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74話 王太子アニマシオン

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 執務室を出て、レガロ伯爵夫妻は中庭へ向かう途中で、腹心の部下バハルと会う。


「あ、団長! それに奥方様も…」

「バハル、ちょうど良いところで会った! 今から魔道武器を探しに、レガロ伯爵家の本邸に行って来る、何かあったら伝言用の幻鳥げんちょうを飛ばせ」

「うわっ! 待って下さい、団長… 王太子殿下が来てますよ?」
 さっさとアスカルを連れて、中庭に向かおうとするグランデの後を追いかけて、バハルはあわてて止めようとする。

「何だって?!」
 面倒そうにグランデが立ち止まり、バハルを振り返ったところで… 
 廊下の向こう側から補佐官サルと、白の騎士服を着た護衛騎士を2人連れて、王太子アニマシオンが歩いて来た。

「おや? グランデが私を出迎えるなんて、珍しいこともあるものだ!」

「殿下… 私は忙しいので、用件だけ先に言って下さい!」
 大きなため息をつき、グランデはポリポリと頭をかいた。

「何がそんなに忙しいというのだ? 魔獣が発生する前の瘴気を手分けして昨日、浄化させたばかりではないか… ここへ来る前に大賢者殿に会って来たが、しばらく余裕が出来たと、喜んでいたぞ?」


 青騎士団との共同調査で、瘴気が発生した土地の生物が魔獣化し… 瘴気をまき散らしながら暴れ回ることで、被害が拡大すると判明した。

 そこで調査報告を元に、王太子アニマシオンが打ち出した作戦は、単純明快なもので…
 大賢者の未来視さきみの魔法で、瘴気が濃くなるポイントを割り出し、王国中の神官たちを動員して、こまめに瘴気の浄化作業を行うというものだった。
 
 一部の大貴族たちからは…
『我が国にたった1人しか存在しない、賢者殿にそのような“些細ささい”なことのために、貴重な力を使わせるなど、なんて恐れ多いことを!』

 などと… 大賢者を軽くあつかい過ぎだと、猛反発を受けたが、王太子アニマシオンが…
 『では、そなたらの領地は除外して、賢者殿に未来視さきみをするように依頼しよう』 とケロリと言うと、反発した大貴族たちは急に黙りこみ、口を閉じたらしい。


「殿下に対して無礼だぞ!!」
 補佐官のサルが、いつものようにグランデに怒って興奮し、騒ぎ出したが…
 王太子自身は、すっぽりと大柄なグランデの背中に隠れていた、アスカルを見つけ、驚きの表情を浮かべていた。

「これは… これは… 何て麗しい令息だ!!」
 王太子アニマシオンは、サッ… と素早くアスカルの手を取り、チュッ…! とキスを落とす。

「え?!」
 突然のことで、王太子を相手にどう反応すれば良いかわからず、アスカルは困惑し立ちつくす。

「オレの妻に触れるな―――っ!! 殿下でも許さない!!」
 あわててアスカルの腰を引きよせ、自分の腕の中に保護すると大声で怒鳴り、グランデは殺意を込めて王太子をにらみつけた。


「こ… この!! 無礼者めが―――っ!!」
 補佐官サルも負けじと怒鳴る。

「黙れ、サル!! お前は引っ込んでいろ!! 嫌なら今すぐお前の首をねる!!」
 怒り狂ったグランデは相手の心臓を止めてしまいそうなほど、強力な殺気を込めて威圧いあつし、悪魔のような顔で大剣の柄に手をかけ刃を引き出す。


「ひいっ!!」
 補佐官サルは小さな悲鳴をあげ、王太子の背後に隠れ… 

「グ… グランデ殿、どうかお気を静めて下さい…!!」
 白い騎士服を着た、護衛の白騎士2人が顔を強張らせ、王太子の前に出て、グランデと同じように剣の柄に手をかけた。

「まぁまぁ、そう怒らなくても… 団長?!」
 腹心バハルもなだめようとするが…

「うるさい、退け!!」
 グランデの怒りは簡単にはおさまらなかった。


「あの… グランデ様? 早く殿下のお話を聞いて、本邸に向かいましょう?」
 4代目レガロ伯爵が残した、魔道武器を早く見たくて、ずっとそわそわしていたアスカルは、我慢できずグランデに声をかけた。

「アスカル…」

「ケンカしている時間が、もったいないですよ? ね? 早く見に行きましょう?」
 分厚いグランデの胸をなでて、怒りをなだめると… アスカルは急かした。

「それもそうだな! 殿下、話なら歩きながら聞きます」
 グランデは剣の刃を納め、アスカルを連れて中庭へ向かう。

「それで野獣騎士殿は、どこから美人妻をさらって来たのだ?」
 にやにやと笑い、グランデから恋バナを聞きだそうとする王太子。


 グランデの腹心バハルと、王太子の護衛の白騎士2人は、安堵あんどのため息をつき… 補佐官サルを引きずるように連れて後に続く。









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