はほとんどチョウチンアンコウの骨髄と肉、そしてツインヘッドベアの肝などだ。
圧倒的その量に対して、黒ニンニクはひとかけら、カレースパイスは数振り、ワインに至っては50mlしか入れてない。
「ワインはこれっぽっちしか入れてないのに、この深みか?」
「一本丸々入れたと言っても信じてしまいそうなほどです」
「この出汁やばいな!」
「後で一セットお送りしましょうか?」
「でも高いんだろう?」
「実はこれ、メインで食すのにとことん向いてなくてですね」
なんと、丸々余ってることを告げると乗り気で交渉してきた。
なんだったら今ここで仕上げてノウハウを頭に叩きこうな勢いである。
早速その出汁を使ってスープを仕上げてしまった菊池さん。
俺より引き出しが多いとはいえ、すぐにものにできてしまうあたりさすがとしか言いようがない。
「これがこうなりましたか」
スパークリングワインの風味がこれでもかと前面に出たソルベ、シャーベットだ。ミリも隠す気のないスパークリングワイン攻勢。
意趣返しにしたって強気すぎる。
その後に出される俺の肉料理すら殺しにきてるんだが、気のせいだろうか?
「無論、ゴリ押しでワインのお供にしてもいいが」
「まだなんか仕掛けてますね?」
「それは口に入れてからのお楽しみってやつだ」
一見温厚そうな料理を作るようでいて、その実反骨精神バリバリな菊池さん。
モーゼのオーナーに感化されちゃったかなぁ?
それとも越智間さんのやりたい放題っぷりに当てられて?
どちらにせよ、一波乱ありそうな食事会になりそうだ。
俺のポワソンとアントレの出番は最後の方。
まずは菊池さんの贅を尽くしたフレンチ攻勢から始まる。
「わ! すごいです。一見してカレーの風味も感じない、ワインもニンニクも感じないのに、しっかりとレベルが上がってます!」
「お口に合うようであればよかった。本来なら軽い味わいのスパークリングワインを合わせるところだけど、アルコールはダメだろう? そこでこういうのを合わせてみた」
「これって?」
「クリスマスの定番、シャンメリーだ。シャンパンに似せたジュースだな」
「あ、なんだか懐かしい味です。両親がまだ生きてた頃に、妹と一緒に飲んだ気がします」
なかなかに重い過去を持つクララちゃん。
普段気丈に振る舞ってるが、こういうところで儚さが滲み出るな。
そして、それを引き出す腕前を持つ菊池さん。
ただのお通しからすっかり信用を勝ち取ってしまっている。
「仕掛けたな、若造。早々にワインを切ってきたか」
「なんのことでしょう?」
精一杯の笑顔で返すが、それを好敵手と受け取る富井さんが凶悪な笑みを放つ。
してやられた、という顔をしていながら一緒に出されたチーズで怒りを引っ込めた。
ワインやスパークリングワインのお供としてよく愛用されるチーズ。
今回は当たり障りのないものをお出したかと思いきや、ワイン組の富井さんとシャンメリー組のクララちゃんで反応が変わる。
適合食材であることを抜きにしても、こうまで変わるか? という反応を目の当たりにして、ワインからスパークリングワインに替えた富井さんが破顔する。
「そうまでしてスパークリングワインを主軸にしたいか?」
「うちとしては、スパークリングワインの良さを知ってもらおうと一手間かけたつもりです。どちらが上か下かなど論ずるつもりはありません」
それを決めるのは客であり、店ではない。
だというのに、料理は職人の口よりも雄弁にスパークリングワイン推しだ。
フレンチの理解に乏しいクララちゃんですらそれをひしひしと感じていた。
実際にどれも美味く、レベルも上がってるので感謝しかないが、場の空気だけが異様に重いのだけはなんとかして欲しそうだった。
アミューズに出されたドライフルーツとチーズの盛り合わせは無事スパークリングワイン側の勝利で決着する。
続くオードブルでは当たり障りのないものが出されるかと思いきや、ドレッシングの方に仕掛けがあった。
クララちゃんはそういう仕掛けもあるのかと感心しきりだが、富井さんだけがやたら食ってかかっていた。
それぞれが己の頭の中に一つはレシピを持っている。
俺の中で思い浮かべるのと、菊池さんのノウハウで出来上がるのは違う。
「俺が見るに、真に食わせたい相手はあの爺さんたちじゃないだろう?」
「よくお分かりで」
相変わらずの観察眼。
ダイちゃんと入れ替わるように現れたのに、状況把握が的確だ。
「なんとなくだが……ゲストとして参加させ、その上で料理を振る舞うなんて接待以外の何者でもないだろ」
「おっしゃるとおりです」
初めから配信を見てたのか、というほどの状況把握能力。
ダイちゃんからある程度話は聞いてたのかな?
「んで、あの爺さんたちはそれなりに舌が肥えているな?」
「ご存知でしたか?」
菊池さんは首を横に振り、蘊蓄を語った。
「スパークリングワインの中でも、白はシャンパーニュ地方の法律でシャンパンとして扱われる高級品。上を見ればキリのない話だが、それでもワインと比べて価値が低いものと言って憚らない連中がいる」
「富井さん達がそうだと?」
「いいや、そういう連中がこぞって取り上げるのが決まってワインなだけだ。なぜこんな持て囃されるのか気になって調べてみた事があるが、あの爺さん達がヒットした」
「英雄の言葉、ですか?」
「知っていたか」
知りはしなかったが、予想はついた。
実際に俺も北海道で似たような活動をしたものだ。
たまたま討伐したモンスターが野菜タイプだったから、その場で炊き出しを行ったのが始まり。
でもあの二人の場合、加工した際に出来上がるのが酒と野菜なもんだから……モンスター肉をダイレクトに食うとなったら、合わせる酒が自ずとワインになったとか?
それか、特定モンスターがワインになって、死ぬほど余ってたかだな。
だからって本人がここまでワイン好きになるかは定かではない。
きっとマンドラゴラ酒のような、世に出してない酒の中でとびっきり美味いやつに該当するワインがあるのだろう。
それを超えるスパークリングワインに出会ってないとかだったらいいんだが……
「いえ、特には。ですがあの二人の残した伝説はあまりにも多く、学校に通ってない俺たちの耳にも入ってくる程。だからそうなのかなって」
「そうだな、あの爺さんたちが件の英雄なら、俺はスパークリングワインの底力を見せてやりてぇ。あんたたちにとっては取るに足らないものかもしれないが、合わせる料理によっては劇的に変わるんだぜってな」
「どうしてそこまでスパークリングワインにこだわるんですか?」
「どうしてって? 倅の加工を気にいらねぇと言われたら親父としても心苦しいのさ。洋一だって、出来上がった品をどうでもいいように扱われたら嫌な気持ちになんだろ? 二人であの爺さんたちに一泡吹かせてやろうぜ? 酒はワインだけじゃねーってな」
そういうことか。
要はダイちゃんの敵討がしたいと。
だったら最初からそう言えばいいのに。
「ちなみに、うちにもワインは置いてるが、値段の都合でワインよりスパークリングワインの方が多い。そりゃあんまり高い方はおけないが、それでも満足いただいてるぜ?」
これは店の威信も賭けてそうな発言だ。
「俺のメインディッシュもダイちゃんのスパークリングワインに合わせますか?」
「いや、俺のだけでいい。ファンガスみたいに、ワインで食べてもいいが、大輝のスパークリングワインに死ぬほど合うアミューズを作るつもりだ」
すっごく悪い顔してる。
こういうところで人相の悪さに磨きがかかったんだろうか?
「あのファンガスのオリーブオイル和えは、マジで最初からホットワインで合わせときゃよかったと死ぬほど思ったからな」
ヨッちゃんが当時を思い出してため息をついた。
天邪鬼が発動してビールに合わせたばかりに、真の味に気付かぬまま過ごしていた当時の自分をぶん殴ってやりたいとたまに思い出しては憤っている。
「だからって、下手なものは出せませんよ?」
「まぁ、そこは任せてくれよ。あのお嬢ちゃんはアルコールはダメなんだろ?」
「まだ17歳ですからね。法で禁止されてます」
「なら香り付け程度であとは熱で飛ばすか。洋一はどうするんだ?」
「俺は肉と一緒に揉み込んでから腸詰めしてフライですかね」
「腸詰めをフライ? 相変わらずよくわかんねぇ調理過程だが、楽しみにしてるぜ」
こうして菊池さんは
お通し
前菜
スープ
シャーベット
洋菓子
コーヒーまで担当してくれた。
俺は魚料理と肉料理を担当する。
魚は例の味のしないチョウチンアンコウを選択。
ワイン、カレーパウダー、にんにくが不思議とまとまる可能性を信じて、出汁に浸してから味見する。
「これは、また……」
「どうなった?」
「味見お願いします」
「うん、なんだこりゃ。何混ぜたらこうなる?」
「例のチョウチンアンコウにですね、ゴールデンカレースパイスに黒にんにく、あとは赤ワインですかね」
「絶対合わない三種の神器じゃねーか」
「ですが、このまとまりです」
「ニンニクの強すぎる風味も消え、カレーパウダーも隠し味に徹してる。その上でワインの風味が信じられねぇくらい強い。だが、アルコール味は一切感じさせない。これを漬け汁にするって正気か?」
菊池さんから「俺ならスープにするぜ」って真顔で言われてしまう。
「これは煮凝りにしようかと思って」
「髄を煮出してか?」
「肉と合わせて口の中で完成する仕組みです」
「贅沢だねぇ。だがワインの風味を強く出したのは?」
「偶然の産物ですね」
「計算じゃなくか?」
「こちらがこの鍋に投入した一覧となります」
この鍋の中身はほとんどチョウチンアンコウの骨髄と肉、そしてツインヘッドベアの肝などだ。
圧倒的その量に対して、黒ニンニクはひとかけら、カレースパイスは数振り、ワインに至っては50mlしか入れてない。
「ワインはこれっぽっちしか入れてないのに、この深みか?」
「一本丸々入れたと言っても信じてしまいそうなほどです」
「この出汁やばいな!」
「後で一セットお送りしましょうか?」
「でも高いんだろう?」
「実はこれ、メインで食すのにとことん向いてなくてですね」
なんと、丸々余ってることを告げると乗り気で交渉してきた。
なんだったら今ここで仕上げてノウハウを頭に叩きこうな勢いである。
早速その出汁を使ってスープを仕上げてしまった菊池さん。
俺より引き出しが多いとはいえ、すぐにものにできてしまうあたりさすがとしか言いようがない。
「これがこうなりましたか」
スパークリングワインの風味がこれでもかと前面に出たソルベ、シャーベットだ。ミリも隠す気のないスパークリングワイン攻勢。
意趣返しにしたって強気すぎる。
その後に出される俺の肉料理すら殺しにきてるんだが、気のせいだろうか?
「無論、ゴリ押しでワインのお供にしてもいいが」
「まだなんか仕掛けてますね?」
「それは口に入れてからのお楽しみってやつだ」
一見温厚そうな料理を作るようでいて、その実反骨精神バリバリな菊池さん。
モーゼのオーナーに感化されちゃったかなぁ?
それとも越智間さんのやりたい放題っぷりに当てられて?
どちらにせよ、一波乱ありそうな食事会になりそうだ。
俺のポワソンとアントレの出番は最後の方。
まずは菊池さんの贅を尽くしたフレンチ攻勢から始まる。
「わ! すごいです。一見してカレーの風味も感じない、ワインもニンニクも感じないのに、しっかりとレベルが上がってます!」
「お口に合うようであればよかった。本来なら軽い味わいのスパークリングワインを合わせるところだけど、アルコールはダメだろう? そこでこういうのを合わせてみた」
「これって?」
「クリスマスの定番、シャンメリーだ。シャンパンに似せたジュースだな」
「あ、なんだか懐かしい味です。両親がまだ生きてた頃に、妹と一緒に飲んだ気がします」
なかなかに重い過去を持つクララちゃん。
普段気丈に振る舞ってるが、こういうところで儚さが滲み出るな。
そして、それを引き出す腕前を持つ菊池さん。
ただのお通しからすっかり信用を勝ち取ってしまっている。
「仕掛けたな、若造。早々にワインを切ってきたか」
「なんのことでしょう?」
精一杯の笑顔で返すが、それを好敵手と受け取る富井さんが凶悪な笑みを放つ。
してやられた、という顔をしていながら一緒に出されたチーズで怒りを引っ込めた。
ワインやスパークリングワインのお供としてよく愛用されるチーズ。
今回は当たり障りのないものをお出したかと思いきや、ワイン組の富井さんとシャンメリー組のクララちゃんで反応が変わる。
適合食材であることを抜きにしても、こうまで変わるか? という反応を目の当たりにして、ワインからスパークリングワインに替えた富井さんが破顔する。
「そうまでしてスパークリングワインを主軸にしたいか?」
「うちとしては、スパークリングワインの良さを知ってもらおうと一手間かけたつもりです。どちらが上か下かなど論ずるつもりはありません」
それを決めるのは客であり、店ではない。
だというのに、料理は職人の口よりも雄弁にスパークリングワイン推しだ。
フレンチの理解に乏しいクララちゃんですらそれをひしひしと感じていた。
実際にどれも美味く、レベルも上がってるので感謝しかないが、場の空気だけが異様に重いのだけはなんとかして欲しそうだった。
アミューズに出されたドライフルーツとチーズの盛り合わせは無事スパークリングワイン側の勝利で決着する。
続くオードブルでは当たり障りのないものが出されるかと思いきや、ドレッシングの方に仕掛けがあった。
クララちゃんはそういう仕掛けもあるのかと感心しきりだが、富井さんだけがやたら食ってかかっていた。
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